ビジネスわかったランド (経理)

経費の支出管理

不祥事・突発的事故損害の経理処理ポイントは
 役員や従業員の使い込みなど、世間体の悪い不祥事・突発事故損害が発生したときに、その損害をどう処理すればよいか、なかなか他人には相談できないものである。
そこで、万一発生しかねない、9つのケースについて経理処理のポイントをまとめると、次のとおりである。

社員の使い込みが発覚した場合
使用人が会社のお金を使い込んだのだから、基本的には使い込んだ本人に対して「損害賠償請求権」を会社が有することになる。したがって、監査によって3,000万円の金員が横領されていたことがわかった時点で、次のような仕訳を行なう。
(借) 損害賠償請求権3,000万円 (貸) 現金3,000万円

判例では、納税者が損害賠償請求権とせずに、直ちに「雑損失」として損金経理することによって納税者が敗訴となった事例もある。
また、横領をした社員に対して通常「退職金」は支給されないと思うが、実質的に会社としては損害賠償請求権が回収されない状態にあるので、この際「退職金」として処理することも考えられる(ただし、退職所得に対する源泉徴収に係る税金は、本人から徴収しなければならない)。
(借) 退職金3,000万円 (貸) 損害賠償請求権3,000万円

なお、前記のような処理をしなくても、最終的に、損害賠償請求権が回収できないものと事実上認定された場合には、当然「雑損失」として処理することも可能であろう。ただし、これは事実認定の問題が生じる可能性もあり、その損金算入の時期については回収不能であることが客観的に明らかとなった時点でなければならない。

集金途中に強盗にあった場合
強盗に襲われ、その被害届を警察に提出した場合には、原則として損金処理することが可能である(会社が当該金額を損金経理するためには、警察に提出する被害届でその損害金額を明らかにしておく必要がある)。
その日の売上金額がすべて奪われたわけだから、次のような仕訳になる。
(借) 雑損失500万円 (貸) 売上500万円

もし、将来売上金の一部が戻ってきたときには、その時点で雑収入として処理すればよい。
また、従業員に対する見舞金を会社が支給した場合には、当該支給の金額が社会常識として妥当な金額であれば、「福利厚生費」として、その支給時に損金処理をすることができる。
強盗に襲われて怪我をしたというケースでの1人当り10万円の見舞金は、社会通念上、妥当な金額ということができる。

仕入れたブランド商品が贋物と判明した場合
前期の売上に計上しているもので、当期に当該売上の代金を返済した場合には、原則として、返済された期に売上戻りとして処理すべきであろう。
また、贋物が判明したことによって生ずる損失(仕入代金・処分に係る費用等)は、原則として、それを認識し得る期において損金処理されることになる。
迷惑をかけた常連客に対して、お詫びとして粗品を渡せば、その支出金額は、税務上、原則として交際費等として取り扱われる。常連客という特定の者に対して、相手の歓心を買い、将来の取引を円滑にすることを目的として支給されるため、交際費等の要件を満たすことになるからである。

損害賠償を求める裁判を起こされた場合
製造物責任について争われる裁判の費用は、原則として、その支出の期に損金として計上することができる。
ただし、将来の損害賠償金を補うために引当金として計上することについては、その引当金としての要件を満たしていれば会計処理上はかまわないが、税務上は引当金繰入額に対して特別に損金算入は認められていない。

異物混入で製品を引き揚げる羽目になった場合
原則として、製品の廃棄損失は、その事故の発生した事業年度において損金算入することができると思われる。ただ、その損失額の金額が確定できない場合には、その確定した事業年度において損金算入をすることになる。
告知費用についても、同様に、告知をした事業年度において損金算入することになる。
保険等によって補填される場合には、当然、保険によって補填された金額を控除した残金が、当該事業年度の損失金額となる。

使用人が勤務時間中飲酒運転で事故を起こした場合
飲酒運転をすること自体、法律に反する行為を行なったといえる。
したがって、これらにかかわる損害賠償金は、使用人である甲個人が負担すべきものといえる。
また、破損した車の費用も使用人が会社に弁償しなければならない。
仮に、一時的に会社が被害者に対する費用を負担した場合には、次の仕訳を行なう。
(借) 甲貸付金500万円 (貸) 現金500万円

なお、甲の飲酒運転といえども、取引先との付合い上やむなくビールを飲んだことに配慮し、損害賠償金を会社が実質的に負担するという決定をした場合、次のような仕訳になる(形式上は本人負担になる)。
(借) 給与500万円 (貸) 甲貸付金500万円

この場合、甲に対しては、所得税の源泉徴収をしなければならない。自動車の破損費用(100万円)についても同様の処理となる。
もちろん、保険等で補填された場合には、その分を控除したところで処理される。
なお、使用人等の交通違反等の罰金(業務上)を会社が負担した場合には、その費用は、税務上、損金不算入となるから注意を要する。

暴力団に脅かされて金員を支払った場合
基本的には、その支払われている実質的な内容によって取扱いが異なる。
実質的に会社の顧問として働いているのであれば、顧問料として損金算入することができる。しかし、単に名目的に顧問料として支払い、本当のところは半分脅かされて払い続けているというのであれば、損金算入されない。
最高裁でも「仮に、経済的、実質的には事業経費であるとしても、それを法人税法上損金に算入することが許されるかどうかは別個の問題であり、そのような事業経費の支出自体が法律上禁止されているような場合には、少なくとも法人税法上の取扱いのうえでは、損金に算入することは許されないものといわなければならない」と述べている(昭和58・2・8判決)。
したがって、不法な行為をしないことへの対価というのであれば、法律に違反するような支出金(公序良俗違反の支出金の違法性)に当たり、原則として損金には算入できないということになるであろう。
見方によっては、暴力団との取引を円滑にすることを目的として相手の歓心を買うために「金員」を支給するのであるから、場合によっては、「交際費等」と判定されることもあるかもしれない。

脱税のコンサルタント料を支払っていた場合
脱税コンサルティング料は、原則として損金算入されない。
違法支出について、学説上の考え方は次の4つに分かれている。
1 損金性を否認する説
2 収益に対応する違法支出を認める説
3 支出の状況(違法性の程度)によって判断するという説
4 損金性を認容する説
通説は1で、その損金性は否認されている。
これに対して「違法収入」は、課税所得を構成する。違法収入に対して課税するのに違法支出に損金性を認めないのはおかしいという主張(「4」説)もあるが、実務上はそのように取り扱われているので注意を要する。
なお、平成18年度税法改正で、「不正行為等に係る費用等の損金不算入」の規定が設けられた。それによれば、法人が隠ぺい、偽装行為により法人税の負担を軽減させようとする場合、当該隠ぺい・偽装行為に要する費用の額等は、損金に算入しないと規定されている。

営業部長のセクハラによって会社が慰謝料を支払った場合
営業部長の行為そのものは許される行為ではなく、また、会社としてセクシュアル・ハラスメントについて全社員を対象とした研修を十分に行なっていなかったと批判されても仕方がない。
したがって会社の支払った慰謝料については、会社が負担すべきものなのか、営業部長に負担させる(給与または貸付金)ものなのか、責任の所在により判断をすることとなる。
先に述べたように会社にも責任があるのなら、会社が本来負担すべきものとして「慰謝料」を費用として計上するのであろうが、もっぱら営業部長の責任問題であるというのであれば、給与または貸付金となるであろう。給与とした場合、法人税では損金経理されるが、源泉所得税の対象になる。


著者
八ツ尾 順一(公認会計士・税理士)
2013年4月末現在の法令等に基づいています。