ビジネスわかったランド (会社行事)

人事関係

新卒採用入社試験
<< 新卒採用入社試験の目的 >>

一口に新卒者といっても、中学・高校卒、あるいは大学・短大・専門学校卒と様々である。
また、試験内容も職種によって若干の違いがある。しかしながら、採用試験そのものの基本的な考え方や実施要領については、いずれの場合もほとんど同じであると考えて差支えないであろう。したがって、ここでは大学新卒の採用試験を取り上げて見本としたい。
採用試験の目的は、主に次の3つにある。
イ.自社に適している人、自社の発展に寄与する人材を選ぶ
ロ.試験を通して、自社の経営理念・方針を理解してもらい、信頼感をもってもらう
ハ.応募者の能力、適性、職業観等の個人的特性を把握する
最近は就職協定が有名無実化しているが、ここではあくまでも解禁日以降に、企業が優秀な人材を確保することを目的として、純粋に公募して実施する入社試験のマニュアルについて述べる。

<< 事前準備 >>

(1)準備委員会の設置
役員、各部門の責任者、人事担当者で「新卒採用準備委員会」を設け、採用試験の基本方針を決定する。

(2)入社試験の規模
イ.採用人数の確認
各部門ごとの採用人数(学部・男女別)を確認し、全社の採用人数を決定する。
ロ.応募者数の予測
自社の新卒採用方針を点検し、応募者数を予測する。
・応募者は何人ぐらいか(大学推薦、OB推薦、公募)
・事前内定者の確認
・書類選考で足切りをするか(男女各何人に絞るか)
ハ.試験場の決定
第1次採用試験受験者の人数を予測し、人数に合わせて試験場を決める。
・試験場……自社で行うか、貸会場を予約するか
・第2次試験以降の受験者数の予測と会場の手配
ニ.試験日の決定

(3)選考方法・手順、応募書類の決定
イ.選考方法
一般的には、次のようなものがある。

ロ.選考手順
各社の事情によって異なるが、一般的には次のパターンが多い。
a.書類選考→筆記試験・性格テスト(適性テスト)→第1次面接→第2次面接→(第3次面接)→健康診断→内定
b.書類選考→第1次面接→筆記試験・性格テスト(適性テスト)→第2次面接→(第3次面接)→健康診断→内定
c.書類選考→性格テスト(適性テスト)・第1次面接→第2次面接→筆記試験→(第3次面接)→健康診断→内定
以上が主なパターンだが、性格テスト(適性テスト)はできるだけ面接の前に行い、面接の際にその結果を利用するとよい。
ハ.応募書類
一般的には、以下の書類を郵送または持参させる。
・履歴書、写真、身上書、成績証明書、卒業見込証明書、健康診断書
・学校・教授などの推薦状
・作文(800字程度。テーマは、本人の仕事に対する意欲や心構えに関するもの、本人のPRになるものなどにするのが無難である。「私の生いたち」「父・母を語る」といった本人の家庭環境に関するテーマは、人権尊重の立場から避けること。また、思想・信条を推測するためのものも避ける)

(4)各担当の選任・決定
試験問題作成係、試験場準備係、試験監督係、採点係、面接係、受付・接待係、連絡・通知係、交通費・昼食代等精算係など、入社試験に欠かせない「係」の適任者を選出し、それぞれの担当を決定しておく。

(5)スケジュール表の作成と業務分担
当日の綿密なスケジュール表を作成し、決定した業務分担に基づき担当者の氏名も表中に併記しておく。

(6)予算設定のポイントと予算書
イ.当日の必要経費
・受験者の交通費……実費(たとえば、遠隔地からの受験者を除き一律1,000円程度など)
・受験者の昼食費……社員食堂を利用させる場合は、「社員食堂の最も高額のメニューの代金+コーヒー代」、外部の食堂等を利用する場合は、「一律l,000円程度」
・会場を借りた場合……会場使用料
なお、遠隔地からの受験者の宿泊費は、一般的には本人もちである。
ロ.予算書のモデル
・会場費……本部室1室( 円)試験会場2室( 円)面接室1室( 円)面接控室1室(  円)計 円
・交通費……1,000円×500人=500,000円
(プラス遠隔地からの受験者の交通費実費精分)計 円
・昼食費……1,000円×500人=500,000円 計500,000円 総計 円

(7)関係者への連絡
イ.試験日時等の告知
学校(就職部、研究室)、公募(一般紙、業界紙、専門紙、就職情報誌等)、会社説明会、DM等により、試験日時、応募書類、応募人員、職種、初任給、選考方法等を周知させる。
学校宛の「求人申込書」は、私学統一様式などがあるものの、各学校によってまちまちである。
ロ.応募締切りから結果通知までの期間の目安
・応募締切日→(2週間)→書類選考結果通知→(2週間)→第1次試験(即日結果通知)→(1週間)→第2次試験(即日結果通知)→(1週間以内)→第3次試験・身体検査(翌日結果通知)
ハ.書類選考結果(合格・不合格)通知状の発送

(8)試験方法と採点基準の設定
最近は学業優秀よりも積極性や協調性を重視する傾向が強く、知識を問う筆記試験より面接試験や性格テストにウエートを置く企業が増えている。
イ.筆記試験
筆記試験の目的は、応募者に書かせることによって知識、判断力、創造力、表現力などをみることにある。したがって、基礎知識、専門知識、一般知識をみるための学科試験(一般常識テスト、読解力テスト、語学・専門知識テスト)と論文テスト(論文、作文)を行う。
ロ.面接試験 
面接試験は、応募者と口頭で質疑応答することにより、学業成績や筆記試験、適性テストではわからない受験者の外的、内的な人物像を総合的に把握するために、選考試験に占める役割は極めて大きい。
面接で留意すべき点は、面接者によって差異が生じやすいということである。したがって、採用後の職務に必要な適性を採用基準として明確にし、面接者間での合意を形成しておくことが必要である。
面接の方法には、次のようなものがある。
a.グループ(比較)面接
第1次面接では、5人ぐらいのグループで20分間ほど面接するグループ(比較)面接が効果的である。受験者全員に同じ質問をし、主として協調性や積極性、自己顕示欲の強さなどをみる。いい人材を探すというよりも自社に合わない、あるいは不要な人間を除外して人数を絞るということに重点がおかれる。
したがって、A=よい、B=普通、C=不合格の3ランクで採点するが、AとBの区別よりもBとCの区別に力を入れる。
第2次面接以降は、評価ポイントを明確にして、独自の面接評価表を作成することが大切である。
その際、次の8つのポイントを押さえる。
1.やる気・意欲
2.積極性
3.協調性
4.柔軟性
5.実行力
6.忍耐力
7.自己表現力
8.対人折衝力
b.集団討論面接
1グループ8人程度の構成でグループ分けし、テーマを与えて1時間ぐらい自由に討論させる。1時間も話せば本性が出てくるので、ここでも前述の8つのポイントで採点する。
なお、グループ面接の場合も同様だが、グループ分けに際しては、サークルの仲間や友人同士と思われる者は、別グループにするよう配慮する。
c.個人面接
相手が1人なので、自由な形式で、突っ込んだ質問ができるというメリットがある。方法としては、1対1、多対1(学生)があるが、面接者の個人的恣意を排除するためには多対1がよい。この場合、あらかじめ質問の分担を決めておくと、効果的に進められる。また、主として質問する者を1人決めておき、他の面接者は追加的に質問をするという方法もある。
第1次で個人面接を行う場合は、通常、人事担当者および現場の長が面接し、第2次以降では社長を含めた役員、採用責任者が面接を行う。個人面接には、質問内容等をマニュアル化して行う標準面接、面接官が自由に質問する自由面接、受験者に自由に話させる非指示面接、故意に緊張状況下に置いて観察する圧迫面接などがあるが、通常は標準面接、自由面接、非指示面接をミックスして行う。ただ、現代の若者には圧迫面接よりもリラックスさせて自由に話させたほうが、長所を引き出すことができ、結果的に成功する場合が多い。

(9)試験運営チェックリスト
このような試験の準備ができた段階で、次のような項目を点検し、モレがないか確認する。
□受験者全員に、試験日の出欠の確認電話を入れたか
□試験問題用紙は、科目ごとに枚数を確認したか
□受験者のリスト(50音順)は準備したか
□グループ面接のグループ分けはできたか
□グループごとに、履歴書等、面接に必要な資料は揃えたか
□筆記試験の解答と採点基準は準備できたか
□交通費・昼食費・領収証(人数分封筒入り)は準備したか
□会場(貸会場)の担当者に確認の電話を入れたか
□立看板、貼紙等の準備はしたか

<< 当日の運営 >>

(1)第1次試験プログラムモデル


(2)試験会場レイアウトモデル


(3)面接試験質問チェックリスト(5段階評価)


(4)試験終了時のチェックリスト
試験終了時に、次のような項目について点検し、モレがないか確認する。
□出席者、欠席者の人数は、男女各何名ずつか
□交通費の精算は終わったか
□昼食代は渡したか
□領収証はもらったか
□途中退場者は誰か
□筆記試験成績一覧表はできたか
□面接試験評価表はできたか

<< 試験後のフォロー >>

(1)採用内定
採否についての決定会議を開き、採用内定者を決定する。

(2)採用内定通知書の発送
採用内定者には、すぐに電報を打ち、同時に採用内定通知書を郵送する。併せて学校の就職部にも通知して謝意を表すること。
不合格者に対しては、その旨を通知すると同時に応募書類一切を返却する。


(3)入社誓約書を提出させる
 内定者に対して、入社の意思を確認するために、入社誓約書の提出を求める。これを提出することにより、内定者は入社の心構えを強くもつことになる。なお、必要に応じて、次の書類も提出させる。
・卒業見込証明書
・身元保証書


(4)試験後のフォロー・チェックリスト
試験終了後に、次のような項目について確認する。
□採用内定者へ電報を打ったか
□採用内定通知書を同時に発送したか
□採用内定者の出身大学に採用内定を報告したか
□不採用者にその旨を通知したか
□採用内定者に入社誓約書を提出させたか
□採用内定の辞退者は誰か(処置        )
□採用内定者のうち、迷っているのは誰か(処置        )

(5)採用内定者のフォロー
入社誓約書を提出した採用内定者が、必ずしも入社するとは限らない。学生たちは一生の問題として、少しでもよい企業を選ぼうとする。したがって、内定者の辞退を食い止めるためのフォローが必要となる。
フォローとしては、次のようなことが考えられる。
イ.採用内定者と頻繁に会ったり、連絡を取ったりする。
・社内行事等へ参加させる
・内定者懇談会を定期的に開く
・社内報や会社カレンダー、手帳などを送る
ロ.入社前教育を行う。
ハ.入社前研修旅行を実施する。
ニ.アルバイトにこさせる。
ホ.採用内定者の家族に、人事担当者が挨拶に出向く。
ヘ.採用内定者の家族との懇談会を開催する。

<< 支出費用の経理処理と税務取扱い >>

(1)新卒採用試験に伴う費用項目
・会場の賃借料
・受験者の交通費
・受験者の昼食代
・試験問題作成費
・性格テスト購入費

(2)上記項目の経理処理と税務取扱い
イ.会場の賃借料……会場としてホテルや貸ホール、貸会議室等を借りた場合は「会場・会議費」。
ロ.受験者の交通費……遠隔地からの応募者も含めて、実費相当額であれば「従業員採用費」。
ハ.受験者の昼食代……全員から領収証をもらう。「従業員採用費」。
ニ.試験問題作成費……著作権使用料も含めて、すべて「従業員採用費」。
ホ.性格テスト購入費……判定の委託を含めて、すべて「従業員採用費」。

著者
橋口 寿人(経営評論家)