ビジネスわかったランド (総務・庶務)

担保、保証、債権回収

得意先が民事再生法を申請した際にやるべきことは
 次のような諸点があげられるが、最終的には再生債務者の資質ですべてが決まるため、民事再生法を過信することなく、冷静な対応を心掛ける必要がある。なお、ここにあげる期間や取扱いは標準的な例であり、債務者企業の規模や所轄裁判所によって異なる場合があることに注意されたい。

<< 民事再生法の仕組みと手続き >>

民事再生法は、窮境にある債務者が破綻前の段階で裁判所に申請し、破産的清算よりも多くの債務を弁済することで、残りの債務を免除してもらう手続きである。法人・個人を問わずに利用することができる。
大まかな手続きの流れは、次の図表のようにまとめることができる。

まず、申請と同時に弁済禁止の保全処分が発令され、申請前日までに発生した債務の弁済が禁止される。
次に、申請した会社(以下「再生債務者」という)に再生計画認可の見込みがない場合や、破産など他の手続きによるほうが債権者に有利といった事由がない限り、裁判所は民事再生手続きの開始を決定する。
開始決定がなされると、債権者に対して債権届出書が送付される。再生債務者は、届出のあった債権と、自らが認める債務をもとに再生(弁済)計画を策定し、すべての債権者に郵送する。
この再生計画について、裁判所で行なわれる債権者集会(申請の4~6か月後)で同意が得られれば、計画は認可・決定される。同意を得るには、議決権を行使できる出席届出債権者の過半数、かつ届出債権者の議決権総額の2分の1以上の賛成が必要である。
再生計画の認可後3年間は、裁判所が選任する監督委員が弁済の履行をチェックする。3年を経過するか、3年以内に再生計画に基づく債務の弁済を終えると、民事再生手続きは終結する。

<< 申請当日は商品の保管場所と本社へ出向く >>

民事再生法申請の事実は、一般にファクシミリで債権者に通知される。債権者数が多い場合や緊急を要する場合は、得意先(再生債務者)の担当者から電話で通知されることもある。
通常、申請から3日以内に債権者説明会を開催するため、再生債務者が債務(自社の債権)の存在を忘れていない限り、遅くとも申請翌日の早朝までには通知されると考えてよいであろう。
ただし、再生債務者がファクシミリを送信する際、不可抗力(番号間違いなど)で通知が漏れる可能性もある。その場合には、自ら「知る努力」をしなくてはならない。たとえば、商売上のつながりで懇意にしている自社以外の債権者(同業者など)があれば、当然、情報が伝わるであろう。債権者同士の横のつながりは、こういうときに役立つ。

商品の保管場所に急行する
不良債権の額を最小限に食い止めるため、民事再生法申請の通知を受けた後、直ちに商品が保管されている現場に行く。
商品の販売方法が委託取引になっていれば、いったん、商品を引き揚げる。買取取引の場合であっても、季節の変わり目に返品が頻繁に行なわれているといった事情があれば、事実上、委託取引であることを説明したうえで引揚げの交渉をする。
なお、引揚げが不可能と見込まれる場合でも、必ず商品の保管場所には行くべきである。そして、自社の商品がきちんと保管されているか、他の債権者(とくに大口債権者)が引揚げに来ていないか、また譲渡担保等の貼紙(「この倉庫内の商品一切は当社の担保物件である」など)がないかを自らの目で確認する。

本社に出向く
次に、営業時間の終了間際に再生債務者の本社へ行く。なぜこの時間かというと、申請直後や日中に行っても、責任をもって詳しいことを説明できる人がいないからである。
再生債務者の代表者と代理人弁護士は、裁判所に民事再生法を申請した後、大口の債権者や得意先回りに直行する。そのため、一定規模以上の企業でない限り、本社に残っている人は、単にお詫びと協力要請を繰り返すだけだからである。
しかし、代表者も弁護士も夕刻には必ず戻るから、直接会ったうえで、次の図表にあげた項目をしっかりと確認する。


<< 申請翌日も前日と同じ対応が必要 >>

民事再生法申請の翌日も、申請当日と同じ行動・確認を行なう。再生債務者が受けるダメージは、打ち身やねんざのように、当日よりも翌日のほうが大きくなる。商品はきちんと納入されているか、引揚げに来ている業者はないか、営業や製造がストップしている現場はないか、社員の士気は保たれているかといったことを確かめる。
これらの確認は、もちろん翌日以降も行なう。頻繁に現場に足を運び、動きを掴むことが大切だからである。申請当初は混乱していて見えなかった部分が明らかになることもある。

<< これまでの取引はどうなるか >>

売掛金について
民事再生法の申請前日までに納入した商品の代金は、原則として全額が棚上げされる。その後は再生債務者が策定し、認可決定を受けた再生計画に従って弁済を受けるが、一般的な案件では債権の70~80%がカットされ、残りが認可後7~10年で分割弁済される。
「原則として」とした理由は、たとえば、仕掛り工事で完成までの業務が一体のものと認められた場合には、申請前日までに終了した分も共益債権(一般の再生債権に先立って弁済を受けられる債権)として、全額支払われる可能性があるからである。
なお、10万円以下の少額債権は、全額支払われるケースがほとんどである。少額債権の金額は、申請時点で裁判所が決めるが、東京地裁をはじめ多くの裁判所が10万円としている。たとえば、売掛金が100万円なら、再生計画のなかで20~30%の長期弁済を受けるより、90万円を放棄して早期に10万円の回収を図ることも検討すべきである。

商品の引揚げについて
不良債権の額を最小限にとどめるには、売掛金の額を減らすのが一番であるが、単に伝票だけを操作して「納品していなかった」ことにしても意味はない。つまり、商品は納めたが納品伝票は上げていないという場合に、伝票の日付を申請後にするといった小手先の手法は通用しないのである。
やはり、いったん、商品を引き揚げ、申請後に再度納入するという作業が必要になる。
引揚げに際しては、必ず再生債務者の社員の承諾を得る。メモ書き程度でも引揚げの明細書をつくり、空白部分に立ち会った社員の署名と日時の記載、できれば押印ももらう。「本書記載の商品の引揚げに同意した」という一文を付記してもらえればベストであろう。ただし、どのような手段を講じても、後日否認されるリスクを免れることはできない。
この商品の引揚げも含めて、申請直後にやってはいけないこと・ムダなことについてまとめると、次のようになる。


<< 申請後の取引をどうするか >>

申請後も取引を続けるか否かについては、「申請後に納めた分が回収不能になる恐れはないか」という一点で判断する。
民事再生法では、申請後に納入した商品代金が共益債権と認められれば全額が支払われる。しかし、資金繰りが回らなくなったり、想定していた売上を大きく下回れば、再生計画認可前に破綻することもある。
事業の継続が不可能になると、民事再生手続きは棄却・廃止され、破産手続きに移行する。その場合、民事再生法上の共益債権は破産法上の財団債権(一般の破産債権に優先して弁済を受けられる債権)になるが、破産手続きで換価・回収した金額が租税などを含めた財団債権の総額に満たなければ、この共益債権も債権額の比率に応じて按分弁済されるだけである。すなわち、二次損害が発生することになる。
売上を確保するため、または損害分を取り戻すために取引を継続しなければならない場合もあるであろうが、どのような理由があるにせよ、二次損害の発生は取り返しのつかない事態を招く。再生債務者の事業の継続が危ういと判断したら、迷わず取引を打ち切るべきである。どんなに再生債務者と懇意にしていても、自社を守るためには客観的かつドライな判断が必要である。自社の存続という観点から、「再生債務者について確認すべき事項」の表に挙げた5点を常にチェックしていただきたい。

<< 民事再生手続きの先行きを把握する >>

申請後直ちに開催される債権者説明会は、再生債務者が再生を果たせるかどうかの重要な判断材料であるから、必ず出席する。再生債務者の代表者はもちろん、代理人弁護士や監督委員も出席するので、不明な点などは、どんな小さなことでも質問すべきである。
また、再生債務者の描く再生(弁済)計画はどのような内容か、実現可能性はあるかなど、具体的な項目の検討も必要である。判断のもととなる資金繰り表・貸借対照表・損益計算書・再生計画の概要は、裁判所で閲覧・コピーできる(再生債務者に開示を求めてもよい)。それらを入手したうえで、資金繰りはもつか、破産手続きよりも多額の配当が期待できるかなど、自社の顧問税理士等のサポートも受けながら判断する。

著者
川野 雅之(企業再建コンサルタント)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。