ビジネスわかったランド (総務・庶務)

株主・株式・役員事項

株主総会の決議でも効力が認められないケースは
 株主総会について決議取消しの訴えを起こされるケースとしては、招集手続きや決議方法が法令・定款に違反する場合、あるいは著しく不公正な場合、決議の内容が定款に違反する場合、特別の利害関係をもつ株主が議決権を行使したことで、著しく不当な決議がなされた場合がある。

<< 株主総会の招集権者 >>

招集権は代表取締役にある
株主総会の招集の決定は取締役会の決議により行なうが、その決議に従って招集通知を発するのは代表取締役である。

代表取締役以外の取締役が招集した場合は、違法な招集手続きになる
したがって、取締役会で株主総会の招集が決定されても、代表取締役以外の取締役が株主総会を招集した場合は、違法な招集手続きということになる(取締役会の決議がありながら、招集権者でない者が招集をする場合というのは、何らかの紛争がある場合に限られるであろう)。

取締役会の決議を経ないで代表取締役が独断で招集するのは違法
代表取締役が招集権者であるといっても、取締役会の決議に基づいて招集をするのであり、取締役会の決議を経ないで代表取締役が独断で招集手続きを行なうのは違法である。
代表取締役の独断で株主に招集通知が送られ、たとえ総会が開かれ決議がなされても、後日決議取消しの訴えによりその決議が取り消されることがある。

<< 決議の不備と決議の効力 >>

不備のある決議は決議取消しの訴えの対象になる
会社法は、株主総会の手続きについて詳細な規定を設けているが、その規定に違反して決議がなされた場合に、決議の効力はどうなるのか。不備のある決議は、直ちに無効になるというものではなく、総会決議取消しの訴えの対象になるということである。

判決で決議が取り消された場合には無効となる
株主等の利害関係人が裁判所に手続きの不備を理由に決議の取消しを求め、判決で決議が取り消された場合には、総会の決議は初めから無効となる。
したがって、不備のある決議について有効・無効は一概にいえず、決議取消しの訴えを起こされる可能性があるというのが正確であろう。

訴えの理由となるケース
1.決議方法等が法令等に違反する場合
招集手続きや決議方法が法令・定款に違反する場合、あるいは著しく不公正な場合である。
法令・定款に違反する場合が事例として最も多く、たとえば招集手続きについていえば、取締役会の決議を経ない招集、特定の株主だけに対する招集通知、招集通知の記載不備、招集通知発送時期の違反などである。
著しく不公正な場合とは、法令・定款に定めがなくても常識的に株主の権利行使を妨げる場合、たとえば総会の日時や場所を事実上、株主が出席できないように定めた場合などが該当する。
2.決議の内容が定款に違反する場合
決議の内容が定款に違反する場合とは、定款で取締役の員数を3名と定めているのに、4名を選任したようなケースである。
3.著しく不当な決議がなされた場合
特別の利害関係をもつ株主が議決権を行使したことで、著しく不当な決議がなされた場合である。たとえば取締役の報酬を決めるのに、取締役自身が大株主として議決権を行使し、著しく高額の報酬を定めた場合などである。

訴えを起こす人と時期は限られる
決議取消しの訴えは、訴えを起こすことができる人と起こすべき時期が限定されている。起こすことができる人は、株主・取締役・監査役である。
また、起こすべき時期は、決議の日から3か月以内とされている。したがって、取消しの理由があっても、その間に訴えがなければ、結果として有効な決議となる。

決議取消しの判決があると、再度総会を開いて決議をする必要がある
決議取消しの判決があると、決議は初めから無効であったということになる。したがって、再度総会を開いて、改めて決議をする必要がある。しかし、現実には、再度総会を開いたからといって結論が変わることはまずない。

影響が小さければ、裁判所は決議の取消しをしないことができる
また手続きに不備があっても、その程度は様々で、たとえば招集通知の不備を例にとっても、まったく通知をしなかった場合、反対意見の株主に通知をしなかった場合、所在不明の株主に通知しなかった場合、それぞれ総会の決議に与える影響は異なる。
このようなことから、決議取消しの訴えがあっても、違反の程度が軽微でかつ決議に影響がないときは、裁判所は決議の取消しをしないことができる。たとえば所在不明の株主に通知しなかった場合(このような場合でも5年間は通知をしなければならないが)は、決議取消しは認められないだろう。しかし、それ以外の場合は、株主の多数の意向が決まっていたとしても、違反の程度は軽微とはいえず、決議は取り消されることになる。

決議をやり直しても問題は残る
決議取消しの判決を受けても、再度有効に決議をすれば問題はないのか。決議事項によって一律ではないが、たとえば、取締役選任の決議が取り消されると、決議は無効となり、選任された取締役は取締役でなかったことになる。そうなると、それまでの報酬はどうなるのか、取締役として行なった行為の効力はどうなるのか、といった問題が発生し、新たに選任決議をやり直せばことが足りるというものではなくなる。
また、取締役選任決議に基づき、取締役就任の登記がなされるが、取締役選任決議が取り消されると、登記簿にその旨が記載されることになり、会社の信用問題にもなる。

会社が内紛状態にあるようなときは、訴えを起こされる可能性も大きい
前述のように、手続き不備の総会決議は必ずしも決議取消しに結びつくものではない。しかし、会社が内紛状態にあるようなときは、訴えを起こされる可能性も大きいので、会社法に定める手続きに従った株主総会の運営を心掛けるべきである。

<< 総会を開かずに作成した議事録の問題 >>

中小会社では、登記のためにだけ議事録が作成されることがあるが
株主総会を開かずに議事録を作成するのは、中小会社にはよくあることとされている。役員の変更など登記を必要とする事項については、添付書類として株主総会の議事録が必要とされるため、登記のためにだけ議事録が作成されることが珍しくないようである。

対立が生ずるようになると、この議事録の効力が争われることになる
株主が社長とその身内だけというような会社では、株主総会を開いて意見を交換する必要がないということだろうが、たとえ身内であっても対立が生ずるような事態となると、この議事録の効力が争われることになる。

「総会決議不存在確認の訴え」という裁判が起こされる
法的には株主総会を開いていない以上、議事録は無効であるが、前述のとおり通常は議事録を添付書類として登記がなされているため、そのような登記事項を争う方法として、総会決議不存在確認の訴えという裁判が認められている。

「総会決議不存在確認の訴え」とは
総会決議不存在確認の訴えとは、文字どおり株主総会の決議が法的に存在していないことの確認を求める訴えであり、株主総会を開かないで議事録だけが作成されている場合は、このような訴えが提起される典型的なケースとなる。

株主総会を開いていない以上、敗訴は必至である
いったん、訴訟が提起されると、株主総会を開いていない以上、敗訴は必至である。決議不存在確認の訴えが認められた場合の影響は非常に大きい。

株主総会を開かず取締役の選任をした場合、文書偽造の問題も起きる
取締役選任の決議を例にとると、議事録を利用してなされた取締役就任登記は抹消され、また、それまで取締役として行なった行為の効力も問題となる。
さらに議事録の作成・登記の申請という行為が絡んでいるため、文書偽造(出席取締役の記名捺印を無断でしている場合)や公正証書原本不実記載といった刑事問題にまで発展することがある。

争いがなければ、そのような議事録が有効であるということではない
株主・役員間に何の争いもなければ、総会を開かない議事録について争われることはないが、それはそのような議事録が有効であるということではない。取締役としては、争われる可能性を考えておかねばならない。

著者
矢野 眞之(弁護士)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。