ビジネスわかったランド (会社行事)

定例行事

株主総会
<< 株主総会の目的 >>

株主総会は、商法の定める手続きに基づいて開催される、企業における最高の意思決定機関である。国の機関にたとえれば国会に当たり、株主にとっては、ただ1つの経営参加の機会でもある。
したがって、企業としては、会社経営が正しく行われているかどうかを株主がチェックできるようにサービスする、という姿勢で対応することが大切である。

<< 株主総会の種類と決議事項 >>

株主総会は、招集の時期によって、定時株主総会と臨時株主総会とに分けることができる。定時株主総会は、原則として年に1回、毎決算期ごとに、決算期後の2か月以内(資本金1億円超の会社は3か月以内)に、主として決算書類の報告や承認について審議するために招集・開催することが義務づけられている。一方、臨時株主総会は、必要に応じて招集・開催することができる。
一応、ここでは、定例行事ということで、定時株主総会を中心に解説していくことにしよう。
株主総会は、会社の最高決議機関であるが、何でも決議できるのではなく、商法や定款に定められた事項に限られる。もっとも、定款で株主総会の決議事項を定めている会社は少ないところから、一般的には商法に定める事項が株主総会で決議されることになる。
商法で定めている株主総会の決議事項は、決議要件に応じて、普通決議事項、特別決議事項、特殊な決議事項に分けられる。

(1)普通決議事項
発行済株式総数の過半数に当たる株式を有する株主が出席し、その議決権の過半数をもってなされる決議事項である。
商法がこの決議によるべきものと定めている事項は、次のものがある。
イ.取締役、監査役の選任
ロ.総会の延期または続行の決議
ハ.取締役、監査役、清算人の報酬の決定
ニ.計算書類の承認、株式配当
ホ.総会の議長の選任
ヘ.清算における計算書類、決算報告書の承認
ト.清算人の選任、解任
チ.合併報告
リ.会計監査人の選任、解任

(2)特別決議事項
発行済株式総数の過半数に当たる株式を有する株主が出席して、その議決権の3分の2以上に当たる多数をもって決議される事項で、次の項目がそれに当たる。
イ.新設合併における設立委員の選任
ロ.営業の全部または重要な一部の譲渡、営業全部の賃貸、その経営の委任、他人と営業上の損金全部を共通にする契約、その他これに準ずる契約の締結・変更または解約、他の会社の営業の全部の譲受け
ハ.事後設立
ニ.取締役、監査役の解任
ホ.株主以外の者に対する有利な価額、転換条件または内容の新株、転換社債または新株引受権付社債の発行
ヘ.株式併合
ト.定款の変更
チ.資本の減少
リ.会社の解散
ヌ.会社の継続
ル.合併契約書の承認

(3)特殊な決議事項
次のような事項が特殊な決議事項に該当し、それぞれ定められた要件に基づいて決議される。
イ.取締役、監査役の選任……普通決議の方法により、決議するのが原則。定足数は定款で加重、軽減することができるが、定款によっても定足数を発行済株式総数の3分の1未満にすることはできない
ロ.株式譲渡制度の定款変更……総株主の過半数で、発行済株式総数の3分の2以上に当たる多数を要する
ハ.取締役、監査役の違法行為に対する責任の免除、取締役の自己取引に対する責任の免除……総株主の同意または3分の2以上の多数を要する

<< 事前準備 >>

株主総会の事務手続き日程と手順は、次のようになる。

(1)株主の確定
株主に株主総会で議決権を行使させる場合には、一定日現在の株主を当分の間固定して、株主名簿の名義書換をさせず、株主の確定をする必要がある。これは「名義書換の停止」または「株主名簿の閉鎖」と呼ばれるが、そのためには決算期(閉鎖開始日)の2週間前にその旨を定款等に定められた方法により公告しなければならない。
ただし、定款で「当社は、毎決算期の翌日から定時株主総会終結の日まで、株主名簿の記載の変更を停止する」というように定めておけば、改めて公告する必要はない。
なお、大多数の中小企業では、株主の変動がほとんどないのが実情であろう。また、たとえあったとしても確認はそれほど困難ではない。したがって、普段から株主名簿を整備しておけば公告等の必要はないといえよう。
ところで、株主名簿には、記名様式の場合であれば、イ.株主の氏名、住所、ロ.株主の有する株式の額面・無額面の別、種類、数、ハ.株主の有する株式につき株券を発行したときはその株券番号、ニ.各株式の取得年月日を記載しなければならないが、名簿の記載は市販されているものを活用すれば事足りる。

(2)招集手続き
イ.招集の決定と招集権者
株主総会の招集は、原則として取締役会が株主総会の開催の日時と場所、総会に報告する事項、決議を求める議案を決定し、これに基づき招集権者が招集の手続きをする。一般には、定款で代表取締役を招集権者と定めているところが多いので、普通は代表取締役が招集権者となる。招集権者の招集によらない株主の集会は、株主総会ではない。
しかし、株主全員が出席して同意したときや、発行済株式総数の100分の3以上の株式を所有する少数株主による招集は効力をもつ。
ロ.招集の通知
株主総会を招集するには、総会日より2週間前までに書面で通知する必要がある。発送日と総会日の間に2週間の期間を要するので、25日が総会日であれば10日中に招集通知を発送すればよく、2週間前までに到着していなければならないという意味ではない。この要件を満たしていないときは、招集手続きは違法であり、株主総会決議取消しの原因となる。
招集通知には、次のモデルのように開催日時・場所、議題を記載する。

ハ.無記名株式を発行しているときの公告
会社が無記名株式を発行しているときは、総会日より3週間前に、定款に定められた方法により、株主総会を開く旨、さらに会議の目的事項を公告しなければならない。
ニ.招集地
招集地は、定款に定めのない限り、商法の規定するように、本店所在地またはその隣接地である。隣接の「地」とは、最小の行政区画をいう。一般的には市町村だが、東京都の場合は区を含む。
ホ.添付書類
定時株主総会の招集通知には、貸借対照表、損益計算書、営業報告書、利益処分または損失処理に関する議案および監査役の「監査報告書」の謄本を添付する必要がある。さらに、資本金5億円以上の大会社は、「会計監査人の監査報告書」の謄本も添付しなければならない。なお、資本金1億円以下の小会社の場合は、貸借対照表などの計算書類は必要だが、監査役の監査報告書の謄本は添付しなくてよい。



(3)スケジュール表の作成と業務分担
まず、会社としては、普段から準備しておくことがいくつかある。株主の安定化対策(安定株主の持株比率を何%にするか)や、他社総会の状況把握などである。
事務手続きのスケジュールについては、下図のモデルのように進行するので、株主総会を6月末に予定した場合、3~4か月前の2~3月下旬あたりを起点として総合スケジュール表を作成する。総会にかかわる一切の手続き、作業が記入されるのはもちろん、社長をはじめとする取締役、監査役の全員、社内の関係部署、そして社外の関係機関(社外の名義書換代理人、顧問弁護士、会計監査人、印刷会社)が、何を、いつまでに、どのように担当するかも記入する。
総会に関連する社内組織は、総務部(事務局)を中心にして設ける。事務局は、スケジュール表に基づいて各事務や作業が予定どおりに進んでいるか、常に確認することを忘れてはならない。
株主総会の事務手続き日程モデル(資本金1億円以下の会社)

株主総会の運用組織モデル


(4)株主総会事前チェックリスト
□期末株主の確定、株主数ははっきりしたか
□計算書類は完成したか
□会場の準備はできたか
□兼任役員の総会日のスケジュールは調整がついているか
□その他、総会日に障害事項はないか
□取締役会で総会の日時・会場は正式に決定したか
□取締役会で計算書類は承認されたか
□計算書類を総会日の5週間前までに監査役へ提出したか
□監査役は、計算書類の受領日より4週間内に、監査報告書を代表取締役へ提出したか
□株主名簿の記載モレや変更事項についての事前チェックが行われたか
□株主総会招集通知書類の内容チェックを行ったか
□招集通知の印刷は終わったか
□招集通知の宛名書きは終わったか
□招集通知の発送手続きは総会日の2週間前までに完了したか

(5)株主総会直前チェックリスト
□議決権行使書類の点検、代理人出席者のチェックを行ったか
□質問書の整理を行ったか 
□想定問答集を作成したか
□リハーサルを実施したか
□地元警察に総会の開催を届けたか
□会場入口に株主総会開催の看板や案内図は用意したか
□議長席、取締役席、事務局などの設置と表示等の用意はできているか。
□会場内に議事日程の掲示はしてあるか
□掲示内容のチェックは行ったか
□株主一覧表や株主名簿は用意してあるか
□議決権行使参考書類について会場内に準備してあるか
□会場内にテープレコーダーなどの記録用品の準備はしてあるか

<< 当日の運営 >>

(1)総会の手順
イ.株主の資格審査
招集通知に同封した議決権行使書を受付窓口に提示した場合は問題ないが、紛失などで提示できない株主への対応を明確にしておく。たとえば、所定の用紙に住所、氏名、株数など、株主の同一性をチェックできる事項を記載させ、これが株主名簿と一致すれば株主と推定するといったやり方である。
ロ.関係者入場
議長以外の役員は、定刻の2分前ぐらいに入場する。プロ株主に質問を浴びせられないよう気をつける。
総会会場レイアウトモデル


(2)議事の進め方(議事進行モデル)
イ.事務局より開会可能の発言(事務局)
ロ.社長が議長席につく(社長)
ハ.開会宣言(議長)
ニ.社長としての挨拶、議長の名のり(議長)
ホ.議事進行方針の説明…会議ルール、株主心得、株主への協力要請(議長)
へ.株主数、出席株主の議決権数の報告…総会の成立を議場に報告(議長)
ト.監査役の監査報告(監査役代表)
チ.営業報告書、貸借対照表および損益計算書の内容報告(社長または他の取締役)
リ.質問書面への一括回答(社長および取締役・監査役)
ヌ.個別質疑応答(社長および取締役・監査役)
ル.各号議案採決(議長)
ヲ.閉会宣言(議長)

(3)議決の仕方
イ.営業報告などの報告事項は、質疑応答の後、議長が「これをもって報告を終了し…」と告げたところで終了となる。
ロ.決議事項の場合、最終的には議決をしないと、議案は決議事項とならない。議長は、「原案にご異議はありませんか」という採決の呼びかけをする。 
「異議なし、原案賛成」の声で、「ご異議ないものと認め、原案どおり賛成多数をもって可決しました(選任されました)」と宣言する。

<< 議事録の作成ポイントと備置き >>

イ.議事録の作成者
議事録は、総会という会議において決議の効力を発生するに至る状況を全体的に記録した唯一の書面である。法律的にも力をもっている法定の書面であるところから、商法はその作成の責任者を、総会全体を掌握し、議事を整理した議長としている。
ロ.作成の時期
商法には特別の規定はないが、登記による公示、議事録閲覧などが遅れないよう、少なくとも2週間以内に作成すべきである。
ハ.具体的記載事項
議事録は、次ページのモデルのように作成するが、その記載事項は次のようになる。
・総会の特定……定時総会か臨時総会かを明記する。また、定時総会の場合は回号を付す。
・開催の日時……実際に開会した時刻と閉会した時刻を記載する。
・開催の場所
・出席議決権の数……議決権のある株式数および株主の数を記載する。本日出席した株主の数およびその株式数、すなわち当日出席の議決権の個数は、開会直後議場に報告したものではなく、最初の議案が議決される時点のものを記載する。
・議事の経過の要領およびその結果……議事の経過は、議事録を見て審議がたどってきた筋道を理解できる程度のものでよい。
・議事録への署名……議長および出席取締役(総会が終結するまで取締役の任にあったもの)による記名捺印。
ニ.議事録の備置き
原本を本店に10年間備え置き、謄本を各支店に5年間備え置く。そして、株主や債権者の閲覧に供さなければならない。総会議事録が毎回の分、同一の場所にあるべきだということに注意する。

定時株主総会関連日程スケジュール表


著者
橋口 寿人(経営評論家)