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固定資産等の管理

ユーザーはどんなことを守らなければならないのか

リース契約、リース取引を規制する法律は、自動車や危険物などの特殊な物件を除いて、原則としてありません。したがって、契約の内容が民法の基本原則である「信義則(民法1条2項)」や「公序良俗(民法90条)」に反しないようなものであれば、当事者は比較的自由に取決めができるということになります。
ただそうはいっても、現実に行われるリース契約の内容が、あまりにバラバラでは、不都合も生じかねません。このため、(社)リース事業協会では、リース契約のスタンダードとして、「リース標準契約書」をとりまとめて公表しています。この標準契約書は、現在、多くのリース会社で採用されています。
ここでは、以下、このリース標準契約書をもとに、ユーザーが留意すべき契約条項の内容について、ひととおり見ていくことにします。


(1)ユーザーが指定する売主・物件にもとづく契約であること
リース標準契約書第1条には、リース契約の趣旨が定められています。それによれば、リース契約は、ユーザーが指定したサプライヤー(売主)から、ユーザーが指定する物件をリース会社が購入し、リース会社がユーザーにその物件を貸与する契約とされています。


(2)リース期間中の解約禁止
リース期間中は、リース会社もユーザーもともに、原則として契約を解除することはできません。その理由として、リース契約、とくにファイナンス・リース契約が、フルペイアウトであることと、ユーザーが指定した物件であること、などがあげられます。

ところで、リース会社がその取引に要した金額のすべてを、リース期間にわたってユーザーから回収できるように算定されています。しかも、リース期間は平均5年という比較的長期間であり、もし、3年で解約されたとしたら、残り2年間の未回収リース料のほぼ全額がリース会社の損失となります。
一般の賃貸借契約の場合は、一定の解約予告期間を定めて賃借人からの解約を認めています。これは、賃貸借契約の対象が土地・建物などの不動産である場合などには、賃借人が中途解約を希望しても、賃貸人は解約後にその物件について他の賃借人を比較的、短期間に見つけることができるからです。また、賃貸借契約では、賃貸料を設定するにあたって、賃貸物件の取得価額の全額を契約期間中に回収するように設定されているわけではありません。通常は一定期間継続する契約(通常2年間)を何度も繰り返しながら投下資本を回収していきます。

これに対して、リース契約の対象物件はユーザーが指定するもので、しかもその物件は多くの場合、コンピュータなどの陳腐化が激しい物件です。リース会社としても、リース契約が中途解約された後で、同じ物件を第三者に売却したり、あるいは再度リースして、物件代金の全額を回収することはほとんど不可能です。
こうした理由から、リース標準契約書ではリース期間中の解約禁止を定めています。ただそれでも、リース期間は比較的長期であることから、ユーザーの事情によりやむをえず解約する場合もありますし、より高性能の物件へレベルアップするためなどに解約する場合もあります。その場合には、ユーザーは、残リース料あるいは残リース料相当額の規定損害金を支払うことになります。

なお、ユーザーがリース料を支払わないなどの契約違反があれば契約解除の理由となり、ユーザーは規定損害金を支払わなければ契約は終了させることができません。


(3)リース契約上の権利義務は借受日に発生する
リース物件は、ユーザーが指定した場所・期日に、サプライヤーから直接ユーザーのもとに搬入されます。ただし、物件が搬入されただけでは、リース契約上の権利義務は発生しません。
リース標準契約書(第2条)は、「ユーザーは、搬入された物件について、瑕疵のないことを確認して、借受日を記載した物件借受証をリース会社に発行し、この借受日をもってリース会社からユーザーに物件が引渡されたものとする」と定めています。つまり、「借受日」がリース会社からユーザーへの「物件引渡日」となるのです。その日をもって、物件の所有権やそれに伴う責任がサプライヤーからリース会社に移転し、ユーザーのリース物件の使用権やリース料の支払義務などのリース契約上の権利義務が発生することになります。
「物件借受証」は、ユーザーがリース物件の検査を終了したこと、物件に瑕疵のないことを承認したこと、さらに、リース契約書に適合した物件を受領したことを証明する文書です。
また、借受日からリース契約上の権利義務が発生するのですから、リース会社、ユーザー双方にとっても物件借受証は重要な文書であるといえます。
なお、「物件受領証」「物件受取書」「検収完了証」などの用語を使用しているリース会社もありますが、いずれも「物件借受証」と同様のものです。


(4)リース料の支払開始
リース契約そのものは、リース契約書に記載された契約日に成立しますが、リース期間は、物件借受証記載の借受日が始期となります(リース標準契約書第4条)。この日からユーザーはリース物件を使用することができ(同契約書第3条)、同時にリース料の支払義務が発生します。ユーザーは、リース期間中、契約書に定められた方法でリース料を支払わなければなりません(同契約書第5条)。
ところで、ユーザーは、リース契約の締結時や、第1回目のリース料支払いのときに、数か月分のリース料を「前払リース料」として支払う場合があります(同契約書第6条)。この前払リース料は、保証金のようにユーザーに返還されるものではなく、リース期間最後の数か月分のリース料に充当されるものです。ただし、ユーザーがリース期間中にリース料の不払いなどをしたときには、ユーザーが弁済すべき金額の一部に充当されることになります。


(5)物件の保守・修繕義務
一般に、賃貸借契約では、賃貸人が修繕義務を負います。賃貸人が賃借人に対して「使用収益可能な物件」を提供し続けることは当然のことです。この場合、賃借人が支払う賃借料や管理費などには、将来発生が予想される修繕費用などが見込まれていると考えられます。ですから、損傷の程度にもよりますが、物件の修繕・修復を行うことによって、賃借人が追加でその費用を負担するということはほとんどないと思われます。
一方、リース契約の場合、リース料には物件の保守・修繕費用が含まれていません。また、リース物件は、ユーザーが長期にわたって支配管理しているために、ユーザー自身が保守・修繕するほうが効率的です。
ユーザーは、リース期間の開始日からリース期間終了まで、リース物件を使用できます。リース期間中は、ユーザーは、物件が常に正常な使用状態にあるように、ユーザーが物件の保守・点検、整備を行い、その費用を負担します。物件が故障・損傷したときには、ユーザーの費用で修繕・修復を行わなければなりません(リース標準契約書第3条)。
このように、リース契約では、リース物件の保守・修繕はユーザーが自分の負担で行うことを義務づけられているのです。
そこで、リース期間開始と同時に、ユーザーはサプライヤー(メンテナンス会社など)との間で、リース物件の「保守契約」を締結することになります。ユーザーがサプライヤーに保守料を支払って、物件の点検、整備、故障の修理などをしてもらうことになります。


(6)物件の所有権侵害禁止、物件返還義務等
リース物件の所有権は、常にリース会社にあります。したがって、リース標準契約書には、リース会社の求めにより「物件の所有者を記載した標識を物件に貼ること」(第7条)、「リース物件の第三者への譲渡や担保差入れの禁止」、「物件の不動産等への付着、改造・加工、第三者への転貸などの禁止」、「第三者による所有権侵害の防止義務」(第8条)など、リース物件の所有権にかかるユーザーの義務や禁止条項が定められています。
また、リース期間が終了してもリース物件の所有権がユーザーに移転することはなく、ユーザーが再リースを選択しないとき、あるいは解除により契約が終了したとき、ユーザーは、自分の負担でリース会社が指定する場所に物件を返還しなければなりません(第22条)。


著者
芥川  基(弁護士)
2012年6月末現在の法令等に基づいています。