ビジネスわかったランド (総務・庶務)

株主・株式・役員事項

額面株式廃止に伴う実務処理ポイントは
次のように、額面株式を回収して券面額の記載のない株券を再発行するかどうかは取締役会の裁量に委ねられているが、定款の変更は必要となる。

<< 額面株式とは >>

平成13年6月の商法改正で、額面株式が廃止された(同年10月施行)。これまで、日本の大多数の会社が額面株式を発行してきたこともあり、実務にとって重要な改正となる。
額面株式とは、1株当りの券面額(額面金額)の定めがある株式で、次の特徴がある。
(1) 定款および株券に券面額が記載される
(2) 額面未満の発行が許されない
(3) 株金総額(株数×額面)が資本金の最低限とされる
これに対して無額面株式とは、券面額のない株式である。無額面株式には、前記(1)~(3)のような制限はない。
しかし、額面株式も無額面株式も、その権利の内容には差がない。議決権や利益配当請求権は、1株を単位として平等に与えられる。また、額面株式の券面額と時価は、同じとは限らない。たとえば、額面は50円でも時価は500円のこともあれば、1,000円の場合もある。つまり、券面額自体にさほど大きな意味はなかったのである。
したがって、会社は、とくに定款で制限をしない限り、これまで両方を発行できた。さらに、株式の発行後も、取締役会の決議によって額面株式を無額面株式としたり、逆に無額面株式を額面株式にすることが可能であった。
ただし、無額面株式を額面株式に変更する際には、資本の額が「券面額に発行済株式の総数を乗じた額未満でないこと」が必要であった。これは前述のとおり、株金総額が資本の最低限とされていたからである。

<< 純資産額規制の廃止 >>

これまで、株式分割をする場合には、分割後の1株当りの純資産額が「5万円以上」という規制があった。
この規制は、たとえばIT関連のベンチャー企業のように、株価は高いものの、1株当りの純資産額はあまり大きくない会社にはデメリットであった。株式分割ができず、高株価・低流動性という弊害が指摘されていたのである。そのため、経済界からも規制の撤廃が強く求められていた。
一方、会社設立時の株式の発行価額についても、1株当り「5万円以上」という規制があった。株式分割時の規制を撤廃すると、合わせて設立時の規制も撤廃する必要が出てきた。
なぜなら、設立後に株式単位を小さくする株式分割が自由にできるなら、設立時の規制は無意味になってしまうからである。

<< 額面株式廃止の理由 >>

これまで、額面株式・無額面株式のいずれか(あるいは両方)を発行できたにもかかわらず、ほとんどの会社では額面株式のみを発行していた。
その理由としては、もともとは額面株式のみが認められていたため、無額面株式の導入後も額面株式を発行するケースが多かったことが挙げられる。また、券面額は、資本金や配当金の金額や水準を把握する基準として、実務的に便利な面もあった。
ところが、前述のように純資産額規制の廃止により、設立段階から券面額を5万円未満とすることを認めると、券面額の存在意義が乏しくなる。
券面額には、額面未満の発行が許されない、株金総額が資本の最低限になる、という機能があったが、5万円未満の券面額を許容すると、その機能も無意味になる。極端にいえば、券面額は100円でも10円でもよく、無額面株式と区分する必要性がなくなるわけである。
ここまでくれば、もはや券面額、すなわち額面株式は廃止したほうが合理的なので、商法改正により廃止されたのである。
額面株式の廃止を受けて、株式の投資単位の引下げが容易になった。とくに個人投資家は、従来より少ない資金で優良株式に投資できるなど、株式投資がしやすくなる。企業にとっても、株式市場の活性化により資金調達力が向上すると期待されている。

<< 額面株式廃止に伴う事務手続き >>

これまで、無額面株式はほとんど普及していなかったから、改正が深刻な影響を及ぼすようにも感じられるが、必ずしもそうではない。
変更に伴う実務上のポイントは、次のとおりである。

今後はすべて無額面株式に
まず、発行済みの額面株式は、自動的に無額面株式となり、今後発行する株式もすべて無額面株式となる。もっとも、株式から券面額がなくなっても1株の価値はそのままで、株式の内容にも何ら変更はない。

株券の再発行は不要
すでに額面株式を発行している会社は、株券をすべて回収したうえで、券面額の記載のない株券を再発行する必要があるのか、ということが問題となる。
この点について、改正商法は、すでに発行されている額面株式を無効として、新たな株券を発行するかどうかを取締役会の裁量に委ねている。
すなわち、必ずしも額面株式を回収する必要はない。回収しない場合でも、既存の株券上の額面に関する記載は“無意味な記載”になるだけで、株券が無効になることはない。
なお、中小企業では、事務負担や費用の問題から、株券の現物を発行しないケースが大半である(株券不所持制度)。そうした企業についても、株券を発行している企業と同様、券面額の記載のない株券の発行を必要としない。

定款の変更手続きは必要
従来は、額面株式の1株の金額などが定款に記載されていたが、額面株式に関する定款の規定は不要になるため、削除する必要が出てくる。ただし、いますぐに削除しなくても、定款そのものが無効になることはなく、企業に不利益が生じることもない。とはいえ、法律上根拠のない記載が定款に残っているのは好ましくないことも事実である。
定款変更のためだけに臨時株主総会を開くほどの緊急性はないが、次の定時株主総会などで随時、定款変更の手続きを行なうべきであろう。

<< 株主や債権者への影響 >>

改正商法により、会社設立時と分割時における発行価額・純資産額の規制が撤廃された。さらに、株式併合後の1株当りの純資産額が5万円を下回るような場合にも、株式併合が可能になった。つまり、会社は、原則として、自由に株式の取引単位を設定できるようになった。
一方、純資産額規制の趣旨(目的)は、1株当りの最低純資産額を定めることで極端に零細な株主の発生を防ぎ、会社の株式関係事務の“経済的合理性”を達成すること等にあった。
つまり、純資産額規制は、主に会社側の利益に配慮したものであり、直接的には株主や債権者の保護を目的としたものではなかったのである。したがって、規制が撤廃されても、株主や債権者に直ちに影響は生じない。
ただし、改正により株式併合の余地が拡大したので、間接的には株主等の地位に影響が出るであろう。たとえば、株式併合により端株が生じて議決権を失うなど、株主が不利益を被るケースが増えることも考えられる。

著者
冨永 忠祐(弁護士)
2004年11月末現在の法令等に基づいています。