ビジネスわかったランド (総務・庶務)

危機管理事項

得意先の危険兆候のつかみ方と対処法は
次のような倒産被害から会社を守る100のチェックポイントをベースに、必要な対処策を講じていくことが求められる。

<< いま要注意の負け組7業種 >>

「大手と取引していれば安泰だ」。そんな時代はとうに過ぎ去った。ではいま、どんな企業が危ないのか。バブル景気が崩壊して10年以上が経つが、結局のところいま危ないのは、その時期に踊った大手企業である。それはズバリ、次の7業種だ。
(1) ゼネコン
多額の債務保証と有利子負債を抱えている。
(2) 金融
多額の不良債権に悩む銀行、地価の下落で動きの取れなくなったノンバンク、株価下落による逆ザヤや大量の解約に悩む生保、事件・事故の多発で損失が続く損保と、金融界全体に破綻の波が押し寄せている。
(3) 流通
消費不振、価格破壊のなかで、デフレと借金の返済負担に喘いでいる。
(4) 不動産
ピーク時の5分の1を超える地価下落と買い控えを受け、流通同様に借金が返済できない。
(5) 第三セクター
過剰な設備投資を回収できないまま、役人体質を引きずっている。
(6) 繊維
中国・東南アジアからの安価な商品の輸入で、産業の空洞化に拍車がかかっている。
(7) 総合商社
商社金融からの撤退に伴う信用縮小を受け、合併か専門商社化を迫られている。
ここに挙げた7業種と本業の部分で取引のある企業はもちろん、さまざまな設備・備品の納入業者、サービスの提供業者も注意して得意先の動向を見ていきたい。
以上はバブル崩壊という根深い倒産の“遠因”だが、企業が傾く“近因”を探ると、得意先が次に列挙するような企業である場合は要注意である。
まず、金融再編で“貸し剥がし”を受ける中小企業、構造改革・公共投資予算の削減で仕事が急減する役所相手の企業、安価な商品の輸入攻勢を受けている農産物、繊維製品、家電などを扱う中小企業である。
さらに深刻なのは、親会社・主力得意先がリストラを断行している企業である。リストラを断行する本体の企業は、業績を立て直し株価も上がるが、その周辺で数百の下請・孫請・零細業者が潰れていく。
自社の経営も厳しいかもしれないが、得意先も厳しい。一見、しっかりした経営のようでも、内実は火の車ということが結構ある。
長期の不況で体力が弱まり、銀行の不良債権処理で支援が跡絶え、担保価値の目減りや株価下落で資産が縮小し、その一方でイメージダウンにつながるのでリストラはできるだけ控え、それでも体裁を整えるため粉飾まがいの決算をする。これが、苦しいなかでも何とか頑張っている得意先の姿だと思ったほうがよい。

<< 得意先管理でとくに留意したい動き >>

得意先の危険度を探る立場から、最近とくに注意したいこととして、次の3点がある。

得意先の取引銀行の動向
得意先が行き詰まるか否か、そのカギを握っているのは、得意先の取引銀行だといっても過言ではない。だから、取引銀行の経営状態を把握するようにしたい。業績・株価はどうか、自己資本比率はどうか、新たな不良債権は発生していないか、どの程度のリストラ・統廃合を進めているか、さらに得意先に発生した貸倒れや担保割れについてどのような対応をしているか、得意先が持ち込む手形の割引にどう対処しているか、などをチエックする。
たとえば、貸倒れが発生した企業が持ち込む手形の割引を銀行は控えようとする。また、地方の危ない銀行が自力再建を図ろうとするとき、銀行は主力の取引企業に増資を依頼したりする。さらに最近、銀行は、融資の返済を急がせるために、企業が回収する債権を押さえ、すぐに返済に回させたりもする。
銀行の対応によって企業の資金も行き詰まるのだが、得意先をチェックする際にもそうした企業と銀行の関係を見極めるようにしたい。

倒産は不渡りだけではない
不渡りは、手形の決済日にならないと発生しない。ところが、不渡りの発生する前に廃業・夜逃げをするケースも増えているので、その兆候がないかをチェックしていくことが大切だ。
不渡りを出す企業には、再建を図るところもあるが、当然ながら廃業・夜逃げする企業・経営者に、その意図はない。万策尽き、深く静かに消えていく。
小企業に多いのだが、海外製品に押され続けている、地方で跡継ぎが都会に就職し後継者がいない、下請・孫請で親会社が倒産・縮小し身動きが取れなくなっている、地域商店街の小売店で近隣の大手企業の工場が閉鎖したりナショナルチェーンの流通業が進出してきた……。こんな状態にある得意先は、不渡りにかかわず廃業倒産する危険性が高いと見るべきだ。こうした企業に対して、最大の債権者である銀行は、取れるモノはすべて取って回収を急ぎ、そのあとは担当者を異動させて知らぬ存ぜぬで押し通す。これが廃業の危険度をさらに高めることになる。

倒産を見抜けない民事再生法
民事再生法は、2000年4月に施行されたが、これにより企業にとって倒産の“ハードル”は低くなった。逆に、債権者にとっては“悪法”といえる。
債権者の2分の1の賛同で破綻する前に手続きに入ることができるのだから、中小債権者にとっては得意先の申請が寝耳に水ということがよくある。
たとえば、こちらが善意で急ぎの納入に間に合わせたところ、出荷の翌日に「民事再生を申請した」と連絡を受けるような事態が起こる。まさに泥棒に追い銭で、債権者としては取引を退く間がないのである。
「立ち直る余裕があるうちの再建型の倒産」といえば聞こえはよいが、「早めの開き直り倒産」ともいえよう。これが今後は増えてくると思われるだけに、債権者としても、取引の引き際を早期に判断することが必要である。

<< 流通とゼネコンの危険兆候をチェック >>

危ない会社の兆候とは何か、その100のポイントを次にまとめた。

とくに該当する割合がどれだけなら倒産危険度は×%といった指標を示すものではないが、折に触れて得意先の状況を探り、全体に該当する項目が増える傾向にある場合は、より注意の目を光らせたい。
ではここで、最近、目につく倒産の傾向として、中堅以上の流通業とゼネコンのチェックポイントを挙げよう。

流通業のチェックポイント
株価、売上高対有利子負債額、取引銀行の対応姿勢、バブル崩壊後の出店頻度、同一地域内での競合状態、集客状態、商品構成、バーゲンの頻度、同業者の出荷状況、マスコミの取り上げ方などである。
取引銀行の姿勢は、流通業社長の記者会見のコメントなどでも判断できる。虚ろな眼差しで語るコメントは社長自らのものではなく、ウラで再建・整理を画策している銀行が言わせているものと思ったほうがよい。
集客状態や商品構成は、バーゲンではないときに時間帯を変えて店舗を上から下まで回り、来店客のうちどれだけの人が買物をしているか、来店客が身なりのしっかりした人かなどを見るとよい。よくない噂のある流通業の包装紙は、中元・歳暮などの贈答では使えないものだが、そうした評判からも得意先の“傾き具合”が判断できる。

ゼネコンのチェックポイント
株価、銀行の債権放棄実績、取引銀行や役所からの天下り、公共事業への依存度、完工高対有利子負債額および債務保証額、下請協力会の動向(決済条件が変わったりする)などだ。
これらの点で危ない気配があるときは、回収した手形の割引を銀行に依頼してみて、銀行に信用判断させるとよい。その一方で、手形を割らずに所持しておき、「銀行で割り引けなかった。現金で支払って欲しい」と回収の材料にするのもよい。また、自社の取引銀行に「大手得意先が倒産したとき、ウチの面倒を見てくれるか」と相談しておくべきだろう。

<< 得意先管理台帳をもとに不定期に訪問する >>

日ごろの得意先管理では、先の100のチェックポイントで管理台帳をつくり、定期的さらに不定期に得意先を点検していくことをお勧めする。なかには、下位20%の得意先に対しては、「近くに用事があったもので……」と毎月のように自ら訪問している社長もいるくらいだ。
また、年末年始に得意先小売店すべてを回り、挨拶がてら商売の状態をチェックしている社長もいる。
いずれも、中小企業の社長であり、大きな焦付きに遭って反省し、得意先管理を強化した会社である。
私は、粉飾決算、融通手形、高利金融の利用を「倒産三悪」と呼んでいる。得意先に時間を変えて不定期に訪問すると、ヒト、モノ、カネの動きの実態がより鮮明に見えてくるが、そうした訪問を重ねれば、実は倒産三悪に手を出す会社ほど一見、オフィスが小奇麗で、相手を信用させることに腐心しているということもわかるだろう。
得意先の危険度に応じた対策は、次の図表に簡潔にまとめた。

得意先倒産に引っ掛かる会社の社長は、同業者や銀行、取引のある商社などからも管理能力を疑われる。売る管理能力、つくる管理能力だけでなく、回収する管理能力もぜひ身につけていただきたい。

著者
石倉 潔(経営コンサルタント、与信管理アドバイザー、元信用調査マン)
2006年9月末の法令等に基づいています。