ビジネスわかったランド (総務・庶務)

担保、保証、債権回収

債権譲渡を求められた側の留意点は
 譲渡債権の内容、充当関係など、契約の細かな点をチェックする必要がある。そのポイントは、次のとおり。

<<債権譲渡とは>>

債権譲渡とは、債務者であるあなたの会社(A社とする)がもっている得意先に対する売掛金債権を債権者(C社)に譲り渡し、C社(譲受人)が得意先(第三債務者。B社とする)から支払いを受けるという方法である。図で示すと、次のようになる。


<<譲渡契約の内容を見る>>

この債権譲渡は、C社が回収を図るために行なうのであるから、実際は、C社が作成する債権譲渡契約書にA社が記名捺印するという段取りになる。このとき、契約(書)について確認し、チェックしておきたいことがいくつかある。

担保か代物弁済かの確認
まず一つは、どういう債権を譲渡するかということである。特定の債権を表示して譲渡する方法もあれば、まだ発生していない将来の債権も含めて不特定多数の債権を譲渡するという契約を交わすこともある。
また、細かな点では、契約書で「弁済のために譲渡する」という表現であれば担保として譲渡することになるし、「弁済に代えて譲渡する」という表現になっていれば代物弁済となる。
この違いは、A社からすると、前者は担保として債権を譲渡したのであるから、それが実行されるまでは、C社のA社に対する元の債権は残っているのに対し、後者では譲渡と同時に元の債権は消滅するということである。
一般的には担保として譲渡するケースが多いが、このように契約書の文言によって債権の扱いが変わってくることは、理解しておくとよい。

債権譲渡の通知か承諾が必要
そして、C社と交わした債権譲渡については、A社が第三債務者であるB社に債権譲渡したことを伝えるか、債権譲渡に対するB社の承諾をもらわなければならない。通知は、債権譲渡通知書という書面で行なわれるのが一般的で、これについてC社は「確定日付のある証書(通常は配達証明付き内容証明郵便)」で行なうことを求めてくるであろう。むしろ、この通知書もC社が作成し、それにA社が記名捺印して内容証明郵便で送付するという段取りになることが多いと思われる。
債権が二重に譲渡された場合の譲受人相互の優劣は、確定日付のある通知がB社に送達された日の先後で決まる。C社にとっては債権をより確実に回収するために、少しでも早い日付の証書の送達が必要になる。
また、譲受人相互の優劣を決めるもう一つの方法に、B社の確定日付による債権譲渡の承諾がある。それは通常、承諾書に公証人役場で確定日付をもらうか、債権譲渡を承諾する旨の内容証明郵便で行なう。

異議をとどめる承諾かとどめない承諾か
ここでの留意点は、承諾には、「異議をとどめる承諾」と「異議をとどめない承諾」の2つがあることでである。単純な承諾は、「異議をとどめない承諾」となる。
B社が100万円の債権譲渡について異議をとどめない承諾をしていた場合は、たとえB社が20万円分をA社に支払っていても、K社は譲渡された100万円の債権回収を実行できる。
B社は、結果的に120万円を支払ったことになるが、20万円分についてC社は関係がなく、B社がA社に返還を求めるという形になる。
つまり、異議をとどめない承諾をするとは、のちにさまざまな抗弁ができないようになるということである。
一方、B社が異議をとどめたいのならば、80万円の債権譲渡についてのみ承諾するという形にしておく必要がある。

できれば自ら回収を図る
ところで、A社から見れば第三債務者のB社は、比較的、親交の厚い得意先を選ぶことになろう。その場合、これは法的な留意点ではないが、内容証明郵便が届く前に、一言、債権譲渡したことを電話などで直接、伝えておく必要がある。
というのも、A社が債権譲渡を求められたという事実は、債権者から「危ない会社」と判断されたことを意味するからである。もし、B社とA社にお互い債権債務があれば、当然、B社もA社の状態に注意を払うであろう。「危ない会社」という評判が広まることを防ぐことを考えるのであれば、質問の本筋とは離れるが、A社はB社から何とか自社で回収してC社に支払うように取り組むべきである。

<<どの弁済に充当するか>>

このほか、契約段階で押さえておきたいこととして、譲渡債権が実行されたときの債務への充当関係がある。
充当関係とは、A社から見れば、どの債務の弁済に充てられるかということである。とくに、担保として債権を譲渡する場合は、譲渡契約したときと実行されるときにタイムラグがあるので、充当関係を押さえておくことは重要である。
これについて通常は、「債権の全部または一部について弁済期にかかわらず任意に充当できる」とC社に有利な契約になるであろう。
そのため、A社にとってどの債務に充当するかは選べないものであるが、たとえば100万円と50万円の債務があり、120万円分を譲渡していた場合、どちらの債務から充当するのかなどをきちんと取り決めておくことが望ましい。
厳密には、債権債務には利息も発生しているから、本来は、利息分も含めた充当関係を取り決めておくべきである。
そのほか、債権譲渡したあとに、A社がC社への債務をいくらか弁済する場合もあろう。その場合は、弁済分に対して譲渡した債権を戻してもらう、つまり再譲渡を受ける必要がある。このような点にも留意しておくべきであろう。

著者
當山 泰雄(弁護士)
2010年1月末現在の法令等に基づいています。