ビジネスわかったランド (総務・庶務)
賃借に関する法律
建物(テナント)を借りるときの注意点は
事務所や店舗などを借りるときは、貸主の権限、物件の状態、条件など、次のような点を押さえておきたい。
<< 貸主の権限をチェックしておく >>
建物を借りようと思った際に、まず最初に確認しておかなければならないのは、貸主が本当に建物を貸す権限のある人かという点である。下手をすると、知らぬ間に不法占有者になってしまうこともある。
建物登記簿謄本で確認する
それには、建物登記簿謄本をとって、貸主と所有者の関係を確認する。所有者と貸主が一致していれば、貸主の権限については、まず問題はない。
もし、建物の所有者と貸主が一致していなければ、さらに両者の関係を調べる必要がある。
たとえば、税務対策上の配慮から、夫所有の建物を妻が貸主として契約したり、個人事業主がオーナー会社を設立してこの会社が貸主になっているようなケースがある。これらの場合は、所有者と貸主の名義は異なるが、事実上は一体とみられるので、まず心配はいらないであろう。
転貸物件の場合は要注意
問題となるのは、所有者と貸主がまったく別人のときである。よくあるのは、不動産会社が、建物のオーナーから転貸承諾付きで建物を賃借し、この会社が第三者に貸すというケースである。事情を知らない借主は、会社が建物所有者として貸していると思っているが、オーナーからしてみれば承諾付きの転貸となっているのである。
このような場合、オーナーが不動産会社との賃貸借契約を債務不履行で解除すると、第三者の転貸権もオーナーには主張できなくなり、第三者はオーナーの建物明渡しに応ぜざるを得なくなってしまうのである。
<< 借りる建物のどこをチェックするか >>
借りる前に現場を見ておくことは当然必要である。ではその際、どんな点に気をつければよいか。
電気や電話回線の許容量は十分か
事務所用として建物を借りるなら、電話回線の許容量、電気の許容量等のチェックは非常に重要である。パソコンをはじめオフィス機器が十分に機能するためには、これらのチェックは不可欠だからである。
実際の面積を測っておく
面積のチェックも大切である。不動産業者の仲介情報に載っている面積は壁心面積だが、実際に使えるのは内壁面積で、広さが微妙に違う。また、契約面積には、エレベーターホールなどの共用部分も含まれており、実際に仕事場として利用できる面積とは異なるので、十分注意する必要がある。
空調施設は意外に重要
意外と見逃されがちなのが空調関係である。空調設備が天井にあるか壁側にあるか、あるいはその場所はどこか等によって、室内の空気の流れも異なってくる。とくに1つのフロアを間仕切りで使用する場合、それを十分考慮しないと、場所によっては極端な温度差が生じ、長時間の仕事ができないような空間ができてしまうこともある。
<< 契約を取り交わす際のチェック点 >>
さて、いよいよ建物の賃貸借契約を取り交わすことになるわけであるが、次のような「建物賃貸借契約書」をもとに注意しておくべきことに触れてみたい。
契約目的物の特定を
当然といえば当然であるが、契約の対象となっている建物をきちんと特定しておく必要がある。万が一これが特定されていないと、いざトラブルになったときに、契約書が決め手とならなくなってしまう。
このとき、建物の表示は、建物登記簿謄本どおりに正確に記載すること。謄本には建物の表示として、所在・家屋番号・種類・構造・床面積が記載されているので、これをそのまま契約書に引用すればよい。図面を添付できればなおよい。
目的を明示
建物を借りる目的には、「事務所」「店舗」「住居」「倉庫」など様々あるが、契約書にはこの目的も明示しておくべきである。目的をどの程度明確にするか、たとえば「店舗」とするのか、「中華料理屋」「パソコンショップ」などとするのかは、当事者が協議して決める事項となる。
期間も明らかにする
期間の明示も重要である。期間を1年未満とする契約は、期間の定めのない契約とみなされ、貸主は6か月の期限付きで解約を申し入れることができるからである。
家賃に関する記述は慎重に
家賃は契約の根幹をなすものであるから、その記述は慎重に検討したい。金額の明示はもちろんのこと、いつの分の家賃をいつまでに支払うか、あるいは支払方法はどうするか、ということもしっかり決めておいたほうがよい。もし、振込みを利用するなら、送金手数料の負担も決めておいたほうがすっきりする。
なお、家賃というのは、ある程度期間が経過した段階で変更されるのが一般的である。これも契約書に明記される事項だが、「貸主の一方的な通知によって変更される」等の条項は避けるべきである。
基本的には、このような条項があっても、増額幅に不服があるときは調停手続きで争うことができるが、上のような条項があると、借主としては貸主の増額請求に抗しづらい気分になってしまうからである。
契約に入れるなら、「賃料が不相当となったときは当事者が協議して決める」旨の条項が穏当かつ常識的である。
敷金の定めも明確に
敷金は、貸主の賃料支払請求権を担保するために借主から貸主に支払われる金銭で、賃貸借契約が終了したときに借主に賃料不払いやその他の債務不履行があった場合は、その金額を控除して借主に返還されることが約束されたものである。
敷金も、いくら預け、いつどのようにして清算して返還されるのかを明確にしておく必要がある。最近、敷金に関するトラブルが続出している。判例では、通常の使用に基づく汚損等については、借主は責任を負う必要がない、との基本的な立場に立っているので、不当な貸主の要求は断固拒否すべきである。
保証金の意味合いも確認しておく
事業目的の建物賃貸借契約の場合、ほぼ例外なく保証金が契約時に借主から貸主に支払われる。保証金はかなり高額で、最低でも家賃月額の10倍くらいするのが通常である。
これだけ高額にもかかわらず、法律でその性質を規定しているわけではなく、保証金には以下のような法的性質が混在している。
1.敷金の性質を有するもの
2.権利金の性質を有するもの
3.建設協力金の性質を有するもの
4.即時解放金の性質を有するもの
後々のトラブルを避けるためにも、保証金を支払うときは、それがどのような性質、約定のもとに授受されているのかを、きちんと認識しておく必要がある。
著者
當山 泰雄(弁護士)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。
<< 貸主の権限をチェックしておく >>
建物を借りようと思った際に、まず最初に確認しておかなければならないのは、貸主が本当に建物を貸す権限のある人かという点である。下手をすると、知らぬ間に不法占有者になってしまうこともある。
建物登記簿謄本で確認する
それには、建物登記簿謄本をとって、貸主と所有者の関係を確認する。所有者と貸主が一致していれば、貸主の権限については、まず問題はない。
もし、建物の所有者と貸主が一致していなければ、さらに両者の関係を調べる必要がある。
たとえば、税務対策上の配慮から、夫所有の建物を妻が貸主として契約したり、個人事業主がオーナー会社を設立してこの会社が貸主になっているようなケースがある。これらの場合は、所有者と貸主の名義は異なるが、事実上は一体とみられるので、まず心配はいらないであろう。
転貸物件の場合は要注意
問題となるのは、所有者と貸主がまったく別人のときである。よくあるのは、不動産会社が、建物のオーナーから転貸承諾付きで建物を賃借し、この会社が第三者に貸すというケースである。事情を知らない借主は、会社が建物所有者として貸していると思っているが、オーナーからしてみれば承諾付きの転貸となっているのである。
このような場合、オーナーが不動産会社との賃貸借契約を債務不履行で解除すると、第三者の転貸権もオーナーには主張できなくなり、第三者はオーナーの建物明渡しに応ぜざるを得なくなってしまうのである。
<< 借りる建物のどこをチェックするか >>
借りる前に現場を見ておくことは当然必要である。ではその際、どんな点に気をつければよいか。
電気や電話回線の許容量は十分か
事務所用として建物を借りるなら、電話回線の許容量、電気の許容量等のチェックは非常に重要である。パソコンをはじめオフィス機器が十分に機能するためには、これらのチェックは不可欠だからである。
実際の面積を測っておく
面積のチェックも大切である。不動産業者の仲介情報に載っている面積は壁心面積だが、実際に使えるのは内壁面積で、広さが微妙に違う。また、契約面積には、エレベーターホールなどの共用部分も含まれており、実際に仕事場として利用できる面積とは異なるので、十分注意する必要がある。
空調施設は意外に重要
意外と見逃されがちなのが空調関係である。空調設備が天井にあるか壁側にあるか、あるいはその場所はどこか等によって、室内の空気の流れも異なってくる。とくに1つのフロアを間仕切りで使用する場合、それを十分考慮しないと、場所によっては極端な温度差が生じ、長時間の仕事ができないような空間ができてしまうこともある。
<< 契約を取り交わす際のチェック点 >>
さて、いよいよ建物の賃貸借契約を取り交わすことになるわけであるが、次のような「建物賃貸借契約書」をもとに注意しておくべきことに触れてみたい。
契約目的物の特定を
当然といえば当然であるが、契約の対象となっている建物をきちんと特定しておく必要がある。万が一これが特定されていないと、いざトラブルになったときに、契約書が決め手とならなくなってしまう。
このとき、建物の表示は、建物登記簿謄本どおりに正確に記載すること。謄本には建物の表示として、所在・家屋番号・種類・構造・床面積が記載されているので、これをそのまま契約書に引用すればよい。図面を添付できればなおよい。
目的を明示
建物を借りる目的には、「事務所」「店舗」「住居」「倉庫」など様々あるが、契約書にはこの目的も明示しておくべきである。目的をどの程度明確にするか、たとえば「店舗」とするのか、「中華料理屋」「パソコンショップ」などとするのかは、当事者が協議して決める事項となる。
期間も明らかにする
期間の明示も重要である。期間を1年未満とする契約は、期間の定めのない契約とみなされ、貸主は6か月の期限付きで解約を申し入れることができるからである。
家賃に関する記述は慎重に
家賃は契約の根幹をなすものであるから、その記述は慎重に検討したい。金額の明示はもちろんのこと、いつの分の家賃をいつまでに支払うか、あるいは支払方法はどうするか、ということもしっかり決めておいたほうがよい。もし、振込みを利用するなら、送金手数料の負担も決めておいたほうがすっきりする。
なお、家賃というのは、ある程度期間が経過した段階で変更されるのが一般的である。これも契約書に明記される事項だが、「貸主の一方的な通知によって変更される」等の条項は避けるべきである。
基本的には、このような条項があっても、増額幅に不服があるときは調停手続きで争うことができるが、上のような条項があると、借主としては貸主の増額請求に抗しづらい気分になってしまうからである。
契約に入れるなら、「賃料が不相当となったときは当事者が協議して決める」旨の条項が穏当かつ常識的である。
敷金の定めも明確に
敷金は、貸主の賃料支払請求権を担保するために借主から貸主に支払われる金銭で、賃貸借契約が終了したときに借主に賃料不払いやその他の債務不履行があった場合は、その金額を控除して借主に返還されることが約束されたものである。
敷金も、いくら預け、いつどのようにして清算して返還されるのかを明確にしておく必要がある。最近、敷金に関するトラブルが続出している。判例では、通常の使用に基づく汚損等については、借主は責任を負う必要がない、との基本的な立場に立っているので、不当な貸主の要求は断固拒否すべきである。
保証金の意味合いも確認しておく
事業目的の建物賃貸借契約の場合、ほぼ例外なく保証金が契約時に借主から貸主に支払われる。保証金はかなり高額で、最低でも家賃月額の10倍くらいするのが通常である。
これだけ高額にもかかわらず、法律でその性質を規定しているわけではなく、保証金には以下のような法的性質が混在している。
1.敷金の性質を有するもの
2.権利金の性質を有するもの
3.建設協力金の性質を有するもの
4.即時解放金の性質を有するもの
後々のトラブルを避けるためにも、保証金を支払うときは、それがどのような性質、約定のもとに授受されているのかを、きちんと認識しておく必要がある。
著者
當山 泰雄(弁護士)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。
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