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法律英語の基礎知識

●契約書に使われる基本の用語

 まずは契約にまつわる法律英語の基本を押さえましょう。契約書に必ず出てくるので、これらは必須の知識です。

契約 Agreement,Contract
 AgreementもContractも法的拘束力をもつ「契約」の意味があります。ただ、Agreementには法的拘束力を必ずしももたない「合意」という意味があり、「契約書に書かれた内容を当事者が合意する」という意味で契約書のタイトルにはAgreementが使われることが多いです。
条項 Clause,Provision
条、項、節 Article,Section,Paragraph
 Sectionを条ということもあります。
当事者 Party
 「両当事者」はBoth parties、「一方当事者」はEither party、「他方当事者」はThe other partyなどと表現されます。パーティ(宴会)という意味ではありませんよ。
甲、乙 First party,Second party
 あるいはX、Yとする場合もあります。
売主、買主 Seller,Buyer
貸主、借主 Lessor,Lessee
ライセンサー、ライセンシー Licensor,Licensee
約因、対価 Consideration
 契約書の前文の末尾に、“Now, therefore, in consideration of the mutual agreement hereinafter contained, the Parties agree as follows.”(よって、下記の条項を約因とし両当事者はここに次のとおり合意する)といった表現が記載されます。「in consideration of~」は一般的な表現では「~を考慮する」という意味がありますが、契約用語では「~の対価関係にある」と訳します。契約書の法的拘束力を発生させるには「対価関係」が非常に重要な概念になります。

当事者(Party)の例文(1)


Without the prior written consent of Disclosing Party, Receiving Party shall not, for the period of three (3)years after the date of this Agreement, disclose or divulge, to any third parties, the technical information received by Receiving Party from Disclosing Party under this Agreement, and shall ensure adequate procedures to prevent such disclosure or divulgation.
 

prior written consent 事前の書面同意
Disclosing Party 情報開示者
Receiving Party 情報被開示者、情報受領者
divulge/divulgation 遺漏する/遺漏
third parties 第三者

【訳例】

情報開示者の事前の書面同意なくして、情報受領者は、本契約日以後3年間、情報受領者が本契約に基づき情報開示者から取得した技術情報をいかなる第三者に対しても開示もしくは遺漏せず、当該開示もしくは遺漏を防ぐために十分な手続きを確保するものとする。
 

当事者(Party)の例文(2)

Breaches of this Agreement

If either Party breaches any provision of this Agreement, the Non-Breaching Party shall have the right to terminate this Agreement by serving on such Breaching Party sixty (60)days written notice specifying such breach; provided, however, that if such breach is cured during the period of such notice, this Agreement shall continue with the same force as if such notice had not been given.
 
 
breach 違反する
provision 条項
Non-Breaching Party 非契約違反当事者
Breaching party 契約違反当事者
written notice 書面通知
; provided, however, that ただし~とする

【訳例】

本契約の不履行

いずれの当事者が本契約条項の履行を怠った場合、無違反当事者は、違反当事者に対し、違反行為を明記した60日間の書面通知を行なうことにより、本契約を解除する権利を有する。ただし、当該不履行が当該通知の期間内に是正された場合には、本契約は、上記の通知が行なわれなかったものとして従前と同じ効力を有し、存続するものとする。
 


条項の英語表現

 英文契約書に盛り込まれる条項には次のようなものがあります。

当事者の関係 Relationship of Parties
目的 Purpose
定義 Definition
契約期間 Term
債務不履行 Default
契約解除 Termination
不可抗力免責 Force Majeure
守秘義務 Confidentiality,Secrecy
保証 Warranty
損害賠償免責 Indemnity
損害賠償 Damage
 保証と損害賠償は契約交渉のうち最も重点が置かれる条項です。以下のようなさまざまな種類の損害が細かく盛り込まれます。
 直接損害 Direct Damages
 間接、結果的損害 Indirect,Consequential Damages
 付随的損害 Incidental Damages
 懲罰的損害 Punitive Damages
 填補的損害 Compensatory Damages
 実損害 Actual Damages

保証・損害賠償条項の例文

(3)The above warranty is a limited warranty and it is the only warranty made by Licensor.  Licensor makes no warranty, express or implied and Licensee agrees that all warranties of merchantability and fitness for a particular purpose are expressly excluded. Licensor shall not be responsible for consequential, indirect, or incidental damages even if such damages is forseeable under the circumstances.  The express warranty hereunder specified has been made in lieu of all liabilities or obligations of Licensor for damages arising out of the delivery, use, operation or performance of the software.
 
 
in lieu of かわりに
liability 責任

 【訳例】

(3)上記保証は制限付き保証であり、かつライセンサーによる唯一の保証である。ライセンサーは、明示的もしくは黙示的を問わず、一切の保証を行なわない。ライセンシーは、市場性および特定目的への適合性のすべての保証が、明白に除外されることに同意する。ライセンサーは、結果的、間接的、もしくは付随的損害が予見可能の場合でも、当該損害に対して責任を負わない。本契約に明記された明示的保証は、本ソフトウエアの引渡し、使用、もしくは履行から発生する損害に対するライセンサーのすべての責任もしくは義務のかわりに行なわれるものとする。
 

譲渡 Assignment
通知 Notice
最終合意 Entire Agreement
放棄 Waiver
言語 Governing Language
準拠法 Governing Law
仲裁 Arbitration
裁判管轄 Jurisdiction


●法的な意味をもつ語句

 ごく一般的な表現に使われる英語でも、契約書に登場すると法的な意味をもつものがあります。こうした語句に慣れるのも英文契約書を読みこなすためのポイントです。次に掲げるのは法的な意味をもつ語句の主な例です。

Action 訴訟、告訴、法的行為
Appeal 不服申立て
Failure (契約上の債務の)不履行、怠慢
Ground 根拠
Measure 措置、対応
Negligence 過失
Set-off 相殺
Title 所有権、権原
Performance (契約上の債務の)履行
Award 裁定する
Execute 調印する、執行する
Govern 準拠する
Terminate 解約する、終了する
Observe,Comply with 遵守する
Provide,Stipulate,Specifyなど 規定する、定める

 上記のうち「Termination」は契約の「解除」という狭義の意味と、契約の「終了」という広義の意味があります。類似語に「Expiration」がありますが、これは「契約の有効期間満了による終了」のみを指します。

TerminationとExpirationの例文

Article 11. Term

This Agreement shall take effect on October 1, 2009, and shall remain in full force for a period of twelve (12)months unless terminated in accordance with the relevant provisions of this Agreement. This Agreement shall be renewed automatically for further twelve (12)month periods unless either party has shown objection to the other party in writing by six (6)months prior to the expiration or termination of this Agreement.
 
 
remain in full force 存続する
in accordance with にしたがって

【訳例】

第11条 期間

本契約は、2009年10月1日に発効し、発効後12か月間効力を有する。ただし、本契約の関連条項にしたがって解除される場合は、この限りではない。本契約は、12か月ごとに自動的に更新される。ただし、一方当事者が他方当事者に対し、本契約の終了または解除の6か月前までに書面にて異議を通知した場合は、その限りではない。
 
 


◆契約書の英文ルールの謎

 契約書の英文には独特のルールがあります。たとえば、Licensorなど文中でも頭文字が大文字で記載される語、あるいは、LICENSORなどすべて大文字で記載される語は、その契約書で定義されている用語という意味になります。ですから訳も「本件ライセンサー」となります。
 ただし、Party(当事者)は契約書で定義されずに、「本契約の当事者」の意味で使用されることがあります。
 また、契約書内の数値表記は、たとえば「150コピー」なら、“one hundred fifty (150) copies”と英文字とアラビア数字の両方で表記する場合が多くなります。このとき、英文字とアラビア数字の数値が矛盾する場合には、英文字が優先して解釈されます。これは、記載するとき英文字のほうが、アラビア数字に比べて、間違えることが少ないとされているからです。
 


著者
牧野 和夫(大宮法科大学院大学教授・英国ウェールズ大学大学院教授)