ビジネスわかったランド (総務・庶務)

株主・株式・役員事項

執行役員と通常の役員との相違点は
 取締役ないし取締役会の意思決定・監督機能と業務執行機能を分離させて、取締役・取締役会には会社の重要な方針を決定する機能をもたせ、その決定に基づく業務執行自体は「執行役員」に担当させようという考え方で生まれたのが、執行役員制度である。
執行役員と通常の役員とどう違うかというと、通常の役員(取締役)は取締役会の意思決定に参加するが、執行役員は意思決定に直接は参加せず、もっぱら決定された業務の執行に専念し、担当する会社業務を陣頭指揮することになる。執行役員は従来の職制でいえば、取締役と部長職の中間的立場だといえよう。

<< 取締役会の制度改革による会社経営の活性化 >>

大会社では「常務会」で経営方針を決定する方法がとられてきた
大企業では、取締役の人数が30名、40名と膨らんでくると機能効率の面でも経費の面でも大きな問題となってくる。そのため多くの大会社では、取締役会とは別個に、常務クラス以上の取締役による「常務会」という組織を設けて、経営方針を常務会で決定し、取締役会には事後報告に近い形で承認を求めるという方法がとられてきた。

取締役会の形骸化は、異常不当な脱法行為である
しかし、その結果、ややもすれば、平取締役は唯々諾々と常務会決定に従うだけで、討議にもほとんど参画しないという状況が生まれてしまう。本来、取締役会をそのように形骸化してしまうことは、異常不当な脱法行為である。
そこで、取締役の人数を適正化するとともに、取締役会制度を改革して取締役会の本来の機能回復を図ることが、多くの企業で重要課題となる。

執行役員とは業務執行に専念する特別の役職
その取締役会の制度改革の1つの方策として、たとえば取締役の人数を削減し、それと同時に「執行役員」という特別の役職を設ける企業が少なくない。
執行役員とは、次の図表に示すような性格ないし特徴をもつものである。


<< 執行役員は取締役会で選任が必要 >>

執行役員は会社の「支配人」と同等の立場
このような執行役員については、商法には規定がないが、会社から業務執行権限を与えられるという意味で、会社の「支配人」と同等の立場といえる。

執行役員は取締役会で選任しなければならない
したがって、執行役員をおくには、定款に規定することまでは必要としないが、必ず取締役会で選任しなければならない。執行役員には、取締役会の授権により執行権限が与えられると同時に、取締役会で決定した会社の方針の範囲内で、その業務を執行するうえでの相応の決定権も与えられると考えてよい。

執行役員制度の導入により、取締役の責任はいっそう重くなる
執行役員をおくという役割分担によって、取締役の負担・責任が軽くなると考えるのは誤りである。むしろ、取締役の責任は実質的にいっそう重くなる。なぜなら、以前より小人数の取締役会で会社の基本的方針を決定するという大きな責任を負ううえに、執行役員という取締役ではない者に業務執行を委ねるので、それだけ取締役の監督責任は重要になるからである。

各執行役員の担当業務範囲、取締役会への報告のルールなどを規定する
そこで、執行役員をおく会社では、社内規則を十分に整備して、各執行役員の担当業務範囲、執行役員に委ねる決定権の範囲、執行役員に対する補佐組織とそのルール、取締役会への報告のルールなどを綿密に規定する必要も生じている。

<< 執行役員制度の今後 >>

平成14年商法改正による影響
このような執行役員の制度は、法定化されないままに相当級の大規模な会社に採用されて、実務界に定着する様相を見せていた。しかし、平成14年の商法改正で企業統治の新しい形態が導入されたことにより、従来の執行役員の制度は今後変容していくはずである。
この新しい企業統治形態とは、大会社(資本金5億円以上または最終の貸借対照表の負債の部の合計額が200億円以上の会社)およびみなし大会社(資本金が1億円を超え、監査法人の監査をを受けることを定めた会社)が任意に採用することのできるもので、(1)取締役会で選任される「執行役」が会社を代表し業務執行にあたる、(2)取締役会は、業務に関する決定を大幅に執行役に委任できる、(3)取締役会のほかに、取締役で構成される指名委員会、監査委員会、報酬委員会が設置され、それぞれ取締役の選任・解任議案の内容決定、取締役・執行役の職務執行監査、取締役・執行役の個人別報酬の決定などについて専権を持つ、などの点に特徴がある。定款でこのような企業統治の形態を採用することを定めた会社を「委員会等設置会社」と呼ぶ。
委員会等設置会社では、業務執行は執行役が行ない、取締役は会社業務を執行できず監督的立場に徹することになっているから、従来の執行役員のように取締役以外で業務執行を補佐する立場の者が、ますます必要とされるであろう。しかし、執行役員という呼称は執行役と紛らわしいので、混同しないよう注意する必要がある。

著者
横山 康博(弁護士)
2010年6月末現在の法令等に基づいています。