ビジネスわかったランド (経理)

売上、売掛金の管理

海外取引先倒産時の対処は
 取引先の倒産情報をつかんだら、債権残高や契約残の確認、債権登録をはじめ、次の行動を迅速にとる必要がある。

<< 得意先倒産、まず何をどうするか >>

日本国内であれば、取引先倒産の情報はさまざまな形で入手できる。新聞などのメディアはもちろん、信用調査会社の倒産速報、不渡り情報や倒産情報だけを専門に扱っている調査会社もある。東京商工リサーチの倒産速報のように、携帯電話のiモードに配信してくれるサービスまである。また、営業マンが顧客を訪問してみると、事務所の扉に倒産を知らせる貼り紙があったというケースもよくある。

債権者としてとるべき行動
ところが、これが海外企業の倒産を日本で把握するとなると、そう簡単にはいかない。「最近、海外の取引先と連絡がとれずに、おかしいと思って調査会社に調査を依頼したところ、数か月前に倒産した事実が判明した」という笑えない話も実に多い。
こうした事態を防ぐためには、調査会社のモニタリングサービスを活用するのも1つの方法だが、やはり取引先の定期調査を行なうことが大切である。ある日突然、管財人から取引先の破産申請の通知が届くというのもよくある話である。債務者が倒産する前には、ある種の兆候が必ず見られる。担保債権者による固定資産・棚卸資産に対する差押え通知や執行、一般債権者による多数の訴訟、金融機関による与信枠の削減、示談交渉の失敗などが主な兆候である。こうした兆候を見逃さずに詳細な調査を行なうことで、最悪の事態は回避できる。
取引先の倒産情報をつかんだら、債権者として次の行動を迅速にとる必要がある。
・倒産の種類を確認する
・債務者に説明を求める
・取引先の信用調査を依頼する
・債権残高、契約残を確認する
・契約残がある場合は出荷を停止する
・債権登録をする
・倒産手続きの進捗状況をモニタリングする

事実関係の把握
海外の取引先倒産の情報を入手したら、まず事実関係の把握に努める。信用調査会社に調査を依頼したり、債務者に対するヒヤリングを行なったりして事実関係を把握する。
一概にOut of Business(倒産)といっても、さまざまな種類がある。国により詳細は異なるが、倒産は法的整理と私的整理に大別できる。海外の倒産の場合は、圧倒的に私的整理が多い。信用調査レポートにも、ただ単にOut of Business(倒産)、Ceased Operation(営業停止)、Dormant Concern(休眠会社)などと記載されている場合があるが、そのほとんどは私的整理である。法的整理であればFile for Bankruptcy(破産を申請)、File for Chapter11(米連邦破産法11条を申請)などの表記になる。
どちらとも判断がつかない場合は、債務者や調査会社に直接問い合わせをしよう。法的整理であれば、裁判所やLiquidator、Trustee(管財人)から正式な破産通知がくるのが一般的である。
こうした倒産の事実関係の確認と同時に、債務者との契約内容を確認する。未回収の債権残高、契約残を調べる。もし、契約残がある場合は、まず出荷を停止する。もちろん債務者との契約内容によっては、一方的に契約を解除できない場合もある。あるいは、管財人からの要請で、どうしても原材料などを供給しなくてはならない場合もある。
いずれにしても、まずは出荷を停止してから、契約条項を精査して今後の対応を検討する。

忘れてはいけないFiling of Claims(債権登録)
債務者が法的整理を申請した場合に忘れてはいけないのが、債権登録である。通常、裁判所から送付される債務者の破産通知には、債務者が債権者に対して有する債権額がすでに記載されている。その金額に間違いがなければ署名をして返信すればよい。
しかし、たとえ少額でも差異があれば、関連書類一式(注文書、請求書、受領書、通信文等)とともに、債権を裁判所に登録しておくべきである。債権の一部が担保債権の場合は、無担保債権の分だけを登録する。担保債権の関連書類も同封しておくとよい。
ところが、海外の債権者は、リストからもれる可能性が高く、登録フォームが送付されてこないことも多い。あるいは単純に債務者や裁判所のミスにより裁判所から通知が送られてこないこともある。
その場合は、債務者や管財人に連絡をとり、債権登録用紙を送付するように要請する。
Unsecured Creditor(無担保債権者)の場合、配当はほとんど期待できないが、債権登録していなければ、そのわずかな配当を得ることすらできない。面倒がらずに必ず行なおう。
国により異なるが、債権登録の手続きは、いたって簡単である。公正証書にする必要もなく、債権額の合計を記載し責任者が署名をして、関連書類一式を添付して送り返せばよいだけである。
では、管財人からは何の通知もなく、債務者の倒産も知らずに、気づいたら債権登録の期限を過ぎていたような場合はどうなるのか。経験上でいえば、登録する権利があることを主張すれば通ることもある。これはあくまで債権者に通知してこない債務者や管財人の責任なので、ぜひ、あきらめずにトライすべきだ。
債権登録がすめば、あとは、破産手続きや再建手続きの動向をモニタリングし、必要に応じた対応をとればよい。国や債権額によるが、実務上することはほとんどない。大口債権者で、再建計画に影響力があるようであれば、債権者集会に出席したり、再建計画を評価したりする作業も生じるが、そのために海外に出向くのは費用と時間がかかるので、弁護士を代理人に選任し、一任することもできる。

<< 米連邦破産法の流れ >>

米国の取引先が米連邦破産を裁判所に申請した場合の債権回収の制限など、債権者の必須知識を取り上げておこう。主な米連邦破産法は、図表1の5種類だが、日本企業が債権者として関わるのは、「Chapter7」か「Chapter11」であることが多い。


Chapter7とChapter11
米連邦破産法第7条(チャプターセブン)は、企業の清算を前提とした破産手続きである。Chapter7の申請が受理されると、債権者に対する弁済が自動的に禁止となる。その後、管財人が、企業の全資産を評価、売却、換価して、売却益を優先順位に従い配当していく。優先順位は、担保債権者、裁判所・管財人などの費用、税金、一般債権者の順になっている。
Chapter7では、債権登録をする以外に一般債権者にできることはない。担保債権者でも100%回収できないのが常識で、一般債権者に仮に配当があったとしても、きわめてわずかな金額である。なお、Chapter11に移行したほうが、債権者にとって有利であると裁判所が判断すれば、Chapter7からChapter11に移行する場合もある。
Chapter11は、個人事業主、パートナーシップ、法人の企業再建を前提とした法的手続きである。債務者は、債権者に大幅な債権放棄を依頼し、Plan of Arrangement(再建計画)を作成し、債権者と裁判所の承認を得て、計画を数年かけて履行し企業再生を図っていく。再建計画の履行中は、債務者は自己の資産を所有することができる。日本の民事再生法は、Chapter11をもとに立案されている。
Chapter9は、市・郡・学校・トンネル・橋・港・高速道路のような、公的機関の再建型破産手続きで、Chapter11の公的機関版と思えばよい。Chapter12はChapter11の農家・漁師版だ。
Chapter13は、個人や個人事業主を対象としているが、担保債権92万2,975ドル、一般債権30万5,675ドル未満の債務に限定される。この手続きでは、裁判所が3年~5年の返済計画を指示することが多く、配当もChapter11よりもおおむね少ない。

Chapter11の流れ
Chapter11の申請が受理されると、担保債権者、法定担保権者を含むすべての債権者は、債権回収行為を進めることが一切できなくなる。これが、Automatic Stay(自動停止)と呼ばれる規定で、米国の破産手続きの最大の特徴である。
裁判所は、債権者すべてに破産通知と第1回の債権者会議の日程を送付する。債権者委員会は、通常、7大債権者とその他の債権者で構成される。裁判所が債務者の重要な財務・運営情報を調査、見直し、分析するのに必要な債権者を任命する。裁判所は、債務者が正直にすべての資産を開示したかどうか、事業継続が可能かどうか、債務者の提案した再建計画作成や修正が可能かどうかを判断する。もし、大企業で債権者が多岐にわたる場合、複数の債権者委員会を結成する場合もある。
Chapter11の大きな特徴に、Debtor in Possession(DIP、占有債務者)がある。これは、現経営陣が破産後も経営陣として残り、裁判所や管財人の管理のもとに企業再建を主導していくものである。
第1回の債権者集会のすぐあとに、裁判所、債権者が承認した管財人を任命して債務者の業務と手続き全体の管理を任せる。このプロセスの一環として、債務者から詳細な報告を頻繁に受けて、経営陣がきちんと会社を運営しているか、資産が流出していないか、裁判所の規定を遵守しているかを判断する。
債務者が破産を申請してから120日以内に更生計画を提出しなければならないが、裁判所の権限でこの期間を最長18か月まで延長することができる。この期間を経過すると、今度は債権者側からも更生計画を提出することができる。
こうした交渉が行なわれるなか、裁判所は、さまざまな法的問題に注意しながら、一般債権者からの債権登録を処理する。債権登録にはbar dateと呼ばれる提出期限があり、通常は破産通知のなかに記載されている。
弁護士を通して債務者は、債権を抹消・減額するような措置をとろうとする。債務者の主張に対して、適切に反論できないと債権が抹消・減額する可能性があるので、直ちに、債務を証明する書類一式とともに反論書を提出しなけれならない。
債権者委員会が債務者の更生計画を承認すると、確認のために計画書を各債権者に対し送付する。計画書と一緒にdisclosure statement(ディスクロージャー・ステートメント)と呼ばれる一覧表が送られてくる。これには、債権者が計画書を評価できるような背景と財務に関する情報が記載されている。
担保債権者、一般債権者等のクラス別で、債権者数の50%超、債権額の3分の2超の債権を有する債権者が計画に賛成し、すべてのクラスで賛成されれば、計画は承認されたことになる。計画の承認後、債務者は破産手続きから免責される。
債権者が更生計画を否認しても、裁判所がその計画がすべての関係者にとって最良のものであると判断すれば、更生計画を認可する。反対に、更生計画が承認されなかったり、業務の継続が必ずしも債権者の利益にならないと裁判所が判断したりすれば、Chapter7に移行して会社を清算することになる。

Chapter11のその他の特徴
(1)Preference(偏頗譲渡)
COD(Cash on Delivery)、CWD(Cash with Order)等の現金取引以外の取引において、債務者の破産申請から90日以内の債権回収については、裁判所に偏頗譲渡とみなされ、後日、回収額を裁判所に返却しなければならない可能性がある。
この要件には、いくつかの“抜け穴”があり、裁判所からこの種の通知を受け取ったら、債権者側にも裁判所に控訴する権利がある。偏頗譲渡の通知を受領したら、社内の法務部や弁護士に相談すべきである。そうしないと、支払期限までに回収額を裁判所に返済しなければならなくなる。また、裁判所が要求する返済額についても間違っている場合もあるので、通知をきちんと確認して金額に差異がある場合には、弁護士を通して減額の申請をする。
その他の偏頗譲渡に、Chapter11申請の90日以内に行われた新規・追加の担保設定、未払いの在庫商品の引揚げなども含まれる。この場合も、偏頗譲渡の通知を受領したら、弁護士に相談すべきで、裁判所が債権者の主張する例外を認める場合もある。
たとえば、偏頗譲渡の期間内の取引と同時に行なわれた支払いがそれに当たる。偏頗譲渡の要件があるので、Chapter11を申請しそうな債務者に対しての強硬な回収を避ける債権者もいるが、債務者の申請日が予測できない段階では、督促を継続すべきである。
(2)Insider Preferences(インサイダー偏頗譲渡)
債権者の権利を守る偏頗譲渡のもう1つの要件は、インサイダーに該当する会社役員、社員によるChapter11申請の1年以内に行なわれた資産の移動で、これも返却しなければならない。しかし、資産(通常は現金)を取得した個人も自己破産を申請するので、回収率はあまり高くない。
債務者と緊密な関係にある大口債権者が申請の1年以前に新規・追加の担保設定をしたような場合も、インサイダーとみなされることもある。また、一般債権者が債務者の社長から個人保証を申請の1年以前以降に入手した場合も、インサイダーとみなされる。しかし、この要件は、1994年10月の米連邦破産法の改正に伴って変わった。改正点については、次の「(4)中小企業用のChapter11」で取り上げる。
(3)Reclamation(商品の返却)
債務者の破産申請の20日以前以降に出荷した商品の返却に関する通知を送付することを認める規定がある。
しかし、残念なことに、破産法のこの規定は債権者のために設けられたものであるにもかかわらず、実務上の観点からはあまり有効ではない。障害となっている問題点は以下のとおりだ。
・商品が、すでに第三者に転売されている
・商品が原材料・部品で、すでに完成品の一部となっている場合、商品を特定・分離できない
・担保債権者が棚卸資産を含む債務者の全資産を担保に取得している場合、商品は返却できない
しかしながら、実際の商品が取り戻せなくても、裁判所が、商品の返却を主張した債権者に対して、破産手続きの管理費用の一部に含める形で配当を優先することもある。このプロセスを通じて「商品を取り戻す」ということになるので、債権者としては返却依頼することも検討したい。
(4)中小企業用のChapter11
債務額(担保つき、無担保債権を含む)が200万ドル未満の破産に関しては、簡素化が図られている。通常のChapter11との主な違いは、次のとおりである。中小企業向けに破産・更生のスピード化などがより図られている。
・債権委員会が結成されない
・破産申請日から180日以内に更生計画を提出しなければならない(裁判所の判断で最長300日まで延長できる)
(5)Priority of Payments(弁済の優先順位)
Chapter11における主要な債権の一般的な弁済の優先順位は、図表2のとおりである。

担保債権者は、実質的に米国内の大手取引先や金融機関なので、日本の企業であることは少ない。取引のある日本企業の多くは、一般債権者となり、優先順位も低い。だからこそ、倒産前の回収が重要なのである。
(6)Chapter11手続き中の顧客との取引
更生会社とは現金取引しかしない企業もあれば、高リスクの新規顧客と考えて金額を限定して与信する企業もある。更生会社は裁判所の管理下にあり、決裁は管財人の判断にすべて委ねられている。毎月のキャッシュフロー計算書の提出と、モニタリングを条件に与信するというのが一般的だ。
既存債務はすべて凍結されているが、Chapter11申請後に発生した債務はすべて管理費用となり、担保債権の次に優先配当される。そのため、必ず支払うという保証はないが、状況を把握して手堅く支払条件を設定すれば、よい取引先になるかもしれない、という考え方もできる。

著者
牧野 和彦(ナレッジマネジメントジャパン株式会社代表取締役、与信管理コンサルタント)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。