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得意先招待旅行(国内)
<< 得意先国内招待旅行の目的 >>

招待旅行は、日頃お世話になっている得意先に、感謝の意を表わすために行う行事であるから、まず参加者に楽しんでもらうことが目的である。招待する側のもてなそうという誠意が得意先に伝われば、企業間の信頼関係がより緊密になり、取引も安定する。
また、ユニークで得るところの多い旅行を企画・実行することができれば、得意先の評価も高くなる。
ビジネスの場では仕事オンリーの付合いになりがちだが、旅行中にその人の思いがけない素顔を垣間見ることも多い。お互いにより深く相手の人間性をつかむことができ、仕事のうえでも人間関係がより円滑になることが期待される。

<< 事前準備 >>

(1)準備委員会の設置
招待旅行の場合は、旅行代理店との打合せ、ホテル・旅館の手配、乗車券の手配など、かなり早くから準備を進めることが必要である。とくに招待客が多いときは、実施の1年前には準備委員会を設置したい。その際は総務だけでなく、営業、経理など各部署から適任者を出してもらう。
旅行では様々なアクシデントが起こることが予想されるので、メンバーには臨機応変の判断ができる人物を選ぶことが大切である。

(2)規模、内容の検討と決定
自社の行事である以上、予算にはある程度の枠があるが、この枠のなかでいかに充実した旅行を設定するかが担当者の腕の見せどころである。得意先はこの類いの招待旅行を何度も経験していることが多いため、ありきたりのものでは満足してもらえない。
総花式にあれもこれもと詰め込むよりは、たとえば「海の可能性を探る」というようにテーマを決めて、何か1つでも目新しいもの、印象の強いものを組み込むと、お金はさほどかかっていなくても満足度の高い旅行になる。
招待の場合、単なる招待旅行にすると、その経費は交際費になる。できるだけ交際費課税を避けたいときは、研修旅行とすることで税金対策になる。
たとえば、1泊2日くらいの規模なら、旅行の日程に企業視察、工場見学などを入れると、交通費、食費、宿泊費が通常の範囲であれば研修旅行費用として認められ、その経費を損金に算入することもできるので、税理士に相談しながらプランを立てるとよい。研修旅行という名目になれば招待客も参加しやすくなる。食事も会議という名目にして、通常要する費用(1人3,000円程度)に抑えれば、会議費として認められることもある。場合によっては、参加者に経費の一部を会費として負担してもらうという方法もある。少額でも自己負担があると、招待されるほうは精神的負担が少なくなる。
旅行の実施時期は、気候のいい時期、招待客の会社が忙しくない時期を選ぶ。行先や宿泊施設は参加者の嗜好や年齢、体力などを考慮して、楽しんでもらえるところ、体力的に無理のないところにすることが大切。スケジュールにはゆとりをもたせて適度に自由時間を挟み込むように配慮する。旅行代理店に宿泊施設や切符の手配、観光地の案内などを依頼するときも、万事を任せてしまうのではなく、これらの条件を明確にして主体的にプランを立てる。
国内招待旅行モデルプラン

アウトラインが決まったら、必ず現地に足を運んで事前調査を行い、次のような項目をチェックする。
□予算内で実施できるか
□目的地・内容・季節は招待客の年齢・嗜好に合っているか
□見学先は目的に合っているか
□交通機関は適切か
□独自性のある旅行になっているか
□スケジュールに無理はないか
□宿泊施設は清潔か、目的に適しているか
□料理の内容はどうか
□宴会の会場の広さ・料理は適切か
□宴会のアトラクションは適切か
□係の人材は適切か
□指揮系統が明確になっているか
□旅行代理店とのコミュニケーションはスムーズか

(3)スケジュール表の作成と業務分担
イ.スケジュール表の作成
実施時期が決まったら、その日から逆算してスケジュールを立てる。
スケジュールモデル

ロ.業務分担
係を決めて業務を分担する。メンバーが少ないときは兼任してもよい。
・統括責任者……招待旅行の計画、立案、実行の総責任者として、招待客の人選、計画全体の進行を担当する。
・進行係……旅行代理店との打合せ、旅行中の進行を担当する。
・会計係……現金の管理、諸経費の出納などを担当する。一般に経理担当者が当たることが多い。
・文書係……招待客名簿や招待状の作成、発送、参加・不参加の確認などを担当する。参加者が確定したら参加者名簿を作成する。発送の際、宛名書きをするので、書道に堪能な社員などが適任である。
・招待係……参加者の送迎の配車や、参加者の年齢、出身地、交友関係、性格などを把握して、ホテル、旅館の部屋割りなどを担当する。その際、仲の悪い者同士が同室にならないよう注意する。一般には招待客と面識のある営業・販売関係などの責任者がこの任に当たる。宴会担当として何か得意芸のある者を加えるとよい。
・記録係……旅行の記録を担当する。写真やビデオなどが得意な社員を当てる。
・記念品係……旅行の記念品の選定、調達などを担当する。
・救護係……参加者が病気やケガをした場合の治療、看護を担当する。自社の産業医、産業看護婦が当たるのが望ましい。
・連絡係……旅行に同行せず、参加者の家族が本人に至急連絡を取りたいときなど、旅行中のメンバーとの連絡を担当する。
●ワンポイントアドバイス
・旅行代理店とのコミュニケーションをスムーズにするには?
主催者側の誰が窓口になるか、指揮系統をはっきりさせておくことが必要。ホテルなどで、統括責任者や進行係が旅行代理店の添乗員とは別の指示を出して、責任者やホテル側が混乱することも多い。進行係が統括責任者の意向を確認して添乗員に伝え、添乗員がホテル側に伝えるというようにあらかじめ打ち合わせておきたい。
・部屋割りのトラブルを防ぐ方法は?
宿泊施設では、必ず1部屋予備室をとっておく。そうすれば、部屋割りでトラブルが起きても、その部屋を当てることができる。また、当初は得意先の役職者が参加することになっていたのに、当日、急用ができたため、代わりにその夫人や令嬢が参加することも少なくない。急遽、女性用の部屋を用意しなければならなくなるが、そんなときも予備室が役に立つ。病人が出たときの救護室としても利用できる。

(4)予算設定のポイントと予算書
予算の設定に当たっては、すべての項目に平均的に予算を使うよりも、ポイントを絞った使い方を考えること。たとえば、朝食、昼食の分はやや抑えて最終日の宴会をデラックスにする、あるいは見て回る観光地を少なめにして、ホテルは1クラス上の部屋をとるなど、メリハリをつけるとよい。
招待旅行の際に忘れてはならないのは、保険料の予算をつけること。必ず人数分の旅行傷害保険をかけておき、旅先でのケガ、病気などにも十分な保障ができるようにしておく。また、不測の事態に備えて、必ず5%程度の予備費を計上しておくことが大切である。
予算書を作成するときは、運賃・交通費なら乗車区間と使用する交通機関、たとえば新幹線を利用、貸切バスを利用などと明記すること。接待費・雑費などについても、何社の誰をどういう店で接待するのかがわかるように書く。その際、備考欄などにこの旅行はどこにポイントがあるか、その店で接待することでどういう効果が考えられるかを付記しておくと、予算を認めてもらいやすくなる。

(5)関係者への連絡とモデル案内文
招待旅行の計画が固まったら、営業・販売などのセクションに連絡して招待客のリストを提出してもらい、名簿を作成する。
招待状は1か月以上前に発送し、参加・不参加の返事をもらうようにする。返事のない会社には、1週間前に営業担当者などが出向いて確認する。参加者が確定したら参加者名簿を作成し、各係や旅行代理店の担当者に渡しておく。
旅行の日程表や乗車券は、事前に参加者に届けておくと本人の都合で遅れても途中で合流できる。
また、旅行中に参加者の会社や家族が本人に連絡をとりたいという事態が起こることも予想されるので、宿泊先の電話番号や利用する列車の番号、主催者側の社内の担当者名(連絡係)などを明記したものも渡しておく。
招待旅行は自社の公式行事であるから、招待状の差出人は社長名とし、宛名は得意先の代表者にする。
ただし、招待する側に比して招待される側が大規模な得意先である場合は、宛名を営業部長などの部門代表者にするなどして、社格の違いを考慮して釣合いをとる。招待状が代表者宛であっても若手の社員が参加することもあるが、その場合はその得意先を代表してきているのだから、若くても丁重に応対すべきである。
招待状はあまり格式ばらずに、旅行の楽しさを感じさせる文章にし、簡単な日程なども載せると旅行の内容がつかみやすくて、相手に参加したいという気持ちを起こさせる。招待状には、問合せに応じられるように社内の担当者名も明記する。
なお、文案は必ず自社の代表者にチェックしてもらい、承認を受ける。発送するときは返信用のハガキを同封する。宛名書きは毛筆がベターである。

●ワンポイントアドバイス
ミスを事前に防ぐ招待客名簿のつくり方
名簿のチェックが確実にされていないと、招待状が2通届いたり、参加しなかった得意先に後日、参加の礼状が届くなどの醜態も演じかねない。そういうミスを防ぐためには、名簿に(1)会社名、(2)氏名(役職名)、(3)住所、(4)招待状のNo.、(5)招待状発送の日付、(6)参加・不参加の回答と返信受信の日付、(7)当日の出欠、(8)記念品贈呈の有無、(9)礼状発送の日付、(10)不参加者への記念品と挨拶状発送の日付、(11)備考などの欄を設け、必ずチェックしながら作業を進めるとよい。次回の参考資料にもなる。

(6)記念品の選定と手配
記念品は高価なものでなくても、ありきたりのものでないセンスのいいものを選ぶ。旅行先の名産品を利用するときは、量は少なくても品質のいいものを用意するようにしたい。本人だけでなく家族に喜ばれるものを選ぶと評判がよい。社名入りのものを注文する場合は早めに発注するよう心掛けること。最近は記念品そのものに社名を入れるよりも、外箱やのし紙に社名を入れることが多いようだ。記念品は手提げ式の紙袋に入れて、解散する前に参加者に手渡す。不参加者の分も用意することを忘れずに。

<< 当日の運営 >>

(1)得意先の応対ポイント
一口に得意先といっても取引高にはかなり差があることもあるが、応対で差をつけてはいけない。どの得意先に対しても、感謝の気持ちをもって同じように接することが大切である。招待旅行は参加者に楽しんでもらうことが第一だから、堅苦しい応対はやめて、リラックスしてもらうように気を配る。時に接待する側がリラックスし過ぎるケースもあるが、自分たちが楽しむための旅行ではないことを肝に銘じておくこと。
旅行中に仕事の頼み事をするのはタブーである。せっかく旅行を楽しんでいるのに、白けた気分になってしまう。旅行後であっても好ましくない。招待旅行はあくまでも日頃の愛顧に対するお礼の意味で行うものであるから、性急にモトを取ろうという考えは捨てること。
参加者のなかに高齢の人、体の弱い人がいる場合は、疲れていないかどうか常に気を配ることが必要である。食事制限のある持病をもっている人もいるので、あらかじめ確認して、必要なら特別の食事を用意する。

(2)宴会の運営チェック
イ.宴会会場は必ず下見して、広さは適当か、掃除は行き届いているか、花などの飾付けはどうか、マイクやカラオケセットは故障していないかなどをチェックする。
ロ.会場の入口や電話の位置などを確認したうえ、各係の配置や参加者の席次を決めておく。
ハ.テーブルの並べ方、酒・料理を出すタイミング、料理の内容、アトラクションなどについて、旅館・ホテルの担当者と綿密な打合せをする。
ニ.進行係と司会担当者は、宴会の進行について、時間配分、アトラクションの内容とタイミングなどを打ち合わせておく。
ホ.宴会中は料理が各人に行き渡っているか、全員が盛り上がっているか、参加者同士のトラブルはないかなどに気を配り、翌日に疲れが残らないように適当なところで切り上げる。

(3)会場レイアウト
会場のレイアウトとしては、次のようなものが考えられる。


(4)アトラクション等の進め方
ホテルのショーなどのほか、招待客が参加できるカラオケ大会などが考えられる。その際、特定の人間がマイクを独占しないよう、司会者は気を配る。カラオケが嫌いな人には強制しないこと。簡単な賞品などを用意すると、宴会はぐっと盛り上がる。賞品は高価なものよりユーモラスなものを選んで、エンターティナー賞、デュエット賞などさまざまな名称で全員に賞品が行き渡るようにする。若い人が多い場合はディスコ大会なども人気がある。参加者の年齢や嗜好に合わせたアトラクションを企画することがポイント。
また、特技のある人は、機会があれば大勢の人に自分の腕前を披露したいと考えているものだ。参加者で手品や落語などの特技のある人がいたら披露してもらうと、得意先に花をもたせることができる。
参加者にあまり芸達者な人がいなくて盛り上がりに欠けるときは、主催者側が得意芸を披露するなど気を利かせる。そういう場合に備えて、得意芸のある社員を宴会係としてメンバーに入れておくとよい。

<< 後始末とフォローアップ >>

旅行後は、あまり間をおかない時期に、多忙の中、参加してもらったことに対する礼状と、旅行先での記念写真を発送する。研修旅行という名目のときは簡単な研修レポートを提出してもらうようにすると、税務署に経費認定させる資料になる。不参加者には、旅行後、記念品と挨拶状を届ける。

<< 支出費用の経理処理と税務取扱い >>

得意先を旅行等に招待する費用は、典型的な交際費として扱われる。問題は、一般に多く行われているように、得意先を旅行等に招待するのに併せて、新製品の説明や販売技術の研究会等の会議が開催された場合の費用の取扱いである。これについては、その会議の内容が会議としての実体を備えていると認められるときには、その費用の総額のうち会議に通常要すると認められる旅費、宿泊料、弁当代、茶菓代等は会議費用、残りは交際費として扱われる。
この場合のポイントは、会議が会議としての実体を備えているかどうかだが、基本的には旅行等における接待とは別に会議を開催するにふさわしい議題があり、かつそれにふさわしい人物が参加したうえで、議題に即した討議等が十分に行われたかどうかで判断することになる。

著者
橋口 寿人(経営評論家)