ビジネスわかったランド (経理)

売上、売掛金の管理

トレード・レファレンス(取引照会)の活用法は
 財務情報非公開企業の支払能力などまでつかめるだけに、与信限度設定の目安として積極活用すべきである。

トレード・レファレンス(Trade Reference)とは、取引照会、企業照会のことを指す。企業照会とは、銀行照会に対する言葉で、Trade Payment(企業間の支払い)に関する信用照会である。欧米、とくに北米で一般的な商習慣である。
アジア地域でも香港やシンガポール、さらにオーストラリアといった欧米文化の影響を強く受けた国でよく見られる。

サプライヤー同士のネットワーク
このしくみは簡単で、サプライヤー同士のネットワークのようなものである(図表参照)。

たとえば、サプライヤーAが、バイヤーBと新規で取引を開始する際に、バイヤーBの支払いぶりをバイヤーBの主要サプライヤーCに照会して確認するというしくみだ。主要サプライヤーCは、あらかじめバイヤーBに担当者の連絡先を聞いておく。こうしたTrade Reference を3~5社に対して行なうことで、支払いのトレンドをつかむ。Credit Policy で、「最低3社に照会する」と定めている欧米企業が多い。
こうした Trade Reference を体系的に収集して、レポートにして販売しているのが、D&B社をはじめとする欧米の信用調査会社である。ただし、信用調査会社のデータにおいては、サプライヤーの社名は一切開示されないしくみとなっている。
日本でも同業者同士の会合などで、顔見知りの間柄で、信用不安のある取引先について噂のように広まるケースがある。Trade Reference では、顔も知らない相手同士がこうした情報を交換しているのである。Trade Reference がオープンなネットワークであるのに対して、日本の情報交換はクローズドなネットワークであるといえる。

重要な情報が入手できる
Trade Reference で一般的に入手できる情報は、与信管理においてかなり重要なものである。情報項目を見てまず驚くのが、交換する情報の多様さだ。本当にこんな機密性の高い事項を教えてもらえるのだろうかと疑いたくなるほどのものである。
もちろん、各企業の方針によっては、ほとんど情報開示してもらえない場合もある。それでも、多くの場合は協力をしてもらえるものである。日本では、こうしたことはまず考えられない。日本企業の審査部や与信管理担当部門で、見知らぬ企業からの取引の照会に応じることはまずない。取引の有無さえも教えないことがほとんどだ。それが、社内規定になっている場合が多い。
このように日本人にしてみれば、なぜ教えてもらえるのかとなるが、欧米の人にしてみれば、なぜ教えてもらえないのかということになる。単純に商習慣が違うのだ。また、これは、支払い、与信管理、債権回収といった一連の行為に対する一般的な概念の違いに起因するともいえる。
Trade Reference で一般的に入手できる情報は、次のとおりであるが、この情報項目はあくまで可能性であって、場合によっては入手できないこともある。
・商品・サービス
・与信残高
・債務保証と担保・取引金額
・遅延期間と金額
・小切手の情報
・支払条件
・取引年数
・資本関係
・最高与信額
・回収代行依頼の有無
・財務諸表入手の有無

トレード・レファレンスのメリットとデメリット
Trade Reference の一番のメリットは、非公開企業でも財務に関する情報が得られるという点である。支払金額と遅延期間との関係などを分析することで、顧客の支払いのパターンが見えてくる。こうしたパターンから実際のキャッシュフローが見えてくるわけだ。これは、まさに資金繰りそのものなので、その取引先が作成したキャッシュフロー計算書よりも実態に即した情報であるともいえる。
Trade Reference のメリットを整理すると、次のようになる。
・財務情報の非公開企業でも支払能力がわかる
・与信限度額設定の目安になる
・顧客の支払いについて定性的な情報が入手できる
反対に、トレード・レファレンスの問題点としては、顧客から照会先を教えてもらう場合に、顧客が取引関係のよいサプライヤーだけを教える可能性があるという点だ。これは、自社の信用を高く見せたい顧客の当然の行動である。
これに対処するには、あらかじめ主要取引先を信用調査報告書などで調べておき、こちらが選んだサプライヤーの担当者名と連絡先を顧客に聞くという方法がある。こうすれば、顧客の恣意的な選択の余地は排除され、より客観的な支払情報の入手ができる。
Trade Reference の最大の利点は、まったく面識のない者同士でも情報交換できるという点にある。これは海外の債権者にとっては非常に貴重なメリットである。日本企業も積極的にこの商習慣を活用し取引の照会を行なうとよい。

著者
牧野 和彦(ナレッジマネジメントジャパン株式会社代表取締役、与信管理コンサルタント)
2007年12月末現在の法令等に基づいています。