ビジネスわかったランド (会社行事)

安全防災衛生

防災訓練
<< 防災訓練の目的 >>

地震、台風をはじめ、天災の多いわが国にとっては、防災意識の浸透は不可欠のものである。企業活動の場においても、これは例外ではない。
防災訓練を実施する目的は、災害を未然に防ぐところにあるのではなく、発生後、いかに適切で迅速な行動がとれるかにある。確実に目的を達成するためにも定期的に訓練を実施し、効果のあるものとなるようスケジュールを組まなければならない。

<< 事前準備 >>

通常、定期的に行うべきものであるから、担当部署、担当者まで細かく決まっていることが多い。総務部が中心となって運営するケースが大半だが、全社的に取り組む必要があるので、各部署から1人ずつ担当者を出してもらい、総務部とのパイプ役とする。できれば業務とは離れた形で防災委員会を組織しておくと、イザというとき機能しやすい。
委員会の組織としては、次のようなものが考えられる。

(1)防災組織モデル
各担当の役割は、以下のとおりである。

・防災訓練対策本部……訓練日までと当日のスケジュール作成、全社の統括
・教育担当係……訓練日当日あるいはそれまでに、ビデオや映画などを使って防災教育を行う(ビデオや映画は、消防署から借りてくる)
・運営担当係……訓練日までと当日の進行管理、監督
・広報担当係……所轄の消防署への連絡、社内への訓練日の通知、徹底。また、事業場の近隣へも連絡する
・自衛消防隊……火災が発生した場合など実際に消火、避難誘導に当たる
・消火係……消火器、放水器を使って消火活動をする
・通報・連絡係……消防署への通報。社内放送、他の事業場との連絡
・非常持出し品搬出係……書類、器材等で非常時に持出しがあらかじめ決まっているものを持ち出す
・救護係……負傷者の手当て、介護に当たる
・避難誘導係……社員の誘導

(2)規模・内容・参加者の検討
基本的には全社的なものとするが、実際の訓練は各事業場単位で行うほうが実効性がある。ただし、業務に支障が出ないように支店や工場などに前もって連絡しておく。
訓練に要する時間は、事業場の性格や規模によっても異なるが、工場などで操業を停止させずに実施する場合は、1時間半ぐらいをメドにスケジュールを立てる。
また、本来は全員参加すべき性格のものであるので、1日のうちで最も都合のよい時間に行うよう配慮する。
訓練の内容は、第1に人命救助、第2は初期消火活動、第3に設備の保全、第4に防災に対する意識を高める教育活動の順に重点をおいて構成する。出席すべき者には、社員だけでなく幹部、役員も当然含まれる。
とくに、工場などの責任者、幹部などは率先して参加し、構内事故を未然に防ぐように努める。

(3)準備委員会全体で確認すべき項目
準備委員会で確認すべき項目としては、次のようなものがある。
イ.訓練実施日と時間
ロ.訓練の開始合図
ハ.対策本部席の設置
ニ.模擬火災発生時の通報および連絡方法
ホ.避難場所の確保
ヘ.非常持出し品の確認と持出し先の設定 
ト.火災発生と延焼場所の設定
チ.模擬消火訓練場所の設定
リ.雨天の場合の措置
ヌ.救急用具や消火設備の点検
ル.避難路・避難器具の点検

(4)スケジュール表の作成と業務分担
避難訓練および2次災害の放送スケジュールモデル

点検・点呼後、各課より2名(連絡係)が本部へ駆けつけ報告する。1名は報告後、戻って課長に訓練の結果を告げる。後の1名は本部に残り、本部からの指示を待つ。
イ.2次災害の想定
a.避難訓練終了の放送直後、本部へ次の2か所から通報がなされる。
・○○より火災発生の通報
・○○より負傷者1名発生の通報
b.上記災害内容を本部待機中の連絡係を通じて各部署へ伝え、出動要請をする。
c.火災発生による消火係出動
・消火栓より放水
・消火器を持って現場へ駆けつける
d.ケガ人救護のため、救護係出動
・ケガの応急手当後、担架にて医務室まで移送する
避難訓練の行動内容モデル

2次災害訓練の内容と担当モデル

また、消火係の者は、各人が消火器を持って、出火場所として想定したところに集まるようにする。この場合は実際に消火器を使わなくてもよいが、使用期限を過ぎた消火器がある場合、それを使って消火訓練をするとよい。
また、出火想定場所では、発煙筒をたくと、より効果的。発煙筒は、所轄の消防署でわけてくれる。
工場等で放水口の設置してある事業場では、実際にそれを使って放水訓練をしてもよい。所轄の消防署に依頼すれば、放水車、ポンプ車を出動させてくれる場合もあるので、事情に応じて相談する。
ロ.防災研修の実施
実際の訓練が終わったら、会議室等で防災関係のビデオや映画を使って防災教育を行うと、訓練の効果を高めることができる。ビデオや映画は消防署から無料で借りられる。 
また、所轄の消防署に頼んで起震車に出動してもらい、全員で地震体験をし、防災意識を高めるのもよい(起震車の出動は無料)。

(5)関係者への連絡
イ.各職場責任者への連絡
訓練の実施スケジュールは総務部が中心になって骨子をつくるが、スケジュールの概略ができあがったら、必ず他部門の責任者にもそれを示し、スケジュール調整をする。そうした事前協議を怠ると、業務を優先させたい他部門から反発され、訓練に支障をきたすことにもなる。
最終的なスケジュールが決定したら、改めて実施通知書とスケジュール表とを各責任者に配る。

ロ.社員全体への通達
防災訓練というのは、日頃、危機感がないので、とかくおろそかになりがちなのと、マンネリ化しやすいのが各社共通の悩みであろう。
そこで、訓練実施日の1週間ぐらい前から、訓練の実施要領とともに「防災の日」のポスター(消防庁で製作)や各種防災ポスターを、掲示板や階段の脇等に貼って、社内PRにつとめる。
なお、ポスターは所轄の消防署に頼めば無料でわけてくれる。
ハ.近隣への連絡
本物の火災だと誤解されないために、近隣に対し訓練の実施内容と日時を知らせ、了解を求める。
また、そうした事前の通知のほかに、訓練当日の直前に、もう1度連絡するのを忘れないようにする。


(6)消防署との打合せ
最低1か月前には、防災訓練の実施内容を所轄の消防署に通知する。だが、実施日時については、消防署のスケジュールと照らして調整する。
その際、消火器等の依頼もあるので、電話や郵便などではなく、関係者が出向く。訓練の3日くらい前に、確認のための連絡を入れておく。

<< 当日の運営 >>

(1)防災訓練モデルと実施要領


(2)防災訓練当日の運営チェックリスト
□雨天の場合、あらかじめ決めてあった内容に変更する旨を、速やかに社員や消防署に連絡できるか
□各担当者の出欠の確認は済んでいるか
□訓練時に負傷者が出たときの対応は決まっているか
□非常口付近に、器材や荷物が置かれていないか
□非常持出し品がスムーズに搬出できる状態にあるか
□救急薬品・担架・避難器具・消火設備は、所定の箇所に備え付けられているか
□社有放水ポンプ車は整備・点検済みか
□消防自動車が通りやすいよう、また訓練の妨げにならないよう構内および構外の自動車の駐車状態を確認したか
□消防署員に対する訓練後の接待はどうするのか

(3)避難会場の設営
参加者がスムーズに流れるよう出入口の位置、全体の広さを考える。また、発煙筒をたく場合は、本物の火事と誤解される恐れもあるので、所轄の消防署にその旨を届け出なければならない。

<< 後始末とフォローアップ >>

訓練が終わったら、各訓練の関係者が集まり、できれば当日立ち会ってもらった消防署員に同席願い、反省会を開く。そのほうが「社員に防災意識を植えつける」という当初の目的を達成しやすいからである。反省内容は、消防訓練計画書どおりに実施できたか、各人の動作はどうだったかなどである。そして、消防署員に指導を受けた指摘については、早急に改善する。
また、消火設備・避難器具・救急用品等が、完全な状態で元に戻っているかどうかをチェックする。消防署から借りたビデオや映画は、期日までに返しに行く。
●ワンポイントアドバイス
防災訓練が終わったら、火災保険契約の再点検をする。同時に消防設備、避難器具も点検し、古くなったものは取りかえる。

著者
橋口 寿人(経営評論家)