ビジネスわかったランド (総務・庶務)

担保、保証、債権回収

取引信用保険の活用ポイントは
取引信用保険は、取引先企業の破綻の際には保険金を受け取ることができるのはもちろん、得意先の与信管理アウトソーシングとしての活用も可能である。その仕組みと、活用のポイントは、次のとおり。
連鎖倒産の危険性が高まるなか、企業にとって与信管理は重要な課題となっている。与信管理自体のアウトソーシングとしても活用できる「取引信用保険」は、企業の強い昧方になるはずだ。ここに概要を説明する。

<< 「取引信用保険」の特徴 >>

「取引信用保険」は、契約企業と取引をしているそれぞれの企業の信用度を審査し、取引先企業の破綻の際は、審査によって決定された保証額に応じて保険金が支払われるものである。その仕組みは、次の図のようになっている。

保険金が支払われる条件は2つある。1つは、裁判所による法的手続きを取った場合。会社更生法や民事再生法の適用、破産などのケースが当てはまる。もう1つは、法的手続きをとっていなくても(倒産していなくても)債務不履行(不払い)があった場合である。

取引先ごとの信用リスクを個別に審査
ある会社(ここではA社とする)が、取引信用保険を契約しようとする場合、依頼を受けた保険会社では、A社と取引をしている企業それぞれに対して、個別にその信用度を審査する。この審査は、その企業の財務内容を取り寄せるなどして行なわれる。
この審査によって見積もられた信用度合いに応じて、保険会社は、取引企業各社に対する保証限度額の設定を行なう。
したがって、B社が倒産した場合は、B社に対して設定した限度額で保険金が支払われる。B社が倒産しても、C社が倒産しても、保険金は同額というものではない。

債務者への求償権は保険会社へ移転
保険金の支払いの対象となる、民事再生法等が適用されたり不払いが生じたりしたケースでは、債権は回収不能になるか、回収可能としても、その回収作業が長期化することは間違いない。
そのような回収作業は、前向きな業務ではないだけでなく、企業にとっては、人的なコストも必要となってくる。
取引信用保険においては、保険金の支払いが生じた場合、債務者への求償権(破綻した取引先への回収業務等を行なう権利)は保険会社へ移転するので、企業は保険金支払い以降の回収業務を行なう心配は要らなくなる。

相手先企業には取引信用保険加入がわからない
取引信用保険に加入した場合に心配になるのは、取引先にその事実が伝わらないかということであろう。しかし、取引信用保険に加入していることは、企業の側が発表しない限り、取引先にはわかない。保険会社が審査のためにより詳細な情報を入手しようと取引先企業に接触する場合でも、情報機関を活用するので、その調査が保険のためのものとはわからないようになっている。

<< 与信管理アウトソーシングとしてのメリット >>

取引信用保険のメリットは、いざの場合の保証だけでなく、「売掛債権保証付きの与信管理アウトソーシング」にもある。
保険会社は、リスクを引き受けるに当たって、必ずそのリスクを統計的に評価している。もちろん、取引信用保険の対象となる取引先の信用リスクについても個別に審査をしているから、その評価結果は、そのままその企業の与信管理に活用できるというわけである。
不確実性の高いリスクを引き受けるために、保険会社もリスク評価のノウハウの蓄積、および技術の向上が必要である。このように、専門的な知識をもった保険会社による評価を利用することは、企業にとって大きな意義がある。
企業が与信管理をするうえでの悩みは、「この取引先にはいくらまで販売してよいのか」という与信限度額の設定にある。しかし、与信限度額を弾き出すために必要となる企業の信用度は、状況によっても変わってくるし、対象企業についての情報自体もその発信源によって異なることがある。民間の情報機関による評点も1つの指標になるが、実際には、その評点が信用と必ずしもリンクしていないこともある。
そうなると、結局、財務諸表および資本関係、メインバンク、取引先の資産内容等に基づく審査を、取引先1社1社に対して定期的に行なうこと以外に、信用を測る方法はない。
与信管理部門に十分な人員を配置しているような大企業では、独自に審査のシステムをつくって、このような審査を行ない、与信管理をすることができるであろう。しかし、人的資源の限られている多くの企業においては、そのような審査を行ない、自社だけで審査業務を完結させることは、きわめてむずかしいといえる。
そのため、従業員数も少ない中小企業では、債権を保証する手段としてではなく、むしろこの保険会社の持つ審査機能を利用した与信管理のアウトソーシングとしての活用に、取引信用保険を購入する価値があるといえる。

<< 与信管理アウトソーシングとしての活用例 >>

では、与信管理アウトソーシングとしての取引信用保険の活用例を次に挙げてみよう。

取引開始の際の与信管理
まず、新たな企業と取引を始めるかどうかを判断するための活用が考えらる。
たとえば、これから取引を始める企業に対して、十分な保証を設定できると保険会社が判断した場合は、安心してその企業と取引を開始すればよいわけであるし、逆に、こちらが思ったような保証が得られない場合は、保険会社の提示した保証額の範囲内での取引にとどめることを考えてもよいであろう。
さらに、保険会社が保証できないと判断した場合、取引は見合わせたほうが賢明という判断をすることもできる。
これをまとめると次の図のようになる。


既存の取引企業との適正な取引量の見積り
すでに取引をしている販売先に対しても、どこまで取引を広げてよいのかを判断するために、取引信用保険を活用することができる。ある企業では、取引先の債権をすべて保険の保証額内に抑えることで、不安のない取引を行なっている。

<< 導入のコストはどのくらいかかるのか >>

保険料については、契約を結ぶ企業の年間売上高の0.2~0.4%くらいと考えてよいであろう。ただし、保険料の計算基礎は、企業の規模により多少違いが出てくる。
取引信用保険は、取引先1社ごとの契約ではなく、取引先をおおむね包括して契約する形態をとることに注意してほしい。保険の性質上、リスクの高いものだけを限定的に保険の対象とすることは、現状ではむずかしくなっているのである。
とはいえ、保険を設計する段階において、次の図のように上位債権および下位債権を保険の対象から外すことができるというルールもある。

たとえば、破綻する可能性がほとんどない企業と、あまり多くの取引がない企業に関しては、保険の対象範囲から除くことができるのである。
保険の対象となる企業が少なくなれば、保険料も安くなる。対象をセグメントすることで、保険の費用対効果をあげる設計が可能になる。

<< 申込みに当たっての留意点 >>

取引信用保険は、損害保険の分野なので、損害保険代理店を窓口にした契約になる。
しかし、リスクの評価がむずかしい保険であるため、現状では、積極的に販売をしている会社と、ほとんど販売していない会社とに二分されているようである。
この保険の取扱いにおいては、与信管理に関する知識が求められるため、保険会社・保険代理店の選定に当たっては信頼できる先を探されることをお勧めする。
取引信用保険を扱っている複数の損害保険会社を比較したり、取引実績のある保険代理店へ相談してアドバイスを受けるなどして、選択していけばよいであろう。

著者
鴻上 太郎(株式会社アドバンテッジ インシュアランス サービス 商品企画部プロダクトマネージャー)
2004年11月末現在の法令等に基づいています。