ビジネスわかったランド (経理)

売上、売掛金の管理

与信限度額の決め方とオーバーの際の対応法は
 取引先の売上規模の一定割合や同種企業への与信額を参考に決めたうえで、適宣、状況に合わせて見直しを図るとともに、オーバーしたときは厳正な検討のうえで対処する。

<< 与信限度額の考え方と設定方法 >>

与信限度の必要額とは、取引先との予想月商に締め日から回収日(現金回収)までの月数を乗じたものに、さらに1か月分の月商を加えた額である。追加した1か月分の月商は、最終締め日以降に納入する取引を考慮するものである。
この数字を押さえたうえで、与信限度額を設定するには、次のような方法がある。

月商の1割法
取引先の月商の1割を与信限度とする方法。取引先A社の月商が6億円だとすると、その1割である6,000万円を限度額とするやり方。
これは、特定取引先における自社の取引シェアがあまり高くなり過ぎないようにする設定方法。取引先での取引シェアが高くなることは、営業面においては望ましいことであるが、その取引先に万一の事態が発生した場合には、取引を中止することが非常にむずかしくなるおそれがあり危険である。

売上高予想法
取引先の年間総仕入高に自社の取引シェアを乗じたものを、売掛債権回転率で除した金額を与信限度額とする方法。
たとえば、取引先A社に対する売上が毎月1,000万円見込め、締め日から現金回収まで4か月かかるものとする。この場合、A社に対する債権残高は、
1,000万円×(4か月+1か月)=5,000万円
となる。
これを前提に、A社の年間総仕入高が5億円で自社の取引シェアがそのうち30%であるとすると、

が限度額となる。

同種取引先比較法
取引先A社と同種取引先のなかから標準企業(B社)を選定し、B社の限度額と比較して限度額を決定する方法である。

決定は総合的に行なう
このように与信限度の設定には様々な方法があるが、あくまでも、与信限度は取引先の信用状態や取引の条件、自社の財務的な体力、取引の実績等を勘案して総合的に決定すべきであり、また、環境の変化に伴い柔軟で迅速な対応が必要となる。
与信限度額の決裁については、一般的には、営業部から与信限度申請書が審査部に対して提出され、審査部ではこれに対し独自の信用調査を行ない、申請に対する意見を営業部に述べることとなる。
ただし、取引の重要性や、取引金額の大小によって手続きの簡略化を図ることは可能である。中小企業では、与信管理組織が整備されていない場合が多く、最終的な決裁者は社長となる。

<< 与信限度運用のポイント >>

与信限度設定のメリット、デメリットを知る
与信限度を設定することによって取引先のリスクに対する社内的な基準が明確になり、営業担当者も常にリスクを考えた営業活動を認識するようになる。
反面、与信限度を設定することは取引先によって取引を制限するものであるから、営業活動を消極的にしてしまうといった弊害も起こり得る。
また、与信限度を守っていさえすれば、取引先の債権が焦げ付いてもよいという誤った判断を招くおそれがある。このため、与信管理のメリットとデメリットをよく踏まえたうえで運用すべきである。

限度額オーバーがないか毎月のチェックと見直しを怠らない
毎月の与信管理の運用は、次の表に基づき取引先ごとの債権額が与信限度額を超過していないかをチェックすることによって行なわれる。このため、取引先ごとに与信限度額と実績債権額を比較できる資料を作成する。

また、設定時の与信限度額は適正であったとしても、現時点でそれが妥当なものかどうかのチェックも欠かせない。得意先の信用状況は、時々刻々と変化しているからである。
したがって、別分野に進出したり、人に動きがあったりした場合には、随時見直しを行ない、不安があれば限度を下げるなどの手を打つ必要がある。

<< オーバーの際の対応は >>

実績債権額は取引先ごとの受取手形合計と売掛金残高となり、与信限度額をオーバーしている場合、経理としては、早急に営業担当者に連絡することが先決である。その上で、オーバー分については臨時枠を申請させるなど善後策を講じる。さらに、与信限度額拡大を許容するか、それとも販売を抑えるかを検討する。
もちろん、得意先に信用不安や倒産の懸念がある場合は、出荷制限に踏み切るなどの策を迅速に講じる必要がある。

著者
木村 隆(公認会計士・税理士)
2009年4月末現在の法令等に基づいています。