ビジネスわかったランド (総務・庶務)

担保、保証、債権回収

担保の必要性とその種類は
 裁判や強制執行に頼っても、手続きに時間と費用がかかるうえ満足な回収ができない。また債権者平等の原則が適用される。他の債権者に優先して確実に支払いを受けるには担保が必要なのである。担保には人的担保と物的担保があるが、十分な回収ができないおそれのある人的担保より、特定財産(不動産、動産、債権など)に裏打ちされた物的担保をとるようにする。

<< 担保はなぜ必要か >>

商品引渡債務の後回しにされる買掛金債務の履行
甲乙両社間の売買契約において、買主の乙社は売主の甲社に対して、「目的物(商品)を引き渡せ」という債権(商品引渡請求権)を持ち、甲社は乙社に対し、「商品を引き渡さなければならない」という債務を負担する。これを売買代金の面からみると、甲社は乙社に対し売掛金(売買代金債権)を持ち、乙社は甲社に対し買掛金(売買代金債務)を負担することになる。
しかし、企業間信用が発達した今日では、ほとんどの売買取引は手形決済で行なわれるため、結局、一定の期間にわたる債権・債務といえば、まず甲社から乙社への1,000万円相当の商品の引渡しが先に行なわれ、甲社の売掛金債権(乙社の買掛金支払債務)の履行は、その後に取り残されることになる。
つまり、「商品の出荷後150日手形決済」というような場合は、甲社としてはまず自分の債務(商品引渡債務)を履行しながら、乙社の債務(買掛金支払義務)は後回しになるのである。

強制力のない債権
ところが、契約の時点では問題がなくても、いざ代金決済となると、手形ジャンプとか倒産などで、甲社としてはせっかくの売掛金1,000万円が約束の期日に回収できないことがよく起こる。
甲社は、債権者として乙社に支払いを請求できるのだが、残念なことに、債権はそれを実現(回収)させる強制力がない。乙社が約束の期日に借入金、買掛金を支払ってくれれば問題はないが、万一支払わないときは、甲社は債権者だからといって強制的に支払わせることはできず、結局、国家(裁判所)の力を借りるしか方法はない。これが裁判とか強制執行と呼ばれる手続きである。

債権者平等の原則とは
しかし、裁判や強制執行のための手続きには時間と費用がかかるうえ、満足な回収ができないという欠点がある。
たとえば、甲社が裁判上の手続き(判決)を経て乙社の財産を差し押さえ、競売(強制競売)によって売掛金を回収しようとしても、ほかにも債権者がいる場合には、原則として競売代金を債権額で按分(債権額に応じて金銭を配分すること)して配分しなければならない。もし、乙社の財産がすべての債権者の総債権額を下回ると、各債権者はその損害を債権額の割合に応じて負担することになる。これを「債権者平等の原則」という。
そこで、相手方(債務者)に倒産などの万一の事態が発生したときに、他の債権者に優先して確実に支払いを受けるための手を打っておけば、安心して取引をすることができる。これが担保の取得である。

<< 担保の種類と特徴 >>

不安が残る人的担保
担保は大別すると、次のように人的担保と物的担保の2種類に分けることができる。

人的担保とは、もっぱら人間的な信頼関係に根ざした担保で、債務者以外の第三者(法人を含む)の一般財産(担保となっている財産を除くすべての財産)を当てにしており、保証、連帯債務などに代表される。
ところが、人的担保は、第三者(保証人)との信頼関係が前提になっているため、その第三者の出方次第ではせっかくの担保が担保として意味をなさない危険性がある。
仮に裁判で勝訴判決をもらっても、その保証人に財産がなければ、結局、貸付金を回収できず、財産があっても他に多くの債権者がいるときは、債権者の立場は平等(債権者平等の原則)であるから、十分な回収ができない。
つまり、人的担保とは、保証人の気が変わったり、保証人の財産状態(支払能力)に変化が生じたりすると、担保の目的を果たすことができないということである。

物的担保には物の裏付けがある
これに対し物的担保とは、債務者または債務者以外の第三者(物上保証人)の特定財産(不動産、動産、債権など)に裏打ちされた担保をいう。詳細は上表のとおりだが、債権と債務の相殺、相殺契約なども、広い意味での担保ということができる。
物的担保は特定の財産の裏付けがあり、債務者が倒産すればその財産の処分代金から優先的に債権の回収ができる。たとえば、抵当権であれば、競売という方法でその財産を換価処分(金銭に換えてそれを配分すること)し、その処分代金の中から順位に従い、他の債権者に優先して債権の弁済を受けることができる。
人的担保の場合、保証人の一般財産を当てにするとはいうものの、その財産から優先弁済を受けられない弱みがあるのに対し、物的担保は、債務者または第三者の特定の財産に優先権という強力なタガをはめることができるのである。
なお、物的担保の対象となる物件は次表のとおりである。


法定担保と約定担保
物的担保には、約定(契約)がなくても法律上当然に生じる担保権と、約定によって生じる担保権がある。前者を法定担保物権といい、留置権や先取特権がこれに該当する。しかし、商取引で多用されるのは、約定担保物権と呼ばれる後者の抵当権、根抵当権、質権である。

典型担保と非典型担保
譲渡担保や所有権留保売買なども頻繁に利用されるが、これらは民法に規定がなく、取引上の知恵として生まれ、判例、学説上で認められた担保である。そのため、一般に非典型担保と呼ばれている。逆に民法に規定のある抵当権、根抵当権、質権、先取特権などは、典型担保というわけである。
なお、保証、連帯保証などを「保証」と呼び、物的担保のみを「担保」とする言い方もある。

<< 担保を取った後の留意点 >>

フォローアップが肝心
担保は、「取りさえすればそれでよい」のではなく、取引先に万一の事態が発生したときに、自社の債権の回収に役立つものでなければならない。そのためには、取った後のフォローアップ(事後管理)にも万全を期し、担保価値の確保を図るべきである。

保証契約書などに確定日付をとる
確定日付とは、契約書などの作成日につき、第三者に対し完全な証拠力をつけるため、公証人役場などで私署証書(署名した契約書などのこと)に日付のある印章を押捺することをいう。
公正証書の日付、登記所、公証人役場の押捺の日付、官庁・公署で私署証書にある事項を記入し、これに日付を記載したとき(たとえば内容証明郵便)は、その日付が確定日付となる。
保証契約書も重要書類の一種だから、入手後はすぐに公証人役場へ行き(行くのは債権者だけでよく、どこの公証人役場でもよい)、確定日付の押印をもらうべきである。費用は1件700円である。譲渡担保や所有権留保などの担保契約で公正証書にしないときも、保証契約書と同様、確定日付をとったほうがよい。なお、確定日付は保証契約書入手後すぐにとるべきで、かなりの日時が経ってからの確定日付は、かえって将来不利になるので、くれぐれも注意が肝要である。

保証人の異動、資力の変化に留意する
保証人(個人)が死亡していないか、行方不明になっていないか、あるいは保証人(法人)が合併・解散ないしは倒産していないかなど、保証人の保証能力に変化がないかにも気を配ることである。
総じて保証などの人的担保は、取得後のフォローアップに手抜かりが多い。極端な場合は保証人との面識もなく、取引先の倒産情報に接し、慌てて数年来保管中の古びた保証書を取り出すという例も見受ける。
保証人も取引先の一員としてとらえ、絶えず接触を保ち、その動向を感じ取るくらいの熱意が必要である。取引先に対する与信限度に有効期限(たとえば1年)があるように、保証人の資力についても定期検診が必要である。

物上保証人の意思・権限を確認する
後述の「保証」の項でも説明しているが、物的担保の提供が設定者の真意に基づいてなされているかどうかもポイントの1つである。往々にして抵当権なら登記完了、機械の譲渡担保なら契約書の公正証書化で安心する向きがあるが、とくに設定者が債務者以外の第三者(物上保証人)の場合は、保証の場合と同じやり方(物上保証人に書面を送付するなどの方法)で、担保提供の意思を確認することである。
また、担保提供者が、未成年、成年被後見人、被保佐人、宗教法人、農業協同組合などの特殊の人または団体である場合は、設定者またはその代表者の同意だけでは不十分で、それぞれに応じた対策を実行することが必要である。たとえば、未成年者の場合は法定代理人の同意、宗教法人の場合は責任委員会の議事録などの入手などである。

担保物件の変動をつかむ
土地、建物、機械器具などの担保物件の形状、価値、権利上の変動の有無の確認も欠かせない作業である。更地上に建物が新築されていないか(新築されていれば、その建物に新たな担保権を設置するよう交渉することが必要)、建物の増・改築ないしは取壊しはないか(増・改築部分の担保取得、取壊しに対する責任追及)、工場抵当権の機械器具の入替えはないか(入替えがあれば工場抵当法第3条目録の変更登記)、物件の利用関係に変更(第三者に対する賃借権の設定の有無など、賃借権の設定がある場合にはその態様・対策などの検討はないか)、物件に羅災はないか(保険契約の存続、質権設定継続の有無の確認)などを十分見極めることである。

増担保の必要性の有無をチェックする
さらに、すでに述べた事情の変化などによる担保価値の減少や、取引先との取引増による増担保の必要はないかのチェックも忘れてはならない。

著者
森井 英雄(元横浜国立大学大学院教授)
2012年6月末現在の法令等に基づいています。