ビジネスわかったランド (経理)

売上、売掛金の管理

生徒数の減少で大きなダメージを受けたNOVA

それでは、固定費型ビジネスであるNOVAの損益計算書の数字を見てみましょう(下図)。2004年3月期の数字を見ると、売上高706億円、営業利益15億円になっており、この時点では順調に経営が行われていたことがわかります。

NOVAの損益計算書

(単位:億円)

  2004年
3月期
2005年
3月期
2006年
3月期
2007年
3月期
売上高 706 753 698 571
売上原価 385 429 403 343
売上総利益 321 324 295 228
販売費及び
一般管理費
306 319 317 254
営業利益 15 5 ▲22 ▲26
当期純利益 4 2 ▲31 ▲25
(参考)
駅前留学 生徒数(人) 435,000 474,000 475,000 418,000
駅前留学 拠点数 618 829 994 925
1拠点あたり売上
(百万円)
114 91 70 62
広告宣伝費(億円) 108 110 111 70

※NOVAは駅前留学サービス以外にも出版事業などを行っていました。しかしながら、2008年3月期の売上の約9割が駅前留学サービスの売上であること及び、NOVAの商品は駅前留学している方が購入する可能性が高いと考えられるため、1拠点あたり売上は単純に全社の売上高を駅前留学の拠点数で割ることによって計算しています。

2005年3月期の数字を見ると、売上は753億円に増加していますが、営業利益は5億円と2004年3月期よりも10億円減少しています。
生徒数が43万5000人から47万4000人に増えたことによって売上は増加したものの、外国人教師の人件費や賃借料などの固定費が前年度よりも増加してしまったため、結果として営業利益の数字は少なくなったのです。

ちなみに、固定費の金額は、損益計算書の「売上原価」と「販売費及び一般管理費」の中に分かれて記載されています。売上原価の中には、外国人教師の人件費や、駅前留学の拠点の賃借料などの売上に直接関係するコストが計上されています。販売費及び一般管理費の中には、営業や間接部門の社員の人件費、本社ビルの賃借料などが含まれています。

では次に、2006年3月期の数字を見てみましょう。売上が698億円と、前年比55億円減少したことによって、営業利益は22億円の赤字となっています。これは拠点数は増加したにもかかわらず、売上は前年度よりも減少したため、1拠点あたりの売上が9100万円から7000万円に下がったことが大きな影響を与えています。

固定費型ビジネスでは、売上が減少しても、固定費を削減するのに時間がかかってしまうという特徴があります。
NOVAのケースであれば、外国人教師の解雇や駅前留学の教室を閉鎖しなければならないため、生徒数が減少したからといってすぐに固定費を削減するのは難しいでしょう。
さらに、2007年3月期の数字を見ると、売上が前年よりも127億円減少し、571億円となっています。これは、生徒数が47万5000人から41万8000人に激減したことが原因となっています。これにより、営業利益も26億円の赤字となりました。
上場以来、拡大戦略をとっていたNOVAですが、さすがに2007年3月期は拠点数を前年度よりも69教室減らしコスト削減に力を入れるようになりました。
また、毎年110億円ほど支出していた広告宣伝費を70億円に削減しました。
しかしながら、このような努力もむなしく、それから半年後の2007年10月には経営が破綻しました。

NOVAの損益計算書を時系列に見ていくと、経営が悪化していく状態がとてもよくわかります。 NOVAは拡大戦略をとっていたため、広告宣伝費を4年間で400億円投入しています。
ビジネスを行っていく上で広告宣伝活動は不可欠ですが、いくら広告宣伝費を投入しても、企業自体の信頼が失われてしまった時点で効果は著しく減少します。

固定費型のビジネスは売上の増加によって利益の大きな伸びを期待することができるため、経営者は少しでもビジネスを拡大したいという誘惑に駆られます。しかしながら、売上が減少しても急激なコストの削減が難しいビジネスモデルであるため、売上の減少時には経営に大きなダメージを受けるという危険性があるのです。

著者
望月 実(公認会計士)
2011年12月末現在の法令等に基づいています。