ビジネスわかったランド (経理)

固定資産等の管理

減損会計の資産・経営への影響は
収益性の悪い固定資産の含み損処理を促され、いわゆる負け組企業にとってより厳しい影響が出るとされる。

減損会計が資産や企業経営にどんな影響を与えるのかを解説すると、次のようになる。

<<減損会計が資産にもたらす影響>>

含み損のある土地
多くの土地を保有している不動産会社やゼネコンが受ける影響は大きいといえよう。ただし、財務基盤が強固で体力のある企業は、国際的な会計基準を先取りするとともに減損損失導入時の影響を少しでも和らげるため、以前から含み損処理を行なっている。
一般に、不良資産処理が可能である企業は、それに耐え得る財務的基盤があるとともに、将来ビジョンが確立している企業だといえる。逆に不良資産の含み損処理に耐えられない財務的基盤が弱い企業は、含み損処理を抱えたままとなろう。
含み損の処理を行なえない企業は、投資家や債権者から見てその含み損の金額を知ることができないため、信用リスクが増大し、資金調達や営業面にも影響してくるであろう。したがって、思い切った資産のリストラを行なえる企業とそうでない企業との格差は、さらに広がる可能性がある。

遊休地
遊休地は事業化の予定のあるものと、ないものに大別することができる。
事業化の予定のあるものについては、前問(Q 減損損失の計算のやり方は)の設例で述べた土地についての扱いと同様である。
すなわち、事業化によりもたらされるキャッシュフローからの使用価値または土地の正味売却価額と遊休地の帳簿価額とを比較して、帳簿価額のほうが大きければ、減損損失を計上することになる。
将来の用途が定まっていない遊休地については、現在の状況に基づき将来キャッシュフローを見積もる。将来の用途が定まっていないということは、結果的として、売却を前提とした価額によって減損損失を計上せざるを得ない。
すなわち、減損会計の導入により、バブル期に取得したまま遊休となっている土地については、評価減は避けられない。最も減損会計の導入の影響を受ける可能性が強くなる資産だといえよう。

本社ビル・社宅等
本社ビルや社宅、試験研究所などの資産は、それ自体で独立したキャッシュフローを生み出すものではなく、工場等の他の資産グループが将来キャッシュフローを生み出すに当たりそれに寄与する性質をもった資産(のれんは除く)として「共用資産」といわれる。
共有資産は、減損損失の認定において、全社を1つの資産と見る全社ベースで判断することになるため、本業で十分な利益が出ていない場合はもちろん、利益と比べて不相応な本杜ビル等を所有している企業は、減損会計の影響を受けることになろう。

工場・製造設備
工場や製造設備は、減損会計の導入により収益性がクローズアップされることになる。収益性の悪い工場を保有し続け、悪化する一方である場合、毎期、減損損失を計上することになる。
それを避けるためには、製造する製品の見直しや事業計画の変更、さらには工場の閉鎖といった対策が必要となろう。

<<会計が企業の経営にどんな影響を与えるか>>

減損会計は「勝ち組」にやさしく「負け組」に厳しい
減損会計は、「勝ち組企業にやさしく、負け組企業に厳しい」といわれる。
減損会計は、基本的に収益性の悪い固定資産に適用される。
また、事業から生み出されるキャッシュフローの大きさがポイントになるので、キャッシュフローが大きい企業はそもそも減損損失の測定は不要になる。キャッシュフローが小さいもしくはマイナスの事業を多数有する企業が、減損損失の検討を余儀なくされ、一喜一憂することになるわけである。
その意味で、減損会計の影響は、負け組企業にとってより厳しいものとなる。

「損失先送り経営」ができなくなる
減損損失は、帳簿価額をキャッシュフローをベースとした回収可能価額まで評価減して測定するものである。
バブル期に購入された高い土地、建物の帳簿価額と回収可能価額を比較するわけであるから、回収可能価額がそれに見合うほど高くないと、多額の減損損失を計上することになる。従来の取得原価主義の下では認識されなかった固定資産の含み損も、キャッシュフロー・ベースで投資を回収できない場合は、評価損の計上が強制されるため、「損失先送り経営」はできなくなる。

キャッシュフロー経営が重要になる
減損会計により、従来開示されなかった固定資産の利用状況がキャッシュフローをベースに財務諸表に反映されることになる。減損処理は、原則として損益計算書の特別損失に計上され、当期損益に直接影響を及ぼす。したがって、経営者は、投下資本の回収過程において、固定資産が生み出すキャッシュフローを常に意識した経営が求められることになる。

資産の効率的利用が進む
減損を回避または少なくするには、資産を効率的に利用し、それから生み出されるキャッシュフローの回収を増大させる必要がある。結果的に、非効率な資産は圧縮され、総資産が減少し総資産利益(ROA=当期純利益÷総資産)率が上昇する。
この具体的には、長期的なスタンスとして、経営資源の選択・集中で不採算事業を切り出しすることによるオフバランス化、ひいては固定資産自体を当初からオンバランスせず、賃借やリースにするといった手段が考えられる。
これらが一般化していくと、生産設備や店舗を企業が取得するインセンティブが小さくなり、「不動産は所有から利用へ」という動きがより強まっていくことになろう。

著者
吉岡 一人(経営コンサルタント)
監修
税理士法人A.Iブレイン
2013年4月末現在の法令等に基づいています。