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株主・株式・役員事項

表見代表取締役と会社の責任は
 表見代表取締役というのは、読んで字のごとく、表面から見て代表権があると思わせる取締役のことである。
たとえば、社長、副社長、専務取締役、常務取締役などの役付取締役は、第三者から見て、代表権があると考えるのが普通で、それを信じて取引をした場合は、たとえその者に代表権がなかったとしても、会社はその取引についての責任を負わなければならないことになっている。

<< 表見代表取締役とは >>

あたかも代表権があるかのように誤認させる肩書は「表見代表」
社長は代表権のある場合が常であろうが、理論的には社長で代表権がないことも認められる。
そこで、会長、社長、副社長、専務、常務などのような名称を付した取締役との間で取引を行なう相手方は、その取締役が代表権を有するものと信ずることが多いので、実際には代表権がなかった場合でも、その者のなした行為について会社に効果が帰属することを認めるというのが「表見代表」である。

登記簿を確認すれば代表権の有無は判別できるのだが
もちろん登記簿には、代表取締役とそうでない平取締役の区別が記載されているから、その名称にかかわらず登記簿を確認すれば代表権の有無は判別できる。

<< 取引相手の信頼を保護する制度 >>

代表権があると信用して取引した相手を保護する制度
しかし、前述したような名称が付された場合には、相手方はそれを信用し、必ずしも登記簿を確認しないまま取引を行なうことが少なくないため、その信頼を保護するという制度である。

会社は表見代表が行なった取引に責任を負う
こうした要件に合う場合には、登記簿上代表取締役としての記載がないときでも、取引先は保護され、会社はその取引により生じた義務を負担しなければならない。またこの規定は、名称を付された者が取締役でなかった(単に会社の従業員に過ぎない)場合にも、類推適用され、会社はその者が行なった取引について責任を負わなければならない。

表見代表とされるものは
表見代表とされるものは、会社法では、社長、副社長とされ、判例では常務取締役、取締役、会長、代表取締役代行者という名称の場合も認められている。さらに、専務取締役、取締役副会長も肯定されるであろう。
反対に、判例で否定されたものとして、取締役支社長、開発事業本部長などがある。

<< 会社が負うべき責任 >>

会社は取引に基づく義務を負担する
表見代表等が行なった取引については、会社は、あたかも真実の代表権がある代表取締役が行なった場合と同じように、取引に基づく義務を負担する。
たとえば、取引が売買であれば、会社は目的物の所有権を移転し、あるいは売買代金を支払わなければならない。借入であれば借入金を返済する義務を負わされ、手形・小切手を発行したものであれば、決済をする義務を負うなどということになる。

第三者が勝手に名乗った場合は、会社は責任を免れる
しかし、第三者が勝手に会社の代表者の名称を称するような場合まで、会社に責任が生じるのでは不都合である。したがって、会社の使用人ですらない第三者が代表者と認められる名称を称した場合には、表見代表は成立しないが、商法14条の名板貸責任によりその名称を称することを会社が認めていた場合には、会社が責任を負うというのが判例である。

著者
鈴江 辰男(弁護士)
2010年1月末現在の法令等に基づいています。