ビジネスわかったランド (会社行事)

定例行事

期末実地棚卸し
<< 期末実地棚卸しの目的 >>

会社は、商法の定めるところにより、決算期末に実地棚卸しを行うことが義務づけられている。この実地棚卸しは、経営的にも重要な2つの目的をもっている。1つは、商品在庫の金額を確認し、損益計算のための売上原価を確定する目的。もう1つは、商品在庫の内容を把握し、デッドストックや過剰在庫を早期に発見することにより、在庫の質と量が経営上必要十分であるかどうかを見極める目的である。

<< 事前準備 >>

最近は、対象品種や棚番を決めて何分の1かずつを順番に棚卸しし、期末実地棚卸しにかかる人手と時間を削減しようと努めるところが増えてきた。しかし、そうはいっても、期末は決算がらみで特別だという意識が根強く、期末実地棚卸しは、入出荷活動を停止して、それも社内の応援を得て1日かけてやるというのが一般的である。
そこで、ここでは最もポピュラーな、期末の全社一斉実地棚卸しに的を絞って解説することにしたい。もちろん、循環棚卸しを実施するところであっても、手順の大筋や留意点は、アレンジすれば活用可能である。

(1)規模、作業担当者の決定
在庫の数量等によって異なるが、普通、一斉に期末実地棚卸しをやろうとすれば、商品管理部門の人員だけでは対応し切れないため、必然的に他部門等からの応援を求めることになる。問題はこの応援人員をどれくらい見込むかだが、それについては商品管理部門での日常作業で1商品(棚)当りどれくらいの人員と時間がかかるのかをチェックし、それを基に必要人員数を割り出すことが先決である。応援は、必要人員から商品管理担当部門の人員を引いた残りの人数ということになる。その際、当日急に休んだり、その他の事情で支障が生じる場合を考えて、何名かの予備人員を予定しておくことが大切である。
ところで、全社員を動員する場合は別だが、一部分でよい場合は、作業の性格上、商品の扱いに慣れている営業などの部門から、優先的に応援を頼むのが望ましい。

(2)スケジュールの確定
期末実地棚卸しは、原則として期末に行うことになっているが、営業活動等の実情や機会損失のことを考え、直近の休日を利用するところも多い。直近の休日に実施した場合は、その後、期末までの在庫の出入りは帳簿上でチェックするということになる。
いずれにしても、何日の何時からとはっきり決め、応援を頼む部署と人数を商品管理部門が中心になって設定する。
その手順は、たとえば、3月20日に実施することを想定した場合、少なくとも20日間くらいの準備期間を考え、次のようなスケジュールとする。
イ.3月1日……各部長宛に実地棚卸しの日程を通知するとともに協力の要請をする
ロ.3月10日……人員配置の決定(それまでに各部間で調整)
ハ.3月11日……人員配置の通知と棚卸し票用紙の準備、棚卸し作業計画表と業務処理手順書の配付
ニ.3月19日……業務処理手順の説明会をもつ
棚卸し票のモデル   

棚卸し作業計画表のモデル


(3)人員配置
当日の人員配置は、どんな棚卸し方法をとるかによって異なるが、ここでは最も一般的と思われる棚札方式を例にとって説明しよう。
大まかには、当日の責任者である商品管理部門の長を頂点に、次のような、つけたて担当者、検査担当者、庶務係の3つから構成される。
イ.つけたて担当者
実際に商品を手にとって数える数量調べ担当者と、その数量を棚札(棚卸し原票)に記入する棚卸し原票記入担当者の2人1組の構成となる。数量調べ担当者については、内部牽制の意味からは他部門の人員を当てるのが望ましいが、作業をスムーズに行うには製品の種類や倉庫内の納品場所に詳しい商品管理担当者をもってくるほうがよいであろう(以下、ここでは棚札=棚卸し原票を「棚卸し票」と呼ぶことにする)。
ロ.検査担当者
つけたて担当者の作業結果をチェックする。
ハ.庶務係
棚卸し用紙の配付・回収、作業中のゴミの回収、食事や茶菓の用意、不良品の回収・整理などの役目を果たす。

(4)棚卸し作業計画表の作成・配付
多量の商品を1度に棚卸しする場合、無計画に手をつけたのでは数えモレや二重計上、計算間違いなどが生じがちで、能率も上がらないことが多い。そこで、前ページのような「棚卸し作業計画表」を作成し、それに基づいて作業を進めるのがよい。
作業計画表には、誰が、どこの棚(商品)を、どれだけの時間をかけて棚卸しするのかを記載し、倉庫内の棚番号(ここではA-1等がそれに当たる)と、位置を記した倉庫内地図を併せて配付するのが効果的である。
なお、必要時間は、商品管理部門が日常やっている作業時間をもとに、経験的に割り出すことになる。

(5)業務処理手順書の作成・配付
棚札方式による実地棚卸しの手順は、次のようになる。
イ.棚卸し票を全品にモレなく貼る
ロ.棚卸し票の貼り忘れがないかチェックする
ハ.つけたては、1人が数量をチェックして読み上げ、もう1人が棚卸し票に記入する。記入する際には復唱する。
ニ.数量チェックは、商品のわかるほうが担当する
ホ.扱いに迷った場合は、必ず責任者の指示を求める
ヘ.ケース、包みは規定の数量が入っているか確認する
ト.袋入り、複数包装の場合は単位を確認する
チ.棚卸し票の「棚卸し担当」欄には、数量をチェックした者がサインする
リ.検査担当者は作業をチェックし、棚卸し票の「立会い」欄にサインする
ヌ.検査担当者が誤りを発見したときは、つけたて担当者に再確認、訂正させ、両者がサインする
ル.作業が終了したら棚卸し票を回収し、回収モレがないかを確認したうえで棚卸し票の配付枚数と照合する
このような業務処理手順を文書化し、応援者も含めた全員に配付したうえで、前日くらいまでに説明会を開く。

(6)棚の整理
人員配置の決定や業務処理手順書を作成・配付するのと並行して、倉庫内では日常の入出庫業務を消化しながら、棚の整理を行うようにする。実地棚卸しを手順よく進めるためには、所定の棚に所定の品物が在庫されていることが前提となる。Aという商品が、B商品の棚にも、C商品の棚にも分散してあったのでは、効率的な棚卸しなど望むべくもないからである。
したがって、日常の入出庫の繰返しのうちに、定められた位置から移動しているものを、1か月弱の間にもとの位置へ戻すわけである。

(7)必要用具・用紙等の手配
次のような必要用具をあらかじめ手配しておく。
イ.棚卸し票と棚卸し表などの用紙
ロ.ハンガー・デスク……立ったままでも棚卸し票や棚卸し表に記入できるように、ヒモで肩から吊るす、画板状の板。板の手前が軽くカーブを描いて切込みが入れてあり、腹部に添わせると安定する
ハ.黒色ボールペン……こすれて消えたりするのを防ぐ
ニ.ソロバン、電卓
ホ.不良品をまとめる箱
へ.ゴミ箱、清掃用具
棚卸し表のモデル


(8)説明会の開催
業務処理手順書等は、1週間から10日前くらいまでに配付し、その間にじっくり読み込ませておく。
そのうえで、期末実地棚卸しの前日、終業後等に集合させ、手順を改めて説明するとともに、疑問点を解消する。あまり当日から離して行わないのがポイント。

(9)期末棚卸し準備作業チェックリスト
作業の2~3日前までに、以下のような事項をチェックして、準備モレがないか確認する。
□仕入れを控えて、在庫が増えないように調整したか
□棚卸し作業のための組織図や割当図を作成したか
□棚卸し作業の組織図や割当図を配付したか
□説明会を開いたか
□用具や用紙の準備はできたか
□棚卸し票、棚卸し表
□ハンガー・デスク
□筆記用具
□ソロバン・電卓
□不良品回収箱
□ゴミ箱
□清掃用具
□営業マンが持ち出した現物サンプル等は戻っているか。また、数量を確認したか
□仕入先預け品、仕入先預り品、外注先への支給品等の区分を行ったか
□得意先預け品、得意先預り品等の区分を行ったか
□得意先からの返品引取りの締切日を決めて整理したか
□営業倉庫から預け品の在庫証明書を受け取ったか
□破損品、持越品などは、別々に数量を明らかにしたか
□サンプルなどは棚卸し除外品としたか
□昼食や茶菓の手配は終わったか
□在庫置場や倉庫の整理、整頓は終わったか
□段ボールや包装材などの消耗品も、自社品と棚卸し除外品との区分をはっきりさせているか

<< 当日の運営 >>

(1)注意事項の伝達
当日は、倉庫内で実施前に朝礼を行い、これまで説明してきた作業手順・方法を再度確認する。
「○○さん、あなたは誰といっしょに、どこからどこまで棚卸しをするのですか」と質問してみるのも効果的で、ねぎらいの言葉を添えるようにすることが肝要である。
同時に、次のような注意事項を伝達する。
イ.記入は、決して急がず、あわてず、確実に、ていねいに行うこと
ロ.数字を訂正するときは、次の例のように間違った数字だけでなく、全部を訂正すること

ハ.席を外すときは、その旨断わる
ニ.つけたて作業が早く終わっても、最終チェックが終了するまで帰ってはならない。しかし、終わっていないところを勝手に応援するのも無責任になりやすいので差し控える
ホ.つけたて作業が終わった者は、棚卸し責任者の指示を仰ぐ。棚卸し責任者は、他の作業状況をみながら作業割当をする
ヘ.抜き取った不良品を入れる箱は、作業通路の交差するところに置く
ト.検査は、必ずすべてにわたって行う。抜取検査は避ける
チ.誤りを発見したときは、単独では訂正せず、つけたて担当者立会いのうえで行う
リ.計算は暗算をせず、必ずソロバン、電卓を使用する

(2)実地棚卸し作業
実地棚卸し作業は、次の手順で進める。
イ.棚卸し票を全商品に貼りつける
ロ.すべてにモレなく貼りつけたか確認する
ハ.所定の棚の商品から順次棚卸しをはじめる
ニ.つけたて作業をする
ホ.記入し終わった棚卸し票を回収して集計する
このような作業を、前述した手順書や注意事項を踏まえながら、確実に行うわけである。

(3)実在庫と帳簿在庫との照合ポイント
実地棚卸し結果と帳簿在庫は、本来一致しなければならないが、差異が生じたときはまず、カウント結果が正しいかどうかを確認する。差異の生じた商品について、当初のつけたて担当者以外の者により再カウントを行う。
とくに、類似品目(色違いやサイズ違い等)のプラスとマイナスの組合せでミスが発生するケースが多いので、そのあたりを注意する。
いずれにしても、カウントミスには、次のような原因が考えられる。
イ.現品を実際よりも多く、あるいは少なく数えた
ロ.他の製品と形式を間違えた
ハ.2か所に分けて在庫してあったり、同一品種のものを別々に数えた
もし、これらをチェックして、差異がカウントミスによるのでないことがはっきりした場合は、受払表のほうに入出庫計算のミスがないか、さらには伝票の記入モレがないかを調べる。それでも差異があるときは、責任者の承認を受けたうえで棚卸し差として帳簿上の数字を現物の数量に合わせて訂正することになる。
もっとも、これを棚卸し差損益あるいは売上原価等に含めて簡単に処理してしまうのは会計上問題がある。
そこで、対策の1つとしては、修正した差異分は「調整口座」等という形で別途の口座に集約し、差異原因が判明したつど、正規の口座へ戻す方法が考えられる。

<< 期末決算との連携と事後処理のポイント >>

(1)棚卸し資産の評価
棚卸し作業は、最終的に棚卸し資産の評価により終了するとともに、期末決算と直結する。評価は、品目・規格ごとに行うが、売価棚卸し法や原価差額の配賦などが行われるときは、評価単位が大きくなっていくことがあるので区分に注意する。
仕掛品、製品については原価計算を行わなければならないが、製品別の台帳があるため、個別原価計算は容易である。総合原価計算では、品目・規格が多いとき、いくつかの標準品目を定め、もとの品目・規格の数量を換算などによって標準品目の数量にかえ、積み上げたうえで評価する。もっとも、中小企業にあっては、勘どころを押えた簡易な見積り原価計算でよい。

(2)実地棚卸しと帳簿棚卸しとの差異の追究
期末実地棚卸しと帳簿棚卸しとの差異は、期末までの時間が短く、調査期間が十分でないため、前述したように便宜的に帳簿上の在庫を実在庫に合わせる形で処理するが、原因の究明は、内部牽制のうえからもきちんとやる必要がある。
その手順は、次のようになる。
イ.当該商品の種類、仕入取引形態、販売状況その他の事情から、受払帳関係のミスか、現品受払いのミスかの見当をつけてチェックする
ロ.受払帳の該当口座を調ベ、受払状況に異常はないか、口座違いや計算違い・桁違い・重複記帳や記帳モレその他の誤りはないかチェックする
ハ.予想される原因について、他の帳簿や伝票との照合、帳簿担当者や倉庫担当者に問いただし、原因の究明に努める

(3)棚卸し票の保管と実地棚卸しの事跡の保存
税務調査では、棚卸し票のような原始資料の証拠力が重視される。したがって、棚卸し票をもとに棚卸し表を作成した場合でも、この棚卸し票は捨てずに経理部できちんと保管することが大切である。
同時に、実地棚卸しが適正に行われたことを示すために、実地棚卸しの計画表、実地棚卸しの分担表や作業計画表、実施状況のスナップ写真等も保存しておく必要がある。

著者
橋口 寿人(経営評論家)