ビジネスわかったランド (経理)

売上、売掛金の管理

吉野家はなぜ牛丼を280円で売ったのか
商品の値段をいくらにすればよいかという判断は、ビジネスを行っていく上で最も頭を悩ます問題です。値段が高ければ販売量は少なくなってしまうし、値段を安くすれば販売量は増えてもかえって利益が減ってしまうことがあります。

吉野家は、2001年の夏に牛丼の並盛りを400円から280円と、120円も値下げしました。2001年2月期の吉野家の営業利益率は11%でしたので、主要商品である牛丼の販売価格を30%も下げてしまうのはかなり思いきった戦略です。吉野家がどのような戦略をもとに値下げを行ったかについては『吉野家の経済学』(日経ビジネス人文庫)に詳しく書かれています。

吉野家は値下げを行うときの数値目標として、1店舗あたりの来客数を700名から900名に増やすことを掲げました。その目標を達成できる価格で最も利益の大きくなる価格を見つけるために、56の店舗で11週間にもわたるテストを行いました。

300円台では来客数の目標を達成することができなかったので、250円、270円、280円、290円という価格でテストを行ったところ、280円が最も適切な価格であることがわかりました。販売価格のテストの次は、280円という価格でビジネスを続けていくためのシステムを作り出さなければなりません。

280円で牛丼を販売するためには、大きく2つの点でシステムを改善する必要があります。一つめの改善点は「コストの削減」です。280円でも利益が出るように、原材料の調達価格の見直しや本部で発生する間接費などのコスト削減を行いました。
そして、忘れてはならないもう一つの改善点は、販売数量の増加に耐えうる「オペレーション」を作り出すことです。たとえお客さんを増やすことができても、増えたお客さんに対応できる業務オペレーションを整えない限り、売上を増やすことはできません。

吉野家は、材料を各店舗に供給するための配送センターを3箇所増やし、3割程度の店舗に対しては1日1便だった配送を2便に増やしました。また、店舗においても厨房機器などを改良することなどにより、短い時間でお客様に牛丼を提供できるようなオペレーションの効率化を図りました。

低価格戦略に失敗すると、今までよりも利益が少なくなるだけではなく、販売数量の増加により、現場のオペレーションまで混乱させてしまいます。戦略を成功させるためには、綿密な価格のシミュレーションと値下げによって販売数量が増えた場合のオペレーションについて十分な検討を行う必要があるのです。

著者
望月 実(公認会計士)
2011年12月末現在の法令等に基づいています。