ビジネスわかったランド (総務・庶務)

文書・通信事項

英文契約書を読みこなすコツ

●基本の5文型を押さえる

 契約書に使用される英文は最も文法のルールに忠実に書かれています。誰が読んでも同じ意味として理解されなければならないからです。したがって、英文の基本の5文型とその修飾語句を押さえていればほとんどの契約文書は読みこなすことができます。




●長文に惑わされない

 契約書の英文はやたらと修飾部が長いため、文型を見失いがちです。ですから、最初はSやVなどに着目し、文章の構造を把握することが重要です。おすすすめのやり方は修飾部をカッコでくくって読むことです。たとえば、先ほどの例文でやってみましょう。

IN WITNESS WHEREOF, the Parties hereto shall cause this Agreement to be executed in duplicate by the duly authorized representatives of both Parties.

 修飾部をカッコでくくってみます。

(IN WITNESS WHEREOF,)the Parties (hereto)shall cause this Agreement to be executed(in duplicate)(by the duly authorized representatives of both Parties).

両当事者は/本契約書を/作成する。

 すっきり理解できるでしょう。
 

●並列表記に慣れる

 契約書では同じような意味の単語や表現が並列的に記載されます。これは契約書を作成する弁護士や法律実務家に慎重な完璧主義の人が多いことも一因していますが、契約文ではできるだけ広い範囲をカバーしておきたいという事情がからみます。1つの単語ではカバーする範囲に限りがあるので、同じような意味の単語や表現を並列的に記載して範囲を広げるのです。

  並列表記の例文
Article 9.Confidentiality

The information, documents, data and/or materials provided by one party to the other party shall be utilized by the other party solely for the purpose of performing its responsibilities and obligations under this Agreement, and shall not be disclosed to a third party other than the parties hereto; provided, however, that such other party may disclose such information, documents, data and / or materials to a third party when required by law or judicial or other governmental proceedings to disclose them.

【訳例】
第9条 守秘義務

一方の当事者が他方当事者へ提供した情報、文書、データもしくは資料は、他方当事者が本契約に基づく責任および義務の履行を目的とするためにのみ使用することとする。かつ、当該他方当事者は、かかる情報、文書、データもしくは資料を本契約当事者以外の第三者に対し開示してはならない。ただし、当該他方当事者は、法律、司法もしくはその他の行政訴訟手続きにより、当該情報、文書、データもしくは資料を要求されたときは、第三者に対し開示できる。

 英文の並列表記を訳すときは、いちいち逐語訳ですべてを訳さなくても1つの日本語がその範囲をカバーしているなら、それでかまいません。たとえば、次のような場合です。
       
This Agreement shall not be amended, altered, changed or modified in any manner, except by an instrument signed by the duly authorized representative of each party.

【訳例】
本契約は、各当事者の正当に授権された代表者が署名した文書なくしていかなる方式においても変更されない

 しかし、同じような意味の単語や表現が並列的に記載される場合でも、たとえば「null and void」で「無効である」という意味になるように、決まり文句である場合もあります。

Any assignment not made in accordance with this Article 14 shall be null and void. 

【訳例】
本条にしたがわずになされた譲渡はすべて無効とする。


●コロン(:)とセミコロン(;)の取扱い

 日本人が英文でとまどうのがコロン(:)とセミコロン(;)です。
 コロン(:)はまだ文章が終わっておらず、「すなわち」と文を続ける場合に使用します。:(コロン)を横に伸ばすと「イコール」になりますので、そのようなイメージで覚えておくとよいでしょう。
 セミコロン(;)は、ピリオドとカンマの中間の意味です。つまり、文章が終わるようで終わらない中途半端に文章を続ける場合に使用します。


●契約書で使用してはいけない表現

 契約書は誰が読んでも同じ意味でなければならないので、あいまいな表現は避けなければなりません。確実に相手に伝わるか不安な場合は、先ほどのように同等の言葉を並列的に表現します。
 また、先にも述べましたが、一般的な語句でも契約書において使われると法的な意味をもつものがありますので、これには注意が必要です。
 たとえば、「退職金」は「Severance」と英訳できますが、これには「解雇の手切れ金」という意味がありますので、「Retirement pension(allowance)」と表現するのが正しい契約英語です。また、取締役は「Board Member」が正しいです。「Director」では単なる部課長を意味するので、注意が必要です。


著者
牧野 和夫(大宮法科大学院大学教授・英国ウェールズ大学大学院教授)