ビジネスわかったランド (総務・庶務)

危機管理事項

知的所有権を侵害されない対策は
 情報化時代の企業は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、サービスマーク等の工業所有権または著作権などを所有している場合が多い。これらの知的所有権が侵害されると、多大な損害を被り、企業の存続さえ危うくなることがある。
知的所有権を侵害されないためには、専任の担当者を置き、弁理士や弁護士と絶えず連絡を取りつつ、その防衛に努めること、特許公報はすべて目を通し、市中に類似・模倣商品が出たときは内容チェックのうえ相手に対して抗議申入れをすること、悪質な侵害者については損害賠償請求訴訟を起こす、などの措置をとることが必要である。

<< 知的所有権と権利侵害の実態 >>

企業には有形、無形の権利が多々ある。たとえば土地・建物等の不動産、機械設備、車両等の動産といった有形物の所有権は、登記・登録によって確定し、他からの侵害に対して法的に保護されている。また地上権、地役権、賃借権等の不動産に係る無形権利は登記により、営業権、販売権、あるいは債権等の無形の権利は契約書、手形等の証憑類によって確保される。
そこで、ここでは、もう1つの無形財産である「知的所有権」の権利侵害とその対策について考えてみたい。

知的所有権とは
一般に知的所有権は、無体財産法に基づく特許権、実用新案権、意匠権、商標権、サービスマーク、半導体集積回路の配置利用権等の工業所有権と、著作権とから成っている。

工業所有権と著作権が効力を発する条件は
このうち、工業所有権は特許庁への出願→審査→出願公告→登録の経過を経て初めて効力を発するが、著作権の場合は文章、音楽、コンピュータ・プログラム等の創作に対し、独創性ありと認められたとき、創作の時点に遡って権利が発生するのである。

工業所有権侵害の実態は百鬼夜行の趣あり
わが国をはじめ各国でも、工業所有権に対する出願件数が膨大であるため、審査に手間取ってなかなか登録できないのが実情である。その隙間を狙って製品化し、危なくなると姿を消す、まるでゲリラのような輩から、国際条約に加盟していない海外に製造を発注し販売している連中まで、まるで百鬼夜行の様相を呈してる。
もっとも、最近、ようやく出願審査の迅速化や特許裁判の期間短縮が進められるようになってきた。しかし、道なお遠し感は否めない。

著作権侵害の実態も話の種には困らないほど
著作権についても、著名作曲家同士の盗作争いから、高名な学者による論文無断引用事件まで、これまた話の種には困らない。ブランド品の偽物からCDの海賊版、テレビゲームの類似品に至るまでまったく油断がならない。

権利侵害は当事者の調査不足、過失、解釈相違によるものも多い
しかし、こういった権利侵害は悪意による違法行為ばかりではなく、当事者の調査不足、過失、解釈相違によるものも多い。技術的な特許権のなかには当然、公知の事実だと思い込むようなものが登録されていたり、商標権では先祖代々伝えられてきたものが他者に先願出願されてしまったといったケースもあるので、十分な調査が必要である。

<< 権利侵害への防衛対策 >>

企業では、専任の担当者を置きその防衛に努めているが
多くの工業所有権や著作権を所有する企業では、当然、専任の担当者を置き、弁理士や弁護士と連携を取りつつ、その防衛に努めているが、一般の中小企業では、なかなかそんな余裕はない。

特許公報には目を通し、模倣商品に目を光らす
しかし、小なりといえども技術指向の企業や、デザイン会社、ソフト開発会社等では、権利侵害は死活問題である。したがって、やはり絶えず特許公報には目を通し、市中に類似・模倣商品が出たとき(広告、チラシ、代理店・特約店からの通報により)は直ちにその商品を購入し、内容をチェックのうえ相手に対して抗議申入れを行なわねばならない。

著作権料の取立てを委任する
著作権についても、分野によっては「著作権協会」に加入し、著作権料の取立てを委任する等の方策を講じておくべきであろう。

悪質な侵害者については損害賠償請求訴訟を起こす
なお、悪質な侵害者については刑法等の規定により罰則の対象となるので、警察に対して告発のうえ、民事事件としても損害賠償請求訴訟を起こすことは可能である。ただし、相手の資産状況により実際に取立て可能か否かの見極めは必要であろう。

<< 使用許諾に当たって注意すべきこと >>

他社に使用を許諾したり、他社から使用許諾を受けたりする場合
自社で開発した発明、新技術について、その研究、開発、維持に支出された費用を回収するため、他社にその使用を許諾することがある。
一方、新技術の発明、新製品の開発には莫大な費用と時間が必要であるが、自社製品のある部分にX社の技術がどうしても必要な場合は、X社に対し使用許諾の申入れをし、双方合意すれば契約締結となる。

秘密保持契約を結ぶことが先決
この場合、まず秘密保持契約を結ぶことが先決で、相互信頼の基盤の上に立って契約は成立する。なお、使用許諾には専用実施権(第三者による同一内容の実施権を排除できる)と通常実施権とがあるが、重要部分の技術に関しては専用実施権を取得しておくべきであろう。

その特許権の有効期限を確認しておく
さらに、その特許権の有効期限を確認しておくことはもちろん、必要に応じて特許実施上のノウハウ提供、技術援助についても契約書にその旨明記しておかねばならない。

<< 著作権と権利侵害に対する罰則 >>

著作権とは
著作権は、次の図表に掲げるようなものをいう。

一般的には個人の趣味、蒐集に属する物、教育、公共の用に供する物等は適用を除外されている。問題は、カラオケ・バーや、ビデオテープの海賊版、海外におけるCDコピー等で、なかなか取締まりがむずかしいのが悩みの種である。

権利侵害に対しては罰則がある
最後に、権利侵害に対してはそれぞれ民事訴訟によるほか、きわめて厳しい刑事罰が科せられ、特許法では5年以下の懲役または500万円以下(法人は1億5,000万円以下)の罰金、著作権法等においては3年以下の懲役または300万円以下(法人は1億円以下)の罰金が課せられることになっているが、わが国での知的価値はいまだ軽微に扱われているのが実情である。
ここでもう一つ触れておきたい問題は、自社研究員による発明特許の権利関係である。従来は、社員が自社研究施設および要員を使用して得た発明(実用新案を含む)に対しては、社内表彰規定に基づき、賞状および金一封が一般的であったが、昨今、数件の判例によって数千万円以上の報酬が支払われるようになってきた。いわゆる成功報酬のとらえ方である。したがって、企業側としても、今後何か新しい技術、プロジェクトを立ち上げる場合は、成功+失敗の総合結果に対する一定の比例報酬を表彰規定に盛り込む事が必要になるのではなかろうか。

著者
樫木 正明(元ローランド株式会社顧問)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。