ビジネスわかったランド (総務・庶務)

担保、保証、債権回収

個人保証の上手な取り方は
 「個人保証」という呼称は法律用語ではないので、その中身が問題となる。1回限りの取引なら連帯保証、継続取引なら連帯根保証を取る。個人保証を取るに当たっては、保証人に支払能力があるかどうか十分に調査する必要があるが、とくに不動産に注目する。また、いざというときに本当に支払ってくれるのかどうか、保証人の人柄にも配慮が必要である。

<< 個人保証を取る際の留意点 >>

個人保証とは
取引先の社長や専務から個人の資格で保証書を取ることを、一般的に「個人保証を取る」といっている。
しかし、個人保証という用語は、法律上の用語ではない。個人として保証するというところから生まれた言葉にすぎない。
したがって、法律上はその中身が問題となるわけで、結局、前述のように1回限りの取引であれば連帯保証、将来も取引を続けるのであれば連帯根保証を取るべきである。
取引先が個人企業や合名会社の場合は、代表者や業務執行社員(合名会社の代表者)の個人保証は不要とされている。合資会社の無限責任社員も同様である。どちらもその責任は、もともと無限だからである。要するに、社長や専務の個人保証は、取引先が株式会社あるいは合同会社の場合に限って取る意味があることになる。

保証人の資力を調査する
苦労して保証契約書を取り付けても、保証人に支払能力がなければ効果がない。そのためには、あらかじめ保証人の資力を十分に調査することである。調査の対象は、保証人の資産、とくに不動産に重点を置く。それは、預金や株式は、保証人本人の説明がない限り調べようがないし、仮に本人から明細の説明があったとしても、その流動的な性質から、調査時の状態がそのまま保証の履行を請求するとき(取引先が倒産したとき)まで続くとは考えられないからである。
その点、不動産は、よほどのことがない限り固定的な資産とみるべきで、いざというときの有力な攻め手になるだろう。
そこで、保証人の資産リストを作成することも、不可欠である。保証契約書を入手した時点で調査した資産の移動・変化に絶えず留意し、変化のつど、その明細を克明に記録しておくことである。とくに不動産の場合は、登記簿による確認も併用する。そして、有資力者が無資力者になり下がれば、別の有力保証人を立てさせることである。

保証人の人柄にも留意
ところが、問題なのは、保証契約書を入手したときにあった資産が、肝心の保証実行のときにはないというケースである。悪質な保証人になると、取引先の倒産寸前に、株式や不動産の名義を、わざと(故意に)妻や知人などの第三者に切り替えたりする。
法律上は、詐害行為取消権や強制執行妨害行為で追及する途はあっても、実際上は実益に乏しく、要は、単に物的資産だけでなく、保証人の人格・人柄にも十分配慮が必要ということである。

いよいよ交渉
そこで、交渉の秘訣だが、社長の責任感を個人保証に結びつけるようにもっていく。会社(法人)と個人とは人格が異なるし、社長個人が当然に会社の債務を保証する義務はない。
しかし、社長が健全経営を続けていく限り会社は安泰なのだから(したがって、個人保証も問題とならない)、そのような状態をずっと続けていくのだ、という気概を個人保証に表わすように仕向けるべきだろう。
株式会社の中には、会社組織の形式をとりながら、その実態は個人企業と変わらないところも多いので、その面からも、実質責任者としての保証を求めることである。

名誉欲や社会的地位に着目する
結局、保証人には資力と誠意のある人を選べということだから、別段、取引先の社長に限る必要はない。名誉や社会的地位を重んじる人の保証を取りつけるのも一案である。保証人としての義務を履行しなければ、その人の社会的生命がなくなるような場合には、無理をしてでも支払ってくれるからである。
こんな例がある。
取引先(A社)との取引に際して、社長のA氏だけでなく、社長の実兄B氏の個人保証もとっておいたのがものをいったという話である。B氏は有名私立大学の理事長職にあり、A社の経営には関与していなかったのだが、1人よりも2人という発想で個人保証を取りつけたのである。
結局、A社は倒産、私的整理での配当も望み薄で、債権回収は個人保証に絞られたのだが、A、B両氏ともに「ない袖は振れぬ」とばかりに、なかなか支払ってくれない。
ところが、ある日、個人破産をちらつかせたところ、とくにB氏は慌てた。Bは、理事長職にある自分が破産してしまうことは大変な不名誉になると考え、親戚・縁者をかけずり回って、保証人の責任を果たしたのである。

<< 第三者から保証書を入手したときの留意点 >>

保証契約は債権者と保証人の契約
保証契約は、債権者と保証人との契約であるが、一般に保証人を立てる場合は、債権者と取引先(債務者)が事前に話合いのうえ、適当な保証人を立てようということになり、その結果、取引先サイドで保証人の人選をすることが多い。たとえば、個人保証の場合は、取引先の社長、専務とか、社長の親戚・友人、会社保証の場合は、取引先の親会社や取引関係にある会社などがその典型である。
また、保証提供の方法も、契約書という双方捺印型の形式をとらず、保証人が一方的に差し出す一方差入形式をとり、しかも、それを取引先経由でもらうのがほとんどである。しかし、「保証契約の当事者は債権者と保証人である」との基本的な認識を誤ってはならない。

間接入手と無権代理
中小企業の場合、取引先の社長自身が保証人となり、社長自身が保証書を持参することもあるが、実際上は取引先の仕入担当者のような保証人以外の第三者が保証書を持参する(あるいは保証人や取引先から郵送してくる)ことも多く、これが後日トラブルの原因ともなってくる。
それは、無権代理といって、平たくいえば、保証人から「私(保証人)の知らぬ間に第三者が勝手にハンコをついたから、その保証は無効」といわれるケース(社長が他の目的で預けた印鑑を、担当者が無断で保証書に押捺したとか、夫の不在中に妻が債権者から頼まれて夫に無断で夫の印鑑を押したとか)である。
無権代理とは、代理権がないにもかかわらず、代理人と偽って行なった行為をいう。
代理権のない代理行為の効果は本人に帰属しないから、保証契約は無効となる。本人が無権代理人の行為を追認しないときは、代理人に対し、保証の履行を求めるか損害賠償の請求をすることができる。
しかし、無権代理行為をするような相手に責任を追及しても実益があるかは疑問である。仮に資力があるとしても、裁判などで争わなければならず、そんな手間をかけるくらいなら、事前に手を打ち、有効な保証書を入手すべきである。なお、無権代理行為がなされた場合でも、本人に対して無権代理人の締結した契約の効力を主張できることもあるが、本人は無権代理行為がなされたことに納得せず訴訟になると予想されるので、やはり事前に手を打っておくべきである。

保証意思・内容を確認する
そこで、保証契約書を間接入手したときは、必ず保証人自身に保証の意思・内容を直接確認することである。なるほど保証契約書には、保証人のハンコが押されているが、極端にいえば、これはあくまで形式と受け止め、それより実質的な面=保証の意思および内容の確認に重点を置くことである。
保証意思を確認するには、「突然訪問型」、「電話確認型」、「書面確認型」があるが、書面確認型が実際的である。書面確認型は、後日の証拠を残す意味で、保証意思確認通知書を保証人宛てに配達証明書付きで発送する。保証契約は書面で締結する必要があるが、その契約交渉の場に保証人本人がいるとは限らない。そのため、保証契約が書面により締結されたとしても、保証人意思確認通知書を送付することには意味があるといえる。
保証意思確認通知書と配達証明書の例を示すと、次のとおりである。


やり方としては、一方的に送る方法と、返信用のハガキを同封する方法とがあるが、実際上は返信用のハガキはなかなか返ってこないので、結局、一方的に送る方法がベターである。
この方法は、突然訪問型に比べると角が立ち(とくに真正な意思に基づいて保証した保証人の心証を害することがある)、保証人の変心の機会を与えるなどの欠点は否めないが、書面による橋渡しという点、とりわけ配達証明書を併用したときには、将来の一つの証拠としての価値がある。
以上が保証意思確認の手順であるが、これらの方法による確認を考える前に、保証契約書は原則どおり、次のようなやり方をすることである。
1.自社営業担当者の面前で、
2.保証人自らが保証金額などの空白部分に記入し、かつ署名したものを入手し、
3.保証人から代筆を頼まれても断わること。
4.自筆の署名の代わりに記名捺印するときはできる限り多くの人を立ち会わせ、かつ押捺印の印鑑証明書も入手すること。

著者
森井 英雄(元横浜国立大学大学院教授)
2012年6月末現在の法令等に基づいています。