ビジネスわかったランド (会社行事)

社内啓発

発明・考案社内表彰
<< 発明・考案社内表彰の目的 >>

不断の研究開発業務の過程で特許取得につながるような発明が生まれたり、あるいは提案制度に登場した案件のなかから実用新案の対象となるような考案が出現する可能性は多々ある。そういう社員の発明・考案が誕生したら、ぜひとも全社をあげて祝福し、後に続く社員の輩出を大いに期待したい。
特許法によれば「会社に勤める者が、その業務範囲の発明をして取った特許」を「職務発明」と定義し、会社はその特許権について「通常実施権を有する」が、発明者は「相当の対価を受ける権利を有する」とある。つまり、職務発明については、当該社員がロイヤルティーを得て当然とされていいはずなのに、「会社での発明は会社のもの」と考えている企業が少なくない。
業務の一環であろうと、社員の発明・考案の権利を優遇するのは、そのおかげで得た“得べかりし利益”に報い、また優秀な人材のさらなるモラールアップの期待を込め、相応のロイヤルティー(特許料金等)を払ってしかるべきだし、それ以上に次のような意味がある。

(1)社内的な意味
イ.優秀な能力、かつ企業貢献度の高い努力に対し、応分の褒賞を授ける。
ロ.会社の枠を超えて評価される実績をあげた社員の栄誉は、会社にとっても名誉であり、また全社をあげてそれを純粋に讃えることで、他の社員に対するインセンティブの好機とする。

(2)社外的な意味
イ.当該の特許ないしは実用新案の案件について、実用化や販売その他で関心を示しそうな取引相手や関係者を表彰式に招待することにより、ビジネス・チャンスにつなげる。
ロ.研究開発や提案制度で社員を前向きに評価、奨励する自社の姿勢をPRする機会ともなり、会社のイメージアップにつながる。

<< 事前準備 >>

(1)表彰式の規模と会場
この種の行事には、形式論は不要である。純粋に気持ちのこもった祝宴・表彰式を心掛け、準備に取り組みたい。
イ.個人企業色の強い会社の場合、社長主催により役員・幹部が列席したうえで、社長室か役員室、もしくはホテル・会館の小宴会室、または社長の自宅でパーティー形式による祝宴を開く方法もある。ここでは、社をあげて褒め讃える宴としたい。
ロ.管理職および一般社員の出欠についての感触を探り、それにより、若干少なめに座席を用意し、あふれた人は立席のままでもかまわない。そのような規模の会場を確保すればよい。
ハ.講演→表彰式→祝賀パーティーという進行の場合は、「講演(→表彰式)」ないしは「(表彰式→)祝賀パーティー」と別々の部屋で行う。

(2)表彰式の形式と内容
イ.成績優秀社員や永年勤続社員の表彰式などが参考になる。提案制度発表会での優秀提案の表彰とも似ているが、扱いははるかに上である。
ロ.当該の発明ないしは考案の内容を発想したきっかけ、企画の練り方などの話を、社員一同に聞かせ、全社員に刺激を与えたい。そこで表彰式に先立ち、約30分の講演時間を確保する。うち25分ほどを講演時間とし、残り5分前後の質疑応答時間をとり、その後に表彰式、さらに、簡単な祝賀パーティーというのが一般的である。
ハ.本人が仕事に専心し、能力を集中的に発揮できるのは、その家庭環境にもよるところが大きい。そこで、表彰者の夫人または両親を宴に招待し、内助の功ともども祝福する。

(3)スケジュールの決定
社長以下の経営トップと、そしてもちろん報奨を受ける当人の都合さえつけばよいのだが、あまりに唐突かつ恣意的な日程では十分な準備ができない。他の多くの社員たちのスケジュールも尊重し、とくに急がなければならないことでもないので、感動がさめず、気が抜けないタイミングの大安吉日に挙行する。

(4)表彰式の案内
イ.もちろん開催内定・スケジュール内定の段階で、本人に通知しなければならない。その場合、社長表彰であろうと会社表彰であろうと、必ず所属長から伝達する。所属部署内で当人が浮き上がらないように、内示した後で、全員の前で公表するのもよい。
ロ.特許権ないしは実用新案権の出願が行政当局によって公告された時点で、その旨を告知板に掲示する。
ハ.その内容の概略を社内報で特集するなどして社員に周知する。
ニ.表彰式の日程、会場、形式が確定したら、ポスターで社内の随所に掲示するとともに、社内文書にして各事業場にも通知する。なお公表する際には、社内表彰式の正式名称を「○○所属○○氏発明(テーマ)記念講演および表彰パーティー」として講演併催の旨も明示する。
ホ.全社員の参加を強制するものではないが、社員の教育・啓発という意味で、多くの参加を期待したい。時間帯の設定が若干就業時間にかかっても、職制として、ルーティン業務をやり繰りして列席できるように勧める。
ヘ.あらかじめ役員・管理職には出欠を確認しておく。さらに一般社員に対しては、チケット申込みの方式で予約を取っておくのがよい。パーティーでは簡単な飲食物を供するので、その手配のうえからも人数をほぼ確定しておく必要がある。
チケットは、ごく簡単なものでよい。各事業場の庶務部署、人事・教育セクション、事務局(総務部)、また協力を得られれば組合事務所などで、申込みと引換えにチケットを渡す。
ト.会社の研究開発あるいは当該テーマに関して、直接または間接に助力・助言してもらっている学識経験者や社外関係者、OB、それに関心のありそうな取引相手などに招待状を出す。この場合も出欠を確認する。

(5)直前の準備
イ.出席人数の掌握
役員・管理職の出席数、チケット申込配付数、外部関係者の出席応答を整理して、最低限の出席人数を掌握する。
ロ.会場の確保
会場は出席数よりやや少なめの人数を収容できる場所がよい。
ハ.プログラム作成
以下に、記念講演会および表彰式のプログラムモデルを示す。
・開会挨拶(所属事業場長)
・記念講演(表彰者)
・表彰(社長)
・閉会挨拶(総務部長または人事部長)
(休憩10分)→パーティー
・社長挨拶
・表彰者挨拶
・乾杯
(懇談)
・来賓挨拶(上司・同僚による一言挨拶またはエール)
・本人・家族インタビュー
(懇談)
・中締め
ニ.表彰状の作成
市販のものでも社内で印刷したものでもよい。格調の高いデザインで、平易な表現で、かつ心のこもった文面のものにしたい。
ホ.記念品の用意
会社の呼びかけたキャンペーンや会社記念行事に優秀な成績で応えたといったケースの表彰とは違い、カップやトロフィーは馴染まない。記念楯も悪くないが、事が個人の努力に対する表彰という意味合いが強いので、長く記念となる相応の値段の美術工芸品、装飾品といった記念品を授与してもよい。楯が添えられれば、プラス金一封か家族を意識した高級家庭用品、旅行券・ホテル宿泊券という手もある。

(6)予算設定のポイント
褒賞(賞状、記念品、または記念楯その他)の金額の目安は以下のとおり。
・実用新案の場合……計10万円以内
・特許の場合……その程度により計20~30万円見当
その他、必要な費用としては、次のようなものがある。
・会場費
・飲食費
・招待状作成費および郵送費

<< 当日の運営 >>

(1)会場の設営
イ.講演と祝賀パーティーを同一の会場で行うのも不可能ではない。講演が終わった後、会場の外で若干の時間をくつろぐなり、懇談、休憩ということで過ごしてもらい、その間に、聴衆席を撤去してパーティー会場に設営し直す。しかし、相当手際よくやらなければならず、やはり別会場を用意したほうがよいだろう。
ロ.講演会場とパーティー会場を別にした場合、表彰式をどちらで行うかは、とくにこだわる必要はない。ここでは、講演後すぐに講演会場で表彰をし、会場を移してくつろいだ雰囲気でパーティーを行う方法を採ることにする。

ハ.会場レイアウトは、講演会場では家族席を演壇脇に設ける。講演後の表彰は、本人の傍に家族が並んでもよいが、むしろ当人の受賞の様子を脇で眺める形がよいだろう。パーティーでは壇上に家族が仲よく並んで、受賞者が挨拶するという形にすれば、和やかな雰囲気が出せる。
講演会場、パーティー会場とも、ステージを設け、また金屏風を用い、華やかさを出す。
ニ.パーティーは立食として、軽くてもよいがバイキング式で食事を供し、もちろんアルコールも必要である。ホテルの立食パーティーを少々真似するつもりでやってみてはどうだろう。しかし、あくまでも「気持ち」を優先させるパーティーであるため、あまりぜいたくにしなくてもよい。

(2)講演会、パーティーの進行
イ.講演会の司会
講演会については、その所属長に司会を依頼する。開会挨拶で手短に講演者のプロフィールと業績(発明・考案)を挨拶かたがた紹介してもらい、後ほど再び閉会の挨拶に立ってもらい、若干の感想をお願いする。上司としても誇りであることを自他ともに見せる演出である。もちろん開会を宣し、時間管理・進行で事務局スタッフが司会者をアシストするのはいうまでもない。
なお、事前に講演者と打ち合わせて講演時間を知らせておくが、あまりそれにとらわれなくてもよい。その後のパーティーで柔軟に対応すればよいからである。ただし、かなりの時間オーバーが懸念されるなら、頃合いを見てメモを演壇に届ける。
ロ.パーティーの司会
事務局スタッフが務める。表彰者には、直属上司、所属長を含めて来賓や他の社員と懇親を深めてもらうためである。
・社長挨拶……冒頭に、社長に挨拶してもらう。講演会で社長挨拶を設けないのは、会社の要請という雰囲気をなくすためである。しかし、祝賀パーティーでは、一転して場内を「めでたい」気分に高揚させる。そのためには、社長自ら、業務を離れて喜びの心情を吐露してもらうほうが効果的である。
・表彰者の返礼……続いて、表彰者の返礼を受ける。家族にも本人と並んでステージへ上がってもらう。
・乾杯……来賓で当該テーマの研究者、もしくは表彰者と関係の深い人がいれば、その人に音頭をとってもらう。ここで直属の上司に登場してもらってもよい。
・懇親・懇談……乾杯のあとは懇親・懇談の場を設ける。
・中締め……終了予定時間に近づいたら、中締めをする。直属の上司か、同僚でふさわしい人がいれば挨拶を兼ねて音頭をとってもらう。その後は、適当にお開きとする。

<< 後始末とフォローアップ >>

発明・考案のフォローアップは、わざとらしかったり、恩着せがましくならないように気をつける。提案制度発表会の後のように、その実用化、実現を期して、業務への反映を深追いして経営陣に迫るまでもないだろう。社会的に市民権を得た事実と内容に対して、会社として大々的に祝賀のアドバルーンを上げたのだから、懸案事項としてトップの裁量のうちにあるとみてよい。
なお、提案台帳に特記しておくことや、事前に社内報などでダイジェストを紹介したのなら、その詳報を載せるなり、小冊子を印刷して社員に配ることも必要である。

著者
橋口 寿人(経営評論家)