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人事関係

永年勤続社員表彰
<< 永年勤続社員表彰の目的 >>

社員の功績を讃え、会社への帰属意識を高める手段として、各企業ではいろいろな表彰制度を実施している。永年勤続表彰は、長期勤続者の会社に対する貢献を他の社員に披露するとともに、会社から感謝の意を示すものとして、表彰制度のなかでも比較的大きな位置を占める。終身雇用、年功序列制度が崩れつつあるとはいえ、わが国の企業ではまだまだ代表的な労務管理の1つにあげられる。ある調査によると、表彰制度をもつ企業のうち、約9割が永年勤続表彰を実施しているという。
一般的には勤続5年、10年といった区切りのよい時期に表彰するケースが多く、表彰状とともに相応の記念品、商品、または現金を授与する。以前は表彰状に時計、銀杯などの記念品を添えるのがオーソドックスな形式だったが、最近は旅行クーポン券、商品券などの、より実利的な記念品が多くみられるようになってきた。
また、リフレッシュ休暇として、永年勤続者に所定の特別長期休暇を与える企業も出てきている。とかく働きバチとなりやすいわが国のサラリーマンに、長期休暇を与えることにより、年休のバランスを取らせ、対外的にも企業イメージのアップに役立たせようという考えが根底にみられるようである。
永年勤続者表彰もここ数年で、形式中心の表彰から実質の伴った表彰制度へと移行しつつあるようである。

<< 事前準備 >>

(1)準備委員会の設置
人事セクションが中心となり準備委員会を設立する。

(2)規模・内容の検討と決定
永年勤続表彰を行う際の対象者は、正社員、常勤嘱託、厚生嘱託、臨時雇用者、再雇用者などで、通常、毎年3月1日現在の在籍者である。次に、対象とする勤続年数を決めなければならないが、それには社会通念上の問題だけではなく、表彰のときに贈る記念品にかかる税務上の問題も微妙に関係してくる。所得税基本通達では、おおむね勤続10年以上の社員を表彰の対象とする場合は記念品は非課税になるとしている。このあたりの事情も勘案して、会社にある程度貢献したと認められる時期で、なおかつ区切りのよい「勤続l0年」を初表彰とする企業が多い。
ついで勤続5年、15年など5で割り切れる年数を最初の表彰年数に当てている企業もかなりある。しかし、3年と7年だけは例外で、この年数に達した社員を表彰するところもわずかではあるが見受けられる。やはり縁起のよい区切りの時期ということで実施するのであろう。初表彰が済むと、次は5年置きか、もしくは10年置きに行い、以後20年、30年と続く。
なかには男女で表彰年数に区別をつけているところもある。一般的には平均勤続年数の短い女性を、男性より早い時期に表彰するケースが目立つ。男性を勤続l0年目で表彰する企業であれば、女性はその半分の勤続5年とするところが多いようである。
なお、定着率の低い企業では人事政策上、表彰時期を早めるなど、社員のやる気を引き出す手段として永年勤続者表彰を利用するのも1つの手段である。

(3)実施上の留意点と業務分担
イ.創立記念日での実施も検討する
表彰式は通常、その企業の創立記念日に当たる日に行う。この日は社業の発展を祝う記念式典が行われるのが一般的であり、永年勤続表彰もその式典の一部として実施される場合が多い(A.祝賀記念「2.創立記念行事」参照)。
ただし、創立記念式典を行わない企業では、毎年4月の入社式に、併せて行うところもあるようである。
表彰の手続きは、準備委員会が中心になって行う。まず、表彰対象者の資料を作成し、それから表彰対象者が所属する部署の上司に、該当者が表彰に値する人物かどうかを聞き、次に社長から任命された人事部長などから構成される表彰委員会に上申して検討を委ねる。そして最後に社長が断を下す。
ロ.20年超は本社で実施
表彰式は、本社もしくは事業場単位で開催する。勤続10年、20年表彰までは、勤務場所となるところがそのまま式場となるが、それ以上の永年勤続者は本社で開催される式典に参列してもらう。本社と勤務地との旅費は出張旅費規定に基づき、全額会社負担とするのが原則である。
式典には、各事業場で行うものについては、所長、工場長など、事業場の幹部が出席する。表彰は社長名で行い、各事業場の最高責任者が授与する。また、本社開催の場合は社長以下、専務、常務など、取締役クラスの主要幹部が必ず列席する。これら会社の代表となるべき人がいるといないとでは、式典の重みがまるで違ってくる。社長から直々に永年勤続表彰されることで、仕事に対する誇りを新たにし、翌日から再び意欲的な姿勢で勤務に取り組むようになる。
表彰式が終わったら、後日社内報などに表彰者を掲載する。

(4)記念品の検討
表彰者に贈る記念の金品だが、これは記念品と現金とに分かれる。このうち、現金は税務上課税対象となることもあって一般的にはあまり授与されていない。やはり最も多いのは飾り物となる時計、工芸品、置物、電気製品、金・銀杯などである。
しかし、これらは比較的無難なものを選ぶため、記念品としての魅力に欠ける場合も多く、ともすれば使われずじまいになってしまうことも多い。最近、旅行クーポン券、商品券など、わりと幅広い用途に使える実利的な記念品を贈呈する企業が増えてきているのは、こうした理由による。
記念品の金額は、大部分の企業では勤続年数が長い表彰ほど多くなる。例外的に、勤続年数と反比例する企業も一部みられるが、ほとんどの場合は長く勤めれば記念品も高額なものになる。また、大企業だから額が高い、中小企業だから低いといった企業規模による区別もあまりみられず、経営者の考え方次第ということになる。とはいっても、目安となる金額がないわけではなく、おおよその相場というものがある。
だいたい、勤続10年では1万円から2万円の間としている企業が圧倒的に多く、次いで2万~3万円、3万~4万円と続く。また勤続20年では若干金額が増えて2万円から3万円の間が最も多く、3万~4万円、5万~6万円となっていく。平均すると、10年表彰で2万円をちょっと超えるぐらい、20年表彰で4万円弱というのがおおよその相場である。
ただ、この相場というのはあくまでも平均であって、企業間格差が大きいのも事実である。現に、1人当り数十万円の額を出している企業があるかと思えば、数千円で済ませているところもあり、まさに千差万別である。
なお、購入にかかる費用、式典の費用などは、福利厚生費として処理する。

(5)表彰対象者への通知と表彰状の作成
表彰対象者の一覧表を人事部で作成する。それが済んだら、個別に通知し、日時、場所、当日の服装、持参するものなどを伝えておく。また、式典では表彰される者の代表にスピーチをしてもらうケースも多いが、その予定者を決定して何をテーマに話してほしいかを併せて依頼する。

また、表彰の対象者には記念品とともに、表彰状を贈るのが一般的である。この場合、表彰者名は、会社の最高責任者(社長)とするのが原則である。文面は、感謝の意を表する簡潔な文章でまとめる。


<< 当日の運営 >>

(1)式次第の決め方
創立記念式典の場で永年勤続者表彰を行う場合は、式次第もそれに準じて、適切なところに入れる。以下は式次第の一般的なスタイルである。
・開会の辞
・社長挨拶
・来賓祝辞
・永年勤続社員の表彰、記念品授与
・永年勤続社員代表の謝辞
・閉会の辞

(2)表彰式の進め方と会場レイアウト
イ.表彰式は厳粛な雰囲気で
永年勤続社員表彰式は内輪の行事とはいっても、ある程度は厳粛な雰囲気をもたせるべきである。表彰対象者とは事前に打ち合わせておくことが必要である。服装の指示から受賞方法まで徹底しておく。
ロ.受賞方法
受賞の舞台に上がったら、演卓の左右の役員や来賓に一礼する。その後、授賞者の前まで進み、賞状などを受け取り、一礼して戻る。
ハ.会場レイアウト
会場のレイアウトは、舞台の演卓の後ろに一双の金屏風を置き、演卓の脇に五葉松の盆栽もしくは生花を飾り、壁には紅白の幕を張るという形が一般的である。役員の席は舞台に向かって演卓の左側に、来賓席は右側に設け、ハの字型になるようにレイアウトする。
永年勤続社員表彰式会場レイアウトモデル


<< 支出費用の経理処理と税務取扱い >>

最近は、記念品を、社員から希望の多い旅行クーポンに切り替えようと考えている企業が多いといわれる。この場合、問題となるのは、税務上、課税対象になるのかという点である。
この点については、次の条件を満たしていれば、表彰に伴い受賞者が受ける経済的利益には課税されない。旅行だけでなく、どこかに招待した場合でも同様である。
イ.支給額が勤続年数に対応して社会通念上妥当であること
ロ.受賞者が10年以上の勤務者で、前回の表彰から最低5年以上の間隔があること
しかし、注意しなくてはならないのは、旅行クーポンなどを贈与する際、現金化されないような措置を講ずることである。現金化が可能なものであれば金銭の支給とみなされ、課税対象となる恐れも十分に考えられる。
現金化を防ぐ方法としては、旅行クーポンであれば、記名式のクーポンにして本人以外使えないようにするなどいくつかあるので、旅行会社に相談してみるとよい。また、クーポンを贈呈するのではなく旅費を会社が旅行代理店に直接払い込むというのも1つの対策であろう。
なお、税務処理上これらを立証するために次の書類を証拠として残しておくこと。
イ.表彰式の記録、通知、写真、表彰状の写し
ロ.表彰規定
ハ.永年勤続表彰受賞者の勤続証明書
ニ.旅行会社の見積書、領収証など。

著者
橋口 寿人(経営評論家)