ビジネスわかったランド (経理)

資金繰りと資金管理

有利な資金繰りは諸刃の剣--NOVAの運転資金

株式会社ノヴァは、「NOVAうさぎ」というイメージキャラクターを使った大量のCMを流すことによって、英会話学校なら「NOVA」というイメージを作り出すことに成功しました。このように多額の広告宣伝費を使って急拡大することができたのは、NOVAが前受金ビジネスであったという側面が大きいでしょう。 

しかしながら、前受金ビジネスはある条件を満たすと資金繰りが一気に厳しくなり、経営破綻を起こしやすいというリスクもあります。そこで今回は、運転資金の観点からNOVAの経営破綻について分析したいと思います。

NOVAのような英会話学校は、入学時に授業料の前払いを行うのが一般的です。そのため、生徒数が増えれば増えるほど前受金の金額が大きくなります。巨額の前受金の影響により2004年3月期の運転資金は285億円のマイナスとなっています(下図)。

NOVAの運転資金の推移

(単位:億円)

  2004年3月期 2005年3月期 2006年3月期 2007年3月期
売上債権 73 67 66 86
商品 21 32 38 31
支払債務 27 33 19 10
前受金※ 353 334 316 255
運転資金 ▲285 ▲267 ▲231 ▲148
(参考)
広告宣伝費 108 110 111 70
駅前留学 拠点数 618 829 994 925

※前受金の金額は負債の部に計上されている「繰延駅前留学サービス収入」と「長期繰延駅前留学サービス収入」の合計金額です。

運転資金が285億円のマイナスということは、ビジネスを行うことによって285億円の資金が手元に集まったということです。

法人相手のビジネスであれば、サービスを提供してもそのお金は数ヶ月後に受け取ることになりますが、NOVAはその逆で、サービスを提供する前にお金を受け取るため、資金繰りはとても楽になります。しかしながら、このような有利な資金繰りは諸刃の剣となり、NOVAは前受金ビジネスによって拡大し、そして経営破綻をむかえました。

2004年3月期から2006年3月期までの3年間は、毎年100億円以上の広告宣伝費をかけて急拡大していきました。そして、この3年間で駅前留学の拠点数は618から994に急激に増加しました。

多額の広告宣伝費をかけながら急拡大することができたのは、NOVAが前受金ビジネスだからです。つまり、NOVAは英会話レッスンを行わなくても、申込みを行った時点で授業料を受け取ることができるため、テレビCMなどによって生徒が増えれば増えるほど巨額の資金が集まるようになります。

このように、前受金ビジネスはお客様を集めた時点でお金も集まるため、そのお金を使って次々とビジネスを拡大することができます。しかしながら、資金に余裕があると、実力以上にビジネスを拡大してしまう危険性もあります。

その後さまざまな問題の発生により、NOVAの生徒数は減少の一途を辿っていきました。
生徒数が減少すると前受金の金額も減少し、運転資金に大きなダメージを与えます。2004年3月期の運転資金は285億円のマイナスでしたが、2007年3月期の運転資金は148億円のマイナスとなり、運転資金の金額は5年間で137億円増加したことになります。

前受金ビジネスはビジネスの拡大時は有利ですが、縮小時には新規売上の減少に加えて、過去のレッスン料の払戻しも行う可能性もあるため、一気に資金繰りが苦しくなります。もちろん、前受部分を株式会社の中に現金や投資有価証券で留保しておけばよいのですが、すでにビジネスに使ってしまった場合には、返還する資金を新たに調達しなければなりません。

その後NOVAは、2007年6月13日付けで経済産業省からの6ヶ月間の一部業務停止処分を受けたことにより、経営がさらに悪化しました。そして、処分開始から4ヶ月後の2007年10月26日には経営が破綻し、大阪地方裁判所に更生手続の開始を申し立てました。

NOVAのように資金繰りが有利なビジネスでは、実力以上にビジネスを拡大する方向に経営者を誘惑します。しかしながら、収益性や財務健全性といった数字を無視してビジネスを拡大していくと、突然、経営が破綻するというリスクも同時に抱えることになるのです。

 

著者
望月 実(公認会計士)
2011年12月末現在の法令等に基づいています。