ビジネスわかったランド (経理)

売上、売掛金の管理

回収手法とポイントは
 回収目標と期限を設定し、徹底した督促に務める。手段としては、即時性の面ですぐれている電話を積極活用すべきである。

<< 債権回収成功の5原則 >>

債権回収の成功には、手法や相手の国にかかわらず、共通の法則がある。それが次の5原則だ。電話で督促する場合も、FAXやメールで督促する場合も、この5原則を守ることで確実に債権回収ができる。
・目標の設定
・期限の設定
・徹底的な督促
・習慣づけ
・成果の確認

目標を設定する
債権回収にかかわらず、すべての業務は目標設定から始まるといって差し支えない。たとえば、電話1本かけるにしても、債務者との電話での会話によって、得たい成果を決めることから始まる。何の目標もなく電話をすると、相手が不在で何の成果がなくても、電話したということだけで満足しがちである。これでも何となく仕事をしたような気になり、次の電話はまた明日、という具合に先延ばしになる。債務者にとっても緊迫感がない。
ところが、目標が「債務者から明確な支払期限を引き出すこと」と決まっていれば、その成果を求めてその日は何度でも電話をすることになる。仮にその日に債務者と話ができなくても、債務者側には債権者から何度も電話があったという事実が残り、1回の電話よりもはるかにプレッシャーが強くなる。督促のメールを書く場合も同じで、自分は何を伝え、相手からどういう返答を導き出したいのかを考えながら督促状を書くようにする。
目標の設定は、5W1H(Who、When、Where、What、Why、How)で行なうと明確になる。

期限を設定する
5原則のなかで最も重要なのが、交渉における期限の設定である。期限を設定するのは、支払いそのものだけではなく、債務者の行動すべてにおいてだ。
その理由は、2つある。
まずは、期限を区切ることで、債務者のなかに緊迫感が生まれる。人間は、不思議な生き物で、仕事でも家事でも期限があるものは期限までに仕上げようと努力する。ところが、期限のない仕事は、いつも後回しになり、いつまでたっても終わらない。期限を区切ることにより、債務者のなかにその期限までに支払いをする、返答をするという目標が生じる。
もう1つの理由は、債権者にとって督促をするきっかけになるということだ。債権回収においてもメリハリは重要で、ただのべつ幕なしに督促をするというのでは効果が上がらない。「明日までに債務者に確認をさせる」「今週中に第1回目の支払いをさせる」というように、明確な期限を設けることで、それが実行されないときにはすぐにフォローアップすることができる。
「できるだけ早く」などというフレーズは、督促ではなく依頼やお願いに等しい。また、期限設定は、債務者だけにさせるのではなく、債権者側の行動にも必ず期限を設けるようにする。双方が期限を目指して行動する緊迫感が、早期の債権回収につながるのだ。

徹底的な督促をする
徹底的な督促とは、決して脅かしや強引な督促ではなく、迅速な対応と粘り強い督促を指す。債務者が設定された期限を守らない場合は、すぐに対応することがきわめて重要である。
たとえば、「今週の金曜日までに支払計画を提出する」という主旨の期限設定であれば、金曜日の夕方になってもまだ提出がなければ、間髪を入れずに督促する。時差の関係を考慮して、月曜日に督促すればよいという態度では、債務者は緊急性を感じなくなる。
そして交渉の結果、債務者が期限を延長したいと申し出たら、必ず延長の理由を確認したうえで承諾する必要がある。理由も聞かずに延長を承諾すると、債務者に都合のよい債権者と思われ、ますます増長させることになる。
しかし、実務上は、こうした債務者の延長の申し出を、無条件に受け入れざるを得ない場合のほうが多いのも事実である。その場合には、粘り強く督促することである。私も、英国の会社で担当者である社長と初めて話をするのに、20回近く電話をしたことがある。さすがにこれだけ居留守を使うと相手も悪いと思うのか、回収は成功裏に終わった。
迅速かつ徹底的な督促をすると、債務者は追い詰められて、最後には逃げられなくなる。王手をかけて王将を詰めていく将棋と同じだ。債務者がもち駒を使い果たし、逃げ道もなくなるときがくる。そのタイミングを根気よく待つことも大切だ。
粘り強く督促をしていくうえで重要なことは、情報の蓄積である。債務者の返答を記録に残すことは、非常に重要である。そうすることで、債務者の言い訳の矛盾や支払いをしない真の理由が見えてくる。

習慣づけをさせる
これは、債務者に期日どおりに支払いをする、債権者との約束を守るという習慣づけをさせることである。言い換えれば、債務者のなかにおける自社の優先順位を高めさせるということだ。
債務者は、常に多くの債権者を抱えている。そして、倒産していない限りは、必ず何社かの債権者には支払いを継続しているのだ。通常、これは、金融機関や大口仕入先など相手国内の有力な債権者になる。無担保取引の海外の債権者、しかも小口などは最も優先順位が低いと思ってよい。債務者の企業経営への影響が軽微だと考えられているからだ。
こうした状況で、海外の債権者が相手の支払いの優先順位を上げていくのは、大変なことである。優先順位を上げるためには、日頃から期限を設定し、守られない場合は「すぐに督促がくる、そう簡単にはあきらめない、あまりにうるさいから払ってしまったほうが楽だ」と思わせることが大切だ。債権回収においては、常に債務者の習慣づけを意識して対応したい。

成果を確認する
これまでの原則に基づいて行動したら、その成果を確認する。
回収できたのかどうか、できないのならばその理由を明確にしたうえで、次の目標を設定する。
この行動を繰り返すことで、効率的な回収に結びついていく

基本的な回収スケジュールの組み立て方
ここで、基本的な債権回収のスケジュールの例を図表1に挙げておこう。

このスケジュールは、これだけをやっていれば問題ないというものでは決してなく、「このタイミングで最低限これだけはやっておくべき」という主旨のものだ。これを参考にして、あなたの会社に最適のスケジュールを組んでいただきたい。
スケジュール例では、社内回収する期限を遅延期間90日までと定めている。90日以上遅延する案件については、CollectionAgencyや弁護士など外部の力を借りて回収することになる。

<< 具体的な回収手法とその特徴 >>

ここでは、図表2のような海外の債権回収の代表的な手法を比較検討してみよう。


電話
電話の長所は、即時性である。回収の結果がすぐに出るので、次なる手段を迅速に講じることができる。たとえば、債務者の担当者が退職している場合、手紙だとその事実が判明するのに郵便で1~2週間、FAXでも1~3日かかる。最近の便利なメールでは、送信エラーが返ってくればすぐにおかしいと気づくが、海外の中小企業だと情報システムの担当者も置いていないところがほとんどなので、エラーにならない。別のメールアドレスに送ってみて初めて退職の事実がわかるということも多い。電話なら、相手の会社に誰かいれば即時に退職の事実が判明する。さらにうまくすれば、新担当者を聞き出すこともできる。また、文章に比べて、言外のニュアンスもつかみやすい。
反対に、短所は、時差と言語である。とくに日本からの回収においては、英会話力が直接、回収率に反映するといっても過言ではない。また、時差の関係からヨーロッパ、アジアは比較的電話をかけやすいが、北米、中南米は大体、日本と反対なので効率的ではない。

手紙、FAX、電子メール
手紙、FAX、電子メールの長所は、明確性と証拠能力の高さである。手紙、FAX、電子メールの順に即時性も高くなるが、やはり文書の最大の威力は、こちらの伝えたい内容を明確に表現でき、しかも何度も推敲できるという点である。とくに日本人は、英会話が苦手でも読み書きに長けているので、英会話に自身のない人には最適の回収手段である。
短所としては、一方通行で双方向性がないという点だ。ただ、何といっても、一番の長所は証拠能力の高さである。電子メールが証拠として十分に通用することは、エンロンとアンダーセンの事件で証明された。海外取引においても証拠を残す、ということは重視したい。

訪問
日本における回収のイメージは、まさに取立てであり、一般的に、直接、債務者を訪問して回収する場面を連想する。しかし、世界的には、これは必ずしも常識ではない。米国では、債務者を直接訪問すること自体に危険が伴うし、国土の広さからも非効率的である。したがって、ほとんどの回収は、電話、FAX、電子メールで行なわれている。
訪問の長所は、双方向性、即時性にある。相手の表情の機微を読みとりながら、その場で交渉ができるという点が最大の利点である。
短所は、その効率の悪さである。事前にアポをとるべきかどうかは賛否両論、分かれるところだが、どちらにしても、訪問しても担当者に会えないというリスクがつきまとう。アポをとっても債務者は意図的に不在になるし、アポをとらなければ債務者が本当に不在のこともある。
また、日本から出張して回収するのでは、非常に高いコストになる。

もっと電話を活用しよう
こうして比較すると、日本からの回収では、電話が非常に効果的であることがわかるだろう。あなたは、海外の債権回収に電話をよく使うだろうか? もし使っていないなら、ぜひ使っていただきたい。非常に有効な回収手段である。
また、FAXや電子メールのフォローアップにも最適である。「英語を話すのが得意でないから」とよく尻込みする人がいるが、まったくもって心配ない。債務者が、英国、米国、カナダ、オーストラリア以外の国であれば、相手もほとんどまともな英語など話せない。中学から大学まで最低でも10年間は英語を学習してきたあなたのほうが、よっぽど文法的にしっかりした英語を話せるはずである。
ただ、そういう債務者がすごいのは、まったく物怖じしない点である。日本人のように自分の英語が相手に理解してもらえないのではないか、下手な発音で笑われるのではないかという懸念など微塵もない。一方的にしゃべりまくる。だから、こちらも思うことをゆっくりでもいいから、はっきりと言えばよいのだ。言うべきことを紙に書いて、見ながら話してもよいだろう。
ただし、相手の言っていることがわからない場合は、素直に聞きなおそう。「I beg your pardon?」と言えばよい。わかったふりをしていると、まったく交渉にならない。

<< 電話による回収の4つのステップ >>

電話での督促の基本であるオープニングは、図表3のような手順となるが、それを4段階に分けて解説しよう。


STEP1 コンタクトパースンと話す
"May I speak to Mr.SteveMartin ?"
「スティーブン・マーチンさんをお願いします
"This is Kaz Makino of Knowledge Management Japan Corporation."
「ナレッジマネジメントジャパンの牧野です」
電話で最も重要なことは、コンタクトパーソンと話すことである。たとえば、責任のある社長と話さなければならないときに、その秘書に足止めを食らっているようでは、回収もうまくいかないことが多い。秘書やアシスタントが出たときは、用件は伝えずに本人を出してもらうように依頼することが大切だ。気の利いた秘書ならば、債権回収の電話は、セールスマンの売込み同様に体よく断わろうとしたり、居留守を使ったりするものだ。
また、自社の営業部門と債権回収部門が別組織で、営業担当者とは別の人間が、債権回収だけを数十件も担当しているような場合は、電話をする前に債務者の情報を再度確認し、相手の対応に機敏に反応することが必要である。そのためには、顧客データベースなどを活用して、債務者の企業概要、過去の取引実績、支払履歴など、情報の共有化を図ることが大切である。ラストパーソンが電話に出たら、自分の名前を名乗る。自分の正体を明かさずに本題に入ると、相手は不信感から話に身が入らない。ひどいときには、そのまま電話を切られることもあるので注意が必要だ。直通電話などで本人が直接、電話に出てくれれば何の問題もない。しかし、秘書やアシスタントが出た場合は、Who's calling?「どちらさまですか?」と聞かれることになる。さて、何と応えるべきか? もちろん、自分の社名と名前を名乗るしかない。嘘をつくと、バレたときに、こちらの立場が弱くなるからだ。

STEP2 電話の理由と債務の詳細を説明する
"I am calling about you roverdue invoice The invoice umber is KM-021120-1 with the amount of JPY4,850,000-."
「請求書番号KM-021120-1、485万円の未入金の件です」
話している相手が実際の担当者や責任者であればよいが、そうではなく、秘書やアシスタントがMay I take your message?「伝書を承ります」、May I ask what this is about?「何のご用件でしょうか?」と開いてくるときがある。これにまともに応えるべきかは、ケース・バイ・ケースだが、初めて債務者と連絡をとるような場合は、要件は伝えずに電話を切ってかけ直したほうがよいだろう。
その対応に心配はいらない。電話した事実が大事なのである。
債務者と交渉中で何度かやりとりをしているような場合で、相手が居留守を使わない可能性が高い場合は、伝言を残し連絡をもらうようにする。ただし、ただでさえ支払いをしたくない債権者に対して、わざわざ国際電話をかける奇特な債務者は少ない。
もちろん、何度か電話をかけて秘書やアシスタントともうまくコミュニケーションがとれるようになればしめたものだ。結構、貴重な情報を漏らしてくれることがある。

STEP3 全額の支払いを要求する
"Would you please remit the full amount via t/t into our bank account today?"
「きょう、当社の口座に全額を振り込んでもらえますか?」
債権回収に慣れないと、ファーストコンタクトでつい「いつ支払ってもらえますか?」と聞いてしまうものだが、これは間違いである。まずは全額をすぐに支払ってもらえるように交渉する姿勢が大切だ。
そして交渉をしていくなかで、「全額は無理だが80%なら」とか、「きょうは無理だが今週中なら」というように譲歩し、具的な約束を取りつけていく。それを最初から、「いつ」と聞いてしまえば、「今月末とか」、「わからない」と債務者が言いやすい環境を用意してあげることになりかねない。まずは「全額をきょうすぐに」と覚えておいて欲しい。

STEP4 相手の反応を待つ
これを欧米では、「Strategic Pause」と呼ぶ。督促の電話で大切なのは、相手の話を聴くことである。それもできるだけ多く相手に話をさせるほうがよい。
交渉ごとはすべてそうだが、多く話したほうが負けである。なぜなら相手につけ入る隙、糸口を与えることになるからだ。
回収でいえば、債務者が多く話すほど、債権者は言い訳の矛盾を見抜くことが容易になる。相手が黙っているからといって、決してこちらから話を開始してはいけない。当面、言うべきことはすべて言ったのだから、あとは相手の出方を待つだけである。人間は沈黙の気まずさに耐えられない。その沈黙を埋めようと、必死で話し始めるものだ。
相手が話を始めたら、相手の話をよく聴いて、とにかくCommitment(約束)を取りつけることだ。約束の内容で最も重要なことは、必ず期限を設定することである。支払いの期限はもちろん、分割支払いの提出期限、回答の期限と、債務者が行なうと約束した行動には、すべて期限を設定する。それにより、期限を守る、期限を破るという結果がすぐに得られ、ただ漫然と待つだけではなく、迅速な対応が可能になる。

<< 電話による回収を成功させる25のチェックポイント >>

ここで、電話による回収のチェックポイントは、図表4のように25に集約できるが、それを解説しよう。オープニングについての6つのポイントは、前述したので、図表4の「最適の時間帯」の項から話を進める。


最適の時間帯
回収に最適の時間帯を見極めることは、きわめて重要である。一般に、午前中の電話は効率がよいといわれているが、時差の関係もあり、債務者が電話に出やすい時間帯もあるので、一概には決められない。早朝・午前・午後・夕方・夜などいくつかのパターンを試して、債務者ごとの最適な時間帯を把握する。
また、時間帯で注意を要するのが、金曜日など休み前の夕方の電話である。債務者は、週末のことで頭が一杯で、一刻も早く電話を切りたいばかりに、適当に相槌を打っているようなことがある。このような状態での約束は、守られないことが多いので、注意が必要だ。
また、イスラム圏では、金曜日が休みで土曜日は出勤という国もあるし、午後は1度自宅に帰り休憩をとり、夕方から夜まで働くという国もある。相手の国の文化や習慣は、最低限の情報として収集しておきたい。

担当者が不在の場合
伝言の残し方もむずかしいテクニックである。まずは、伝言を残すべきか、という大きな問題がある。状況にもよるが、初めての電話やボイスメ-ルの場合は、伝言を残さないほうがよいだろう。伝言を残しても債務者から折返しの国際電話があるわけでもない。むしろ、相手に警戒されて、取り次いでもらえなくなったり、居留守を使われたりする可能性があるからだ。伝言と同じで秘書やアシスタントへの対応も慎重に行なわねばならない。債務者との交渉がある程度進んだ段階では、秘書やアシスタントを活用するのも効率的である。伝言を残す場合は、必ず相手の名前を尋ね、記録として残しておこう。また、担当者が海外出張などで長期にわたり不在の場合は、上席の人間と直接交渉するのもよい。未払いの件が担当者レベルでとどまっているような場合など、期せずして回収が進展する場合がある。

交渉の仕方
督促の電話において、何を話すかはもちろん重要だが、どのように話すかも大切なテーマである。話すスピードや声のトーンによって、債務者に与える印象もずいぶん変わってくる。常に緊迫感をもって、適度なスピードで、低いトーンで話すように心がければ、債務者は真剣な態度であなたの話に耳を傾けるはずだ。
債権回収の電話で、商品に対するクレームや、誤納品、誤請求など債権者側のミスが発覚することもある。その場合には、1度は相手の主張を受け入れて事実関係を確認するようにする。クレームの深刻さによっては謝罪する必要も生じてくるが、通常、この段階におけるクレームは、お金を支払わない言い訳として使われることが多い。いずれにしても、営業部門と連携をとって迅速に対処すべきである。債務者が興奮している場合は、交渉にならないので、1度、電話を切って別の機会にかけ直すほうが効率的である。間違ってもこちらも感情的になり口論になるのは避けたい。口論になれば交渉は決裂することが多く、債務者の時間稼ぎを手助けするようなものだからだ。
また、債務者の国・所在地で新聞に載るような大きな天災や事件、病気が発生しているようなことがあるが、それに対してやたらと同情することは避けたい。それは、債務者に支払遅延のよい口実を与えてしまうようなものだ。人道的であることと正当な債権を回収することは反することではなく、まったく別問題にすぎないのだから。
債務者が支払いをしない真の理由を突きとめることは重要だが、現実的には債務者は表面的な理由しか口にしないものだ。また、目的は真の理由を突きとめることではなく、回収することである。そこで、オープンエンドの質問が効果を発揮する。オープンエンドの質問とは、「どうして支払わないのか?」「なぜ、支払計画を守れないのか」「この債権についてどう考えているのか?」という形式の問いかけである。この質問に対しては、単なるYES/NOや数値では答えられないので、債務者は文章形式=話を展開して答えるしかなくなる。こうして債務者により多くの話をさせることで、言い訳の矛盾や解決の糸口が見えるようにする。

交渉の成立
交渉が進んでいくと、いわゆる落としどころを探ることになる。落としどころを前もって決めておけば、自らの権限内で大胆に交渉を行なうことができる。債権回収は、時間との戦いなので、即断即決は非常に重要である。あなた自身に落としどころを決める権限があるならばよいが、そうでないならば社内的にきちんと決めておくようにしたい。
落としどころで、分割での支払いを受け入れる用意があるのなら、まずは債権額の80%を支払ってもらうように交渉する。そのうえで残りの「20%を今月末に」といった提案をしていく。債務者は、当然2回では支払えないことが多いので、結果的に分割払いの回数は5回~10回ぐらいになるのだが、初めから10回を基本にしていたのでは、20~30回ぐらいの分割になる可能性が高い。こうなると、踏み倒されてしまいかねない。決してこちらから10回払いのような提案をしないことだ。
電話での交渉がうまく成立した場合は、債務者がとるべき行動に関して債務者の約束を取りつける。約束とは、たとえば、「債務者が分割払いの合意書にサインをして、きょう中に債権者へFAXする」という類のものだ。電話を切る前に、その約束を再度、確認してから受話器を置く。分割払いの合意ができても、それを書面にすることに難色を示す債務者は多い。債権者側としては、書面にすることで証拠を揃える目的もあるが、それ以上に債務者の意図を再確認する意味合いが強い。そのために書面での同意を条件にすべきである。

フォローアップ
交渉の結果、成立した支払日や分割払いが守られない場合、迅速に対応する必要がある。海外からの送金にはタイムラグがあるので、債務者が送金手続きを処理したあとに、Bank Remittance Advice(銀行送金通知書)をFAXで送付するように取り決めしておくとよい。そうすれば、通知書を受領していないことを理由に督促することができる。
くれぐれも海外送金のタイムラグを考慮に入れて、明日か明後日に督促しようなどとは考えないことだ。債務者は、常に債権者を値踏みして、支払いの優先順位を決めている。約束を破ってもすぐに督促してこない債権者は、ますますなめちれて優先順位が下がってしまう。

著者
牧野 和彦(ナレッジマネジメントジャパン株式会社代表取締役、与信管理コンサルタント)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。