ビジネスわかったランド (経理)

事務組織と記帳

勘定科目設定に関する規制は
 財務諸表規則や会社計算規則、法人税法など法律の定めに従うことが大前提だが、会社の実情にあった科目を設定するほうが処理しやすい。ただし、勘定科目の定義は経理規程とは別に取扱要領として規定しておくことが必要。

<< 勘定科目の設定の考え方 >>

勘定科目設定の目的
勘定科目は、法的規制や会社管理等のために設定される。
会計法規や税法によって詳細に規定されている場合は、そのような法規に合わせて勘定科目は設定されなければならない。
一方、会社の経営成績の把握や事務合理化を遂行するためには、勘定科目を、会社の管理目的に合わせて設定しなければならない。

法律の定めに従う
財務諸表の表示方法について詳しく規定しているものに財務諸表規則がある。これは、金融商品取引法により有価証券報告書等を提出する会社に適用されるものである。有価証券報告書提出会社以外の一般の会社は、会社計算規則に従った財務諸表を作成し、取締役会の承認を受け定時株主総会に提出しなければならない。
そこで、中小企業の場合は、会社計算規則に従った勘定科目体系を設定すればよいことになる。ただし、会社計算規則は、さほど詳細ではないので、財務諸表規則を参考にするのがよい。
税法に従った勘定科目を設定することも必要である。経理実務は、税務会計といってもよいほど税務と切っても切り離せない。
消費税であれば、課税取引と非課税取引がある科目を「○○勘定(課税)」、「○○勘定(非課税)」と別に設定するのが便利な場合もある。課税売上高5億円を超える場合、課税売上割合が95%以上の場合に課税仕入等の税額の全額を仕入税額控除する特定が適用できない(平成24年4月1日以後に開始する事業年度より適用)。そのとき、仕入税額控除の按分計算を個別対応方式ですることを選択した場合には、課税仕入の科目を、課税売上のみに対応するものと非課税売上のみに対応するものとに区分して設定することが有用な場合がある。
法人税であれば、寄附金という科目を用意しておくことや、接待交際費勘定と会議費勘定を設けて、法人税法で規定された該当取引はすべてこの科目で処理するようにすれば、法人税の申告書を作成する手順が効率よくなる。

会社の実情に合った科目を設定する
あまり使わないような勘定科目は設けずに、会社の事業活動の中で通常使う科目に絞って設定しておくのがよい。過去の実績をみて設定すること。
財務諸表規則に例示されているからといって、そのとおりに勘定科目を設定しても、使わない科目があれば、いたずらに総勘定元帳に白紙のページが増え、試算表が見にくくなるだけである。
たとえば、繰延資産は該当する取引が発生しない見込みであれば、設けなくてもかまわない。特別損益の部も特定の勘定科目を当初から設定せず、各3件程度の勘定科目枠を確保するだけにしておくのが実際的である。
「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」により、会計上の変更や誤謬の訂正がある場合には、遡って過去の財務諸表を修正再表示しなくてはならなくなったので、過年度修正損益を特別損益の区分に記載することは原則としてあり得なくなった。引当金など見積もり誤りにより繰入や戻入をする場合も同様であり、合理的な範囲の見積もり誤差は、臨時巨額ではあり得ないので特別損益には記載されない。

管理目的に適した勘定科目を使う
損益計算書の各勘定科目は、会社で管理するレベルと内容に合わせて適当な名称の科目を設定することが望ましい。期別に比較するため、科目を頻繁に変更するのは望ましくないので、はじめに必要十分な科目分類をしておくべきである。
営業車のガソリン代について車両費勘定とするかガソリン代勘定とするかは、企業の予算管理の視点による。郵便小包代を通信費とするか運賃とするかも、予算で何を管理しようとするかという会社の方針によるものである。

科目の定義を規程で明確にする
勘定科目は、様々な目的のもとに設定されるが、その目的ごとに勘定科目を設定することは、いたずらに財務諸表の様式を増やすことになり好ましくはない。法的な規制は最小限にクリアして、会社目的に添った財務諸表を開示できるような勘定科目設定を考えるべきである。
ただし、財務諸表は、株主や金融機関など利害関係者にも開示することがあるので、一般的な科目を使うことが望ましい。
勘定科目の定義は、経理規程と別に取扱要領を規定して行なう。勘定科目取扱要領には、自社で使う科目のみを経理の専門家でない人にもわかりやすいように具体的に定義する。とくに補助科目の定義は明確にしておかないと、集計金額が会社の管理資料として使えないものとなるか、別にデータを集計し直さなければならなくなる。

勘定科目の要素
勘定科目を設定するに当たって定義しておかなければならない要素は、次のとおりである。
1.名称…簡潔な名称とすること
2.内容…勘定科目取扱要領で具体的に定義する
3.貸借区分…借方の科目か貸方か
4.分類区分…財務諸表での開示上の区分および経営分析上の区分
5.補助科目の有無
6.部門管理の要否
7.予算管理の要否
8.消費税区分
少なくとも、以上の要素については、科目マスターを設計する場合に定義しておく必要がある。2の「内容」は摘要を登録する場合には、帳票設計に組み込まれる。
また、経営分析に役立つ会計情報を提供するためには、勘定科目は、金額だけでなく、数量データを扱えることが望ましい。たとえば、個数、重量、容積などのデータを売上高勘定でもつことができれば、会計システムの中で、売上の増減理由が単価なのか数量なのかを分析できる。
前述の通り、仕入税額控除の按分計算を個別対応方式でする場合には、課税仕入科目を課税売上のみに対応するものと非課税売上にのみ対応するものとに区分することを考慮する。

<< 勘定科目処理を規制する法律・規則 >>

会計法規
会計処理に関する法規として、企業会計原則、会社計算規則、法人税法などがある。
企業会計原則は、旧証券取引法に基づき経理を公開する要請のもとに旧大蔵省企業会計審議会により制定されたものである。
金融商品取引法の目的から投資家保護のため、投資家にとって重要な企業業績の算定に主眼が置かれている。
一方、会社法は、株主や債権者保護の立場から資本維持としての配当可能利益の算定に主眼が置かれている。会社法は、すべての企業に強制される法律であり、企業会計原則は、金融商品取引法※適用会社に限られる面がある。
ただし、企業会計の実務慣行の中から、帰納的に求められた企業会計原則は、「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」として会社法上もすべての企業が遵守しなければならない面をもっている。
法人税法も、公平な課税のため詳細な課税所得の計算規定を設けるなかで、すべてを税法で規定することは無理なため、会社法と同様、「公正妥当と認められる会計処理基準」への斟酌規定を設けている。
※証券取引法は、金融先物取引法などと統合され、金融商品取引法として平成19年9月30日に施行された。

企業会計原則
企業会計原則は、企業会計の実務上で慣習として発達したものの中から、一般に公正妥当と認められたところを要約したものであって、必ずしも法令によって強制されないでも、すべての企業が会計処理に当たって従わなければならない基準である。
したがって、他の法令で規定のない事項については、企業会計原則に立ち戻って判断することになる。
なお、企業会計原則の中で、解釈上疑義のある重要な項目の意義等について明らかにしているのが企業会計原則注解である。

財務諸表規則
「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」を財務諸表規則という。金融商品取引法により有価証券報告書等を提出する会社に適用されるものであり、企業会計原則を敷衍したものともいえる。財務諸表規則を補足するものとして財務諸表規則ガイドラインがある。

会社計算規則
有価証券報告書の提出会社以外の一般の会社は、会社法の「会社の計算」に従い、会社計算規則によって財務諸表を作成する。

法人税法など
また、税法は勘定科目処理に影響を及ぼすことでは、無視できない存在である。法律の形式は、法律、政令、省令、告示、通達に分類できる。
法律は、国会で立法される最も重要な法源である。たとえば、租税特別措置法は、時限立法であり、適用期限を限った法律であるが、適用期限を更新して経常化しているものもある。特別償却、準備金、交際費などを規定している。
政令や省令は、内閣または大臣が制定する命令であり、法律の詳細な部分を規定している。法人税法施行令などがこれに当たる。
告示とは、大臣等がその所管事務に関して行なう公示のことであり、通達は、上級行政庁が下級行政庁に対して発する命令や指示のことである。
通達は法律ではないので、裁判を拘束できないが、実務上疑義のある点につき詳細な判断をしているので、実務上は通達に従って処理しているのが通例である。

基準と指針
従来、企業会計審議会が策定してきた会計基準は、平成13年7月に設立された(財)財務会計基準機構(FASF)の中の企業会計基準委員会(ASB)が策定することになった。
これらは、一般に公正妥当と認められる企業会計の基準となるもので、企業会計上の規範である。
また、これまでの日本公認会計士協会が公表していた「実務指針」や「Q&A」に加えて、会計基準の解釈や補足や詳細を規定するものとして「適用指針」や「実務対応報告」がFASFから公表される。

中小企業の会計に関する指針(中小会計指針)
ASBなど関係4団体が主体となった委員会で平成17年より作成されているもので、公認会計士監査を受ける会社とその子会社等を除いた会社を対象としている。会計基準は企業の規模に関係なく適用されるべきであるが、この指針は中小企業で活用できるようコストベネフィットも考慮し、かつ重点的に会計基準を示している点に特徴がある。
この指針を適用して財務諸表を作成しているかどうかを示す「チェックリスト」を利用することで、中小企業の信用をつける手段とすることもできる。

中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)
中小企業の多様な実態に配慮し、中小企業の経営者が理解しやすく自社の経営状況の把握に役立つものとするとともに、会社計算規則に準拠しつつ、中小企業に過重な負担を課さないものとすること等(国際会計基準の影響を受けない)を目的に、平成24年2月1日に中間報告を公表している。
中小会計指針と同様にチェックリスト(平成24年3月公表)もあり、より簡便に、より使いやすくなっている。

IFRS
国際会計基準と呼ばれることが多いIFRSs(International Financial Reporting Standards アイエフアールエス、アイファース、イファース 国際財務報告基準)は、国際会計基準審議会(IASB)によって設定される会計(開示)基準であって、会計(開示) 基準の世界標準を目指しているものである。
2015年か2016年には、日本でも上場会社の連結財務諸表に強制適用される見込みである(注1)。中小企業の個別財務諸表には適用されないと思われるが、財務諸表の名称も表示形式も全く違う、資産負債の評価方法が全く違うなど、従来の会計基準とは思考が異なっていることと、日本の会計基準がIFRSsに収斂(コンバージェンス:convergence)し、財務諸表規則が改変されていくので、IFRSsを理解していかざるを得ないであろう。企業会計原則が有名無実化し、日本の会計基準がダブルスタンダード化する中、IFRSsに注意が必要である。
なお、IFRSsは株式を売買する投資家のための財務報告を目的とした基準であるので、経営者にとって自社の経営成績などを知るためには役立たない。

(注1)
2011年6月1日、自見庄三郎金融担当大臣が「少なくとも2015年3月期についての強制適用は考えておらず、仮に強制適用する場合であってもその決定から5~7年程度の十分な準備期間の設定を行う」と談話で述べて以降、IFRSの強制適用は後退している。

<< 業種別の勘定科目設定のポイント >>

業界の法規に従う
まず、業界で法規(業法)がある場合には、その業法に従った科目設定をしなければならない。そのうえで、自社の実態に合わせるように工夫すべきである。
業種別に財務諸表に表示される科目は、下記のとおり異なる部分がある。市販のソフトを利用して経理処理をする場合には、勘定科目が自社の業種に合わない場合がある。一般的には、会計ソフトの勘定科目名は、ユーザーで変更できるようになっているので、科目ごとの対象を参考に自社に適合した名称に変更すればよい。
補助科目が拡張しやすいソフトを選ぶようにすれば、勘定科目設定での制限が少なくなる。
EDINETや税務申告でも導入されるようになったXBRLの業種別タクソノミを参照することも有益である(XBRLは、財務報告用の情報を作成・流通・利用できるように標準化されたコンピュータ言語である)。
業種別の勘定科目設定では、主として売上高や売上原価で独自性がみられる。

商業
商業の勘定科目は、卸売業であっても、小売業であっても変わらない。会社計算規則や財務諸表規則を読みかえることなく、そのまま使える。
棚卸資産科目は、通常、商品と貯蔵品のみであり、これらを販売等した結果生じる売上原価の構成科目は、次のとおりである。
・商品期首棚卸高
・当期商品仕入高
・合計
・商品期末棚卸高

製造業
棚卸資産科目は、製品、半製品、原材料、仕掛品、貯蔵品からなる。製品は、製造工程を終了した販売を目的として所有する物品である。
副産物と作業くずは製品に含める。仕掛品は製品、半製品、部分品等を製造するために現に仕掛中のものをいい、半製品は、製造工程の一部を終わって貯蔵されているもので販売可能な状態の物品である。自製部分品は半製品に含める。原材料は、製品の製造目的で費消されるもので、未だその用に供されないものである。購入部分品は原材料に、補助材料は貯蔵品に含める。
売上原価の構成科目は、次のとおりである。
・製品期首棚卸高
・当期製品製造原価
・合計
・製品期末棚卸高
・原価差額
・他勘定振替
製造原価を計算する際に、少なくとも材料と仕掛品の棚卸計算は行なわれるので、当期製造原価の内訳科目として、仕掛品期首棚卸と仕掛品期末棚卸高を設け、材料費の内訳科目として、材料期首棚卸高と材料期末棚卸高を設けることが望ましい。
市販の会計ソフトの中には、材料と仕掛品と製品を、当期製造原価の中で区分していない例が見受けられる。製造原価明細書をつくらないために陥る誤りである。
製造原価の計算過程を明確にするためにも、また貸借対照表と損益計算書の相互関連を明らかにして検証をしやすくするためにも、製造原価明細書がアウトプットできるような勘定科目設定が必要となる。

建設業
棚卸資産科目は、未成工事支出金、材料、貯蔵品を用いる。未成工事支出金は、引渡しが完了していない工事に係る材料費、労務費、直接経費をいい、外注先に支払った前渡金を含み、工事進行基準により完成工事原価に含めたものは除かれる。主に造船業で用いられる半成工事とは区分する。
完成工事原価の構成科目は、次のとおりである。
・期首未成工事支出金
・当期工事原価
・合計
・期末未成工事支出金
工事原価は、工事現場単位で工事台帳に記録させるので、工事台帳で使う費目分類と会計上の科目とがリンクできるように会計ソフトまたは工事台帳ソフトで対応することが必要となる。
建設業では、このほかに、次のような独特の勘定科目を用いる。
・完成工事高…………売上高
・完成工事未収入金…売掛金
・工事未払金…………買掛金
・未成工事受入金……前受金

サービス業
サービス業では、一般的に棚卸資産は生じない。ソフトウェアを作る業種では、製品や仕掛品が生じるが、ソフトウェア業は、むしろサービス業というよりも製造業として勘定科目の設定は考えたほうがよい。時間工数で製造原価を集計するのである。
多様化するサービス業では、様々な役務を具体的に示す科目を設定することが経営分析上有用である。
まず、役務の収益性と将来性とを考慮して類似した役務をグループ化する。経営戦略に合致した区分であることも必要である。あまり細かく分類せず、3区分程度にまとめる。
また原価も、できる限り個々の役務収益と対応した科目で設定するのが望ましい。

著者
藤野正純(公認会計士)
2012年6月末現在の法令等に基づいています。