ビジネスわかったランド (総務・庶務)

株主・株式・役員事項

手続き・決議内容の不備と決議の効力は?
 会社法は株主総会の手続きについて詳細な規定を設けているが、その規定に違反して決議がなされた場合に、決議の効力はどうなるのか。

●不備のある決議は決議取消しの訴えの対象に
不備のある決議は、直ちに無効になるというものではなく、総会決議取消しの訴えの対象になるということである。つまり、株主等の利害関係人が裁判所に手続きの不備を理由に決議の取消しを求め、判決で決議が取り消された場合には、総会の決議は初めから無効となるのである。
したがって、不備のある決議について有効・無効は一概にいえず、決議取消しの訴えを起こされる可能性があるというのが正確であろう。

●取消しの訴えの理由となるケース
決議取消しの訴えの理由となるのは、次のような場合である。
第一は、招集手続きや決議方法が法令・定款に違反する場合、あるいは著しく不公正な場合である。法令・定款に違反する場合が事例として最も多く、たとえば招集手続きについていえば、取締役会ないし取締役の決議を経ない招集、特定の株主だけに対する招集通知、招集通知の記載不備、招集通知発送時期の違反などである。
著しく不公正な場合とは、法令・定款に定めがなくても常識的に株主の権利行使を妨げる場合、たとえば総会の日時や場所を事実上、株主が出席できないように定めた場合などが該当する。

第二は、決議の内容が定款に違反する場合。たとえば定款で取締役の員数を3名と定めているのに、4名を選任したような場合である。

第三は、特別の利害関係をもつ株主が議決権を行使したことで、著しく不当な決議がなされた場合。たとえば取締役の報酬を決めるのに、取締役自身が大株主として議決権を行使し、著しく高額の報酬を定めた場合などである。
なお、決議取消しの訴えは、あくまで総会が開かれた場合のことで、総会が開かれてもいない場合は、総会決議不存在確認の訴えという別の形の裁判になる。

●訴えを起こす人と時期は限られる
決議取消しの訴えは、訴えを起こすことができる者と起こすべき時期が限定されている。起こすことができる人は、株主・取締役・監査役である。また時期は、決議の日から3か月以内とされている。したがって取消しの理由があっても、その間に訴えがなければ、結果として有効な決議となる。

●影響が小さければ、裁判所は決議の取消しをせず
決議取消しの判決があると、決議は初めから無効であったということになる。したがって再度総会を開いて、改めて決議をする必要がある。
しかし現実には、再度総会を開いたからといって結論が変わることはまずない。また手続きに不備があっても、その程度はさまざまで、たとえば招集通知の不備を例にとっても、まったく通知をしなかった場合、反対意見の株主に通知をしなかった場合、所在不明の株主に通知しなかった場合、それぞれ総会の決議に与える影響は異なる。
このようなことから、決議取消しの訴えがあっても、違反の程度が軽微でかつ決議に影響がないときは、裁判所は決議の取消しをしないことができる。たとえば、所在不明の株主に通知しなかった場合(このような場合でも5年間は通知をしなければならないが)は、決議取消しは認められないだろう。
しかしそれ以外の場合は、株主の多数の意向が決まっていたとしても、違反の程度は軽微とはいえず、決議は取り消されることになる。

●決議をやり直しても問題は残る
決議取消しの判決を受けても、再度有効に決議をすれば問題はないのか。決議事項によって一律ではないが、たとえば取締役選任の決議が取り消されると、決議は無効となり、選任された取締役は取締役でなかったことになる。そうなると、それまでの報酬はどうなるのか、取締役として行なった行為の効力はどうなるのか、といった問題が発生し、新たに選任決議をやり直せばことが足りるというものではなくなる。
また、取締役選任決議に基づき、取締役就任の登記がなされるが、取締役選任決議が取り消されると、登記簿にその旨が記載されることになり、会社の信用問題にもなる。
前述のように、手続き不備の総会決議は必ず決議取消しに結びつくものではない。しかし、会社が内紛状態にあるようなときは、訴えを起こされる可能性も大きいので、会社法に定める手続きに従った株主総会の運営を心掛けるべきである。

矢野眞之(弁護士)
2011年4月末現在の法令等に基づいています。