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年次決算

決算調整のポイントと上手なやり方は
1年間積み上げてきた決算事務も、最後の決算調整でうまくいかないとすべてが水の泡になってしまう。会社法、税法などに適合した決算調整の上手なやり方のポイントは、次のとおりである。

<< 決算対策と決算調整のポイントを知る >>

決算調整とは
決算調整とは、事業年度が終了して、1年間の営業結果を毎日毎月仕訳記帳してきたものを、もう1度、会社法や会計原則などに沿って適法に処理されているかどうかを再確認し、会社の利益を確定させる作業である。また、株主総会に提出する決算書類をそれら会計帳簿に基づいて作成する一連の作業もこれに当たる。これらは、それに続く法人税の課税対象となる所得金額の確定にも大きな影響を及ぼす手続きで、税務上も重要な意味をもっている。
主な決算調整事項には次のようなものがある。
 


これらを決算に取り入れるかどうかは会社が選択できることになっているが、税務上は会社の決算の段階で会計処理しておかなければ認められないものがほとんどである。

法人税との関係を知る
決算調整を行なううえで重要なことは、その会計処理が法人税法上、どのように取り扱われるかを知ることである。会社法上はその会計処理を会社に選択させるものが少なくない。しかし、法人税法は課税の公正という立場から、曖昧なものはないというのが建て前である。つまり、課税されるか、課税されないかのどちらかしかないのである。
しかしそうは言っても、会社の処理をまったく否認するわけにもいかないから、まずは会社に会計処理を任せ、会社に意思表示をさせる。そして、その意思表示が、法人税法と照らして、課税されるかどうかを判定する。
このように決算調整は、今期1年間の数値を検証し、会社法や会計法規に合致しているかを確認するだけではなく、決算調整の仕方如何では税金の額が大きく違ってくることを知っておかなければならないから、最新の知識が必要となる。

決算方針を重視する
決算調整を行なう前にはたいてい社長が決算方針を決めるが、これは非常に重要なことである。決算方針がなければ、単に法令に違反しない決算を組み、税金が最小になるようにすればよいのである。
これは正しいのだが、赤字が続くようでは銀行からの融資が困難になるので、経営者は、当然、赤字にしないようにという決算方針を立て、それに沿って決算調整するように求めてくる。そこで担当者は、粉飾決算にならないように、会社法上も税法上も認められる範囲内で利益をできるだけ計上しなければならない。
中小企業のうち、とくに会計事務所に決算を依頼している会社では、あらかじめ社長の決算方針を正しく伝えておかなければならない。そうしないと、会計事務所では会社法や税法に違反せずに、そのなかで税金を一番少なくすることに重点をおいて決算を組むから、社長の方針に反した決算になってしまうこともある。もっとも、社長の方針にムリがある場合もある。このような場合は、反対に会計事務所をうまく利用し、数字を挙げながら説得してもらうようにしよう。

会社主導で決算を行なう
会計事務所は決算調整の会計処理については、一番簡単な方法を取りがちである。異なる決算調整をしても、支払う税金に変わりがなければ、一番簡単な方法で処理を行なう。
例を挙げれば、準備金方式による特別償却や圧縮記帳である。一般的に減価償却費の計上は、直接、対象資産から控除する方法をとる。しかし、特別償却費の計上には、この直接控除方式のほかに準備金方式があり、その準備金方式には損金経理による積立てと剰余金処分による積立てがある。対象資産から直接減額しても、損金経理による準備金を積み立てても、当期利益は変わらないが、剰余金処分による準備金の積立ての場合は、当期利益がその分多く計上されることになる。
しかし、法人税の計算においては、剰余金処分による準備金の積立ての場合は、その分所得金額から減算するから、結果的には直接控除方式と同じ税額となるのである。
したがって、銀行からの融資などを考えて少しでも利益を出したい会社では、剰余金処分による準備金の積立てにしてもらいたいわけである。しかしその場合、法人税申告書の別表での処理が面倒なため、会計事務所では面倒でない直接控除方式で処理してしまう。また、税効果会計の適用についても、法人税法上の所得金額の計算に影響がないので、面倒な計算を避けるきらいがある。
このように、会計事務所では来期の経営計画や資金繰りの予測も知らずに、税金を少なくするためだけに決算調整を行なう傾向があるから、まず会社主導で決算調整を行なうのがポイントである。

中期的な業績も考える
決算調整はあくまでも当期のためのものであるから、当期の業績だけを考えがちである。しかし、翌期の決算にも影響するという意味では、当期のうちから適切な対策を講じておくべきこともある。
たとえば、会計処理の方法や評価方法の変更である。棚卸資産の評価方法や減価償却資産の償却方法などについては、会社が複数の方法のなかから選択し、税務署長に届け出たうえで継続適用することになっている。しかし、いったん採用した方法でも、前期末までに変更届を税務署長に提出して承認されれば変更できる。ここで注意したいのは、期中には変更できず、前期末までに変更届を出しておく必要があることである。
中期的な対策としては、設備投資を行なうかの検討も重要である。設備投資をすると、当然、多額の減価償却費が計上される。特別償却が認められると、節税効果はさらに大きくなる。したがって、設備投資を当期にするのか、翌期以降にするのかを、将来の業績などを考えながら判断しなければならない。

<< 予想以上の利益が出そうな会社の決算調整 >>

予想以上に利益が出そうな場合には、うれしい反面、税金のことを考えると、何とか利益を少なくしたくなるものである。このようなときの決算調整は、収益の繰延べや経費の計上が主なものになる。しかし、税務署が目を光らせているので、細心の注意を払って行なわなければならない。
利益を少なくする主な方法には、期中において資産として経理処理していたものを費用に振り替える方法と減価償却費などの期間費用を計上する方法がある。
まず、仮払金として処理していたものを費用に振り替えるには、法人税法上、債務を確定させる必要がある。これには期末までに
(1) 債務が成立し
(2) 給付原因が発生していて
(3) 金額が明確である
ことの3つの要件をクリアする必要がある。一方、企業会計では債務が成立した段階で費用と認識する。
両者のこの違いを踏まえて、利益を少なくするために、収益を圧縮し、費用を増やすようにしよう。それには、収益と費用を徹底的に洗い直してみることである。

売上はしっかりチェック
売上については、決算日前後のものを重点的にチェックする。事業年度をまたいで商品の販売などを行なったときは、当期の売上なのか、翌期の売上なのか微妙だから、余分な売上が計上されていないか注意する。
ただし、売上を少なくしたいと思うあまり、請求締切日から決算日までの売上を計上しないなどのごまかしはやめる。税務調査では、売上は必ず決算日前後の納品書や請求書がチェックされるので、すぐに指摘される。

仮払金や前払費用の費用化
社員の出張では、支度金を仮払金で支給して、帰社してから精算する方法が一般的である。決算日前後の出張の場合、精算が翌期になることがある。その場合、債務が確定していれば法人税法上も当期の損金として認められる。
また、企業会計上、前払費用は資産に計上しなければならないが、税務上は重要性の原則から前払費用のうち支払日から1年以内に提供を受ける役務については、支払時の損金とすることができる。
たとえば、1年分の家賃の前払いや銀行からの融資を受けた借入金に対する1年分の利息などである。税務調査で否認されないためには、前払いする旨を契約書などで明らかにしておこう。
このほか、保有している資産を修繕したときは、資本的支出として資産になる場合と、修繕費として費用にできる場合がある。その修繕が、原状回復のために行なった場合、かかった金額が20万円未満の場合、3年周期で行なっている場合などは、修繕費として費用になるので、資産に含めていないか確認してみよう。大規模な修繕を行なった場合は、見積書や修繕前後の写真なども保管するようにする。

減価償却費の計上時期に注意
設備投資などで固定資産を購入すると、当然、減価償却費が計上できるので節税効果は大きくなる。
ただし、固定資産を購入した場合、売買契約書の契約日を資産の購入の日とすることはよいのであるが、減価償却開始の日も契約日としている会社をときどき見受ける。固定資産の減価償却費の計上は、購入日ではなく、事業の用に供した日から計算する。事業の用に供した日を示せるものなどを保存しておこう。
少額減価償却資産の取得価額が10万円未満の場合には、全額損金処理か3年一括償却、通常の法定耐用年数による減価償却のいずれも選択できる。業績に合わせて、利益が出ている法人では全額損金処理をするというように選択する。10万円未満ということで、固定資産の購入納品書を何枚かに分割してもらった会社があるが、現物を確認されるとすぐにわかるので、無駄な努力はやめる。
取得価額10万円以上20万円未満のものは、3年一括償却を適用するか、通常の減価償却を適用するか、選択することになる。
また、平成18年度の改正で、中小企業者(資本金1億円以下で、大法人の子会社でないもの)が取得した減価償却資産で取得価額が10万円以上30万円未満のものは、全額損金算入できることとなっているが、取得額の合計額が年間300万円を上限とされた。

引当金の計上と貸倒損失
貸倒引当金の法定繰入率を適用できるのは、中小企業(資本金1億円以下の企業)のみである。なお、貸倒れの処理の元となる資料は、必ず保存しておくことが肝要。法人税法上、引当金の計上が認められているのは、貸倒引当金のみである。以前、計上が認められていた賞与引当金や退職給付引当金は、現在では、損金に算入できない。
また、平成24年4月以降、貸倒引当金を設定できる法人を(1)中小法人等 (2)銀行・保険会社等 (3)リース会社等に限定された。

<< 赤字を脱却したい会社の決算調整のやり方 >>

赤字が3期続けば銀行からの融資はほぼ絶望的になり、中小企業の資金調達の路は遮断されてしまう。金融機関や取引先対策を考えると、黒字にしたいものである。

費用の計上見送り
赤字を脱却して利益を計上したい場合の決算調整は、減価償却費や引当金の計上を見送ったり、未払費用や未払金の計上などを見送ることもあるようである。いったん費用として処理したものを前払金や前払費用として資産に計上することも考えられる。
銀行融資を考慮した決算調整を行なうのなら、できるだけ減価償却費は計上するようにして、まず引当金の計上を見送るべきである。なぜなら、銀行が財務分析で見るキャッシュフローは、当期利益プラス減価償却費とする場合が多いからである。減価償却費を計上してもキャッシュフローには影響はない。
また、特別償却については、普通償却と違い不足額を1年間繰り越しできるので、翌期に繰り延べることが可能である。

収益は漏れなく計上する
細かいことであるが、売上が漏れなく計上されているか、とくに事業年度をまたがって商品などを販売した場合には、当期の売上とすべきなのに、翌期に計上されていることがある。
チェックすべきところは、
(1) 請求締切日後から決算日までの売上が計上されているか
(2) 翌期首の売上納品書のうち、当期の売上にしなければならないものは含まれていないか
(3) 仕入先から直接、売上先に送付した商品の売上は漏れていないか
(4) 前受金や預り金となっているもののうち、当期の売上になるものは含まれていないか
(5) 自家消費は計上されているか
などである。
納品書や請求書をもとに、売上確認作業を行なう必要がある。とくに、期中を現金主義で記帳している場合には、期末売掛金の計上漏れがよくある。

<< 税務調査を意識した決算調整の上手なやり方 >>

税務調査では、1年を通じて行なわれた会計処理全体について調査される。決算調整だけを取り上げて調べることはない。しかし、やはり注目したいのは、決算調整なのである。
決算調整は、企業の思いが具体的に現われる行為ともいえる。利益が多いから少なくしようとか、銀行借入を考えているので赤字は避けようというような意思である。そこで、決算数値に恣意性が入り込むことになり、その結果、税金がとくに少なくコントロールされてしまいかねないということで、税務署も注目しているのである。
税務調査に対応するためには、なぜそのように会計処理したのかという理由と、その証拠書類が必要となる。これらの資料は、税務調査時にはいつでも見せられるようにしておくべきである。
したがって、決算調整をうまくやるには、証拠書類をいかに確保するかに尽きるといっても過言ではないであろう。結局のところ、常に税務調査を意識して決算調整を行なうことである。
たとえば、前年と比較して異常な数値がある場合には、事業概況説明書でコメントするとか、場合によっては積極的に現場を見てもらうなどして、税務署に実態を知ってもらうのもよいであろう。
社長の決算方針を具体化するために、会社法や会計原則に合致し、かつ税金が最も少なくなるよう心がけて決算調整を行なうようにしたいものである。

著者
平山 憲雄(税理士)
2012年6月末現在の法令等に基づいています。