ビジネスわかったランド (経理)

資金繰りと資金管理

取引銀行と縁を切るときの手順と留意点は
 現在の取引銀行から新たな銀行に取引を移すときの手順と注意点は、次のとおりである。

<<なぜ取引銀行の見直しが必要かを考える>>

長年の付き合いだからと、自らの利益しか頭にない身勝手な銀行と付き合っている企業もあるだろうが、そうした金融機関と従来どおりの取引を続けていては、自分の身を守るのはむずかしい。今後は、常に金融機関との取引をチェックし、自社にベストの金融機関を選別していく必要がある。
ペイオフ解禁で預金ばかりに目を奪われがちだが、融資の行方にも注意したい。取引金融機関が破綻した場合、正常債権は受け皿となる金融機関に引き継がれるが、不良債権と認定されれば整理回収機構(RCC)に回され、新たな融資を受けるのはむずかしくなる。自社が優良企業なら問題はないが、正常債権と不良債権の境界線上にある場合は、受け皿金融機関の査定基準(債務者区分)によっては、融資を引き継いでもらえない可能性が出てくる。それゆえ、経営に不安のある金融機関からは融資を受けないこと、一歩進んで優良な金融機関に取引を移すことが求められる。
現在の銀行から新たな銀行に取引を移すときのポイントとしては、次のような項目をあげることができる。


<<一気に進めるか徐々に進めるか>>

取引を打ち切るとき
取引を打ち切る際には、準備万端を整えて一気に進めるか、徐々に取引を縮小していくか、2通りの方法がある。いずれの場合も、資金パイプが不在の期間をつくらないことが絶対条件だ。
担保価値が下落している現状では、借入が少ないか担保に入っていない遊休資産等がなければ、借入を一気に移すのはむずかしい。現実には徐々にシフトしていくケースが多いだろう。たとえば、短期資金からシフトを始め、徐々に長期資金も移していくというパターンが考えられる。また、交渉を優位に運ぶためにも、手元資金には余裕をもたせることである。資金の余裕は気持ちの余裕につながる。
ただ、最近はどの銀行も、無担保、無保証、低金利で1,000万円程度のビジネスローンに傾注しているので、短期資金の調達はやりやすくなっているが、ここでも借りる先の見極めは大切だ。こうしたローンの商品性は、銀行ごとであまり差はない。しかし、銀行側はこうしたローン商品を新規取引のきっかけ商品に位置づけている。取引を今後深めるつもりがないのであれば、安易に飛びつくことは避けたい。
最も避けたいのは、中途半端な対応だ。たとえば、新たに取引を始める銀行から融資肩代わりの確証を得ない段階で、長期資金の一括返済の話を持ち出すようなことは慎みたい。取引を切ろうとしている相手がメインバンクなら、なおさらだ。長年取引のある金融機関に対して、長期資金を一括返済するということは、“取引をやめる”と宣言するに等しい。いったん、関係がこじれれば、修復するのは容易ではない。その結果、新旧両銀行の取引空白時に資金繰りの狂いが生じれば命取りになる。
取引の打ち切りや縮小を伝えたとき、企業との力関係によって金融機関の出方は様々だろう。低姿勢で「何とか取引を継続してほしい」と頭を下げてくる場合もあれば、「ご自由にどうぞ」と突き放してくるケースも考えられる。だが、変更を決断して実行に移した以上は、後戻りできないことを肝に銘じる必要がある。優柔不断な態度は厳禁だ。
なお、一連の変更作業は、粛々と事務的に進めるのが賢明だ。付き合いがなくなるからといって、金融機関とケンカしてトクになることはない。また、もしそうしたトラブルが新たに取引する銀行に伝われば、その後の取引関係に悪影響を及ぼすことも考えられる。

融資と預金はセットで考えよう
ペイオフの凍結解除を前に、金融機関は取引約款の改定を実施した。内容は、預金の払戻しの停止等が発生、つまり金融機関が経営破綻した場合に、利用者の要請に応じて借入金と満期の到来していない預金を相殺できるようにするというものだ。したがって、預金残高が借入残高より少ないか、預金のほうが多くても差額が1,000万円以内ならば預金が毀損することはない。
ただし、あくまで「相殺」であるから、自由になるはずの預金が融資金額の分だけでなくなることにかわりはないので、注意が必要である。
取引金融機関の変更に際して注意したいのは、借入は移したが預金は置いたままというケースだ。その状態で経営破綻すれば、1,000万円を超える部分の預金が毀損する可能性がある。
取引を切ろうとする金融機関から「少しでも預金を残してくれ」などと要請された場合は、こうしたリスクも勘案して対処しなければならない。

<<新たに取引する金融機関は何を基準に選べばよいか>>

健全性を第一の基準に
いまや大手銀行と取引しているからといって、その企業が“優良企業”とはならない。また反対に、輸出入取引をしていて、外為やLCなどで国際業務に強い大手銀行との取引が不可欠というケースでもなければ、中小企業があえて大手銀行と取引するメリットは少ない。そもそも、いくら規模が大きくても“危ない”と噂されるような金融機関では、自社の信用にも悪影響が及ぶ。したがって、取引金融機関の選定に当たっては規模の大小やブランドではなく、経営の安定したところを選ぶことが第一条件となる。ただ、経営の安定性を追求すると、一般的に軍配は大手銀行に上がる。現時点でも健全な信金・信組は少なくないが、合併等による再編がまだまだ進むので、将来も安定した取引を続けられるかというと不安が残るからだ。このあたりは、判断がむずかしい。「東京三菱-UFJ」の統合で、メガバンクも4→3になる時代。地域によっては、すでに銀行と信用金庫、信用組合が一つずつというところもある。金融機関を変更したのに、合併によってまた取引が始まったというケースも出てこよう。

どんな取引を望んでいるか
取引銀行の対応について、「あんなに融資(または預金)があるのに親身でない」「営業担当者が来ない」という不満を漏らす企業がある。金融機関側から見ると、たとえ同じ1,000万円でも、大手銀行と信用金庫では事情がまったく異なる。信用金庫では大口取引先で毎週でも訪問するかもしれないが、大手銀行では小口取引先ということが珍しくない。
このように、金融機関の規模によって対応が異なることは多い。総じて、ドライな取引を求める銀行に対し、“痒いところに手が届く”付き合いをするのが信用金庫や信用組合といえる。とくに大手銀行の場合は、中小企業を大切な得意先と見ることは少ない。
たとえば、大手銀行の中小企業に対する融資の多くは自治体等が行なう制度融資や保証協会付融資が中心で、銀行自身はリスクを負わない。あるいは、手数料の徴求を、突然求めてくるケースが目立ってきた。こうした銀行に、親身な対応を求めるのは所詮ムリな話で、それは企業側から見れば、いつでも逃げられる態勢で付き合っているようにも映るはずだ。
これらの相違は、それぞれの金融機関の特徴が現われているもので、どれがよい・悪いという問題ではなから、自社が望む取引関係に応じて選定することが重要だろう。

できる限り取引銀行の内情を把握する
具体的な話に入る前に、経営内容をはじめ相手銀行の内情を知っておく必要がある。「融資さえ受けられればよい」という姿勢で、十分な準備をしないまま、安易に交渉に入ることは避けたい。
とくにメインバンクの変更では、普段の取引を1行で賄っている企業でない限り、まったくの新規先からメインバンクを探すようなことは考えにくい。既存の、取引実績のある金融機関のなかから乗り換えていくのが一般的だろう。日頃の付き合いのなかで、相手の行風、融資姿勢、サービス内容、人事や意思決定系統などの情報をできる限り詳しく収集する。銀行の業務は、システム化、マニュアル化が進み、恣意的なものが排除されてきている。それでも、「人」が取引をつないでいるのであるから、担当者や支店長の性格などまで、知っていて損はない。
取引銀行の変更に限らないが、交渉事である以上は必ず「駆け引き」が生じる場面が出てくる。そのときに何が武器になるかといえば、担保・保証や預金、付帯取引など目に見える材料はもちろん大切だが、情報の量と質が結果を左右することがある。
情報収集能力や分析能力の高さは、自社をアピールする有力なツールと心得たい。


著者
高橋 勉(金融ライター)
2006年9月末現在の法令等に基づいています。