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トラブル処理事項

少額訴訟制度とその効用は
 少額訴訟制度は、平成8年の民事訴訟法全面改正の際に創設された制度である。
そもそも簡易裁判所は、“市民が気軽に利用できる裁判所”を創設の理念としたため、訴訟手続きの特則が設けられたりして簡素化されてはいた。しかしそれでも、手続きはかなり厳格で、一般市民には利用しにくいのが実情だった。
そこで、請求額の少ない事件に関しては、特別の裁判制度を設けて、市民の利用を促すことにしたのである。

<< 少額訴訟制度の特徴は >>

即日即決が最大特徴
少額訴訟では、特別の事情がない限り、1回の期日で審理を完了し、判決は即日言い渡される。これが、少額訴訟制度の最大の特徴である。

対象は60万円以下の裁判
少額訴訟制度の対象となるのは、60万円以下の金銭請求事件である。金銭の請求であれば、貸金返還請求でも、損害賠償請求でも、売買代金請求でも、その他債権の種類は問わない。
ただし、土地家屋の明渡請求や登記請求、離婚事件など、金銭請求事件以外は対象にはならない。

個人でも法人でも利用できる
少額訴訟制度は、一般市民の利用を主目的とするが、法人による利用を禁じてはいない。したがって、法人間の事件であっても、請求金額が60万円以下ならば、少額訴訟制度を利用することができる。

年10回の回数制限がある
しかし、少額訴訟制度の利用には、同一の簡易裁判所で年10回という回数制限がある。これは、簡易裁判所事件の大半を占める消費者金融や信販会社による大量利用を防ぎ、一般市民の利用に供するためである。

<< 少額訴訟の流れは >>

訴状の提出で始まる
少額訴訟の申立ては、口頭でもできるが、通常は書面で行なう。この申立書のことを訴状という。
訴状には、請求の趣旨、請求の原因と少額訴訟による審理を求める旨などを記載する。裁判所には定型訴状用紙が備え付けられているので、これを利用するとよい。
請求の趣旨は、原告が求める裁判の結論(たとえば「被告は原告に対し○○万円を支払え」)である。請求の原因は、請求権が発生する根拠となる事実である。

申立時に必要な金額は
申立時には、請求金額に応じた手数料を納付する必要がある。手数料は、請求金額の約1%で、たとえば20万円超30万円未満の請求であれば3,000円になる。手数料は収入印紙を訴状に添付して納付する。
また、同時に、各裁判所で定める郵便切手を予納する必要もある。これは、裁判所から当事者への書類の送達や通知に使用される。金額は、5,000円程度である。
なお、当事者が法人の場合には、商業登記簿謄本も添付しなければならない。
簡易裁判所の窓口では、少額訴訟制度が理解しやすいように、手続きの指導体制を整えているので、わからないことがあれば、これを利用するとよいであろう。

裁判前に書記官のチェックがある
訴状が受理されると、裁判所の書記官が不備や不十分な点、わかりにくい点がないかをチェックする。何かあれば、書記官から電話で質問されたり、照会を受けたり、不足書類の提出を求められたりする。
また、裁判期日も、書記官と打合せをして決定される。
このような書記官との打合せを円滑に行なうために、訴状には担当者の氏名と所属部課名、電話番号、FAX番号などを明記しておく。

証拠や証人の取扱いは
証拠書類や証人の有無も、書記官との打合せのなかで確認される。
証拠書類は、事前にコピーを裁判所に提出し、原本を裁判期日に持参する必要がある。
証人がいる場合には、裁判期日に同行しなければならない。

書記官は被告にも照会する
書記官は、被告である相手方に対して、期日呼出状と訴状の副本を送達し、答弁書の提出を促す。電話番号がわかれば、電話で照会することもある。
被告側に証拠書類や証人があれば、原告と同様、事前提出や証人の同行を求める。
そして、被告が提出した答弁書は、原告に送達される。
こうして書記官は、裁判当日までに争点と証拠を確認して、裁判官に報告する。

少額訴訟は丸テーブルを囲んで行なう
裁判というと、中央の一段高いところに裁判官席があり、左右に対面して当事者席、その真ん中に証人席、そして後方に傍聴席がある、というのが、一般にあるイメージである。しかし、少額訴訟の審理は、そのような従来のいかめしい法廷のスタイルではなく、ラウンドテーブル(大きな丸テーブル)を囲んで行なわれる。

少額訴訟への異議申立ても当日に
期日には、裁判官が当事者の主張を確認する。被告に、少額訴訟手続きで審理することへの異議があれば、この段階で申し立てる。するとその時点で、通常の裁判手続きに切り替えられるのである。

証人尋問も裁判官が行なう
証人尋問は、当事者による交互尋問ではなく、主として裁判官が尋問し、当事者の尋問は補足的に行なわれるだけである。したがって、書記官との事前打合せの際に、尋問してもらいたい項目を箇条書きなどにして渡しておくべきである。

まずは和解の意向を確認する
審理が終了すると、裁判官は、当事者に、和解の意向を確認する。双方異議がなければ、金額の一部免除や分割払い等の和解条件を提示し、双方が同意すれば和解が成立する。

和解不成立なら即日判決
和解が不首尾に終わったときには、裁判官はその日のうちに判決を下すことになる。被告に金銭の支払いを命じる判決をする場合は、被告の経済状態などを考慮して、分割支払いを命じることもできる。
これらの少額訴訟の主な流れを図示すると次のようになる。


著者
華学 昭博(弁護士)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。