ビジネスわかったランド (経理)

資金繰りと資金管理

自社の借入金適正度の判定の仕方は
 借入金適正度評価表の16項目に従って、自己採点を行なう方法を紹介しよう。
次の(1)~(16)の番号順に各項目の意味と判断方法を説明し、最後で適正度を判定するようになっている。
金利が安いからといって安易に借入れに頼る経営をしていては、いざリスクが発生したときに対応のしようがない。
さらに、銀行などは、不良債権の増加を防ぐため、不安な融資先から回収を急ぐ姿勢を強めている。貸し渋りにとどまらず「貸しはがし」も起こっている。銀行の融資姿勢の急変は、企業を破綻させる結果につながりかねない。
企業としては、ムダな借金をしないことはもちろん、自社の適正な借入金額を知り、コスト面でいくらまでなら耐えられるかを分析して、いつ、何があっても健全経営が維持できるように努めなければならない。
ここでは、借入金適正度を測るためのポイントと改善方法などを示すので、自社の状況分析と今後の借入政策に役立てていただきたい。
なお、借入金適正度評価表は、次のようになっている。


<< 適正度の判定項目 >>

(1) 借入利率は妥当か
銀行は、中小企業に対し、貸倒れリスクや担保状況等を勘案して、プライムレート(大企業向け融資に適用される最優遇貸出金利)に若干の上乗せをしたレートで貸し出すことが多い。あくまでも一般論だが、自社の借入利率は、できる限りプライムレートプラス0.5%以内には抑えたいところだ。
当然、借入利率を下げる交渉が必要となるが、これは簡単なことではない。利率の高い借入金を返済して財務体質の強化に努めるとともに、プライムレートで貸してくれる銀行を開拓したり、比較的低利で調達が可能な政府系金融機関や地方自治体などの制度融資の活用を常時、検討する必要がある。
なお、2010年1月時点のプライムレートは、短期が1.475%、長期が1.650%となっている。
(2) 金利変動対策は打たれているか
変動金利は市場金利の上下によって適用金利が変動するが、固定金利は契約期間中、一定の金利が適用される。それぞれのリスクとメリットを把握して、市場金利の動向も見ながら、より有利なほうを選択したい。
借り手(企業)とすれば、現在のような低金利下では、変動金利ではなく長期間金利が変わらない固定金利で契約したほうが有利になる。逆に、高金利のときに固定金利で契約してしまうと、市場金利が低下してもメリットは受けられない。一方、貸し手(銀行)からみると、立場(メリット・デメリット)はまったく逆になる。
そこで、相互に協議して金利の適用方法を決めることになる。3か月とか6か月といった短期借入れは、そのつど条件を決めるのでリスクは小さい。
問題は長期借入れだ。現在、銀行の長期融資は変動金利が原則であり、固定金利の適用はむずかしい。しかし、交渉によって一部を固定金利、残りは変動金利などとするようにもっていきたい。
なお、政府系金融機関などから事業高度化など、その目的によっては最高15~20年程度の低金利融資を受けることが可能なことがあるので、活用メリットが大きい。
(3) 金利上昇に耐えられる経営体力があるか
いまは低金利のお陰で何とかもちこたえているが、仮に金利が1%上がったら即座に赤字転落というのでは経営は成り立たない。そのため、将来の金利上昇に備えて、経営体力を強化する努力が欠かせない。
その方法の一つが、内部金利の設定による経営計画の策定だ。内部金利は、現状借入できる金利より3%から5%程度高い金利を設定するのが一般的で、その金利でも必要な利益が出せるよう、生産性の向上、人材育成、利益率のアップなどに取り組む。
たとえば、現在の借入利率が3.5%なら内部金利を7%とする経営計画を策定し、実行・検証・修正していく。部門や従業員の業績評価もこれに従う。
こうしておけば、金利上昇に耐えられる経営体質が自然とでき上がっていく。金利上昇のリスクを常に念頭に置いておきたい。
(4) 借入れと預金のバランスはとれているか
預金の金額が多過ぎるのは、場合によっては資金をムダに使っていることになる。
仕入代金や費用の支払いのために、どうしても手元に置かなければならない金額はある。たとえば、それを月商の1.5か月分とか2か月分と決めたら、基本的に残りの預金は不要だ。借入金の返済に充てたほうがよい。
ただ、借入れと見合いになっている拘束預金がある場合は、まったくゼロにはできないというのが実情だろう。ある程度はやむを得ないが、借入金の20%超えたら要注意、30%以上になれば異常な水準といえる。やたらに多額の拘束預金を要求する銀行との取引は避けるか、交渉して減らしていかなければならない。
資金の有効利用が制限されるだけでなく、実効金利も上がってしまうからだ。
(5) 金利負担能力は十分にあるか
企業には借入金の利息を支払ったうえで、なおかつ配当や内部留保をするための利益を確保していくことが求められる。
そこで、どのくらいの金利負担能力があるか、逆にいえばいくらまでの利息なら経営が成り立つかを知るための指標が「インタレスト・カバレッジ」だ。これは、次のように計算する。

要するに、営業利益と受取利息の合計額をもとに、利息の負担能力を測るものだ。インタレスト・カバレッジの倍率は高いほどよいとされるが、有利子負債がないか、極端に少ない企業にはあまり意味のある指標ではない。この倍率が低ければ、本業の利益が少ないか、支払利息が多いことを示す。
上の図表の下段の計算例では、インタレスト・カバレッジは4.1倍となっている。この例では、当期利益47から配当30(資本金250×配当率12%)を支払っても、なお17の累積利益が増加する。
インタレスト・カバレッジは、経営目標や資本構成、累積利益の状況、配当政策などによって会社ごとに異なるものだが、一般的には4~5倍あればよいとされている。2倍にまで落ちてしまうと、利益は出るものの予定配当を払うのがやっとという状況で、利益留保はできない。1倍を割れば、本業の利益だけでは支払利息を賄えないことになり、経常損益は赤字となり企業にとっては致命的といえる。
(6) 在庫や売上債権はきちんと管理されているか
在庫や売上債権が増えたり、不良債権が滞留すれば必要な運転資金が増加し、借入れに結びつく。
借入金圧縮の観点から、売上債権は90日で回収、在庫は20日分など、自社の標準期間を決めて、それに合わせるような管理が必要である。売上債権の決済条件は、得意先と協議して決めるものだが、当然ながら回収は早いほどよい。在庫は、商品や原材料の種類によって保有期間も変わってくるが、常に適正在庫を保つようにする。
長期の未回収債権や滞留在庫は、資金を食う諸悪の根元である。不良債権に至っては論外であることを胆に銘じておきたい。
(7) 仕入債務は早期に決済されているか
借入利息は実際に数字として現われるが、注意すべきなのは仕入代金等に含まれる表面化しない(目に見えない)コストだ。
たとえば、商品や原材料を仕入れる場合、納入後60日払いというように、通常は代金の支払いまでに何日かの支払猶予がつく。これは売り手が買い手に資金を貸していることになり、売り手はその期間の金利相当分を商品等の価格に上乗せして値決めをする。
つまり、支払猶予期間が長くなるほど仕入価格は割高になる。したがって、何が何でも「支払いはなるべく遅く」というのは間違った考え方で、結局は高い買い物をすることになってしまう。
仕入コスト削減のため、支払条件をできる限り短くして早期決済に努めることは、利益だけでなく財務の改善にもつながる。
(8) 不良債権や不良在庫以外の不良資産はきちんと処理されているか
主な不良資産には、稼動していない土地や設備、値下がりして処分できない有価証券などがある。資金は投下したものの、何ら利益を生み出していない資産だ。
こうした不良資産がある場合は、早急に処分して財務体質の健全化を図ることが大切だ。処理するときには一時的に損が出て痛みを伴うが、長い目で見れば好影響となって返ってくる。
不良資産があることを知りながら、いつまでも放っておくと傷が深くなる。一つひとつは大きな金額ではなくとも、それらが積み上がって莫大な金額となり、処理できなくなってしまうからだ。
それに対して常にチェックし、きめ細かく処理していれば、収益への負荷も少なくてすむ。
(9) 安全な資金の調達ができているか
自社の借入れの安全性を評価するポイントとして、次のようなものが挙げられる。
・借入先の健全度
借入先が健全な民間銀行や政府系金融機関であることがポイントだ。破綻が懸念されるような銀行がメインバンクの場合は、安全な借入れができているとはいえない。高利の金融業者などからの借入れは論外だろう。
なお、設備などをリースで手当てすることがあるが、これも一種の借入れと考えられる。したがって、リース代金と金利から見て支払条件が合理的かを判断し、より有利な条件を引き出したい。また、リースも借入れである以上、公開情報や世評などを踏まえて優良なリース会社を選択する。
・借入れの安定性
借入れに当たっては、自社の経営計画や資金需要に基づいて金額や返済期間を設定するが、借入れの目的を達するまで安定して利用できる資金であることが重要だ。ある日突然、一括返済を求められるようでは困る。
長期借入れはそうしたリスクが比較的少ないが、短期借入れでは注意したい。銀行からいつ融資の継続を拒否されるかわからないからだ。これまでは期日到来時に自動的に書替え(延長)されていた短期融資の返済を迫られる、新規の手形割引に応じてもらえないといったリスクがある。
こうした事態に備えて、取引銀行を変える、複数行に取引を分散する、短期借入れから長期借入れにシフトするといった対策を打っておく必要がある。
また、利息の支払方法にも注意したい。前払い、後払いがあるが、一般に前払いのほうが金利コストは高くなる。
(10) 調達と運用は適切な組合せか
企業ごとの事情に応じて、適切な方法で資金が調達・運用されているかがポイントだ。
何のために、いくら必要かが明確になったら、次はどのように調達するのがベストかを検討する。これは、資金使途によって調達方法が変わってくるからだ。
具体的には、まず運用目的に応じた長期借入れと短期借入れの使い分けが大切になる。さらに、たとえば受取手形が多いときは手形割引を活用する、借入額が変動するときは当座借越枠を設定することなども考えなければならない。また、輸出入の多い会社なら、外貨建ての借入れを検討する必要も出てくるだろう。
調達と運用の組合せ例を示したのが、次の表である。

基本的な考え方は、借入れ(とくに短期借入れ)をできる限り少なくし、かつ自己資本を増強しようというものである。
これを見ると、逆に「やってはいけないこと」がわかるだろう。典型的なのは短期資金で固定資産を取得したり、損失を補填したりすることだ。次の図表のように、短期借入れの書替え拒否など、銀行の融資姿勢が急変すれば経営破綻のリスクが高くなる。


危険状態からの脱出策としては、長期借入れにシフトしたり、利益を増加させて短期借入れを返済することが考えられる。
(11) 担保余力は十分にあるか
会社が所有する不動産、設備、有価証券などを総点検し、それらに対する担保設定(根抵当権等)の状況や担保余力の有無を把握する。最近では、仮に担保(余力)があっても簡単には借入れができない状況になっているが、それでも担保がついていない土地などの資産が、若干でも残されている状況が望ましい。
そうしたものがあれば、急に資金が必要になったときに売却したり、借入れを起こすなどして資金の調達が可能だ。借入更新時等の増担保の要求にも対応できる。
しかし、現実には二重、三重に根抵当権が設定され、価格下落で担保余力どころか担保割れも少なくない。実際の価値(売却見込み額)の2倍を借り入れているケースもある。しかも、中小企業の場合は、経営者の個人保証や個人資産の担保提供まで求められる。
このように担保でがんじがらめにされている状況では、企業は身動きがとれない。ちょっとした環境の変化で経営破綻する可能性もあるので、少しでも担保余力を確保する努力が欠かせない。たとえば、借入額に対して過剰な担保設定がなされているものは抹消を求める、借入金を早期に返済するといった対応が考えられる。
また、新たな資金需要が生じても、担保余力がない限りは借入れを見合わせることも必要だ。ムリな借入れは避け、資産売却をしたり、債権回収を早めたりすることで資金をつくり、財務体質強化に取り組むのも立派な経営判断だ。
なお、公的機関などによる無担保、無保証の融資を受けることができる場合がある。参考として、小企業向融資の例を掲げておく。これはほんの一部であり、必ずこのとおりの借入ができるということではない。詳しくは、商工会や商工会議所へ照会していただきたい。
(12) 営業キャッシュ・フローが十分に確保されているか
営業キャッシュ・フロー(CF)は、現金べースでの利益を表わすとされている。損益計算書段階の利益に加えて、キャッシュ・フローが重視されるようになっているので、営業キャッシュ・フローのプラスはぜひとも確保したい。
ここではキャッシュ・フローの詳しい計算方法には触れないが、基本的な考え方を示したのが次の図表である。

この例では、営業利益と受取利息に減価償却費をプラスし、支払利息、法人税等を差し引くと、営業キャッシュ・フローは102となる。ここから配当30を支払い、借入金50を返済すると、キャッシュの残高は22になる。
したがって、このケースでは、契約・約定どおりの利払いや借入金の返済をした後も、十分なキャッシュが手元に残っている勘定になる。
 
 

(13) 負債比率は3倍以内か
負債比率とは、次の算式に示すように、自己資本に対する負債の比率である。

負債には借入金だけでなく、買掛金や支払手形なども含まれる。
負債比率は低いほどよいが、一般的な目安は200~300%程度とされている。負債比率が高いほど借入金など外部資金に依存する体質で、財務体質は不安定といえる。負債比率が高くなると、銀行等も警戒し、貸出に慎重になる。
一般に中小企業は、自己資本比率が低く、結果として負債比率が高くなる。銀行や取引先の信用を高め、財務体質を強化するためにも、負債比率は低くしたい。その方法は、中小企業では借入金と買掛金、支払手形等の仕入債務を減らすことが中心となるだろう。
(14) 有利子負債倍率は月商の3倍前後か
有利子負債とは、借入金そのもので、有利子負債倍率は負債比率よりも厳しく企業の支払能力を判断する尺度である。計算式と計算例は次の図表のようになる。

この倍率は低いほどよいが、一般に3倍(平均月商の3か月分)前後が適当と考えられる。
この倍率が高いということは、財務体質が不安定で、借入金の返済能力も低いことを示す。また、金利負担も大きくなるので利益も上がりにくい。
そうしたことから、経営不振に陥って破綻した企業の再建計画には、有利子負債をいつまでに、いくら減らすという項目が盛り込まれるケースが多い。それだけ重要な要素ということだ。
(15) 売上高対支払利息比率は妥当な水準にあるか
売上高に対する支払利息の比率から利息の妥当性を判断する指標で、次の算式のように計算する。

数値は、低いほどよいが、一般に製造業の平均は1.1%、卸売業の平均は0.8%程度と考えられる。
支払利息比率が高い場合は、その原因を調べて標準値以内に収まるよう対策を講じる。具体的には、借入金を減らしたり、利率を引き下げるといった方法が考えられる。
また、この比率単独ではなく、売上総利益率の予想から、売上高に対する利息負担が何%なら適正かの判断も重要である。たとえば、販管費の予算はいくらだから、売上高対支払利息比率はこれくらいが適当という具合だ。
上の算式の下段の例では、売上高対支払利息比率は1.6%(経常利益率5.3%)だが、もし経常利益率の目標を0.5%アップして5.8%とするなら、売上総利益率の引上げ、経費節減等による販管費比率の引下げ、売上高対支払利息比率の引下げといった対応が必要になる。
上の例で、支払利息の削減によって経常利益率5.8%を達成するためには、支払利息比率を1.1%にする必要がある。
適切な支払利息比率は、業種や会社ごとに異なるので、中小企業庁が出している「中小企業の統計数値」等を参考に自社の目標値を決めるとよいだろう。
(16) 投資資金の回収は計画どおりか
設備投資は、長期間にわたり資金が固定化するので、最終的に投資額が回収できるかどうかで実行の可否判断をする。投資資金を借入れで調達しても、その設備が一定の期間効率よく稼動すれば、生産した商品から利益が生じる。その利益から投資金額を回収しようという考え方である。
回収すべき金額には、当然、借入金の金利を含めなければならないから、実行の可否はそれを含めた期待利益額の「現在価値」で判断することになる。
現在価値とは、時間的経過によるお金の価値の変化を考慮して、将来入金予定の金額を現時点の価値に換算したものだ。借入れにより資金を調達した場合、たとえば5年後の入金予定額の現在価値は、5年間の金利を差し引いた金額となる。つまり、5年後の100万円は、いまの100万円と同額ではないということだ。
現在価値の計算式と計算例は、次のとおり。

下段の計算例では、5年後に入金予定の100万円の現在価値は78万円となっている。これを逆にみると、78万円を年利5%の複利で運用すれば、5年後に100万円になるということである。
なお、金利率は通常、借入利率(資金を借入れで賄う場合)と、期待利益率を勘案して決定する。借入利率が5%で、期待利益率が5%なら、現在価値の金利率は合計の10%となる。
現在価値の意味を正しく理解し、収支をシミュレーションしたうえで、現在価値が初期投資額以上なら投資を実行する。可否判断の1例を挙げると、次の図表のようになる。

この例では、初期投資額と5年間の現在価値が一致するので、投資判断は「可」となる。
以上のように、長期投資の可否判断はドンブリ勘定ではなく、綿密な収支予測とシミュレーションに基づいて行なう必要がある。それが、資金の有効利用はもちろん、ムダ・ムリな借入れの防止にも結びつく。

<< 借入金適正度の判定と今後の対処策 >>

借入れの適正度を見るための16のポイントと考え方を説明してきたが、実際に自社の借入金適正度を判定してみよう。
まず、冒頭の「借入金適正度評価表」に基づき、100点満点で自社の得点を出す。採点に当たっての注意点を挙げておこう。10点(5点)は「完全」という状態であり、該当する企業は多くない。相当良好な状態にあると感じるところで、8点(4点)が妥当な線だ。平均点の6点(3点)が取れていれば、通常のことはできていると評価できる。
評価・採点が終わったら、合計得点を次に掲げた採点結果の評価に当てはめる。

これで、自社の借入金適正度が判定できる。併せて今後の対策の方向性も示した。
この判定結果はあくまでも1つの目安だが、自社の改善点を発見し、対策を打つためのヒントにはなるはずだ。経営環境が厳しさを増すなか、問題点を発見したら一刻も早く、できることから改善に取り組んでいただきたい。

著者
岡 正煕(中小企業診断士)
2010年1月末時点の法令等に基づいています。