ビジネスわかったランド (経理)

売上、売掛金の管理

支払遅延兆候のつかみ方は
 連絡頻度の低下からはじまり、次の6段階の形で現われる兆候を見逃さず、面倒がらずに疑問を追及することがポイントである。債権回収において重要なポイントは、早い段階で適切な回収手段を講じることである。そのためには、支払遅延の兆候や破たんの兆候を早めにつかむことが大切である。
海外の取引先が支払いを遅延する代表的な兆候およびその段階には、次のようなものがある。
・第1段階 連絡頻度の低下、事務所移転通知なし
・第2段階 支払条件変更の提案、請求書再発行の依頼、値引き要請
・第3段階 支払いの遅延、注文量の急激な変化
・第4段階 格付けの低下、回収代行の記録、新しい担保設定
・第5段階 苦しい言い訳、支払約束の書面化への抵抗
・第6段階 リスケ(リ・スケジュール=スケジュール組直し)した支払計画の不履行

第1段階 連絡頻度の低下、約束破棄、事務所移転通知なし
人間関係は、すべからく接触の頻度により決まるという。家族の人間関係が濃密なのは、接触頻度が一番多いからだ。「生みの親」より「育て親」といわれるゆえんもここにある。
取引がうまくいっている間は、連絡の頻度も密であり、相手のレスポンスも早いものだ。海外でも電子メールが発達した現代では、アジアやインドぐらいであれば同じ日に返事があるし、それ以外の国でも次の日には返事がくることが多い。
ところが、支払いが滞るようになるとこうはいかない。2~3日たっても返事がない、何回かリマインドしてやっと、1週間後ぐらいに1~2行の短いメールが返ってくるようになる。これは、顧客のなかにおけるあなたの会社の重要性が低下している証拠である。重要ではなくなってきたので、返事が後回しになるのだ。支払いも同じで、どんどん後回しにされるようになる。
また、こちらからの質問やちょっとした依頼などに応えなくなるというのも要注意である。顧客があなたの会社との対応を面倒だ、煩わしいと感じている可能性が高い。これがひどくなると、引越しをしても移転先の住所を知らせてこないということになる。
もちろん、インターネットが発達した現代では、商品をデリバリーしない場合は、相手の住所を知らなくても取引をすることに支障がないわけだが、いざ債権回収、訴訟といった段階になって、督促状が不達で返送されてきたり、電話やFAXがつながらなかったりでは話にならない。
こうした事態を避けるために、定期的に海外の取引先を調査することはきわめて重要である。
ここに挙げた事象は、必ずしも遅延の兆候ではない場合もあるが、こうした軽微の兆候を見逃さずに、早い段階で適切な対応をとることが遅延債権の発生を未然に防ぐことにつながる。ぜひ、面倒がらずに、わずかな疑問でも追及してほしい。

第2段階 支払条件変更、請求書再発行の依頼、値引き要請
このなかで最も日本の債権者が気をつけなければいけないのは、支払条件変更の提案である。これに安易に応じたために債権回収不能に陥った債権者は数知れない。とくに顧客側もL/Cの開設コストが高い、手間がかかりすぎるなど、もっともらしい理由をつけてくるので注意したい。
もちろん、商取引では、取引実績に応じて条件を緩和するのは至極当然のことである。ところが、実態は、キャッシュフローが厳しいために支払いを遅らせたいという「真の意図」が存在する場合が多い。こうした提案があったら、必ず取引先の信用調査を改めて行なおう。
請求書再発行の依頼は、代表的な支払いの引延ばし策である。たとえ支払期限が到来していない段階であっても、注意を要する。まして、支払期日が過ぎて、こちらが督促をして初めて、「請求書がない」と言う債務者は確信犯に近い。
なかには本当に請求書を紛失した例もあるだろうし、請求書の再発行を依頼してくる企業が必ずしも支払いを長期にわたり遅延するとは限らない。しかし、こうした軽微の兆候を見逃さずに、早い段階で適切な対応をとることが、遅延債権の発生を未然に防ぐことにつながる。
取引成立後の値引きや分割払いの要請も、タチの悪い債務者の特徴である。こうした要請に安易に応じると、御しやすい債権者として債務者に記憶されることになる。

第3段階 支払いの遅延、注文量の急激な変化
いままでは期日どおりに支払ってきた顧客が支払いを遅延するというのは、その遅延期間がたとえ数日であったとしても要注意である。顧客のなかでも、あなたの会社の地位が相対的に低下したことを表わしているからだ。また、初めから支払期日より遅れて支払う顧客の場合は、その期間が長期化するという兆候がある。
これも支払いの遅延と同じ理由である。よく、1~2か月遅れても、結局は支払われるので何の対策も講じない企業があるが、これは危険である。いつ、こうした取引先に対する債権が回収不能に陥るかわからない。たとえ数日の遅延でも甘い顔を見せずに、決済条件を厳しくしたり、次回取引でペナルティを課したりするなどの対応策をとるべきだ。
また、注文量や注文頻度の変化にも気をつけなければならない。とくに注文量が急増した場合が危ない。国内と同じように取込み詐欺的な行為が海外でもよくある。あなたの会社の商品を同業者に安値で横流しして、キャッシュフローの足しにするのだ。
注文の頻度が増す場合も同じで、あくまで与信限度額内に収まるように、取引を制限していくことがリスク管理につながる。

第4段階 格付けの低下、回収代行の記録、新しい担保設定
取引開始時に借用調査を行なった時点と比べて格付けが低下したというのは、リスクの増加を示す信号である。D&B社の格付けでいえば、とくに「2から3」、「3から4」への低下が危ない。
また、回収代行を依頼されたことが新たに判明した、件数が増加したというのも要注意である。他の債権者が、その会社からの債権回収を自社で行なうのはむずかしいと判断した証拠だからだ。とくに短期間での急激な増加は、倒産の兆候である場合が多い。
顧客に新たな担保が設定されたというのは、債権者が債権保全措置をとったことを示す。しかも、債権者は、金融機関ではなく、一般の事業会社だということになれば、さらに状況は厳しいと見てよい。海外では、一般の事業会社が取引先に担保を設定することは、きわめて稀だからだ。
同じように、最近、債権者からの訴訟が提起されていたり、債務者に不利な判決が出たりという場合も、その会社に対する債権回収不能のリスクが高まっていることを表わしている。

第5段階 苦しい言い訳、支払約束の書面化への抵抗
この投階になると、かなり苦しい言い訳が出てくる。その代表格が、「顧客からお金を回収できないので支払えない」という主旨のものである。また、この段階では、信用調査レポートに「NSF:Non‐Sufficient Fund」(残高不足)の記載が目立つようになる。これは、小切手が現金化できず決済できなかったことを意味する。日本でいうところの小切手の不渡りとは違うため、それほど重大な影響を企業経営に及ぼすわけではない。単なる事務処理上のミスである場合もあるかもしれない。しかし、いずれにしても、資金が潤沢な企業ではあまりないことだ。
言い訳ではないが、突拍子もない提案が債務者から出てくるのもこの段階である。「債権額を半額にしてほしい」、「60回払いで支払いたい」など、思わず耳を疑いたくなるような提案が出される。こうした提案を受けるかどうかは別問題として、提案の背景にはかなり厳しい債務者の財政事情があることは事実だ。
また、こうした提案を受け入れる場合は、必ず書面を作成しておくことが大切である。これは、後々に法廷で争うような場合の重要な証拠になるからである。
しかし、債務者側もそういう債権者側の意図を知ってか知らずか、なかなか書面にサインしないことも多い。こういう可能性を考えると、とくに債権の一部を債権放棄する場合などは、「実際に残額が入金されてから、初めて有効とする」というような条件を出すことはきわめて重要である。最悪の場合には、一部債権放棄の事実だけが残り、残額も回収できなかったという事態にもなりかねない。
また、Collection Agencyや弁護士などの第三者を証人として、支払計画書を作成する方法も有効である。これは法的な証拠力が増すというよりは、「履行しないと訴えられる」という心理的な拘束力が強まる効果が期待できる。

第6段階 リスケした支払計画の不履行
第5段階でリスケした支払計画が履行されないとなると、これはかなり深刻な事態である。債務者は、すでに実質的に破たんしているか、近い将来、何らかの形で倒産すると見てよい。直ちに、Collection Agencyや弁護士を通じて、債権回収を図る、債権保全措置をとる、訴訟を起こす、強制執行にかけるなどの手段を講じる。
ただし、この段階で初めて手を打つようでは、他の債権者も同様の行動をとっている可能性が高く、すでに遅すぎる場合も多い。

著者
牧野 和彦(ナレッジマネジメントジャパン株式会社代表取締役、与信管理コンサルタント)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。