ビジネスわかったランド (総務・庶務)

取引先付合いの心得

ケースに応じた贈答の常識は
 贈答とは、金品を贈ったりお返ししたりして、気持ちを表わすこと。近頃は虚礼廃止を訴える向きも少なくないが、贈答に託して気持ちを伝えることは、個人としてまた企業としても、ごく自然な振舞いのはずである。
しかし、むやみに何かを贈ればいいというわけではない。きちんとした気持ちを伝えるならば、やはりきちんと形式を整え、礼儀にかなったものであることが重要になる。

<< 様々な贈答にはタイミングがある >>

季節の贈答のタイミングは
1.年賀贈答
年賀贈答は、年始回りのときにするのが基本。年始のあいさつは、元旦から1月15日の小正月までに済ませるのが一般的である。
2.中元贈答
中元贈答は、陰暦7月15日を中心に、祖先の霊をまつる孟蘭盆会と相まって行なわれるようになった。東京を中心に関東地方では新暦によっているが、大阪や名古屋をはじめ多くの地方では陰暦によっている。
新暦、陰暦を問わず、7月15日を逸した場合は、中元とせず「暑中お伺い」としたほうがよいだろう。ただし、その場合も、8月22日前後の処暑までには済ませたい。
3.歳暮贈答
歳暮贈答は、その年の謝恩を表わすもので、本来は迎春準備が始まる12月13日までに行なっていた。しかし、現在は、12月の初旬から中旬が一般的とされている。
正月用品を贈答品にする場合は、あいさつ状を品物より先に送り、品物は12月下旬に先方に着くようにしたほうがよい。
以上の贈答のタイミングについてまとめたのが次の図表である。


慶事の贈答のタイミングは
1.落成・竣工祝いおよび開店祝い
ともに、慶事の催しがある場合はその10日から1週間前までに、催しのない場合でも落成・竣工、あるいは開店の1週間前から2~3日後までに、品物を携えてお祝いの言葉とともに贈答する。なお、竣工式とは施主、工事関係者の内輪の感謝祭、落成式は広く関係者にお披露する場である。
2.会社創立○周年のお祝い
先方が大なり小なり記念催事を行なう場合のみ手配をし、その催事の1週間前から当日までの間に贈答する。
3.社長の就任祝い
関係先の社長や役員の就任に対しては、その決定から1週間くらいの間に訪問して、当人に直接お祝いのあいさつをするのが礼儀である。

弔事の贈答のタイミングは
1.病気見舞い
関係先が病気や怪我などで入院治療していることを知ったら、その面会時間内になるべく早く見舞うようにしたい。病気見舞いは、付添い家族への慰労や激励の意味もあるので、面会謝絶でも見舞う。
病気見舞いへの返礼は、退院後1週間ほどのうちに「快気祝い」とする。
2.弔問
関係先の死去の報に接した折には、通夜と葬儀に弔問する。個人との親密度に応じて、通夜には「通夜見舞い」、葬儀・告別式には「御霊前」を贈る。葬儀・告別式の後の弔問は「御花代」を贈る。
3.風水害見舞い
災害は不時の事態であるから、見舞いも時期の早いことが大切である。できれば現場に駆けつけて、心から見舞いをし、片づけなどを手伝うような心配りをしたい。

<< 贈答する際の心得 >>

全般的な心得
贈答全般にいえることは、まず、先方と当方との社会的関係に見合った金額や方法であることだ。あまりに豪華な贈答は、先方に過度の負担感を与える。反対に粗末過ぎる贈答は、贈る側の心が伝わらず、先方に軽蔑されてしまう危険がある。贈答品の金額は、贈られた側でおよその見当がつくものがよい。
また、先方の好みに合っていることも、もちろん大切である。贈答は、先方に喜んでもらうための振舞いなのだから、先方の事情を無視したような贈物は、かえって逆効果になりかねない。
さらに、社会的な慣習もやはり無視できない。縁起担ぎは時代遅れともいわれるが、それで先方にいやな感じを与えてしまったら何にもならない。たとえば、数量の縁起は、原則的に慶事の贈答は奇数が吉、弔事は偶数とされているし、最近では外国風に「13」を忌み数とすることも一般化しているようだ。

中元や歳暮の贈答心得
中元や歳暮の時期が近づくと、毎年のように虚礼廃止の声が聞かれるが、結局は声だけで終わってしまうことが多いようだ。中元・歳暮のような贈答の慣習は、わが国で鎌倉時代から受け継がれているものであるから、そう容易には全廃とはいかないのであろう。中元や歳暮には、それだけ意味があるということでもある。
しかし、中には贈答全廃を公式に表明している関係先もあるので、そうしたところまであえて贈るのは逆効果。贈答を自粛することも、場合によっては必要だろう。
予算としては、中元は歳暮の7割くらいが妥当だといわれている。両方を同額にすると、歳暮の贈答品が軽く感じられてしまうからである。
先方が喪中や忌中の場合でも、中元・歳暮はお祝いではないので、必要と認められるならば贈ってもかまわない。ただし、派手な贈答品や包装は避けて、先方の事情への同情の気持ちをしたためたあいさつ状を添えるようにしたい。
中元や歳暮はよほどのことがない限り毎年必ずあるものであるから、たとえば中元には季節の果物、歳暮には数の子といったように、毎年同じ物を継続して贈るのも、先方に心待ちにされるようになってよいものである。

年賀の贈答心得
年賀の贈答は、中元や歳暮と違って年始回り先が対象になり、多数になるので、単価は抑えめにして数量は多めに予定することが望ましい。その意味で年賀の贈答品は、交際費的な意味合いよりも広告宣伝費的な色彩が強い。
もっとも、だからといって社名などの名入れは、表書きは別として贈答品そのものへは、なるべく控えたほうがよい。あまりに宣伝臭がすると、贈られた側でも使いにくいものである。
また、年賀の贈答品は、年始回りだけではなく、年始受けの場合にも、返礼の手土産として使うとよいだろう。
なお、当然のことではあるが、前年の喪家は、先方・当方のいずれも忌中だから、年賀贈答は行なわない。

慶事の贈答のタブーは
慶事贈答は、季節贈答のように一律的に処理できないうえ、それぞれにタブーがあるので、そのつど確かな品を選ぶことが大切だ。
たとえば、結婚祝いには、包丁やハサミ、鏡、陶器などは、「切れる」「壊れる」に通じるので避けるのがふつう。また、白いハンカチは別れのしるし、紅葉模様の図柄は秋で「飽きやすい」、淡色物は色あせる、と縁起をかついでタブーとされている。
新築・開店・開業祝いでは、ストーブや灰皿セットなど火に関係するものは「焼ける」、傘立てなどは「水に流れる」「倒れる」を連想させるので、タブーとされている。

病気見舞いのタブーは
一病息災といって、大病を患えば、それに懲りてその後の健康に留意するようになるから、病気見舞いは慶事に含めるという考えもある。しかし、鉢植えは根(寝)つくを嫌い、生花は、たとえば、シクラメンは死と苦を連想し、椿は花の首が落ちやすい、というようにタブーはある。なお、西洋では、小菊は葬式花としているので、すべてタブーである。

著者
伊藤 治男(作法研究会代表)