ビジネスわかったランド (総務・庶務)

担保、保証、債権回収

抵当権を取る際の留意点は
 抵当権の設定に当たっては、契約内容を明確にするために、また登記申請のためにも、契約書を作成し、当事者が記名捺印しなければならない。契約書には、抵当権の被担保債権と目的物の特定が必要であり、優先弁済の決め手となる抵当権の順位に関する条項も欠かせない。また、目的物件の事前調査や、登記をすることも非常に大切なことである。

<< 抵当権とはどんな担保か >>

提供者が使用収益できる担保
不動産担保の中で最もよく利用されるのが抵当権である。
抵当権とは、債権者(抵当権者)が担保として提供を受けた不動産などを提供者(抵当権設定者)から取り上げることなく、設定者に従来どおり使用収益させながら、債務の弁済がないときはこれを競売し、その換価代金の中から優先的に弁済を受けることができる担保のことである。

抵当権設定契約書を作成する
抵当権は、抵当権者と抵当権設定者との間の抵当権設定契約によって成立する。実務上は契約内容を明確にするため、および登記申請の必要上、抵当権設定契約書を作成し、当事者(抵当権者、抵当権設定者)が記名捺印する。
抵当権設定契約書には、抵当権の被担保債権(抵当権によって担保される債権)と目的物の特定が最小限必要である。また、抵当権の順位は抵当権の優先弁済の決め手となるもので、抵当権者にとって重大関心事である。そこで、抵当権の順位に関する条項も必要となる。

対象は不動産が多い
抵当権の対象となるのは、土地・建物の不動産、立木登記された立木、工場財団、鉱業財団、農業用不動産、登記船舶、航空機、登録自動車、建設機械(以上が有体物)、地上権、永小作権、採石権、漁業権(以上が権利)であるが、普通は土地・建物または工場の機械器具などを含めた企業施設、つまり工場抵当権、工場財団抵当権が多用されている。
なお、抵当権の対象となる物件は、債務者所有のものでも債務者以外の第三者所有のものでもよく、第三者が提供する場合は、その第三者のことを物上保証人と呼んでいる。

債権の存在が前提
抵当権が有効に成立するには、売掛金や貸付金などの債権(被担保債権)のあることが必要で、債権が弁済や時効により消滅すれば抵当権も消滅する。したがって、甲社が1,000万円の売掛金を担保するため乙社所有の土地につき抵当権を設定取得した後、乙社が甲社に1,000万円支払えば、その抵当権は消滅する。
つまり、抵当権は売掛金1,000万円というように1回限りの債権(特定の債権)を担保するだけで、その債権が弁済されると抵当権は消滅し、その後に発生した債権を担保するために再び利用(流用)することはできない。これを抵当権の付従性という。
なお、付従性の例外として、将来の一定時点で発生する債権を一定額までを限度として担保する制度として根抵当権があるが、これは保証と根保証との関係と同様である。

重要な優先弁済的効力
抵当権にはまた、随伴性、不可分性、物上代位性がある。
随伴性とは、債権が譲渡されたときは特別の意思表示がない限り、これに伴って抵当権も移転することをいい、不可分性とは、担保される債権の全部が弁済されるまでは、抵当権の効力が目的物の全部に及ぶことをいう。
そして、抵当権の効力は目的物だけでなく、その代位物(目的物が売却、賃借、滅失または毀損したときに抵当権設定者が第三者から受け取ることができる金銭その他の物)の上に及ぶとされ、この性質が物上代位性と呼ばれるものである。
このように抵当権には様々の性質があるが、中でも最も重要なのは優先弁済的効力である。優先弁済とは、抵当権者が持っている債権について、その不動産から他の債権者に先立って優先的に弁済を受けられるということである。
前述のとおり、すべての債権者は債務者の財産から平等に弁済を受けるのが原則であるが、抵当権、質権、先取特権、譲渡担保などの物的担保を持っている債権者は、その目的物の価額から優先的に弁済を受ける権利を認められている。

工場抵当権とは
工場抵当権とは、工場不動産に設定された抵当権の効力を工場内に備え付けられた機械・器具、その他工場で使用する物に及ぼされる抵当権で、正確には、「工場抵当法第2条による抵当権」という。
工場抵当権は、工場の土地または建物と機械・器具の所有者が同一人でなければ設定することができない。土地・建物の所有者A、機械・器具の所有者がAの場合はもちろん、土地はA、建物はB、機械はAの場合、土地はB、建物と機械はAの場合にも、工場抵当権を設定することができる。

<< 抵当権の取り方 >>

事前調査を怠りなく
抵当権設定に際して欠かせぬ作業に、目的物件の事前調査がある。この事前調査には、次表の4つがある。

1と2の調査は、目的物件を管轄する登記所(正確には法務局、地方法務局などという)に備付けの不動産登記簿によって行なう。

登記簿を過信しない
不動産登記簿の甲区欄で所有権、乙区欄で第三者の権利設定状況を調査・確認するだけで安心してはならない。
というのは、登記簿上の所有権者と真実の所有権者との不一致がままあるからである。
わが国の登記には、公示力はあっても公信力はない、といわれている。公示力とは、公示の原則ともいい、所有権の移転などが外部の人に分かるような一定の“しるし”が必要という原則であり、公信力とは、所有権などの存在を推測させるようなしるしを信頼した人は、たとえそのしるしが実質的な権利を伴わない空虚なものであっても、それを信頼した第三者は保護されるという原則をいう。

登記簿上の所有者が真の所有者とは限らない
不動産取引における登記がそのしるしに当たり、登記によって権利関係を外部の人にわからせているのだが、この登記に公信力がないということは「登記簿上の所有者は必ずしも真実の所有者ならず」との意味を含んでいる。
たとえば、Aが抵当権者の場合、本当はCが所有の不動産でありながら、Bが自分の所有物と偽り、また登記簿上もB名義となっているならば、それを信頼してBから担保提供を受けたAは、抵当権者としての資格がない、ということである。
もっとも、これでは善意の第三者(登記を信じて取引関係に入った者)が救われないとして、最近の判例のなかには、いろいろな工夫をして善意の第三者を保護する事例も見受けるが、これにも一定の限度があるため、やはり登記簿を過信しないことが肝要である。

真の所有者の確認が必要
そこで必要なのは、目的不動産の真実の所有者を確認することである。
具体的には、登記簿の甲区欄の順位番号欄の記載を遡って実地調査をする。
甲区欄には、所有権の経路が記載されているから、その記載に従って、登記簿上の前所有者Cをたずね、所有権移転の経緯を確認するわけである。

目的物件の現地調査も忘れずに
次に、登記簿による確認と並行して、目的物件の現地調査も怠ってはならない。現地調査のポイントは、目的物件が登記簿上の表示と一致しているかどうかの確認である。また、土地については、公法上の規制の有無や規制に関する調査も欠かせない。
実地調査に際しては、近隣の人からも、現在の占有者ないし所有状態、たとえば、いつ頃から居住しているか、以前の居住者は誰か、現在の居住者との関係はどうか、現在の居住者と所有者とは同一人かなどを聞き出すことが大切である。

<< 絶対に必要な抵当権設定の登記 >>

登記書類の預かりは危険
せっかく抵当権設定の契約にこぎつけたのに、抵当権設定者がその登記に応じないことがよくある。「第三者に知れるとまずい」「登記費用が高くつく」というのが、設定者が登記を避ける口実である。その結果、抵当権者は設定者から登記に必要な書類を預かり、
1.印鑑証明書は期限(3か月)到来前に新規の分と差し換える
2.抵当権者に無断で他の債権者に対して抵当権設定登記をしない
3.設定者が上記1と2に違反したとき、または債務者(設定者)に支払遅滞、支払停止などがあったときは、設定者は期限の利益を失う(抵当権者は預かっていた書類で直ちに登記することができる)
旨の約定を交わす例(これを登記留保という)を見受ける。
しかし、この約定はあくまでも気休めにすぎない。仮に、設定者が他の債権者に抵当権設定登記をしなくても、他の債権者や税務署(国税や地方税を設定者が滞納している場合に多い)から抵当物件が差押えを受けるおそれもある。

登記をしないと第三者に対抗できない
一般に、抵当権の設定については、当事者(抵当権者、抵当権設定者)間では設定契約によって効力を生じるが、契約書の調印・交換だけでは第三者に対抗できない、といわれている。
つまり、登記をしないときは、当事者の間では抵当権は有効に成立しているが、それ以外の第三者に対しては抵当権の主張ができないのである。
たとえば、次のケースで考えてみよう。設定者(B)が抵当権者(A)との間で4月1日に抵当権設定契約をした後、その翌日にCとの間で抵当権の設定契約をした。ところが、Aが抵当権の設定登記を怠っている間に、Cが先に抵当権の設定登記を終えたとする。この場合、いくらAの設定契約がCのそれより1日前であっても、Aは第三者であるCに対し自分が抵当権者であるとの主張ができず、結局、Cの抵当権はAのそれに優先することになる。この場合、Cが悪意であっても、CはAに優先する。
この考え方は、抵当権に限らず不動産取引(売買)全般に共通で、土地や家を買えばすぐに登記(所有権移転登記)をせよ、といわれるのは、登記が第三者に対する対抗要件だからである。

著者
森井 英雄(元横浜国立大学大学院教授)
2012年6月末現在の法令等に基づいています。