ビジネスわかったランド (総務・庶務)

商取引の法律

売買契約締結時の注意点は
 契約書には、合意事項を明確にし紛争防止に役立つ、紛争が起きても、どちらの言い分が正しいかを正確かつ短期間に結論づけられる、という効用がある。契約の際は、契約内容だけでなく、罰則規定や期限の利益の喪失条項、無催告解除の条項を盛り込むことが重要である。

<< 契約書のもつ重要性は >>

契約書のない口頭の合意だけの契約だと、時間が経つにつれて当事者の記憶もあいまいになってくる。そうなると次第に、契約を自分の側に有利にとらえるようになり、やがては、その互いのズレがトラブルに発展してしまうことにもなる。

紛争の防止に役立つ
その点、契約書が存在すれば、そこには互いの合意事項が明確に記されているのだから、認識のズレが出ることはない。もし、どちらかが契約に関して何かを主張してきても、それが契約条項に合致しているかどうかを公正に判断することができる。それが条項に違反していれば自ら主張を取り下げるようになるので、トラブルや紛争を未然に防ぐことができるわけだ。

正否を公正に判断する材料になる
またトラブルや紛争が起こった後も、口頭だけの契約は内容に明確性が欠けており、両者の主張はいつまでも平行線をたどることになり、容易に結論が出なくなる。
しかし契約書があれば、もし紛争が起きたとしても、どちらの言い分が正しいかを、契約書を基に、公正に素早く判断することができる。
契約書には、このような重大な役割があることを念頭に置く必要がある。

<< 紛争防止のために契約書に記載すべき項目は >>

もっとも、契約書に契約の内容を記載しておくだけでは、契約違反を承知のうえで自分に有利な主張を展開する者も現われてくるかもしれない。そんな事態を未然に防ぐためには、契約条項に違反した際の罰則規定を明確に定めておくことである。
この罰則規定が、契約内容を守らせるための「重し」になるわけである。罰則に関する事項で、契約書に必ず記載しておくべき項目は次のようなものである。

損害賠償額を決めておく
相手方が契約で守るべきことを約束したのにこれに違反したとき、たとえば売主が目的物を期限までに納付しない、買主が代金を期限までに支払わないといった「債務不履行」の場合に生ずる損害額をあらかじめ当事者間で決めておくことである。そうしておけば、契約を守ろうという意思が強くなるし、もし破った場合にも容易に損害賠償の請求ができる。
損害賠償というのは、請求権が発生したことは比較的簡単に認められるが、その損害が具体的にいくらかとなると証明するのがむずかしい。
たとえば、買主が約束の期限までに代金を支払わないと、売主としては予定していた入金がないことで、資金繰りに誤算が生じて損害を受けることになるが、その損害額が具体的にいくらになるかを算定するのは容易なことではない。そして、算定した金額を裏付ける証拠を見出すのはさらに困難な作業となる。
このことを契約の条項として記載すると、次のようになる。

このような条項を設けておくと、買主としては他に優先して支払わなければならないとの意向が働くし、支払交渉を続けている間にも遅延損害金が加算されるので、早くまとめなくてはとの気持ちになるはずである。

支払期限前でも代金請求できる条項
代金支払義務者(たとえば買主)に一定の事情が生じたときは、支払期限前であっても代金を請求できるという条項を設ける必要がある。
これを「期限の利益の喪失条項」といい、具体的には次のように記載する。

この特約があると一定の情報が入り次第、代金を直ちに請求することができる。

催告を経ずに契約解除できる条項
相手方が債務不履行をした場合であっても、契約を解除するには、相手方にいったん、履行の催告をしたうえでなければ解除できないというのが原則である。
そうなると、催告のために要する期間だけ契約の解除が遅れ、債権回収のチャンスが失われることもある。
そこで、当事者において次のような即時に契約解除ができる「無催告解除の条項」を定めておく必要がある。


<< 契約書は誰と取り交わすのか >>

当事者本人の署名が原則だが、代理人でも認められる
契約書に署名捺印するのは契約の当事者である。
当事者が個人である場合には、その本人が署名(記名捺印)する。本人に代わって代理人が契約する場合には、本人の代理人であることを表示したうえで、その代理人が署名する。代理人が代理表示をせずに直接、本人の署名をすることがあるが、これには本人の許可があることを必要とする。この方式を「署名代行」という。

会社の場合は代表取締役の署名が原則
会社が契約する場合には、その代表機関が署名者となる。
株式会社の場合は、商業登記簿に代表取締役として登記されている者が契約書に署名する。代表取締役が複数いる会社では、それぞれが代表機関であり、共同代表の定めがある場合のみ、その全員が代表機関となる。共同代表制を設けている会社では、代表取締役全員が署名する必要がある。
持分会社においても、登記簿に記載されているそれぞれの業務執行社員、無限責任社員が代表機関となるが、代表社員が定められていれば、その者が会社を代表する。

支店長、営業所長には代理権限がある
会社も個人と同様に、代理人による契約ができる。会社法の規定に基づく代理人が契約する場合には、代理表示をする必要はない。
支店長、営業所長は会社法上の支配人として、また、営業の主任は同じく支配人とみなされ、会社全般についての代理権限をもっている。本店の営業部長、支店長、営業所長などは、自己の肩書表示をすることにより、会社のために契約を締結することができる。肩書表示のなかに、当然の代理表示と代理機能が含まれているとみられるからである。

著者
堀越 董(弁護士)
2011年4月末現在の法令等に基づいています。