ビジネスわかったランド (経理)

年次決算

節税を考えた決算業務のポイントは
基本的に収益計上は繰り延べ、費用計上は前倒しにすることが節税につながるわけだが、合法的、合理的な方法としては次のようなものがある。

脱税とは違う節税
節税は、合法的、合理的に税負担を減少させたり、繰り延べることであり、いわゆる脱税とは本質的に異なるものである。形式的には整っていても、経済合理性に欠ける処理は、いわゆる租税回避行為として税務否認、重加算税対象となり得る。
重加算税対象となると、本税のほか、35%の加算税、年7.3%(14.6%)を限度とする延滞税が課せられるだけでなく、とくに悪質と認められる場合には、刑事事件として告発を受けることもある。

収益計上に関する事項
  1. 製品・商品の売上に係る収益は、出荷日、検収日、相手先検収日、相手先において使用収益ができることとなった日等、契約内容によって合理的に認められる日に計上できる。(継続適用必要)
  2. 委託販売の収益は、売上計算書到達の日で計上できる。(継続適用必要)
  3. 建設、造船工事等は、作業完了日、搬入日、検収完了日、相手先において使用収益できることとなった日等、契約内容によって合理的に認められる日に計上できる。(継続適用必要)
  4. 受取利息は、期日の属する事業年度に計上できる(継続適用必要)。
  5. 受取配当金は、入金のあった日に計上できる(継続適用必要)。
  6. 損害賠償金は、入金のあった日に計上できる。
費用計上に関する事項
  1. 短期前払費用は、支出日の属する事業年度に計上できる(継続適用必要)。
  2. 消耗品、包装材料等は、取得日の属する事業年度に計上できる(継続適用必要)。
  3. 売上割戻しの算定基準が、販売価額、数量によっており、かつ算定基準を相手先に明示している場合は、販売日の属する事業年度に計上できる(継続適用必要)。
  4. 3以外の売上割戻しは、算定基準が期末日までに決定され、確定申告書提出までに相手方に通知すれば未払計上できる(継続適用必要)。
  5. 会社更生計画の認可等で切り捨てられることとなった額は、損金算入される。
  6. 債務者の資産状況、支払能力からみて全額が回収できないことが明らかになった額は、損金算入できる。ただし、担保がある場合は、その処分後となる。
  7. 継続取引の債権は、取引停止、最後の弁済のいずれか遅い日から1年を経過すれば1円を残して貸倒れ処理できる。
  8. 固定資産税等賦課課税方式による税金は、賦課決定のあった日の属する事業年度に損金算入される。
  9. 事業税は、申告等がされていなくても翌期の損金に算入される。
  10. 取得価額が10万円未満および使用可能期間が1年未満の減価償却資産は、事業の用に供した事業年度に損金算入できる。※ 大企業グループ以外の中小企業(資本金の額が1億以下)については30万円未満
  11. 消費税の処理方法が税込方式の場合、納税額を未払金計上すれば、損金算入できる。
  12. 決算賞与を未払金計上すれば、損金算入できる(期末日までに受給者に額を通知し、期末日の翌日から1月以内に支払うことが必要)。
資産評価に関する事項
  1. 棚卸資産は低価法で評価できる(変更する場合は、事業年度開始の日の前日までに承認申請の届出が必要)。
  2. 棚卸資産の評価方法は、評価が最も低くなる方法を採用する(変更する場合は、事業年度開始の日の前日までに承認申請の届出が必要)。
  3. 棚卸資産に関する費用で、買入事務、検収、検査費用や社内運賃、特別の時期に販売するための保管費等の合計額が購入代金(製造原価)のおおむね3%以内の場合は、取得価額に算入しないことができる。
  4. 特別賞与、事業税、借入金の利子等は、製造原価に算入しないことができる。
  5. 棚卸資産が災害による著しい損傷、著しい陳腐化、破損、型崩れ等により帳簿価額を下回ることとなった場合は、評価減できる。
  6. 製造原価に算入した交際費、減価償却費、引当金繰入額等のうち、税務上自己否認した金額で期末棚卸資産の評価に含まれるものは、申告減税できる。
  7. 上場有価証券につき、時価が簿価のおおむね50%を下回り、近い将来簿価までの回復見込みがない場合は、時価まで評価減できる。
  8. 非上場有価証券および企業支配株式は、その発行法人の1株当り純資産が取得時の1株当り純資産に比しておおむね50%以上下回る等によりその価額が著しく悪化したときは評価損が計上できる。
  9. 有形固定資産の減価償却方法に定率法を採用する(変更する場合は、事業年度開始の日の前日までに承認申請の届出が必要)。
  10. 通常の使用時間を超えて使用される機械・装置は、通常の償却を超えて増加償却ができる(申告書提出までに書類提出が必要)。
  11. 陳腐化した減価償却資産や著しく損耗した減価償却資産については、耐用年数を使用可能期間に短縮し、早期に償却できる(適用を受けようとする事業年度中に承認を受けることが必要)。
  12. 使用を廃止し、今後、通常では使用する見込みがない等の固定資産は、実際に廃棄していなくても除却処理ができる(有姿除却)。
  13. 株式交付費、創立費などの会社法上の繰延資産は、任意償却である。

引当金の設定
  1. 中小法人等は貸倒引当金を設定できる。この場合、過去3年間の貸倒れ実績に基づく繰入率と法定繰入率とを比較し大きいほうで計上できる。
  2. 1の一般引当てのほか、債権の個別評価により回収不能見込額を貸倒引当金として計上できる。
  3. 大法人は貸倒引当金の損金算入が廃止された(平成24年4月1日から平成27年3月31日までに開始する事業年度については、一定の金額を損金算入できる経過措置あり)。
  4. 退職給与引当金は、平成15年3月31日以降終了年度より廃止され、中小法人は10年間、大法人は4年間で取り崩さなければならなくなったため、支出額が損金となる適格退職年金や中小企業退職金共済の制度の採用を検討すべきである。
  5. その他、出版業や医薬品業等での返品調整引当金や建設、自動車製造業等の製品保証等引当金がある。
圧縮記帳
圧縮記帳は課税政策上、一定の要件の下で、資産の取得価額の減額(直接減額または剰余金の処分による積立)を税務上損金として認めるものである。
  1. 国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮記帳。
  2. 工事負担金等で取得した固定資産等の圧縮記帳。
  3. 固定資産を滅失したため保険金を受け、代替資産を取得したときの圧縮記帳。
  4. 1年以上保有の固定資産と他人所有の同種の固定資産を交換により取得した場合の圧縮記帳。ただし、税務上、積立金方式は認められない。
  5. 長期所有土地等に係る特定の事業用資産の買換えの圧縮記帳。これに該当する譲渡資産、買換資産は、租税特別措置法に定められている。
  6. 収用、換地処分等についても、圧縮記帳の適用がある。
その他
  1. 役員給与(従来の報酬・賞与を一本化して呼ぶ)は、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与に該当する形で支給し、過大報酬とならない範囲で損金化を図る。
  2. 交際費のリベート等の隣接費用化および渡切り交際費制度により交際費を報酬、給与に転化する。
  3. 研究開発促進税制の活用(試験研究費の総額に係る税額控除など)
  4. 中小企業投資促進税制の活用(機械等を取得した場合の税額控除など)
  5. 外国税額控除
  6. 中小事業者の場合、消費税等につき簡易課税を選択すると有利になる場合がある。
  7. インターネット活用による印紙税の節約。ただし、印刷すれば、課税文書となる可能性がある。
著者
西山 浩(経営コンサルタント)
監修
税理士法人A.Iブレイン
2013年1月末現在の法令等に基づいています。