ビジネスわかったランド (総務・庶務)

担保、保証、債権回収

根保証を取るときの留意点は
 一定の期間、継続して商取引を行なう場合に取る保証を根保証という。根保証には、極度額や期限を定めないで一切の債権を保証させる包括根保証と、一定の極度額か期限を定めた限定根保証がある。限定根保証には、包括的要素を取り入れた極度根保証があり、多用されるのはこれである。極度根保証を取るときは、必ず保証人自身に極度額を記入させることが肝要である。

根保証とは
根保証とか根抵当権という言葉があるが、この「根」というのは、継続的な取引関係を意味している。1回限りの売買であれば、この「根」という文字は関係ないのだが、商人間では、一定の期間(または期間を定めずに)同種の商品の売買を継続して行なうことがあり、こうした継続的な取引関係から生じる売掛金等の保証を根保証と呼んでいる。
したがって、スポット商いとか、1回限りの貸付であれば、債権額の特定した普通の連帯保証で十分である。しかし、数回にわたり反復繰り返される継続的な売買取引であれば、将来発生する連帯根保証を取ることが必要である。

極度根保証が多い
根保証には、極度額や期限を定めないで一切の債権を保証させる「包括根保証」と、一定の限度額ないし期限を定めて保証させる「限定根保証」があるが、普通は後者である。
もっとも、限定根保証の中にも包括的要素を取り入れた保証、つまり、一定の限度額は設けてあるが、保証の対象となる債権が、「商取引により生じた一切の債権」というように包括的に定めた「極度根保証」と、極度額と期限を定めた「極度・有期限根保証」などもあるが、一般には、極度根保証が多用されている。
これらを表にまとめると、次のとおり。

次に掲げたものは、極度根保証のヒナ型である。

タイトルは単に連帯保証書であるが、一定の極度額を設け、「一切の債務」という包括的要素を入れる。ただし期限(または期間)を定めていないので、内容的には極度連帯根保証となっている。

保証限度額を明記させる
この書式でよく問題になるのは、極度額の記入についてである。営業担当者にしてみれば、ブランク=無限度と考え、将来の取引増加を見込んでブランクのまま取ることも多い。こうなると、形式は極度根保証でありながら、包括根保証と何ら変わらなくなる。しかし、極度根保証については、必ず限度額を保証人の手で明記させるようにすべきである。自社の営業担当者が保証人に代わって極度額の記入をすると、後日紛争のおそれも生じるので、その点にも留意が肝要である。

極度額・期限をブランクにすればどうなるか
根保証の極度額や期限を定めないで、しかも商取引上の一切の債権を保証させる根保証は、一般に「包括根保証」と呼ばれており、判例も包括根保証の有効性を古くから認めている。保証をもらう側(債権者)に立てば、この包括根保証はきわめて便利である。極度額や期限の定めがなく、保証される債権の範囲も広いので、商取引の初めにもらっておけば、その後の取引量が増えても取り直す必要がないからである。
ところが、これでは保証人の責任が大きくなるので、判例は、「保証契約を締結してから相当の期間が経過したとき」、「相当の期間が経過していなくても、債務者(取引先)の資産状態が急激に悪化したとき」には、保証人に保証契約を解約できる権利を認めている。前者の場合の解約権は任意解約権、後者の場合の解約権は特別解約権と呼ばれている。
また、包括根保証は、前述の解約権と同じ考え方で、「保証契約当時の事情、取引先と保証人の関係、商取引の事情などに照らして、相当と認められる範囲の金額まで制限できる」とされている。売買実務のうえで、とりわけ極度根保証が多いのも、包括根保証にはこうした欠点があるからである。
なお、取引先の社長や専務取締役等が保証人となっている場合は、債務者と保証人を実質的に一体と見ることができるので、このような人が保証人になった場合は、前述の解約権は行使できない、といわれている。

民法は貸金に関する個人の包括根保証を無効としている
もともと根保証については法的規制がなかったため、とくに金融業者からの融資に関して、主債務者が債権者に対するすべての債務について保証するいわゆる包括根保証が多用されてきた。
しかし、包括根保証人になると、取引次第ではその債務が青天井に膨れ上がる危険性がある。バブル崩壊後の厳しい経済環境の中で、債務者から頼まれるまま根保証人になった(根保証書にハンコを押した)ばかりに自宅を失い破産するといった事態が頻発し、社会問題となった。
そのため、貸金に関して個人である保証人が過大な責任を負担しないようにとの配慮から、包括根保証を無効とし、保証人の責任を限定する方向で、民法に規定が置かれている(民法465条の2)。具体的には、根保証契約を締結する場合には、極度額を定めなければならないことなどが規定されている。

著者
森井 英雄(元横浜国立大学大学院教授)
2012年6月末現在の法令等に基づいています。