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車両、什器備品管理事項

交通事故の損害賠償額の計算法と支払範囲は
 現在は、損害賠償額の計算は、ほとんど保険会社が当事者(会社)に代わって行なっているのが実情だ。しかし会社でも、ある程度大まかでもいいから、どのくらいの賠償額になるのかを、前もって把握しておくことは大切である。
わが国では、裁判実務上、交通事故による損害の賠償等については、損害の項目(費用)を細分化し、その金額を積み上げる形で次のように計算される。

積極損害と消極損害
交通事故の発生に伴って、被害者が現実に支出を迫られ、あるいは支出を迫られることが予想される損害がある。これが「積極損害」である。
一方、交通事故がなければ本来得られるべきであった利益が得られなかったために発生する損害が「消極損害」である。

人損と物損
文字どおり、被害者の負傷(死亡も含む)に伴う損害が「人損」であり、車両その他の被害者の物に生じる損害が「物損」である。

慰謝料
さらに、被害者の精神的苦痛を慰謝するものとして、「慰謝料」が存在する。慰謝料は基本的に、人損、物損のいずれに対しても想定され得るが、通常、問題となるのは人損(傷害、死亡、後遺症)についてである。

<< 賠償額はどのように計算するか >>

では、具体的な損害にはどのようなものが認められ、賠償額をどのようにして計算していくか、基本的なところを見ていくが、そのアウトラインをまとめたものが次の表である。


人損の積極損害
1.治療関係費
治療費、入通院費、通院交通費、宿泊費等について、必要かつ妥当な実費額が認められる。
2.付添看護費
近親者が付き添ったような場合は、1日当り6,500円程度(入院付添費の場合)が認められる。職業付添人や看護人がついた場合には、必要性と妥当性が認められれば、実費相当額が認められる。
3.入院雑費
1日当り1,500円程度が認められる。
4.後遺症に伴う装具、器具等購入費、家屋改造費等
交通事故によって、視力の低下・喪失や、義足の着用、車イスの使用が迫られた時などには、必要性、相当性が認められれば、将来の費用(たとえば義足、車イスの修理・交換等)も含めて、実費相当額が認められる。ただし、将来の費用分については中間利息を控除する。
5.葬儀関係費用
社会通念上、必要かつ相当な額が認められる。一般的には150万円程度である。
なお、香典は損害から控除されない。

人損の消極損害
1.休業損害
・給与所得者については、事故前の収入額を基準として、休業によって現実に減収があった分(給与が支給されなかった場合、減額された場合等)について認められる。賞与についても同様。
・事業所得者の場合は、同様に現実の収入減があった部分について認められる。
・会社役員の報酬については、労務提供の対価と評価される部分につき、現実の収入減が認められれば認められる。
・家事労働者の場合は、賃金センサスに基づき家事労働額を評価し、休業の程度、期間につき相当と認められる部分につき認められる。
2.死亡に伴う逸失利益
逸失利益算定の基礎となる収入については、現実の収入を原則とし、賃金センサスの平均賃金程度の収入が得られる蓋然性が認められれば、賃金センサスを基準として計算する。
なお、労働可能年数は、67歳まで就労が可能として計算する。もし、事故当時にすでに67歳以上の人の場合は、平均余命の半分の期間、就労が可能だとして計算する。
3.後遺症に伴う逸失利益
後遺症に伴う逸失利益の算出方法は、おおむね次のようになる。
まず、後遺症の程度に応じて後遺症の等級の認定をし、労働省(現厚生労働省)労働基準局通牒別表の「労働能力喪失率表」を参考として、労働能力の喪失率を算定する。実際には、被害者の年齢、職業、後遺症の部位、労働内容、稼働状況等により、現実の労働能力の喪失の程度を総合的に判断することになる。
なお、事故前の収入に関しては、死亡の場合と同様である。
死亡に伴う遺失利益、後遺症に伴う遺失利益の算定例は、次のとおり。
〔算定例〕
・50歳、年収800万円のサラリーマン(被扶養者が3人以上)を例にすると、次のとおり。
(死亡の場合)
800万円×11.2740×0.7=63,134,400円
算式中の11.2740は、50歳から67歳まで労働可能とした場合の労働可能期間17年に該当するライプニッツ係数である(東京地方裁判所の裁判実務では、中間利息の控除についてホフマン係数ではなくライプニッツ係数を採用している)。また、大阪・名古屋も平成12年頃からライプニッツ係数を採用している。
0.7は、収入から生活費30%を控除したものである。また、上記の例において、被扶養者が2人の場合は、収入から控除される生活費は35%となり、計算式の0.7は0.65となる。
(後遺症等級第九級の後遺症を負い、労働能力の35%を喪失した場合)
800万円×11.2740×0.35=3,156万7,200円
なお、女児死亡の逸失利益について、男女の区分けを付けないという趣旨の東京高裁の判決(東京高判平成13年8月20日判時1757号38頁)を確定させた最高裁判所の判決(最決平成14年7月9日交民集35巻4号917頁)が出されている。また、同様の趣旨の大阪高裁の判決(大阪高判平成13年9月26日判時1768号95頁)を確定させた最高裁判所の判決(最決平成14年5月31日交民集35巻3号607頁)も出されている。

慰謝料
1.傷害慰謝料
傷害慰謝料については、原則として、入通院期間を基礎として計算する。
2.死亡慰謝料
2,400万円前後が認められるが、年齢や家族構成によって増減がある。

物損の場合の算定
交通事故と相当因果関係の認められる物損には、次のようなものがある。
1.修理費
修理費は、車両の種類により様々であるが、社会通念上相当な修理費が認められる。
2.評価損(評価落ち)
修理しても機能や外観を完全に修復できない場合や、事故歴により売却する際に査定が落ちることが予想される場合には、事故前の査定額と事故後(修理をした場合は修理後)の査定額との差額が認められる場合がある。
3.買替え差額
修理が不可能もしくは著しく困難であったり、買い替えるより高くなってしまうことが予想されるような場合には、買替え差額の賠償が認められる場合がある。
この場合の買替え車両は、事故車と同一車種・同一年式のものを基準とする。したがって、中古車が事故にあい、新車に買い替えた場合は、一部自己負担となることもある。
4.代車代
修理期間や買替え車両が届くまでの期間中、レンタカーなどの代車を利用した場合に認められる。ただし認められるのは、期間としては1~2週間程度で、金額的には高級外車であっても1日2~3万円程度が上限である。
5.休車損
タクシーや営業運送用トラック等の場合、修理や買替え期間中の営業損(営業を休むことにより生じた損害)が認められる。ただし、売上全額ではなく、経費を控除した利益を基準にして計算する。
6.その他の費用
交通事故に伴う諸々の費用(事故がなければ支出する必要がなかったもの)についても、相当因果関係の範囲内で認められる。具体的には、レッカー代、保管料、車の買替えや修理に伴う諸費用等である。また、対物事故の場合は、家や塀の修理代等も認められる。
ちなみに、実質個人営業の会社の代表者が事故にあったり、会社のほとんどの従業員が乗った車が社員旅行中に事故にあったりして、会社の営業ができなくなった場合に、会社からの損害賠償請求を認めた例もある。
なお、以上の数値・金額は、財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部編集・発行「民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準」(通称「赤い本」)2009年(平成21年)版によるものである。他方、保険会社が基準とする数値・金額は、通常「赤い本」記載の数値・金額より下回っている。
したがって、実際、請求する場合には、保険会社との間では、この差額の調整を図るべく交渉する必要が生じてくる。

著者
榎本 哲也(弁護士)