ビジネスわかったランド (総務・庶務)

担保、保証、債権回収

債権の時効と中断させるための方策は
 債権を持っていても、その権利を行使しなければ、時効によりその権利は消滅してしまう。消滅時効は、請負工事代金で3年、売掛金で2年である。権利を失わないようにするため時効を中断させるには、「承認」などの手続きをとる必要がある。「承認」とは、債務者が債務のあることを認めることだが、口頭による承認だけでは証拠力がないので、債務者から書面(債務確認証)をとることが大切である。

回収こそが肝心
「回収なくして販売なし」といわれる。いくら売上げを増やしても、肝心の売掛金を約束の期日に支払ってもらわなければ、実質的には売上げに結び付かないからである。手形の場合は、単に手形を受け取るだけでなく、支払期日に決済されてこそ、はじめて販売が完結したことになる。
ところが、この売掛金がそう簡単に回収できないことが起こる。典型的な例は、相手が倒産したときである。もっとも、倒産時には回収ができなくても、会社更生、民事再生などの再建型法的整理では、その後の営業継続による収益をもって配当され、破産などの清算型法的整理や私的整理の場合でも、残余資産の換価処分(金銭に換えて債権者に配分すること)による処分代金での配当がある。その意味では、倒産=全額回収不能とはならないが、一定期間の支払遅滞という事態が発生する。

消滅時効とは
「権利の上に眠る者は保護せず」とか、「法は目覚めている者を助け、眠れる者を助けず」という諺がある。これは、いくら権利があるからといっても、その権利の上にアグラをかき、権利を行使しないような者には、その権利を保護する必要はない、という考え方の現われである。
一定の状態が長く続いた場合、あまり古い過去の事実についての立証は困難なので、その事実状態をそのまま尊重し、この状態をもって権利関係を認めることが、社会の法律関係の安定のためにも必要である。何年もの間、権利を行使しなかったために生じる消滅時効と、逆に20年とか10年の間、自分の所有物のつもりで使用していたために生じる取得時効がそれである。
代金回収の面では、消滅時効が問題となる。清算型私的整理でいつまでも配当のないとき、クレームが解決したのに一向に代金を支払ってくれないときなどである。

売掛金は2年で時効にかかる
消滅時効には、次のような分類がある。

売主が買主から支払いのために手形を受けとることがよくある。一般に、手形決済とか手形払いとかいわれている決済方法のことである。この場合、売主としては、次の点に注意しなければならない。
すなわち、売主が売掛金確保のために買主から手形をもらったのであれば(普通はこの方法である)、その時効は手形の3年ではなく売掛金の2年で消滅する、ということである。手形自体の時効は3年だが、この手形は売掛金の支払確保のために振り出されたものだから、もとになる売掛金が2年で消滅すればそれに乗っかった手形もまた2年で消滅するのである(売掛金の代物弁済として手形をもらった場合は、手形本来の3年の時効で消滅する)。

援用により時効の効果が生じる
時効は、前述した時効期間が経過することによって当然にその効果が現われるのではなく、当事者がこれを援用する、つまり、相手(取引先)が、「貴社の売掛金は時効で消滅した」旨を明言することによって時効の効果が現実に生じるとされている。したがって、売掛金の場合、2年が経過しても、相手が債権者に対し時効である旨を援用しなければ、債権者の売掛金はなお生きているわけである。

時効の中断は「債務確認証」で
消滅時効の進行を止めることを、「時効の中断」という。もっとも、会社更生や破産などの法的整理の参加(債権の届出)は、それ自体が時効の中断事由とされているので、相手が倒産したときに問題となるのは、もっぱら私的整理が長引いたときといえる。
時効の中断の代表は、承認、つまり、債務者(買主や借主等)が債務(買掛金や借入金など)のあることを認めることである。口頭による承認だけでは証拠力がないので、普通は債務者から債務確認証を入手する。
債務確認証の例は次のとおり。

単に請求書を発送するだけでは、時効の中断にはならない。請求の結果、相手がそれを承認すれば時効は中断するが、そうでない限り時効は進行する。請求後6か月以内に「代金を支払え」との訴訟を起こすとか、債務者の財産に仮差押えや差押えなどの法的手続きをとることが必要である。

債権が時効で消滅すれば抵当権も消滅する
「抵当権をとっているから時効にかからない」と思っている人をよく見かける。
確かに、抵当権はそれ自体では原則として消滅時効にかからない(ただ、債務者・設定者以外の者が抵当権の目的となっている不動産について、取得時効に必要な10年または20年にわたって継続して占有したときは、抵当権は消滅する)が、抵当権によって担保される債権が時効で消滅すれば、付従性(主たる債務が消滅すれば保証債務も消滅するという保証債務の性質のこと)により抵当権も自動的に消滅する。
したがって、せっかくの抵当権を活用する意味でも、担保される債権については時効にかからぬよう、早めに中断手続きをとっておくことが必要である。

著者
森井 英雄(元横浜国立大学大学院教授)
2012年6月末現在の法令等に基づいています。