ビジネスわかったランド (総務・庶務)
危機管理事項
損害保険の種類と上手な掛け方は
損害保険は、利用する側からみると、企業資産を守る保険、企業活動上の保険、従業員の保険の3種類に分けられる。
企業資産を守る保険は火災保険が代表的なものだが、これには不担保特約のない限り地震保険も自動的に付保される。
企業活動上の保険は、たとえば建設業者の場合では、請負業者が工事中のビルから誤って工具を落とし、通行人に怪我をさせたというときは「請負業者賠償責任保険」を、作業員が誤って足場から転落・死亡したときは「労働災害総合保険」を付保することにより、リスクをカバーすることになる。多種多様な保険、特約等が用意されているので、これらをうまく組み合わせることによって、リスク補てんのモレのないようにする。
<< 企業資産を守る保険とその上手な掛け方 >>
企業資産を守る保険にはどのようなものがあるか、まずそれらを見てみよう。
企業資産を守る保険の種類は、次の図表に掲げるとおりである。以下、この図表に示した順序によって説明していくことにする。
<< 普通火災保険 >>
火災保険は損害保険の原点である
この火災保険は損害保険の原点であり、最も普及している保険である。建物、動産の火災、爆発等による被害や修復に伴う各種費用を補償するもので、地震保険は不担保特約のない限り自動的に付保され、風水雪害による損失も特約により補償される(ただし、いずれも補償限度はある)。
拡張担保特約
これには地震危険担保特約、特殊電気条項(一般の火災保険では電気機器、装置による電気的事故はてん補しないが、この特約によりカバーされる)、トランクルーム拡張危険担保特約(建物増改築等により、一時的に家財道具、美術骨董品等を倉庫業者に預託するとき、本来の火災、爆発等の被害のほか、水漏れ、鼠食い、盗難等の被害も補てんされる)がある。
特殊契約方式
一般的な火災保険での支払いには比例てん補方式が採用されているが、次の特約を付けることにより、保険額を一杯にして保険料を合理的に低く抑えることやより実質的な保険金額を受け取ることができる。つまり、実態に即した担保範囲を検討すればよいわけである。
・付保割合条件付実損てん補条項
・価格協定保険特約(契約金額を再調達価額、すなわち建物は新築費、家財は再取得価額で決めることができる特約)
・通知保険特約条項(変動の激しい在庫等について契約する場合、そのつど契約変更するわけにはいかない。そこで、年間在庫高を予想し、てん補限度額を設定のうえ、暫定保険料を支払っておく。以後、所定日に在庫高を保険会社に通知し、保険期間満了後精算する方式である)
・特殊包括方式(複数構内に所在する物件をまとめて契約でき、一定条件に合致した場合は最高10%までの保険料割引が受けられる方式)
・企業防災保険特約
店舗総合保険
一般人に対する住宅総合保険と同様に、商店、事務所、作業所等の建物やその収納品(什器備品、商品、機械工具等)に対する火災、落雷、爆発、給排水設備の事故による水漏れ、盗難、残存物取り片付け費用、傷害費用等々非常に多岐にわたっている。
対象物や契約内容によって保険金支払いに種々制約があるので、事前に十分確認しておくことが肝要である。
長期総合保険
一般人対象では住宅・家財を主に設定されているが、企業向けとしては、店舗と住宅を併用している場合で、営業用物件は除外される。
てん補内容はほぼ店舗総合保険と同様であるが、交通傷害と地震保険が含まれているため、不要の場合は不担保特約が必要である。
おおむね中小企業向けではあるが、大企業でも従業員の厚生施策として活用するのもよい。
動産総合保険
普通火災保険や店舗総合保険でてん補しきれない部分をカバーする、オールリスク担保の保険である。
つまり、家財、商品、事務機器、工作機械から現金、有価証券に至るまでほとんどの動産について、火災、破損、盗難、輸送事故等すべてにわたって、内容、場所(移動中も含め)を問わずに補償するものである(当然、例外はあるが、特約でカバーもできる)。
その他の保険
これまで説明してきた保険以外のものを挙げると、機械保険、組立保険、建設工事保険、貨物運送保険などがある。これらのうち、貨物運送保険について、そのポイントだけを説明しておこう。
貨物運送保険
海上保険は、貨物が海上輸送中に沈没、座礁、座州、火災、爆発、衝突等によって生ずる損害をてん補するものであり、「外航貨物海上保険」と「内航貨物海上保険」に分けられる。
一方、運送保険は、陸上輸送中に脱線、転覆、墜落、火災、爆発、衝突、盗難等によって生ずる損害をてん補しようとするものである。
ただ、海陸連帯輸送が行なわれる現状では、「倉庫間危険担保特別契約」によって海陸の輸送を通しての保険を貨物海上保険で引き受けるのが通例である。
<< 企業活動上の保険とその上手な掛け方 >>
企業活動上の保険とは
企業活動上の保険、つまり各種リスクの遭遇によって蒙る損害、とくに人的損失、機会損失、社会責任負担による損失等をてん補し、企業活動の停止、後退を防ぐための保険である。
保険の種類を図表で示すと
次に、企業活動上の保険の種類を図表に示したので、ご覧いただきたい。以下の説明は、この図表に書かれた順序に従って行なうこととする。
利益保険
企業資産を守る保険は火災保険、店舗総合保険、運送保険等いずれも「物」に対する直接てん補であるが、企業は火災に遭って休業する場合でも、固定費(人件費、家賃、減価償却費等)や、逸失利益、顧客喪失による損失が莫大なものになる。利益保険は、この間接的な損失を補てんしようとするものである。
さらに、自社のみでなく、下請、外注先などに対する2次間接損失までカバーするのが構外利益保険であり、これらはいずれも火災保険や店舗総合保険の特約としてのみ有効で、利益補てん単独の保険はない。
これと同様に、機械保険の対象となる事故に伴う営業上の損失補てんは、機械保険の特約としての機械利益保険がある。
店舗休業保険
利益保険をさらに中小規模商店用に簡易・平易化したものであり、しかも他の特約ではなく、これのみ独立して契約できるものである。
費用利益保険
偶然の事故や天災等により、企画した興行や契約が履行できないときに被る支出費用、ペナルティを補てんするものであり、興行中止保険のほか、賠償責任保険や普通傷害保険、動産総合保険などで構成されるイベント総合保険などがある(人気アイドルのコンサートでの観衆の負傷事故や、展示美術品の毀損、盗難等の補償である)。
その他、最近の傾向として、ネットワークに対する不正アクセスによる損害を補てんするものとして、ネットワーク・セキュリティ保険が大きく伸びてきている。
<< 賠償責任保険の上手な掛け方 >>
企業活動上の保険の中では、この賠償責任保険が最も重要なので、少し掘り下げて詳しく説明することにしよう。
賠償責任保険は保険の新商品として大きく伸びている
最近の権利意識の高まりによって、企業活動のちょっとしたミス、事故による第三者への賠償負担は巨額化してきている。下手をすると、その賠償金の支払いで企業生命を絶たれることにもなりかねない。それだけに企業からの要望も多く、あらゆる業種、分野、事故の内容、補てんの限度等も幅広く網羅され、保険の新商品として大きく伸びている。
「賠償責任保険普通約款」と「特別約款」がある
この保険に関して、すべての企業に共通する事項を「賠償責任保険普通約款」に規定し、個々の状況によって異なる事項を「特別約款」に規定している。共通の免責事項としては、契約者・被保険者の故意、戦争、争議、自然災害等がある。
各種保険の組合せにより、リスク補てんを網羅することが必要
各業種によって異なる企業リスク(法的、社会的に賠償責任が生ずる事故、災害等)に対する保険については、前掲の図表のとおりだが、実際には内容はさらに細かく分けられており、各種保険の組合せにより、リスク補てんの網を広げ、モレを防ぐ方策を講じるようにすべきである。
なお、企業の経営責任を追及するための「株主代表訴訟」については訴訟申立費用の軽減化によって頻発するようになった。
この防衛策として「役員保険」があるが、これは企業防衛策ではなく、役員個人が契約当事者になるので、ここでは触れない。
建設業者の場合の上手な掛け方
建設業者の場合では、請負業者が工事中のビルから誤って工具を落とし、通行人に怪我をさせたというときは「請負業者賠償責任保険」を、作業員が誤って足場から転落・死亡したときは「労働災害総合保険」を付保することにより、リスクをカバーすることになる。
食品製造業の場合の上手な掛け方
食品製造業の場合では、食品の中に針が混入していて食べた子供が怪我をしたというケースに対しては「生産物賠償責任保険」を、製造した食品により食中毒が発生し、営業停止処分を受け、休業したための営業損失が出たというケースに対しては「食中毒・伝染病利益担保特約」を付保することになる。
飲食業の場合の上手な掛け方
飲食業(飲食店、喫茶店、料理屋等)の場合では、従業員が誤って料理をこぼし、お客の衣服を汚したというケースに対しては、「店舗賠償責任保険」を、食中毒発生による営業停止処分で蒙る損失補てんには「食中毒・伝染病利益担保特約」を付保すればよいことになる。
その他の場合の上手な掛け方
このほか、お客の不注意により陳列商品が壊された、車で商品を搬送中、衝突事故を起こし商品が破損したなどのときには「商品総合保険」(動産総合保険商品在庫品契約)でリスクをカバーする。
変わったところでは、町内会での活動(おみこし等)で、路上駐車中の車を破損した、町内清掃中に誤ってガラス瓶の破片で指を切ったといったときのリスクをカバーするのに有用な「自治会活動保険」がある。
労働災害総合保険
企業活動における三要素(ヒト・モノ・カネ)に社会責任を加えたリスクを回避、転嫁するのがこの保険制度である。
モノに対しては普通火災保険等の「企業資産を守る保険」であり、カネについては利益保険等、社会責任については賠償責任保険、ヒトについてはこの労働災害総合保険であって、いずれもが「企業活動上の保険」の大きな柱となっている。
<< 従業員の保険とその上手な掛け方 >>
従業員の保険の種類は
次に、従業員にかける保険の種類を図に示したので、まずこれをご覧いただきたい。
従業員にかける保険の種類は、公的機関によるもの、生命保険によるもの、損害保険によるものの3種類に分かれる。
従業員の犠牲により企業に利益がもたらされることのないように配慮
従業員に対するリスク・カバーは、あくまで従業員個々にとって有利な条件で行なわれるべきであり、従業員に対する福利・厚生の一環であるべきであろう。
公的なものは企業にとって一応義務付けられており、その他の生命保険や損害保険によるものはすべて、公的保険の上積みであり、補完的な役割を担っている。従業員の犠牲により企業に利益がもたらされることのないように、保険の加入に当たっては配慮が必要である。
たとえば、生命保険の「団体定期保険」では契約者は会社であり、被保険者は従業員、保険金受取人は会社になっているが、従業員に対する「慶弔金規程」を策定し、その中に「団体定期保険からの受取保険金を充当する」旨を記載しておくべきである。
いずれにせよ、従来の護送船団方式による金融・保険業界に対して、大きく自由化、規制緩和の波が押し寄せ、保険料の自由化、外資系の参入、他業界からの新規参入、業際の混在化等により、利用者側としては十分に選択の幅が拡がってきており、生保と損保の区分も分かりづらくなってきている。さらに少子高齢化により医療補償の充実要求が高まってきたために、たとえば「傷害保険」や「疾病保険」、「入院補償」や「介護保険」といったものについても生保、損保いずれにも付保されているので、契約に当たっては事前に十分内容を検討し、より有利なリスク・ヘッジを図るよう努めるべきであろう(従来の契約見直しも含めて)。
著者
樫木 正明(元ローランド株式会社顧問)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。
企業資産を守る保険は火災保険が代表的なものだが、これには不担保特約のない限り地震保険も自動的に付保される。
企業活動上の保険は、たとえば建設業者の場合では、請負業者が工事中のビルから誤って工具を落とし、通行人に怪我をさせたというときは「請負業者賠償責任保険」を、作業員が誤って足場から転落・死亡したときは「労働災害総合保険」を付保することにより、リスクをカバーすることになる。多種多様な保険、特約等が用意されているので、これらをうまく組み合わせることによって、リスク補てんのモレのないようにする。
<< 企業資産を守る保険とその上手な掛け方 >>
企業資産を守る保険にはどのようなものがあるか、まずそれらを見てみよう。
企業資産を守る保険の種類は、次の図表に掲げるとおりである。以下、この図表に示した順序によって説明していくことにする。
<< 普通火災保険 >>
火災保険は損害保険の原点である
この火災保険は損害保険の原点であり、最も普及している保険である。建物、動産の火災、爆発等による被害や修復に伴う各種費用を補償するもので、地震保険は不担保特約のない限り自動的に付保され、風水雪害による損失も特約により補償される(ただし、いずれも補償限度はある)。
拡張担保特約
これには地震危険担保特約、特殊電気条項(一般の火災保険では電気機器、装置による電気的事故はてん補しないが、この特約によりカバーされる)、トランクルーム拡張危険担保特約(建物増改築等により、一時的に家財道具、美術骨董品等を倉庫業者に預託するとき、本来の火災、爆発等の被害のほか、水漏れ、鼠食い、盗難等の被害も補てんされる)がある。
特殊契約方式
一般的な火災保険での支払いには比例てん補方式が採用されているが、次の特約を付けることにより、保険額を一杯にして保険料を合理的に低く抑えることやより実質的な保険金額を受け取ることができる。つまり、実態に即した担保範囲を検討すればよいわけである。
・付保割合条件付実損てん補条項
・価格協定保険特約(契約金額を再調達価額、すなわち建物は新築費、家財は再取得価額で決めることができる特約)
・通知保険特約条項(変動の激しい在庫等について契約する場合、そのつど契約変更するわけにはいかない。そこで、年間在庫高を予想し、てん補限度額を設定のうえ、暫定保険料を支払っておく。以後、所定日に在庫高を保険会社に通知し、保険期間満了後精算する方式である)
・特殊包括方式(複数構内に所在する物件をまとめて契約でき、一定条件に合致した場合は最高10%までの保険料割引が受けられる方式)
・企業防災保険特約
店舗総合保険
一般人に対する住宅総合保険と同様に、商店、事務所、作業所等の建物やその収納品(什器備品、商品、機械工具等)に対する火災、落雷、爆発、給排水設備の事故による水漏れ、盗難、残存物取り片付け費用、傷害費用等々非常に多岐にわたっている。
対象物や契約内容によって保険金支払いに種々制約があるので、事前に十分確認しておくことが肝要である。
長期総合保険
一般人対象では住宅・家財を主に設定されているが、企業向けとしては、店舗と住宅を併用している場合で、営業用物件は除外される。
てん補内容はほぼ店舗総合保険と同様であるが、交通傷害と地震保険が含まれているため、不要の場合は不担保特約が必要である。
おおむね中小企業向けではあるが、大企業でも従業員の厚生施策として活用するのもよい。
動産総合保険
普通火災保険や店舗総合保険でてん補しきれない部分をカバーする、オールリスク担保の保険である。
つまり、家財、商品、事務機器、工作機械から現金、有価証券に至るまでほとんどの動産について、火災、破損、盗難、輸送事故等すべてにわたって、内容、場所(移動中も含め)を問わずに補償するものである(当然、例外はあるが、特約でカバーもできる)。
その他の保険
これまで説明してきた保険以外のものを挙げると、機械保険、組立保険、建設工事保険、貨物運送保険などがある。これらのうち、貨物運送保険について、そのポイントだけを説明しておこう。
貨物運送保険
海上保険は、貨物が海上輸送中に沈没、座礁、座州、火災、爆発、衝突等によって生ずる損害をてん補するものであり、「外航貨物海上保険」と「内航貨物海上保険」に分けられる。
一方、運送保険は、陸上輸送中に脱線、転覆、墜落、火災、爆発、衝突、盗難等によって生ずる損害をてん補しようとするものである。
ただ、海陸連帯輸送が行なわれる現状では、「倉庫間危険担保特別契約」によって海陸の輸送を通しての保険を貨物海上保険で引き受けるのが通例である。
<< 企業活動上の保険とその上手な掛け方 >>
企業活動上の保険とは
企業活動上の保険、つまり各種リスクの遭遇によって蒙る損害、とくに人的損失、機会損失、社会責任負担による損失等をてん補し、企業活動の停止、後退を防ぐための保険である。
保険の種類を図表で示すと
次に、企業活動上の保険の種類を図表に示したので、ご覧いただきたい。以下の説明は、この図表に書かれた順序に従って行なうこととする。
利益保険
企業資産を守る保険は火災保険、店舗総合保険、運送保険等いずれも「物」に対する直接てん補であるが、企業は火災に遭って休業する場合でも、固定費(人件費、家賃、減価償却費等)や、逸失利益、顧客喪失による損失が莫大なものになる。利益保険は、この間接的な損失を補てんしようとするものである。
さらに、自社のみでなく、下請、外注先などに対する2次間接損失までカバーするのが構外利益保険であり、これらはいずれも火災保険や店舗総合保険の特約としてのみ有効で、利益補てん単独の保険はない。
これと同様に、機械保険の対象となる事故に伴う営業上の損失補てんは、機械保険の特約としての機械利益保険がある。
店舗休業保険
利益保険をさらに中小規模商店用に簡易・平易化したものであり、しかも他の特約ではなく、これのみ独立して契約できるものである。
費用利益保険
偶然の事故や天災等により、企画した興行や契約が履行できないときに被る支出費用、ペナルティを補てんするものであり、興行中止保険のほか、賠償責任保険や普通傷害保険、動産総合保険などで構成されるイベント総合保険などがある(人気アイドルのコンサートでの観衆の負傷事故や、展示美術品の毀損、盗難等の補償である)。
その他、最近の傾向として、ネットワークに対する不正アクセスによる損害を補てんするものとして、ネットワーク・セキュリティ保険が大きく伸びてきている。
<< 賠償責任保険の上手な掛け方 >>
企業活動上の保険の中では、この賠償責任保険が最も重要なので、少し掘り下げて詳しく説明することにしよう。
賠償責任保険は保険の新商品として大きく伸びている
最近の権利意識の高まりによって、企業活動のちょっとしたミス、事故による第三者への賠償負担は巨額化してきている。下手をすると、その賠償金の支払いで企業生命を絶たれることにもなりかねない。それだけに企業からの要望も多く、あらゆる業種、分野、事故の内容、補てんの限度等も幅広く網羅され、保険の新商品として大きく伸びている。
「賠償責任保険普通約款」と「特別約款」がある
この保険に関して、すべての企業に共通する事項を「賠償責任保険普通約款」に規定し、個々の状況によって異なる事項を「特別約款」に規定している。共通の免責事項としては、契約者・被保険者の故意、戦争、争議、自然災害等がある。
各種保険の組合せにより、リスク補てんを網羅することが必要
各業種によって異なる企業リスク(法的、社会的に賠償責任が生ずる事故、災害等)に対する保険については、前掲の図表のとおりだが、実際には内容はさらに細かく分けられており、各種保険の組合せにより、リスク補てんの網を広げ、モレを防ぐ方策を講じるようにすべきである。
なお、企業の経営責任を追及するための「株主代表訴訟」については訴訟申立費用の軽減化によって頻発するようになった。
この防衛策として「役員保険」があるが、これは企業防衛策ではなく、役員個人が契約当事者になるので、ここでは触れない。
建設業者の場合の上手な掛け方
建設業者の場合では、請負業者が工事中のビルから誤って工具を落とし、通行人に怪我をさせたというときは「請負業者賠償責任保険」を、作業員が誤って足場から転落・死亡したときは「労働災害総合保険」を付保することにより、リスクをカバーすることになる。
食品製造業の場合の上手な掛け方
食品製造業の場合では、食品の中に針が混入していて食べた子供が怪我をしたというケースに対しては「生産物賠償責任保険」を、製造した食品により食中毒が発生し、営業停止処分を受け、休業したための営業損失が出たというケースに対しては「食中毒・伝染病利益担保特約」を付保することになる。
飲食業の場合の上手な掛け方
飲食業(飲食店、喫茶店、料理屋等)の場合では、従業員が誤って料理をこぼし、お客の衣服を汚したというケースに対しては、「店舗賠償責任保険」を、食中毒発生による営業停止処分で蒙る損失補てんには「食中毒・伝染病利益担保特約」を付保すればよいことになる。
その他の場合の上手な掛け方
このほか、お客の不注意により陳列商品が壊された、車で商品を搬送中、衝突事故を起こし商品が破損したなどのときには「商品総合保険」(動産総合保険商品在庫品契約)でリスクをカバーする。
変わったところでは、町内会での活動(おみこし等)で、路上駐車中の車を破損した、町内清掃中に誤ってガラス瓶の破片で指を切ったといったときのリスクをカバーするのに有用な「自治会活動保険」がある。
労働災害総合保険
企業活動における三要素(ヒト・モノ・カネ)に社会責任を加えたリスクを回避、転嫁するのがこの保険制度である。
モノに対しては普通火災保険等の「企業資産を守る保険」であり、カネについては利益保険等、社会責任については賠償責任保険、ヒトについてはこの労働災害総合保険であって、いずれもが「企業活動上の保険」の大きな柱となっている。
<< 従業員の保険とその上手な掛け方 >>
従業員の保険の種類は
次に、従業員にかける保険の種類を図に示したので、まずこれをご覧いただきたい。
従業員にかける保険の種類は、公的機関によるもの、生命保険によるもの、損害保険によるものの3種類に分かれる。
従業員の犠牲により企業に利益がもたらされることのないように配慮
従業員に対するリスク・カバーは、あくまで従業員個々にとって有利な条件で行なわれるべきであり、従業員に対する福利・厚生の一環であるべきであろう。
公的なものは企業にとって一応義務付けられており、その他の生命保険や損害保険によるものはすべて、公的保険の上積みであり、補完的な役割を担っている。従業員の犠牲により企業に利益がもたらされることのないように、保険の加入に当たっては配慮が必要である。
たとえば、生命保険の「団体定期保険」では契約者は会社であり、被保険者は従業員、保険金受取人は会社になっているが、従業員に対する「慶弔金規程」を策定し、その中に「団体定期保険からの受取保険金を充当する」旨を記載しておくべきである。
いずれにせよ、従来の護送船団方式による金融・保険業界に対して、大きく自由化、規制緩和の波が押し寄せ、保険料の自由化、外資系の参入、他業界からの新規参入、業際の混在化等により、利用者側としては十分に選択の幅が拡がってきており、生保と損保の区分も分かりづらくなってきている。さらに少子高齢化により医療補償の充実要求が高まってきたために、たとえば「傷害保険」や「疾病保険」、「入院補償」や「介護保険」といったものについても生保、損保いずれにも付保されているので、契約に当たっては事前に十分内容を検討し、より有利なリスク・ヘッジを図るよう努めるべきであろう(従来の契約見直しも含めて)。
著者
樫木 正明(元ローランド株式会社顧問)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。
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