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トラブル処理事項

手形・小切手の訴訟制度とその効用は
 手形・小切手訴訟は、手続きが簡略化され、提訴から約50日間で判決が出るとともに、判決が確定しなくても強制執行できる。
手形や小切手が不渡りになり、振出人にも裏書人にも支払ってもらえないときには、手形(小切手)訴訟を起こすしか回収の道はない。しかし、手形金や小切手の取立てをふつうの民事訴訟手続きで行なおうとすると、その仕組みが複雑なため、なかなか解決しないという問題が持ち上がる。

手形・小切手訴訟は簡素化されている
商取引における債権回収に何年もの年月がかかっていたのでは、たとえ回収できたとしても大きな損害を被ってしまう。
そこで、手形や小切手に関しては、債権者の請求が速やかに実現されるように、訴訟手続きを簡素化して、その要請に応えている。

証拠はすぐに調べられる書類だけ
手形・小切手訴訟では、請求の正当性を証明する証拠は書証に限られている。証人尋問や、検証、鑑定などは認めない。
つまり、原則として、証拠書類だけが許されるのであるが、それも当事者が自分で持っている書類などのように、即時に取調べができるものに限られる。第三者が管理している書類のように、即時に調べられないものは、証拠として認められない。

手形・小切手訴訟は1回で結審
このように証拠の採用が限定されるのは、手形・小切手訴訟事件を簡便に、かつ迅速に処理しようという目的からである。
そのため、手形・小切手訴訟は1回で終了し、次が判決というのが実状。訴訟を起こしてから判決が出るまで、約50日くらいで結審するのが一般的である。

判決が確定しなくても強制執行できる
ふつうの裁判では、訴訟を起こした結果、勝訴判決を得られたとしても、その効力がすぐに生ずるわけではない。敗訴側が14日以内に上訴しなかった場合にはじめて「判決の確定」となり、その場合は当然に相手方の財産にも強制執行がかけられる。したがって、もし敗訴側が上級裁判所に不服を申し立てると、判決は確定せず、強制執行もできなくなる。
しかし、手形・小切手訴訟の場合には、敗訴側が判決に対して不服を申し立てても、それによって回収が遅れてしまうことがないように、裁判所は、「この判決は確定を待たずに強制執行することができる」という旨を必ず付け加えてくれる。これを「仮執行の宣言」という。
この方法をとることによって、訴訟の長期化を防ぎ、最初の判決の効力で相手方の財産に強制執行をかけ、自己の手形金の回収を図ることができるのである。


預託金にねらいを定めるのは効果的だが
手形や小切手が不渡りになった場合、不渡り処分を免れるために、前もって振出人が支払銀行に預託金を積んでいるケースがある。この預託金が積まれている場合には、これにねらいをつけて回収を図るのが効果的といえる。
しかし、相手方の財産に強制執行をかけるには判決をもらう必要があり、いくら手形・小切手訴訟は短期間で結審するといっても、やはりある程度の期間はかかる。訴訟をしている間に預託金を取り戻されたり、一般財産を隠されたりしたのでは、せっかく判決が出ても、回収がむずかしくなってしまう。

判決前でも相手の財産を差押えできる
そこで、振出人が預託金を勝手に処分できないように、また、一般財産を隠してしまうことのないように、何らかの処置をしておく必要がある。このための手続きが「仮差押え」である。
つまり、裁判所に申立てを行ない、裁判所から正式な判決が出されるまでの間、これらの財産を仮に差し押さえるとの命令を出してもらうのである。
そうしておけば、振出人は自分の財産でも勝手に動かすことはできなくなり、後に判決が出た際に、それらの財産から手形金の回収を実現することができるのである。

手形・小切手訴訟の提訴先は
手形・小切手訴訟は、手形(小切手)金額が140万円以下の場合には簡易裁判所、140万円を超える場合には地方裁判所に起こすことになる。
また、どこの裁判所が担当になるかというと、被告の住所地か、手形の支払地を管轄する裁判所である。したがって、たとえば振出人が東京、裏書人が大阪に住んでいたとしても、手形上に記載された支払地を管轄する裁判所に訴えを提起することも可能である。

著者
堀越 董(弁護士)
2011年4月末現在の法令等に基づいています。