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登記・登録事項

登記申請に必要な予備知識
登記申請の基本的なルールは3つある

全国の登記所では、毎日、大量の登記申請が行なわれており、それを早く正確に処理するために、いくつかのルールが定められています。このルールを知ることが、登記申請に際しては、まず必要です。
登記申請の基本的なルールには、申請主義、書面主義、共同申請主義があります。以下、それぞれの内容について見ていきましょう。
 
■申請主義と職権主義
登記は、法律で特別に定められた場合以外、当事者の申請、または官公署の嘱託に基づいて行なうことになっています。これを「申請主義」といいます。
当事者から申請するほうが、実体関係に即した登記ができると考えられることと、登記をするかしないかは当事者の意思に任せるべきだと考えられることが、申請主義が採用されている理由です。
申請主義の反対が「職権主義」で、申請主義の例外として、法律で特別に定められた場合は職権で登記が行なわれます。職権で登記が行なわれる場合として、表示の登記、登記官の過誤に原因のある更正登記等があります。
 
■書面主義
登記申請は、一定の内容を記載した申請書を提出して行なわなければなりません。これを「書面主義」といいます。登記申請を書面で行なうことによって登記の誤りをなくし、手続きを迅速に行なうことができるのです。
ただし、平成17年3月に施行された改正不動産登記法によってインターネットを使った登記申請(オンライン申請)ができるようになりました。その点では書面主義は修正されたのですが、現在でも書面申請とオンライン申請の2つの方法が利用されています。
 
■共同申請主義
登記の申請は、登記権利者と登記義務者が共同して行なうのが原則で、これを「共同申請主義」といいます。登記によって直接、不利益を受ける者(登記義務者)と、利益を受ける者(登記権利者)が共同で申請することです。
直接、不利益を受ける者、利益を受ける者というのがわかりにくいかもしれませんから、簡単に説明しておきましょう。

たとえば、所有権移転登記の申請の場合なら、現在の所有権の登記名義人は、その登記を申請することにより所有権を失うことになるので「不利益を受ける者=登記義務者」、新たに所有権を得るほうは「利益を受ける者=登記権利者」ということになります。
共同申請主義が採用される主な理由は、こうした2人が申請することで登記の真正を確保しようとする点にあります。
したがって、共同申請によらなくても、登記の真正が確保できる場合には、当事者の一方からの申請(単独申請)が認められます。また、登記手続上、登記義務者に該当する者(不利益を受ける者)がいない場合も、当然、単独申請が認められます。
 
単独申請が認められる登記もある
 
単独申請が認められる主な登記は、次のとおりです。
 
■判決による登記
所有権移転登記や抵当権設定登記などは、本来、登記権利者と登記義務者が共同申請で行なわなければなりません。ところが、登記義務者(例外的に登記権利者)が、登記申請に協力しないときには、登記義務者に対し登記に協力すべき旨の判決を得て、登記権利者が単独で申請することができます。この場合には、裁判の過程で事実関係が審理されるため、単独申請を認めても虚偽の登記が行なわれる心配がないからです。
ここでいう“判決”とは、登記手続きを命じた「給付判決」のことで、確認判決や形成判決は含まれません。また、確定した判決でなければ、登記手続きはできません。ですから、一審で勝訴判決を得ても上級審で裁判が継続中であれば、その裁判が終わり、上級審の判決が確定するまでは登記できません。上級審で一審の判決が変更される可能性があるからです。
なお、ここでいう判決には、和解調書(お互いの譲歩に基づく合意を裁判所書記官が調書に記載したもの)や認諾調書、調停調書も含まれます。
 
■相続による登記
相続が開始すると、死亡した人(被相続人)が所有していた不動産は、相続人の所有に移ります。この場合に行なわれるのが相続による登記です。相続が開始したということ、また、相続人が誰かということは、戸籍謄本等の公簿によって証明できるので、単独申請を認めても、登記の真正が損なわれることはありません。また、相続による登記は、登記義務者に該当する者が死亡して存在しないため、共同申請という形をとれないということもあります。
ちなみに、会社等の法人が合併した場合に行なわれる合併による権利の移転登記も、ここでいう相続による登記に含まれ、やはり単独申請により行なわれます。
 
■登記名義人表示変更・更正登記
所有権や抵当権等、不動産に関する権利の登記名義人が、住所や氏名等を変更した場合、また、登記簿の記載が誤っていた場合に、それを正しいものに改めるために行なわれる登記が、登記名義人表示変更・更正登記です。
この登記は、権利そのものの内容を変更するものではなく、単に表示を変更するものなので、登記の性質上、登記義務者は存在しません。住所や氏名の変更があったことを証明するため、住民票や戸籍謄本等を添付して、所有権者、抵当権者等の登記名義人が単独で申請します。
 
■所有権保存登記
所有権保存登記は、まず表題部に記載された所有者か、その相続人が申請することができます。相続人が申請するケースというのは、被相続人が表題登記をしただけで保存登記はしていなかった場合です。この場合、一般的には遺産分割協議書に、その建物を取得する相続人の名前を記載して、その相続人名義で保存登記を申請します。
なお、法定相続人全員の共有名義で保存登記をすることもできます。
もっとも、マンション等の区分所有建物については、表題部に記載された所有者から直接、所有権を取得した者は、所有権譲渡証明書を添付すれば、自分名義で所有権保存登記を申請することができます。
そのほか、収用によって所有権を取得した者等も、自分の名義で所有権保存登記を申請することができます。

<所有権譲渡証明書>


■その他
以上のほか、表示の登記、仮登記、滅失回復の登記(登記簿が火災で焼失したような場合、滅失した登記を回復するために行なわれる)等は、単独申請が認められています。
なお、従来「当事者出頭主義」というものがありましたが、平成17年3月よりオンライン申請ができるようになったことから廃止され、登記申請を郵送等で行なうことが可能になりました。
 
表示の登記には別のルールがある
 
ここまでに説明したルールは、権利の登記に関するもので、表示の登記では多少ルールが異なります。
表示の登記というのは、登記簿の表題部についての登記のことです。登記簿の表題部には、不動産の物理的状況を客観的に記載することになっているため、権利の登記とは次の点が異なります。
 
■登記官に実質審査権がある
権利の登記では、原則として登記官には、申請書と申請書に添付された書面だけで申請内容を審査する形式審査権しかありませんが、表示の登記では、登記官に実質審査権が認められています。不動産の物理的な状況は現地調査によって確認でき、客観的な登記が可能だからです。
 
■登記官の職権による登記が一般的に認められる
権利の登記では、当事者からの申請による登記が原則となっており、職権による登記は登記官の過誤に原因がある場合の更正登記などわずかの例外にかぎられます。それに対して、表示の登記では、登記官による職権登記が一般的に認められています。これは、登記官の実質審査権と共通の考えが基盤にあります。
 
■当事者が申請する場合も単独申請による
表示の登記では、権利の登記のような登記権利者、登記義務者という申請構造をとっておらず、当事者が申請する場合も単独申請によります。


古山 隆(司法書士)