ビジネスわかったランド (会社行事)

人事関係

中途採用のための入社試験
<< 中途採用のための入社試験の目的 >>

激変する世の中のニーズに対応できる最先端の知識や技術をもった人材が社内にいない。構造不況業種から好況業種への進出のための人材がほしい。外部から優秀な人材を迎えて社内の活性化を図りたい。現代は、どの企業もこうした要求をもっており、中途採用に取り組んでいる。
また、とくに中小企業においては、新卒を採用して十分に教育してから戦力化するなどといった悠長なことを言ってはいられない。常に即戦力となる人材を求めており、そうした人材を確保するための手段が中途採用なのである。
したがって、中途採用試験は、受験者が自社のニーズに合った即戦力となり得るかどうかをみるための試験となる。

<< 事前準備 >>

(1)準備委員会の設置
中途採用の場合は、随時、必要に応じて、というのが一般的である。しかし、経営多角化や業務拡大など、大量に採用するケースでは、新卒採用の場合と同様に、トップを含めた役員、人材を必要とする部門の長、人事担当者による「中途採用入社試験準備委員会」を設置し、採用試験の基本方針を決定すべきである。

(2)入社試験の規模、内容の決定
イ.入社試験の規模
各部門の長から業務計画に基づいた増員、補充人員の要求を提出させ、中途採用によって何人採用するのかを決定する。
ロ.募集方法
主として次のような方法がある。
a.新聞の求人広告による募集
これは、主に30代以上の人を集めるのに適している。全国紙、地方紙、専門紙、スポーツ紙等があるが、自社の求人職種を考慮し、適切なものを選択する。
広告には、行数広告と何段何分の1といったスペース広告とがある。高学歴の人材を求める場合には、最低でも2段8分の1くらいの大きさがほしいところである。
b.求人専門誌への求人広告による募集
20代の若い人を集める場合に効果的である。様々な求人専門誌があるので、自社の状況に応じて選択する。
c.公的な人材銀行への求人申込み
人材銀行とは、公共職業安定所の出先機関で、原則として40歳以上の、管理・技術職に従事してきた者に対する職業紹介を専門的に行うところで、全国の主要都市に設置されている。紹介は無料。
d.民間の人材紹介機関への求人申込み
民間の人材紹介機関の場合、商売として活動しているわけだから、各年代にわたって「人材」を確保している。
ただし、この人材も新聞広告等を中心にして集めたものであることは承知しておいたほうがよい。
料金は、着手金が10万~15万円。採用が決定した場合には、着手金とは別に、採用者の給与の2.5か月~3か月分相当額を支払う、というのが一般的で、1人紹介してもらうと80万~100万円くらいかかるのが“相場”である。
e.公共職業安定所(職安)への求人申込み
職安へ「求人票(一般)」または「求人申込書(一般)」(地域により異なる)を提出する。無料。
f.大学(短大、専門学校)の就職部・研究室などを通しての募集
新卒者のなかには、入社して数か月で辞めてしまう者もいる。そうした者が出身校の就職部や研究室へ相談に行くケースもある。
中途採用の募集要項ができたら、目当ての大学へ持参し、依頼しておくとよい。
以上のほか、チラシ・折込広告による募集、縁故募集、取引先等を通じての募集なども有効だが、「人材」を確保しようとするなら、それぞれの募集方法の特質を勘案し、キメ細かな採用活動を展開する必要がある。
ハ.日時、会場の決定
試験の日時を決め、応募者数を予測して会場を決定する。
・日時は、受験者が在職中の場合もあることを考慮すると、日曜日がよい
・貸会場を利用する場合は、筆記試験場、面接会場、本部、面接控室等、選考方法に合わせて予約する
ニ.選考方法・手順の決定
次のような方法がある。

選考手順は職種、応募者数等、事情によって様々なパターンが考えられるが、一般的に次のパターンが多い。
a.書類選考→筆記試験・性格テスト→第1次面接→第2次面接→健康診断→内定
b.書類選考→第1次面接→筆記試験・性格テスト→第2次面接→健康診断→内定
c.書類選考→第1次面接・性格テスト→筆記試験・第2次面接→健康診断→内定
ホ.応募書類
一般的には、以下の書類を郵送または持参させる。
a.履歴書(写真貼付)、身上書、卒業証明書(成績証明書)、健康診断書
b.職務経歴書
中途採用の場合、a.については履歴書と健康診断書だけにとどめているところが多い。一般社員の採用であれば、履歴書だけで十分といえる。しかし、専門職・管理職を採用する場合は「職務経歴書」は不可欠である。
職務経歴書とは、いままで自分がどのような仕事をし、どのような実績を上げてきたかを書かせるものである。面接試験をしても、口頭だけなら自己の実績をいくらでもオーバーに表現できる。しかし、職務経歴書を出させておけば、一目瞭然、本当のキャリアがわかる。
ヘ.各担当者の決定
試験問題作成係、試験場準備係、試験監督係、採点係、面接係、受付・接待係、連絡・通知係、交通費精算係など、必要な係と担当者を決める。
なお、面接係には各部門の長が当たり、仕事に関する専門的な質問をするとよい。

(3)スケジュール表の作成と業務分担
当日の綿密なスケジュール表を作成し、業務分担を決める。

(4)予算設定のポイントと予算書
イ.当日の必要経費
a.受験者の交通費・昼食代
一般的には受験者もちである。遠隔地からの受験者には新幹線代、飛行機代などを会社負担にすると、応募者も多くなる。また、交通費・昼食代として、一律2,000円~3,000円を支給する場合もある。
b.会場を借りた場合の会場賃借料
ロ.予算書のモデル(受験者50人)
a.募集費
新聞広告……2段8分の1 円
求人専門誌広告……3分の1ページ 円
b.交通費・昼食代(一律2,000円)
2,000円×50人=100,000円(遠隔地からの受験者は別途) 円
c.会場費
本部1室 ( 円) 試験場大1室( 円)
面接室1室( 円) 面接控室1室( 円)計 円
総計 円 

(5)関係者への連絡等
イ.新聞
各新聞社専属の広告代理店と交渉する。この場合、大手代理店のほうが希望する掲載日を確保しやすいが、若干料金が高い(値引きが少ない)と思って間違いない。
ロ.求人専門誌
発行元の営業部に連絡し、打ち合わせる。
ハ.人材銀行
人材銀行に出向いて、所定の「求人票」に必要事項を記入して提出する。求人票が受理されると、求職者が人材銀行に提出した「求職者カード」の閲覧を許される。このファイルを見て、適当な人が見つかれば、担当者に提出する。
人材銀行では求職者に連絡をとり、求人先に行くよう指示する。企業は、来社した求職者に面接して採用の可否を決定すればよい。
ニ.民間の人材紹介機関
各社から資料を取り寄せ、どの人材会社がどんな職種の人材を多く確保しているかを調べて、自社に合った会社を選んで交渉する。
ホ.公共職業安定所(職安)
職安に備え付けてある所定の「求人票(一般)」(または「求人申込書(一般)」)に求人条件を記入して提出する。求人申込みの有効期間は2か月とされている。求人票を提出すれば必ず求職者が現われるとは限らない。2か月以内に適当な求職者が現われない場合、改めて求人申込みの手続きをすることによって、1年中、求人票が出ている状態にしておくことが可能である。
ヘ.大学(短大、専門学校)
人事担当者が募集要項を持参して挨拶する。次年度の新卒募集の学校訪問を兼ねて行うとよい。

(6)試験方法と採用基準の設定
中途採用は、あくまで即戦力となる人物を選ぶことに主眼がある。したがって、人材を採用しようとする部門の長が、時間をかけて面接を行う。さらに、綿密に作成した専門分野に関する筆記試験を行い、応募者の能力を的確に見抜く必要がある。
イ.筆記試験
・一般常識……ビジネスマンとして知っておかなければならない事柄や用語の説明等 
・専門分野……専門分野に関する知識、あるいは知識を基にして企画書を作成させる等 
・ケース・スタディ……「~のとき、~となった。こんな場合にどういう処理をすればよいか」など、特定のケースを提示して、その解決法を示させる等 
・作文・論文
ロ.面接試験
中途採用試験の受験者は、1度はどこかの会社を辞めている(辞めようとしている)わけである。なぜ転職した(する)のかについて、十分に説明を受けておかないと、次には自社をあっさりと辞めてしまうかもしれない。そうしたことを防ぐ意味からも、人物の見極めは非常に重要である。面接試験は少なくとも2度以上実施し、方法は多対1(受験者)とする。1回目の面接試験の担当は各部門の長と人事担当者、最終面接にはトップ、役員と人事担当者が当たり、時間も15~30分はかけたい。
なお、合格通知を出してから待遇や賃金などの面で折合いがつかなくて辞退されるといったことが起きないように、最終面接の時点で労働条件などについて、お互いが納得できるまで話し合っておくことが大切である。
ハ.入社調査書
面接試験の前に、入社調査書を書かせる。応募時に提出してもらった職務経歴書と合わせて、これを見ておくことによって、面接ではより適切な質問をすることができる。
入社調査書モデル

ニ.性格テスト
転職する人にはその人なりの理由があるわけだが、それが本人の性格によるものだとしたら問題である。1度や2度の面接ではつかみ切れない受験者の性格を、こうしたテストによってチェックすることも大切である。
ホ.採点基準の設定
上記イ~ホの模範解答を作成し、客観的な採点ができるように採点基準を設けておく必要がある。中途採用の場合は、現在の社員と比較してどうか、という点をポイントにして、採点基準として必要な得点を設定すればよい。

(7)事前準備のチェックリスト
□受験者全員に出欠のチェック電話を入れたか
□受験者のリスト(呼出し時間順)を作成したか
□面接に必要な資料(応募書類等)は準備したか
□交通費・領収証は準備したか
□(会場を借りる場合)貸会場の担当者に確認の電話をしたか
□立看板、貼紙等の準備はしたか
□係分担は決まっているか

<< 当日の運営 >>

(1)第1次試験(筆記試験、性格テスト、面接試験)のプログラム・モデル
2.新卒採用入社試験を参照。

(2)第2次試験(最終面接)のプログラム・モデル
受験者20名の場合を想定した。受験者を、時間差をつけて呼び出すのがポイント。



(3)試験開始直前のチェックリスト
□会場のレイアウトはできたか
□欠席者は誰か
□交通費を渡し、領収証をもらったか
□接待係、受付係、面接係の配置はできたか

<< 試験後のフォロー >>

(1)採用決定
採否についての決定会議を開いて採用者を決定する。すでに退職している者については、前の会社に連絡を取って、本人のことを確認する。

(2)採用決定通知書の発送
採用決定者には電報を打ち、同時に採用決定通知書を郵送する。

(3)呼出し、打合せ
早い機会に会社へ呼び出して、最終面接時に話し合った賃金・労働条件について決定し、初出社日等の打合せを行う。
その際、同時に誓約書を提出させる。

(4)必要資料の提出
健康保険、社会保険に関する資料と源泉徴収票、住民票などを提出させる。

(5)試験後のフォロー・チェックリスト
試験終了後、次のような項目をチェックし、モレがないか確認する。
□採用決定者の前の会社に連絡して事情を聞いたか
□採用決定者に電報を打ったか
□採用決定通知書を同時に発送したか
□不採用者へその旨連絡し、応募書類一切を返却したか
□採用決定者を呼び出し、条件面での詰めを行ったか
□採用決定者に誓約書を提出させたか
□初出社日を決定したか

<< 支出費用の経理処理と税務取扱い >>

中途採用試験に伴う費用項目と経理処理・税務取扱いのポイントは、次のとおり。
イ.新聞・雑誌等への求人広告費……「広告・宣伝費」
ロ.民間人材紹介機関への手数料……「従業員採用費」
ハ.学校訪問の費用……「旅費交通費」
交通費については、実費支給が原則。旅費などは、就業規則どおりであれば、旅費交通費として処理する。手土産は本来、「交際費(贈答費)」だが、数千円程度の常識的なものであれば、会合の茶菓子代として「雑費」扱いができる。ただし、請求書には「学校訪問持参分」とメモ書きし、絶対に「お土産」とは書かないこと。
ニ.会場の賃借料……「会場・会議費」
ホ.受験者の交通費・昼食代……「従業員採用費」
交通費は、遠隔地からの応募者も含めて、実費相当額であれば従業員採用費。必ず領収証をもらうこと。昼食代も同じ。
ヘ.試験問題作成費用……「従業員採用費」
著作権使用料も含めて、すべて従業員採用費。
ト.性格テスト費用……「従業員採用費」
購入費、判定の委託料とも、すべて従業員採用費。

著者
橋口 寿人(経営評論家)