ビジネスわかったランド (経理)

売上、売掛金の管理

与信限度額の設定方法は
 与信限度額の設定方法は種々あり、わが国では総合評価法、米国では簡便法がそれぞれポピュラーだが、自社に適した方法を選ぶことが肝要である。

こんなにある設定方法
与信限度額の設定にはさまざまな方法がある。たとえば、「上場企業は一律1,000万円、未上場は500万円」という限度額設定も、かなり荒っぽいが、顧客の属性から与信限度額を決定する一つの方法である。最近では、欧米を中心に統計や倒産確率を用いた与信限度額の設定方法が普及し始めている。
与信限度額の設定は、一般的に次のような手法がある。
・顧客申請法
・実績法
・法的信用限度法
・業種比較法(準用法)
・標準評点比較法
・売掛能力一割法
・自己資本基準法
・仕入債務基準法
・簡便法
・総合評価法

各設定方法の特徴を知る
(1) 顧客申請法
顧客が取引を希望する金額を基準に金額を設定する方法である。顧客も自社が支払える範囲で注文を出しているという前提に立ち、顧客の信用度に応じて申請額に対して70%~100%で設定する。ただし、ともすると営業面(売上拡大)が優先される傾向があり、非常にリスクが高い設定方法といえる。
(2) 実績法
既存の顧客に対して過去の取引実績や支払実績に基づいて20%~30%の範囲で増減していく方法だ。過去の実績に基づいている分、顧客申請法よりはリスクが抑えられている。
だが、取引先の財務状態の急激な悪化などには対応できないという弱点がある。
(3) 法的信用限度法
顧客の不動産の時価評価額から、担保がすでに設定された金額を差し引いて、その金額を基準に設定する日本独自の算出方法である。
担保主義をとっているため、一見、安全性の高い方法に思える。ところが、実際は担保分を差し引いた額がゼロかマイナスの場合が多く、実用的ではない。
また、日本とは不動産に対する考え方の違いにもよるのだろうが、世界的には一部の国を除いて、ほとんど使われていない方法である。
(4) 業種比較法(準用法)
欧米でよく使われる方法で、支払情報が容易に入手できる国で有効な手法である。同業他社の取引金額、与信限度額、支払実績を基準に自社と他社の企業規模に応じて与信限度額を設定する。
(5) 標準評点比較法
自社の顧客のなかでモデルとなる企業を決め、その企業に対する与信限度額を基準に、対象企業との評点や社内格付けを比較して与信限度額を設定する方法である。
(6) 売掛能力一割法
自社の全売掛金の10%~20%を上限に限度額を設定する方法である。自社の体力を重視するので安全性は高いが、顧客別のリスクが反映されないという難点、また複数の取引先が危険な状態になったときにリスクが大きいなどの問題点がある。
(7) 自己資本基準法
仮に顧客が債務を支払えなくなった場合に、顧客が自己資本を取り崩して支払うとすると、どの程度が適当か(可能か)という発想をもとに限度額を設定する方法である。
(8) 仕入債務基準法
自社が顧客の仕入シェアの何割を占めているか、その比率に応じて限度額を設定しようという考えに基づく設定法である。
問題は自社商品のカテゴリーのシェアは容易にわかるかもしれないが、その他カテゴリーのシェアがわからない場合も多いことだ。したがって、仕入債務における真の比率については、結局は推測の域にすぎないことになる。
一般的にはシェアに対して5%~30%の範囲で設定する。
(9) 簡便法
簡便法は米国で最もよく使われる方法で、次項で詳しく解説する。
(10) 総合評価法
総合評価法は、顧客の信用度を定性項目、定量項目の両面から分析して総合的に判断し、評点や格付けを設定する。それに応じて与信限度額を設定する、日本で最も一般的な方法である。

米国で最もポピュラーな簡便法
米国でよく活用されているのが、簡便法と呼ばれる与信限度額の設定方法だ。簡便法で設定するには、取引先の基本的な財務データと『ダンレポート』などの信用調査報告書が必要になる。ただし、財務諸表が入手できない場合でも、下に示した程度の財務データは、顧客に直接ヒヤリングするなどして入手できるケースも多い。これらは、比較的入手しやすく、利便性が高いデータである。
なお、この手法は、とくに財務的、統計学的に厳密な根拠があるわけではなく、あくまで、米国で慣習的に利用されているにすぎない。
ここでいう運転資本とは、Working Capitalの日本語訳で、流動資産から流動負債を引いた金額を指す。本来、「運転資本」というと流動資産のことを指すが、企業の実際の運転資本は流動資産と流動負債の差額で見ていくほうが、とくに支払能力を判断するときには、より実態に則している。
・月間売上高(Monthly Sales)
・自己資本(Net Worth)
・運転資本(Working Capital)…流動資産から流動負債を引いたもの
・格付け(Credit Rating)
設例に基づき、実際に計算してみよう。
<設例 カンパニーA>
・D&B格付け 1A1
・売上高 400万ドル
・自己資金 60万ドル
・運転資金 50万ドル
・月間取引金額 2万ドル
・支払条件 Net30
・平均遅延期間 30日
カンパニーAに対する与信限度額を簡便法で計算してみよう。まず、月間売上高、自己資本、運転資本の5%~10%を計算して、最も低い金額と最も高い金額を与信限度額の幅とする。それから、この幅に対して格付けの要素を加味する。各項目の最低金額と最高金額は次のようになる。
・月間売上高……$16,667~$33,333
・自己資本……$30,000~$60,000
・運転資本……$25,000~$50,000
各項目の最低金額と最高金額との範囲である1万6,667ドル~6万ドルの中で与信限度額を決めていく。この場合、カンパニーAの格付けが1A1だから、与信限度額は6万ドルになる。もし、格付けが1A3であれば、最低金額の1万6,667ドルからのスタートになる。
そして、このカンパニーAに対する与信リスクは、トータル・エクスポージャー(Total Exposure)が4万ドルになるので、この4万ドルが適当かどうかを検証する。カンパニーAは、与信限度額が6万ドルなので、4万ドルは十分、範囲内に収まっている。仮に自社の複数の部門がカンパニーAと取引がある場合、そのカンパニーAに対するリスクは、自社の各部門がカンパニーAに対して抱える与信残高の合計になる。
各項目にかける指数は、慣習的に5~10%となっているが、実際に簡便法を導入する際には、まずこの計算方法で既存顧客に対する与信限度額を算出し、各顧客の取引実績と計算式で導き出された指数の乖離を調べ、指数の範囲や平均値を決定する。
与信限度額の根拠となる数値が入手できない場合に、入手可能な数値のみで算出できるのも簡便法の利点である。

著者
牧野 和彦(ナレッジマネジメントジャパン株式会社代表取締役、与信管理コンサルタント)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。